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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第四章 ドワーフ国に迫る脅威
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04 アムールじゃないか!?

           ◆◆◆


 この大陸には、四つの大きな勢力がある。

 中央近くから南方の平地にかけて広がる、人間の住む領域。

 北の良質な鉱山を含む、山岳地帯とその地下に住まうドワーフ達。

 さらに、西の広大な森林地帯には、エルフ達が権勢を誇っている。

 そして、モンスターの生まれる場所とも揶揄される東方には魔族達が住まい、他の勢力を呑み込む機会をうかがっているのだ。


 そんな状況の中で、人間と魔族の領域に接しているドワーフ達は、基本的には人間と協力しあい、交流を深める事で覇権主義の魔族と対抗していた。

 ドワーフの作る良質の武具は人間達にも人気があり、また人間の国から流通する物資はドワーフの生活を潤している。

 なので、両者の関係はとても良好と言えるだろう。


 ……さて、なぜそんな今更な事を説明しているのかと言えば、僕達は現在、その友好的なはずのドワー(・・・・・・・・・・)フ達に(・・・)武器を向けられ取り囲(・・・・・・・・・・)まれているからだ(・・・・・・・・)


 いくつかの町や村を経由してきた時に、スケルトンである事を隠すために、変装してもらっていたターミヤさんがちょっとばかり怪しまれたりはした。

 けれど、特に問題もなく無事に過ごしてこれたんだけど、ドワーフ達の王都である、地下都市に到着した途端、入り口で止められてこの状況である。

 なんでこんな事に……。


 初めは、変装していたターミヤさんの正体がバレたのかと思ったけれど、どうやらそうでも無いらしい。

 訳がわからいとは思いつつ、相手を刺激しないよう、僕達は両手を上げて敵意の無い事を示していた。

 さらに、何度か「僕達はれっきとしたA級のハンターで……」と説明しているけれど、武器を向けたままこちらを見るドワーフ達の目からは、警戒の色が消えていない。

 ううん……何をこんなに、ピリピリしているんだろうか?


 膠着状態のまま、しばらく時間が流れる。

 やがて、完全武装の一団を引き連れた、一際立派な髭を持つドワーフの偉い人っぽい人物が現れた。


「戦士長どの!」

「こいつらか、怪しい連中というのは」

「はっ!女子供ばかりでA級ハンターを名乗り、あまつさえ……」

 そこまで報告したドワーフは、チラリとこちらに目を向けた。

 その視線の先を追うようにして、ドワーフの戦士長も小さく頷く。


「お前ら、本当にA級のハンターなのか?」

 問われた僕達は、認識証を見せる。

「ふん……確かに、A級の認識証に使われる金属だな」

 さすが、鉱物の申し子であるドワーフ。パッと見ただけで、真贋を見抜いたらしい。

 だけど、それでもなお戦士長の口から出た言葉は、意外な物だった。


「ならば、拘束するのはそこの獣人族の女だけでいい。他の連中は、武装解除して尋問に答えれば王都に入る事を認めよう」

「なっ!」

 ドワーフ達の狙いは、ディセルさん!?

 しかも、僕達がA級だと判断した上でこの対応なんて、まるで始めからスパイ扱いじゃないか!


「ディセルさんを拘束って、一体どういう事ですか!」

「返答によっちゃ、一悶着起こすわよぉ?」

 ディセルさんを庇い、僕とお祖母ちゃん……もとい、お姉ちゃんが放つ圧力に、ドワーフ達の緊張感が高まっているのがわかる。

 彼らの戦士長も、かなり気圧されはいたようだけれど、グッと堪えて部下に指示を出した!


「て、抵抗するというなら、全員を逮捕するぞ!たとえA級のハンターとはいえ、国際問題になる事も覚悟しておけ!」

 この小競り合いが、そこまで話を大きくするほどの事なのか!?

 なんで、ドワーフ達がここまでディセルさんにこだわるのかわからないけれど、彼女を引き渡す訳にはいかない!


 そんな、一触即発の空気が辺りを満たし始めた時、不意にターミヤさんが『待て、待て』と割って入ってきた。

『俺達は、ちょっとした目的があって、人に会いにきただけだ。そいつと話ができるなら、別に王都に入らなくてもかまわんよ』

「……いったい、誰に会いに来たというんだ?」

『グアナッグっていう、職人なんだが……』

 ターミヤさんが告げたその名前に、ドワーフの間からザワリとしたどよめきが起こった。

 有名な人なんだろうか?


「……あの方(・・・)は、すでに引退されて、今は王都の片隅で隠居なされている。いったい、何の用があるというのだ」

『いや、昔作ってもらった、とある武器の製造の相談に、な。しかし、あのとっつぁんがまだ生きてたようで、良かったぜ』


 ターミヤさんの言葉の後半は、懐かしむような響きだったけれど、それを聞いた戦士長の眼がギラリと光る!

「昔、作ってもらった武器だと!? あの方が引退なされたのは、百年ほど前だぞ!寿命の短いお前達人間族が、あの方とどう知り合ったというのだ!」

『ぬっ!』

 確かに、ドワーフ達の寿命は、僕達人間と比べて約四百年と、だいたい四倍に近い。

 そのグアナッグさんという人が、引退した期間だけで、人間なら寿命が尽きてもおかしくないんだから、ドワーフ達が怪しむのも当然だ。


『くっ……引っかけの問答か……やるな!』

 いえ、むしろターミヤさんが墓穴を掘ったような……。

 特に引っかけたつもりもないドワーフの戦士長も、悔しがるターミヤさんに戸惑ってるみたいですし。

「と、とにかく、貴様も怪しいな……そのフードをとって、仮面を外してもらおうか」

 たぶん、ターミヤさんも獣人で、耳なんかを隠してると思われたのだろう。

 しかし、素直に変装を解いた彼の予想外の姿に、再びドワーフ達からざわめきが起こった!


「ス、スケルトン!?」

「いや、しかし喋っているぞ?」

「自意識を持ったアンデッドって事は、死霊魔術師か何かか!?」

「だが、ありゃ、戦士の佇まいだ……」

 困惑するドワーフ達と同様に、戸惑うロロッサさんが、ターミヤさんに問いかける。

「い、いいんスか、ターミヤ氏?こんなところで、姿を見せちゃって……」

『いいんだよ、お嬢。ここまで拗れていると、変に隠しだてしないほうがスムーズに行くってもんさ』

 ターミヤさんの言う通り、ドワーフ達からの尋問で暴かれるよりは、こちらから正体を提示した方が印象も違うだろう。

 でも、どうやら彼の行動は、ドワーフ達の警戒レベルをさらに上げてしまったようだった。

 彼等が武器を握る手にも、力がこもっていくのがわかる。


「なんか……裏目に出ちゃったようッスけど……」

『……そうね』

 ロロッサさんの頼りない呟きに、ターミヤさんも「やっちゃった」感をにじませながら答えた。

 むぅ……これは僕達も、覚悟を決めなければいけないか?

 せめて、向こうに大怪我だけはさせないように、手加減はしなきゃな。

 そんな事を考えている内に、どんどん緊張感は高まって行く。


「アムール……アムールじゃないか!?」


 だけど、激突寸前だったその空気は、横から急に飛び込んで来た僕を呼ぶ声で、一気に弛緩した。

 って、この声は……。

「やっぱり、アムールだ!」

「エルビオさん!?」

 ドワーフ達の間をすり抜けて僕達の元にやって来たのは、ある意味で因縁深い、聖剣の勇者エルビオさんだった!

 で、でも、なんで彼がこんな所に!?


「いやぁ、実はこの近くで復活を遂げていた、邪悪暗黒竜を討伐したんだけどね。その際に、聖剣がちょっとした呪いにかけられてしまって、それを解呪するために、ドワーフ達の国を訪れていたんだ」

 再会を喜んでくれているのか、エルビオさんはニコニコとしながら僕に近況を早口で説明してくれる。

 邪悪暗黒竜の討伐か……さすが、勇者として華々しく活躍してるんだなぁ。

 追放された身ではあるけれど、元のパーティの活躍には、感心させられてしまう。

 そうやって、にこやかに彼の近況を聞いていたら、ドワーフの戦士長が戸惑いながら、声をかけてきた。


「あ、あの……彼女達は、勇者殿のお知り合いですかな?」

「ああ。以前、僕達を助けてくれた、優秀で信頼できるハンター達ですよ」

「そ、そんなスケルトンなんかを、連れているのにですか!?」

「もちろんです!それにあの方は、かつて剣聖と呼ばれた凄腕の剣士、ターミヤさんなんですよ!」

 そんなエルビオさんの言葉に、ドワーフ達の間から驚きの声が上がった!

 そんな勇者様からのお墨付きもあり、彼等の緊張もほぐれていく。

 やっぱり、信用のある人の言葉は違うんだなぁ。


 なにはともあれ、戦闘になる事は回避できたみたい、一安心だ。

 物のついでに、なんでディセルさんがこんなに警戒されていたのか、聞いてみようかな?


「あの……ドワーフの皆さんは、ディセルさんを異様に警戒していましたけど、いったいこの国で何が起こっているんですか?」

「それは……」

 少し口ごもったエルビオさんは、ドワーフの戦士長へチラリと目配せを送る。

 とうやら、エルビオさんの一存では語れない訳があるらしい。

 それを受けて頷いた戦士長は、その理由を語ってくれた。


「今、この国は魔族に与した、獣人の王国から狙われている」

「な、なんですって!?」

 驚愕するディセルさん!

 だけど、それも無理はない。

 まさか、彼女の実家がそんな暴挙に出るとは思っていなかったのだろうし。


「実際の宣戦布告ともいえるような、降伏勧告までしてきているからな……そのため、この国にいる、または訪れる獣人族はすべて拘束するか国外に退去してもらっている訳だ」

 なるほど……話を聞いて、今までのドワーフ達の対応が、もっともな物だと理解できた。

 そして、それを聞いたディセルさんの顔色は……気の毒なくらいに青ざめているのだった。

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