03 俺はいい弟子を持った
「お祖母ちゃん!いったい、どういう事なのっ!」
「ふぇ?」
プンスコと怒る僕を前にして、お祖母ちゃんは小首を傾げた。
「……どうしたの、あーちゃん?ギルドに行って、聞いてきたんでしょう?」
「そりゃあね、お祖母ちゃんがお祝いだって言うだけの事はあったよ?」
言われた通りにギルドへ行ったら、確かにA級昇格という、おめでたい事があった。
でも、その後にお祖母ちゃんがチームに参入するなんて話を聞かさせれたら、もうお祝いムードどころじゃないよ!
「ええ~、いいじゃないのぉ。あーちゃん達のチームに、お姉ちゃんも入れてぇ」
「あのね、お祖母ちゃん?自分の立場をわかっているの?」
あえて、「お祖母ちゃん」という呼び方を強調して、僕はグッと詰め寄った。
「お祖母ちゃんは、世界で五指に入る魔法使い……ハンターのランクで言えば、A級の上、『G級』クラスの人でしょ!」
G級のハンターは、例えるなら聖剣の勇者である、エルビオさんと同格といっていいくらいの人達で、世界に十人(二チーム)しかいないハンターの最高峰だ。
お祖母ちゃんは正式にハンター登録していなかったから、正確にはG級とは言い難いけれど、同じく五指に数えられる魔法使いの人がG級ハンターとして活躍しているから、たぶんG級くらいの認識で合っているだろう。
「そんなお祖母ちゃんが、なんだって偽名まで使ってハンター登録してるの!」
「あーちゃんだって、名前と性別を偽ってるし……」
「追放されたばかりで、行く所もなかったボクとは、状況が違うでしょ!」
怒られたお祖母ちゃんは、シュン……と小さくなって哀れみを誘うように、上目づかいで僕を見る。
「だって……地元にいても、退屈だし、面倒なんだもん。どっかの偉い人が近寄ってきたり、別の偉い人が排斥しようとしたりで、ヤになっちゃう……」
ううん……そりゃ、お祖母ちゃんくらいの人物になれば、そういった人も寄ってくるだろう。
実際、小さかった僕が修行していた頃も、ちょくちょく仕官のお誘いや、脅迫めいた事を言う連中を何度も見たりしたしね。
でも、いい歳の大人なんだから、その辺は割り切ってほしい。
「私はねぇ……人生に疲れていたの。あーちゃんを探しに来たのは本当だけどぉ、半分は世間から身を隠したかったっていうのもあるのよぉ」
なるほど……そんな風に言われると、ちょっと同情しちゃう所もあるなぁ。
落ち込み方が若干、演技っぽいけど。
「でも、それなら別に偽名でハンターならなくても、この家でゆっくりすればいいのに」
お祖母ちゃんは普段、身内以外の前では「若い姿」を魔法で「年相応の姿」に偽って過ごすという、ややこしい生活を送っている。
だから、一般的にはカルノという大魔法使いと言えば、お婆さんという認識だ。
そんな訳だから、若い姿のままならいくらでも世間の目は誤魔化せるだろう。
「だってぇ、あーちゃん達のチームに入れば、色々なしがらみ無しに各国を旅できるのよ?魔法使いとして見聞を広げるためにも、乗らない手はないでしょう!」
何故かフフン!と、胸を張るお祖母ちゃんの姿に、僕は大きなため息をついた。
でも、正直な所を言えばその言い分も理解できる。
だって、僕も魔法使いだからね。
こういった好奇心や探求心は、どうしたって魔法使いと切り離せない物だもん。
『まぁ、諦めろアムール。この手の人物は、他人にどうこう言われても止まりゃしねぇよ』
人生経験が豊富なターミヤさんが、ポンと僕の肩に手をおいて諭してきた。
うん……元より、本気でお祖母ちゃんがその気なら、絶対に止められないというのは、身内の僕が一番よくわかってる。
僕は大きくため息を吐くと、せめてトラブルだけは起こさないでねと釘を刺しておいた。
「了解よぉ、リーダー!」
元気よく返事をしたお祖母ちゃんは、ディセルさんやロロッサさんに「これからよろしくねぇ♥」と抱きつくようにして、改めて挨拶していた。
あ、そういえば一つ気になる事が……。
「お祖母ちゃん……なんだって、『二十歳』だなんて年齢で登録してたの?」
ディセルさんと同い年に設定するのは、いくらなんでもサバを読みすぎだよね?
「それはまぁ、あーちゃんのお姉ちゃんって事で違和感が無いようにするのと、あとは……乙女心?」
んん……乙女心は置いといて、姉妹の年齢差に違和感が無いようにっていう、配慮は理解できた。
見た目より少し若く申告したのも、お祖母ちゃんなりに気を使っての事なんだな。
「そんな訳だからぁ、ディセルちゃん達も、気楽に話すようにしてよね♥」
「わかりました、カル……マーシェリー様」
「んもう!まだお堅いし、『様』は無しよ、ディセルちゃん!」
「う……わ、わかったよ、マーシェリー」
「ウチは誰に対してもあんまり変わらないんで、そのままでいいッスかね、マーシェリー氏」
友達のように語りかけるディセルさんとロロッサさんに、おはようは満足そうに笑みを浮かべた。
お気に召したようで、なにより。
「それじゃあ、お祖母ちゃん……」
「ダメよ、あーちゃん!」
そう言いながら、急にお祖母ちゃんは僕の口を手でふさいだ!
「私は、あーちゃんのお姉ちゃんのマーシェリー。これからは、しっかり呼び方も固定させる事!」
た、確かに、今は僕だけでなくお祖母ちゃんの正体も隠さなくちゃならない。
そう考えれば、ですねさん達だけでなく、僕も設定は徹底的に貫き通さなきゃ。
僕は頭の中まで切り替えると、お姉ちゃんに頷いて見せた。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「んんっ!あーちゃん、もう一回、呼んでみてっ!」
「お、お姉ちゃん?」
「いいっ!もう一回!」
お姉ちゃんって呼ばれる度に、恍惚の表情で「もう一回、もう一回」とおねだりしてくる。
し、しつこい!
そんな風なやり取りを僕達がしていると、ディセルさんがターミヤさんに声をかけていた。
「先生。実は先程アムールと相談していたのですが、私達の次の目的地はドワーフの国にしようと思うんです」
『なにっ?』
「『ニホントウ』を作るにあたって、ドワーフの協力は必要でしょうから、是非とも先生のお目にかなう職人を探しだしてください」
『お、お前ら……まさか、俺のために?』
「私が強くなれたのは、先生のお陰です。少しは恩返しさせてください」
『んんっ!おじさん感激っ!俺はいい弟子を持った!』
ぶわっ!とどこから溢れたしたのかわからない量の涙を流しながら、ターミヤさんは感激に咽び泣く。
喜んでもらえたみたいで、よかったですね、ディセルさん。
◆
そうして色々な準備をしつつ、いつも通りの修行や小さな依頼をこなしながらの一週間は、あっという間に過ぎ去った。
いよいよ、僕達はいよいよA級ハンターの認識証を受け取る。
ディセルさんの首輪タイプも新調したので、改めて彼女の首に僕がそれを巻いてあげた。
今度は、僕もその意味をしっかり自覚しながらの行為だったので、ディセルさんはいつも以上にニコニコしながら、激しく尻尾を振っていた。
ふふっ……彼女がすごく嬉しそうで、僕も幸せな気持ちになってくる。
「さて、それじゃあリズさん。留守の間、よろしくお願いしますね」
『かしこまりました。いってらっしゃいませ』
頭の中に響くリズさんの声に頷き、僕達は意気揚々と出発する。
目指すは、遥か北の山脈地帯にあるドワーフの国。
まぁ、依頼ではなくて完全に私用なだから、ちょっとした旅行気分で、気楽に行くとしよう。




