02 A級チームへの昇格が認められました
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翌日の朝、お祖母ちゃんの言葉が気になった僕とディセルさんは、さっそくギルドを訪ねた。
「あっ!」
すると、僕達の姿を見つけた受付嬢のネッサさんが、パアッと顔を輝かせて駆け寄ってくる。
「おめでとうございます!アムールさんにディセルさん!」
そして、開口一番に祝福の言葉を口にした!
ただ、なんの事かよくわからない祝いの言葉を受けて、僕もディセルさんも思わず顔を見合わせてしまう。
でも、そんな僕達に構わず、ネッサさんはパチパチと拍手をしてきた。
さらに、彼女だけでなく、この場にいたハンターやギルド職員の全員が、立ち上がって僕達に祝福の拍手を送ってくる。
な、なにこれ!?
訳がわからないし、なんだか凄く怖いんですけど!?
そんな風に戸惑う僕達の様子に、ネッサさんも「あれ?」といった感じで首を傾げた。
「あのー……もしかして、マーシェリーさんから聞いていないんですか?」
「おば……お姉ちゃんから?」
そういえば、確かにチームにとって良いことがあったから、祝い酒で飲みすぎたみたいな事は言ってた。
けど……そもそも、なんのお祝いだったのかは、聞いていないんだけど。
「ええ……もう、仕方ないですねぇ……」
ネッサさんは、コホンとひとつ咳払いをして、改めて僕達におめでとうございますと告げた。
「この度、アムールさん達のチーム『レギーナ・レグルス』は、A級チームへの昇格が認められましたぁ!」
再び、室内が拍手の音で包まれる!
そうなんだ、『レギーナ・レグルス』が、A級チームに……って、ええっ!?
「そ、それは本当なんですかっ!?」
「もちろんです!先日の、『魔王四天王のひとり、死霊王とアンデッド軍団の襲撃とその撃退』についてギルド本部に報告したところ、ギルドの中央審査会でも、満場一致でアムールさん達をA級へ昇格させる事が決定したそうですよ!」
ギルド本部といえば、この大陸の人間領土内で、もっとも大きい国の首都にある、まさにハンター達の総本山の事だ。
「B級認定までは各支部で認可できるんですが、A級となると本部の認可が必要なんです。そこで、満場一致なんですから、改めてこれはすごい事ですよ、アムールさん!ディセルさん!」
興奮ぎみに話すネッサさんの言う通り、それは大した物なんだう。
なんせ、僕が知る限りでもA級のハンターなんて、大国のギルドにでも行かなければ、まずお目にかかる事が出来ない程の頂点に立つ存在だ。
そんな存在に、僕達が選ばれるなんて……。
「でも、魔王四天王撃退や街の防衛が昇格理由だというなら、それはボク達が単独で成し得た訳ではないですよ?」
確かに、「魔王四天王を倒した」というだけなら僕達の手柄かもしれないけれど、街の防衛は他のハンター達がいてくれたおかげで成功したんだ。
そう考えると、僕達だけが評価されるのは、ちょっと申し訳ない。
「その点は、ご心配なく!他のハンターの皆さんも、昇格された方がたくさんいらっしゃいますから!」
「そうなんですか!?」
ネッサさんの言葉に、ギルド内にハンター達の方へ振り返ると、なんだか照れ臭そうに笑いながら、その場にいた数人のハンターが手を振ってきた。
そうか……僕達だけが、恩恵を受けた訳じゃなくてよかった。
「でも、昇格続出はすごいですね。もしかして、ボク達に続いてB級に上がった人達もいるんじゃないんですか?」
「いえいえ、さすがにそれは有りませんでした」
そんな風に尋ねてみると、ネッサさんは苦笑いしながら、パタパタと手を振って否定する。
「なんせ、うちの支部所属のハンターは、殆どがE級、ちょっとだけD級という体たらくでしたから」
そんな物だったの!?
一応、僕は身を隠すためにこの地に流れ着いてきたから、あまり地元のハンター達と交流してなかったから、知らなかったよ……。
てっきり、C級ハンターとかには、たまたま会ってないだけかと思ってた。
「まぁ、この辺は大して強いモンスターがいるわけでなし、そこまで戦略的価値のある土地でもなしで、そこまで大きな依頼もあら、りませんからねぇ」
しみじみと、ネッサさんは呟く。
「一部の人からは、ハンターよりも熟練の猟師の方が強いんじゃね?なんて、揶揄されていた我が支部ですが、これで『は?うちにも凄いチームがいますが、なにか?』って言い返せますよ!」
そ、そんな事を言われてたんだ、この支部……。
「それにしても……まさか、この支部からA級が輩出される日が来るなんて……」
感慨深そうに涙ぐむネッサさん及び、職人の方々。
ううん、今までを考えると、それはそうなだろうなぁ……。
「さてと、個人的な感慨にふけるのはこの辺にして、A級ハンター特典について説明させていただきます」
気を取り直したネッサさんは、一枚の用紙を取り出してその内容を口にする。
「まず、A級チームは各国を往き来するための、通行税が免除になります。さらに、武具の整備をする全ての店から、割引を受ける事ができるんですよ!」
おお、それは金銭面で大いに助かる。
もっとも、僕達の武器をメンテナンスできる人が、どれだけいるのか知らないけど……。
「あとは、中立を保ちつつも一般人の往来を禁じている、エルフやドワーフの国にも、一応は入国する事ができるようになりますね」
「ドワーフの国……」
その言葉に、ディセルさんが小さく反応を示す。
たぶん、昨日のターミヤさんの言葉が頭を過ったんだろうな。
ドワーフやエルフは、同じ創造神の陣営に属していながらも、あまり人間種と仲がいい訳ではない。
もちろん、一部の友好的な人達もいるけれど、国レベルで見れば必要最低限な交流しかしていないのが現状である。
それだけに、A級に昇格した今なら、ターミヤさんの望みを叶える手助けができるかもしれないと、ディセルさんは考えているんだろう。
うん、それなら次の目的地は決まりだな。
「行きましょうか、ドワーフの国へ」
僕がそうディセルさんに告げると、彼女は一瞬だけ驚きつつも、考えを察した僕に満面の笑みを浮かべてきた。
「ああ!ターミヤ先生も、喜ぶよ」
師への恩返しができると、嬉しそうなディセルさんを見ていると、僕まで幸せな気分になってくる。
まぁ、ロロッサさんにはちょっと過酷な旅になるかもしれないけれど、そこは僕がフォローしておこう。
「あのう……お言葉を挟むようですが、新しい認識証が発行されるまで、『レギーナ・レグルス』の皆さんには国内にとどまっていてほしいんですが」
おっと、先走って話してたけど、確かにそうだ。
聞けば、A級の認識証はかなり希少な金属で作られるらしいので、出来上がってくるまでに一週間ほど時間がかかるらしい。
「なんにしても、それなら入念な準備ができそうですね」
「そうだね。それじゃ、下見がてら街の方でデートしながら帰ろうか」
そんな提案しをしてくるディセルさんに、二つ返事で答え、ギルドを後にしようとした時の、何か思い出したようにネッサさんが「あ!」と声をあげた。
「そうだ、アムールさん!お姉さんのマーシェリーさんに、チームへの参入手続きはできてますと、伝えていただいけますか」
「え?お……姉ちゃんが、どこかのチームに入るんですか?」
「あれ?マーシェリーさんも『レギーナ・レグルス』に入るからと手続きをお願いされたんですが……」
ええっ!? 聞いてないよぉ!
な、何を考えてるんだ、あの人は……。




