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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第四章 ドワーフ国に迫る脅威
38/84

01 おはよう、アムルズ

           ◆◆◆


 ──翌朝。

 目を覚ますと、僕は昨日の衣装を着たまま、なぜかディセルさんに抱かれるような体勢で、一緒にベッドで横たわっていた。

 昨夜、軽く食事をしようなんて話していた辺りまでは覚えているんだけど……どうやら、いつの間にか寝てしまったらしい。

 思ったよりも、疲れてたのかな……。 


「──ん」

 そんな風に記憶の反芻を行っていると、胸のあたりで抱き締められていた、僕の頭の上でディセルさんの声が聞こえる。

 彼女も目が覚めたみたいだし、これで抱き枕状態から解放されて……なんて思っていたけど、ディセルさんは一行に僕を放してくれなかった。


「あ、あの……ディセルさん?」

 なんとか頭を動かして、ディセルさんの方へ顔を向けると、こちらをジッと見つめる彼女と目が合う。

 その見慣れたはずの表情が、なぜだかいつもより綺麗に見えて、僕の心臓はドクン!と高鳴りを覚えた。


「……おはよう、アムルズ(・・・・)

「え?」

 急にいつもの偽名ではなく、本名で呼ばれた僕はキョトンとしてしまう。

 僕の正体を隠すため、呼び方は徹底してたはずのディセルさんなのに……ひょっとすると、僕が覚えていないだけで、昨夜に何かあったんだろうか?


 戸惑いながら固まってた僕を見つめるディセルさんだったけど、不意に目を閉じると、軽く唇を突き出してきた。


 え?これって……もしかしてキ、キスを要求されてる!?


 普段は、彼女のほうから積極的にしてくる事ばかりで、こんな風に求められるなんて初めてだ!

 確かに、僕の方から彼女にキスしたいと思うことは何度もあったけど、急にそれが叶うなんて……本当に、昨夜なにがあったというのか?

 時間にしてみれば、たぶん一分にも満たない、唐突に降って湧いたシチュエーションに硬直していると、ディセルさんが目を開けてクスクスと笑う。


「どうやら、君からキスしてもらえるのは、また今度かな?」

 ちょっとだけ、からかうようなニュアンスを含ませた言葉を口にした彼女は、僕の額に唇を当てると抱擁を解いて体を起こした。


 ううん……なんだか、大きなチャンスを逃してしまったような気がする!

 こんな事じゃ、いつか男らしく僕の方(・・・・・・・・・・)からディセルさんに(・・・・・・・・・)キスをするなんて望み(・・・・・・・・・・)が叶うのは(・・・・・)いつになる事やら(・・・・・・・・)……。


 そんな自分の意気地の無さにちょっぴり後悔していると、ディセルさんはさっさとベッドから立ち上がって、着替えの服を探しにタンスの方へと歩いていく。


「ほら、アムール(・・・・)も早く着替えて、顔でも洗いに行こう?」

 あ、いつもの呼び方……。

 何かディセルさんの中で心境の変化があったようだけど、イマイチそれがなんなのかがわからない。

 ただ……彼女の機嫌は悪くなさそうなので、よしとしておこう。


            ◆


 着替えを済ませ一階へと向かうと、僕達を迎えてくれたのは、広間のソファでバニーガール姿のまま酔いつぶれて眠る、ロロッサさんとお祖母ちゃんの姿だった。

 そんな二人を甲斐甲斐しく介護していた、ゴーストメイドのリズさんが僕達に気付くと、微笑みながらペコリと頭を下げてくる。

 すると、僕達の頭の中に、リズさんの声が響いた。


『おはようございます、アムール様にディセル様』


 リズさんは、幽霊だけに声を発する事ができない。

 普段は、自分の霊体の一部を文字に変えたりして意思の疎通を計るんだけど、親しくなると直接テレパシーで語りかけてくるようになっていた。

 親密度が増して、波長が合ってきたからだとロロッサさんから聞いていたけど、まぁ仲良くなれたという事なんだろう。


 なんにせよ、お祖母ちゃん達をこのままにしておく訳にもいかない。

 酔っぱらい二人を部屋に運ぶべく、リズさんに手伝おうと申し出ると、キッパリお断りされてしまった。


『お二人のお世話は、お任せくださいませ。それよりも、朝食はどうなさいますか?』

 メイドとして、役目を全うすることに命がけな(ゴーストだけど)リズさんは、フンス!フンス!と気合いを入れて僕達の世話も焼こうとする。

 なんだか申し訳ない気もするけど、それが彼女の望みなのだから厚意に甘えるとしよう。

 そんな訳で、朝食をいただく事を告げると、リズさんは『かしこまりました、少々お待ちください』と一礼して、お祖母ちゃんとロロッサさんを念力で浮かせながら二階へと移動していった。

 ゴーストの念動力って、けっこう便利そうだよね……。


 運ばれていったロロッサさん達と入れ替わりに、僕とディセルさんがソファに腰かけて談笑していると、外からターミヤさんが屋敷に入ってきた。

「おはようございます、先生!」

「おはようございます、ターミヤさん!」

『おう、おはようさん』

 僕達が朝の挨拶を告げると、ターミヤさんも片手を挙げて挨拶を返してきた。

 それにしても、何で外から……もしかして、この屋敷を夜通しで護衛してくれていたのかな?


 飲食はできるけど、睡眠は必要ないらしいターミヤさんは、以前に『狩人の村』からバートの街に戻る道中でも夜の見張りを買って出てくれたもんな……。

 あの時は、本当にありがたかった。

 そういえば、昨夜の宴会から僕達が先に帰れたのも、『子供を夜遅くまで働かすな!』ってターミヤさんが皆を叱ってくれたおかげだったし、おそらくお祖母ちゃん達を家まで連れてきてくれたのも、きっと彼なんだろう。

 まったくもって、頭が上がらない。

 でも、パーティで一番の常識人がスケルトンで昔の人だと思うと、僕達の方に問題があるような気がしてくる……。


『おう、そうだ。ディセル、お前さんに渡しておく物があるんだが』

 急にそんな事を言うと、ターミヤさんは腰に下げてあった『ニホントウ』を、ディセルさんに向かって差し出した。

『前にも話したかもしれんが、この刀は先代……つまり俺の師匠が、こちらの世界の金属と異世界の技術を組合せ、ドワーフの職人の中でもピカ一の技師と協力して作った業物だ』

 改めて聞いても、スゴい逸品だ。

 さらに、この『ニホントウ』は最高峰の魔力伝導率を誇る事から、『抜刀術』の技を今まで以上に強化することができるらしい。


『俺も先代から、免許皆伝の証しとして、この刀……『真刀・国士無双』を受け取った。だからディセル、お前さんもこれを受け取れ』

 先代との思い出が詰まったその『ニホントウ』を、どこか嬉しそうにディセルさんへ引き継ごうとするターミヤさん。

 一方、ディセルさんは真剣その物といった表情で、それを受け取った。


「先生と、さらにそのお師匠様の名を汚さぬよう、慎んでお受けいたします」

 あまり気負うなよと苦笑するターミヤさんが見守る中で、ディセルさんは『真刀・国士無双』を自分の腰に下げる。

 おお……なんだかよくわからないけれど、素人な僕の目から見ても凄くしっくりと来ているような印象をうけるなぁ。


『うん、よく似合ってるぜ。後は、異界抜刀術・三代目伝承者として、精進するようにな』

「はいっ!」

 気合いのこもったディセルさんの返事を受けて、ターミヤさんはうんうんと頷いた。


『これで、肩の荷が降りたって感じだな……』

 なにか、感無量といった感じで呟くターミヤさんに、少し不穏な思いが僕とディセルさんの中に沸き上がる。

 もしかして、ターミヤさんが現世に召喚された目的の「抜刀術の後継者を育成する」が達成されたから、冥界に還ってしまうのでは……?

 どこか遠くを見つめるように、天を仰ぐターミヤさん。やがて、その姿が……特に消える事はなかった。

 な、なぁんだ、それっぽい雰囲気を醸してただけかぁ。

 ちょっと、ドキドキしちゃった。


『いやいや、俺には『ニホントウ』の普及という、もうひとつの目的があるから、まだ冥界には戻らねぇよ』

 そういえば、そんな事も言ってたっけ。

 まぁ、今はドワーフとの交流は難しいから、目的が成就するのはだいぶ先になりそうだけど。


 そんな感じで、簡潔ではあるけれど後継者(ディセルさん)への伝承を終えロロッサさん達を運び終えたリズさんが用意をしてくれた、食事を済ませる。

 その後、午前の鍛練などをこなして昼も過ぎた頃。

 ようやく起き出してきたお祖母ちゃんが、力ない笑顔で僕達におはようと挨拶してきた。


「おはようって……もう昼だし、いくらなんでも飲みすぎだよ、お祖母ちゃん」

「んん、お祝いのお酒だったから……つい、ね」

「そりゃあ、確かに戦勝祝いではあったけど……」

「そうじゃないわぁ。あーちゃん達のチームにとっての、お祝いよぉ」

 んん?なんの事だろうか?

 いまいちピンと来ていない顔の僕達に対して、お祖母ちゃんの表情がいたずらっぽい笑みに変わっていく。


「まぁ、近いうちにギルドに行ってみるとわかるわぁ」

 それだけを言うと、お祖母ちゃんはリズさんに二日酔いに効く物がほしいと、助けを求めに行ってしまった。


「いったい……なんだろうね?」

「さぁ……」

 ギルドへ行けばかわかるという言葉に、僕とディセルさんは顔を見合わせて首をかしげるのだった。

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