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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第三章 迫る死霊王の影
37/84

11 私の事を惑わせてくれるよ

           ◆◆◆


 その日、バートの街のとある酒場は、ハンター達が貸しきりとなっていたのだが、店内は異様なまでの盛り上がりをみせていた。

 それもそのはずで、二度目の魔王四天王の撃退に成功した事に加え、それを成しえた根幹となったこの街で最高のハンターチーム、『レギーナ・レグルス』の面々が、バニーガール姿で給仕を行っていたからだ。


 ある意味、『レギーナ・レグルス』を狙ってきた魔王四天王から街を守ることに成功したのも、ハンター達の協力があったからであり、この給仕は報酬を兼ねた労いの意味が強い。

 しかし、実力だけでなく、美貌も最高と謳われる彼女達の色気溢れる姿に、男も女も興奮を隠しきれずいた。


           ◆◆◆


「へっへっへっ、こっちにもう一杯たのむぜ、ディセルちゃんよぉ!」

「こら、おさわりは厳禁だぞ!」

 酔った勢いで迫ってくる荒くれ達へ、ディセルさんは牽制の睨みを効かせる!

「ヒャハハハ!もちろん、触るつもりは無いぜぇ!」

「花はいじらず、愛でるからこそ美しいってなぁ!」

「う、うむ……」

 粗野な見た目に関わらず、意外に紳士的で詩的な事を言うハンター達に、ディセルさんも少し戸惑っていた。


 そして、別の場所ではディセル以上に大きな胸の持ち主であるロロッサさんが、女性ハンター達に囲まれている。

「むむむ……ロロッサさんてば、何を食べたらそんなに胸が育つのよ?」

「と、特に変わった物は……不摂生なだけッス……」

「いやー、その腰の細さや肌ツヤで、不摂生はないわー」

「うんうん!とりあえず、ご利益ありそうだし、揉んどこう!」

「ひ、ひえぇぇぇっ!」

 ありがたや、ありがたいやと拝みながら胸を揉む女性ハンター達を前に、ロロッサさんの悲鳴は喧騒の中にむなしく呑みこまれていった。


「はぁい、お待ちどうさまぁ!」

 一方、ノリノリでお酒を運ぶのは、僕の姉を自称するマーシェリーことカルノお祖母ちゃん。

 その見た目から、誰も疑う事は無いのだけれど、僕から見れば身内のそういうノリはちょっとキツい……。

 まぁ、まさか伝説級の魔法使いが、こんな人だとは誰も思わないだろうから、正体がバレる事は無さそうだ。

 けど、歳を考えて少しは自重してほしいと思う。

 元々、こんな格好をする事になった原因も、お祖母ちゃんの一言だったしね。


 そう、そして僕だけはバニーガール姿(この格好)のせいで、場の雰囲気にそぐわない扱いを受けていた。

 別に、男だとバレそうとか、そういう訳じゃない。

 ただ、体の線がハッキリと出るこの格好で、ツルンとしてペタンなボディラインの僕は、ディセルさん達と比べると、どうしてもかわいそうな感じに見えてしまうようだった。


「ア、アムールちゃんも、いつか大きくなるから……」

「ミルク飲む?それとも、ロロッサちゃんのおっぱい揉む?」

 貧相どころか、膨らみが皆無な胸(男だから当たり前だけど)の僕を気遣う、ハンター達の対応もなんだか切なくなってくる。

 だから僕は、接客よりも片付けや掃除などに奔走して、宴会の会場を駆け回っていた。


『お前さんも、大変だな……』

 そう言いながら手伝ってくれた、ターミヤさんの心遣いが、胸に染みた。


           ◆◆◆


「……はぁぁぁっ」

 いまだ大騒ぎの真っ只中であろう、酒場から抜け出してきた私とアムールは、なんとか帰宅して自室に戻ると、ベッドに腰かけたままで大きなため息を吐いた。


「さ、さすがに疲れました……でも、やっぱり着替えくらいはしてきた方が良かったですかね……」

 私の隣で、バニーガール姿に身を包んだアムールが、力無く笑う。

 ハンター達への対応は、酒が入ってノリノリになったカルノ様とロロッサに任せ、私達は急いで抜け出してきたものだから、着替える間もなかったである。

 まぁ、二人とも酔ってはいたけど、ターミヤ先生もいたし、あれでハンター達は妙に紳士的だから、間違いが起こることはないだろう。

 

 うーん、それにしても……アムールのバニー姿は、すごく似合っているなぁ。

 自前の耳と尻尾があるため、レオタードに網タイツなだけのなんちゃってバニーな私に比べ、アムールは完璧な美少女バニーにしか見えない。

 うっかりすると、押し倒してしまいそうだわ……うふふ。


「あの……ディセルさん?目がちょっと怖いんですけど……」

 おっと、いけない。

 つい、(つがい)と交わりたがる、獣人族の本能が顔を見せてしまったようだわ。


「少し疲れたからね。小腹もすいたし、私達も少し腹に入れようか」

 アムールを怖がらせた事を誤魔化しつつ、私は宴会の会場から持ち出してきた飲食物を部屋のテーブルに広げた。

 

「僕も疲れました……遠慮なく、いただきます!」

 さすがに疲労していたようで、アムールは水筒に手を伸ばすと勢いよく中の液体をゴクリと飲み込む。

 あれ……だが待てよ?

 あの水筒の中身って、たしかお酒じゃ……。


「ちょ、ちょっとまった、アムール!」

 慌てて止めようとしたが、時すでに遅し!

 少量ではあるけど、明らかにお酒の入ってしまったアムールは、赤くなった顔と目の据わった表情を私に向けてきた。

 あちゃあ……これは、酔ってしまったなぁ。

 仕方ない、すぐに水を飲ませて寝かせてしまおう。

 そう、思って立ち上がろうとした時、急にアムールが私の手を掴んだ!


「アムール?」

「……アムールじゃないれす。僕は、アムルズれす!」

 微妙に呂律が回っていなかったが、彼はハッキリと偽名ではなく本名で名乗る。

 うん、でもそれは知っているけど、なんだっていきなり?

 酒のせいかと心配していると、彼は私を見据えながら言葉を続けた。


「……僕はれすね、ディセルさんに一言、言いたい事があるんれすよ!」

 私に……言いたい事?

 その一言に、私の胸中では突然の不安が沸き上がってきた。

 これはもしかして、酒のせいで普段はアムルズが内に秘めている、私への不満が表面に出てきたのではないだろうか?

 だとすれば、何を言われるんだろう……。

 もし、彼に嫌われるような事を知らず知らずのうちにしていたのなら、すぐにでも謝らなければ!

 ドキドキしながら、彼が何を言うのか身構える。

 そんな私に、アムルズが口にした不満とは……。


「……いつも、キスをしてくるのはディセルさんれすけろ、僕の方かららってディセルさんにキスをしたいんれす!」

 ……ん?それだけ?

 なにやらアムルズは満足気な様子だけど、私としては拍子抜けな内容だった。

 そりゃ……まぁ確かに、彼とキスをしたのは、殆どが私から迫った結果ではある。

 しかし、彼がそれに不満を持っていたなんてなぁ……。


 そんな事を考えていたら、いつの間にかアムルズがずいっ!と、身を乗り出して、私に接近してくる!

 間近で私を見つめてくる彼に、心臓がドクンと大きく跳ねた!


「……キスしたい」

 それは、小さな呟きながら、落雷のような衝撃でもって私の耳に響く!

 ど、どうしたというんだ?

 酔った勢いもあるのだろうけど、大胆なアムルズの言葉に、私は身動きができなくなって固まってしまう。

 そんな私の頬に手を伸ばし、優しく撫でながらアムルズの顔が近づいてきて……唇が触れあった。


「んっ、んんっ……!」

 以前、私が彼に迫った時に比べれば、優しいキス……だけど、その感触は暴力的なまでに体の芯にまで響き渡った!

「んっ……ぷはっ」

 息継ぎのために唇が離れたが、私も酒に酔ったような浮遊感を味わう。

 なんだ、これは……いままでのキスとは、まったく違う。

 いつもは、私からしていた事だというのに……こちらからではなく、彼から求められるだけで、こんなにも変わるものなのか。


 頭の中まで蕩けるような多幸感に浸っていると、アムルズはさらに首筋や鎖骨の辺りに、啄むような小さいキスを繰り返し、時折、舌を這わせてペロペロと舐めてくる。

 しかも、その度に私の名前を呼び、好き……と囁くものだから、どんどん体から力が抜けていった。


 そして、それと同時に腹部の奥がジワジワと熱を帯びていく。

 肉体が……本能が、アムルズを受け入れたくて疼いているのを、私は自覚していた。

 その事実に羞恥心を感じつつも、アムルズと結ばれるかもしれない事に、喜んでいる自分がいるのも事実だった。


「ふぁ……アム……ルズ……」

 ふにゃふにゃと脱力して、ベッドに横たわった私に、アムルズは押し倒すような形で覆い被さってくる。

 期待と不安が頭の中で渦を巻いて、思考回路はショート寸前。

 そして、そんな私の胸の谷間に、アムルズは顔を埋めてきた!

 ああっ……。

 このまま、彼の物に…………あれ?


 覆い被さったまま、そこから動かなくなったアムルズの様子を、恐る恐るうかがう。

 すると、彼はすぅすぅと気持ちよさそうな寝息をたてて、すっかり熟睡していた。

 ……疲れとアルコールが、完全に回ったみたいだな。


「……ふぅ」

 私は小さくため息を吐く。

 なんだかホッとしたような、すごく残念なような……なんとも微妙な気分だ。


「まったく……君は本当に、私の事を惑わせてくれるよ……」

 こぼれ出た笑みと共に、アムルズの頬をつつくと、彼の口から「ディセルさん……」と、私の名を呼ぶ声が漏れてきた。

 夢の中まで私を求めてくれる、可愛く愛しい少年を起こさないよう、優しく胸に抱き締める。

 アムルズから感じる、体温と鼓動のリズムに心地よい満足感を覚えながら、私も静かに目を閉じて、眠りの水底へと落ちていった。

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