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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第三章 迫る死霊王の影
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08 なんちゅう魔法を使うんだ!

 突っ込む僕達の後方から、ハンターの皆が放った攻撃魔法が、頭上を追い越していく!

 それはそのままアンデッドの先頭集団に着弾して、みっしりと詰まっていた横列の一部に穴を開けた!

 その切れ目に向かって、まずはディセルさんと、ロロッサさんを小脇に抱えたターミヤさんが飛び込んでいく!


『フッ!』

 人をひとり抱えているにも(かか)わらず、目にも止まらぬ一閃で周囲のアンデッドを両断していくターミヤさん!


「シャッ!」

 それに続いたディセルさんも、気合いの呼気と共にアンデッドを切り裂いていく!

 戦士職ではない僕の目では、ディセルさん達がどう動いているのかわからなかった。

 けれど、二人の回りで光が走るたびに、小気味良くアンデッドが斬られていくのは壮観ですらあった。

 そんな師弟を見て、なぜかお祖母ちゃんは「むむむ……」と唸りながら眉をひそめる。


「これは……負けていられないわぁ!あーちゃん、私達も協力して、格好よく決めるわよぉ!」

「いや、普通でいいんじゃ……」

「ビシッ!と決めて、ディセルちゃんにいいところ見せたいでしょお!」

 何に対抗意識を燃やしているのか、よくわからないけれど、「ディセルさんに、いい所を見せたい」というのには同意する!


「いくよ、お祖母ちゃん!」

「『お姉ちゃん』って呼びなさぁい!」

 設定上はそうだけど、やっぱりそんな風には呼び辛いよ!

 だけど、お姉ちゃんって呼ばないと何度でも訂正してきそうだから、仕方なく「お姉ちゃん」と呼び直して、魔法の詠唱を重ねる!


獄炎(タイラント)魔法(・フレイム)!」

嵐渦(フェザール)魔法(・タイニー)!」


 お祖母ちゃんの極限の炎魔法と、僕の放った最上級の風魔法による合体攻撃!

 暴風で勢いを増した炎を纏った地獄の竜巻が、アンデッドの群れを蹂躙していく!

 火炎旋風が過ぎ去った後には、死者達は瞬く間に焼き付くされて、炭片すらも残さず浄化されていった!

 やがて、炎の竜巻が消滅すると、アンデッドの軍勢に巨大な獣に引き裂かれたような跡ができあがり、それは後方へと続く道ともなった。

 よし、これで敵のボスまで一直線だ!


「さすが……すごいな、アムール!そしてカル……マーシェリー様も!」

 驚愕から一転、目を輝かせてディセルさんが誉めてくれる。

 えへへ……いいところを見せられたみたいで、嬉しい。

 なぜか、お祖母ちゃんまで照れ笑いしてるけど。


「さぁ、道はできたわぁ!ちゃっちゃと死霊魔術師を、ぶっとばすわよぉ!」

「皆さんも、よろしくお願いしまーす!」

 僕達の後ろで、残るアンデッドから街を守っているハンター達に声をかける。

 すると、場違いなくらい元気な返事が返ってきた。

 士気は上々、これならまだしばらくは大丈夫そうだ。


 安心して背中を任せた僕達は、群れの最奥を目指して、再び走り出した。


            ◆


「そいやぁ!」

 炎の軌道上に少しだけ残っていた、ほとんど炭化したアンデッドを蹴散らして、ようやく僕達は目的の最後尾にたどり着く!

 だけど……。


「くっ!敵の首魁は、どこにいるんだ!?」

 いま僕達がいる地点より後方からは、アンデッドが発生していない。

 ならば、このあたりに死者の軍勢を作り出した死霊魔術師がいるはずなのに、それらしい姿はどこにもなかった。


 読み違えたのか……それとも、これだけの数を遠隔操作しているとでもいうのだろうか?

 どちらにしても、急いで死霊魔術師を倒さないと、街やハンターの皆が危ない!


 焦る気持ちを抑えながら周囲を見回していた時、不意にロロッサさんが「あれを見るッス!」と叫んで、ある方向を指差した!

 そちらに僕達が目を向けると、視線の先には……一体のアンデッドが、地面に転がっている。

 元から黒かったのか、それとも炎で焦げて黒くなったのか……ともかく、立派な法衣らしきものに身を包んだそのアンデッドは、フードの下から煤けた骸骨の顔を覗かせていた。


 偶然、炎から免れただけのアンデッド……じゃないよね?

 そんな事を思いながら、ピクリとも動かない骸骨に注視していると、突然それはガバッと上体を起こした!

「グ、グハッ!」

 驚く僕達の前で、咳き込むように煙を吐き出す、怪しいアンデッド!

 どうやら、生きてた(?)みたいだ。


「な……なんじゃ、あの巨大な炎の竜巻はぁ!」

 激昂しながら、空に向かってアンデッドは吠える!

 というか、意識のあるアンデッド……それは、自分自身を生ける死者へと変化させるほどの、死霊魔術の使い手!

 つまりこいつが……!


「おのれ……この魔王四天王の一人である、死霊王(デス・カーディナル)のガマスター様を死ぬような(?)目に会わせよって……どこのどいつか知らんが、必ず殺してワシのアンデッドにしてやろうぞ!」

 怒りのあまり、僕達の事が目に入っていないのか、ガマスターと名乗った死霊魔術師は、呪いの言葉を吐き散らして、ふぅ……と小さくため息を吐いた。


「……ん?」

「……あ」

 そこで、落ち着きを取り戻したガマスターと、僕達の目がバッチリと合ってしまう。


「…………お前らかぁっ!」

「っ!?」

 少し考え込んだ後、唐突に死霊王は叫び声をあげた!

「なんちゅう魔法を使うんだ!危うく、死ぬところだったろうが!」

 いや、もう死んでるでしょ!?

 それに、こちらを殺すつもりで来てるくせに、なんて言いぐさだろう。


「ふん……勇者殿がいない時に限って、吸血鬼王の次は死霊王のご登場か。嬉しくもないが、よほど魔王軍とは縁があるらしい」

 本当に嫌そうに言うディセルさんに、ガマスターは顔を向けた。

「ほぅ……お前達が獣人族の姫に、その仲間か。そして……」

 僕達からスタートした視線を、ゆっくりとスライドさせながら、ガマスターの顔が、ロロッサさんを抱えたターミヤさんを捉える!


「そして、お前達が冥界神の加護を受けた者と、その従者じゃなあぁ?」

「ひぃっ!」

 ターミヤさんに守られたロロッサさんの姿を、ガマスターはねっとりとした、情欲にも似た目線を向けながら、舐め回すように見ていた。

「うう……なんか、視線がいやらしいッス……」

『おいおい、女の子には手を触れないでくださいよ、お客さん』

「ククク、それは無理というものよ……そいつの何が冥界神から気に入られたのか、じっくりと調べさせてもらわねばならんからなぁ」

 こいつ……目的はロロッサさんか!


「……ふぅん、確かに自らをアンデッド化すほどに死霊魔術にのめり込んだ元人間(・・・)なら、冥界神の加護を受ける条件なんて、是非とも知りたいわよねぇ」

 お祖母ちゃんの「元人間」という言葉に、ガマスターがピクリと反応する。

「あいつが何者か、知っているんですか、カ……マーシェリー様?」

「ええ、以前に読んだ『教会における汚点・危険人物編』という文献に、『ガマスター』の名前があったのよねぇ」

「ど、どこで読んだの、そんな文献……」

「な・い・し・ょ♥」

 お祖母ちゃんは、可愛らしくウインクして誤魔化そうとするけど、たぶん非合法な手段で閲覧したんだろうな……。


「ふむ……ワシの事を知っておるとは。お主、見た目通りの歳ではないようだな」

「やぁねぇ!レディの年齢を詮索するなんて、失礼よぉ!これだから、頭の中まで腐っちゃった人はさぁ……」

「ふん……まぁ、そんなに若作りができるなら、案外そこの女と同じように研究材料として面白いかもしれんな」

 結構、辛辣な返しをしたお祖母ちゃんに、ガマスターは興味を抱いたようだ。

 だけど、二人ともこいつの玩具になんて、絶対にさせるもんか! 


「あなたの思い通りにはさせない!ロロッサさんも、おば……お姉ちゃんも、ボク達が守ってみせる!」

「私達がいる限り、二人には手を触れさせませんよ!」

 二人を守るために、僕とディセルさんはロロッサさん達との間に入って、ガマスターと対峙する!

 そんな僕達に、ガマスターは「しゃらくさい……」と呟くと、素早く何ごとかの詠唱を行った!

 すると、やつの背後に大きな空間の歪みが生じ、そこから巨大な影が姿を現す!


「あ、あれは……」

「ドラゴン……?」

 戸惑うような、ディセルさんの言葉も無理はない。

 ガマスターの力で呼び出されたのは、威風堂々たる姿のドラゴンではなく、あちらこちらが腐敗し、朽ちはじめた所を無理矢理に使役させられている、言わばドラゴンのゾンビだったからだ!

 

「研究材料以外は、こやつと遊んでおれ」

 ロロッサさんとお祖母ちゃん以外には、露骨に興味を示さないガマスターの命令を受けて、ドラゴンゾンビは僕達に狙いを定めて動き出した!

 それを迎え撃とうとしていた時、突然にターミヤさんがとんでもない事を言い出す。


『ふむ……あれくらいなら、ちょうどいいな。おい、ディセル』

「はい、先生」

『お前さんの免許皆伝への実技テストだけどな、あのデカブツを一人で(・・・)ぶった切れたら、合格としよう』

 なっ!

 ターミヤさんの言葉に、ディセルさんより僕の方が驚いてしまった!

 でも、あれを一人でなんて、無茶振りにもほどがありますよっ!?


「……なるほど、承知しました。」

 しかし、ディセルさんは不敵な笑みを浮かべて、それを了承する。

 うう……その根拠はわからないけど、とにかく凄い自信だ。


「ううん、これは負けていられないわねぇ……よぉし!」

 何故かディセルさん達師弟に対抗心を燃やしたお祖母ちゃんが、僕にも指示を出してくる。

「それじゃあ、あーちゃん!あなたは、あのガマスターをぶっ倒したら、私の修行も終了ということにしてあげるわぁ!」

「ええっ!?」

 急に、ターミヤさん以上の無理を言う!

 仮にも相手は魔王四天王だと言うのに、僕ひとりでなんて……。


「大丈夫よぉ。あーちゃん達は前に、同じ四天王の吸血鬼を倒してるんでしょう?」

「そ、それはそうだけど、あの時はディセルさんの協力もあったし……」

 いまだに困惑から立ち直れないでいると、お祖母ちゃんは僕を奮い立たせる魔法の言葉を口にする。

「これから先も、ディセルちゃんを守りたいんでしょう?なら、ここが正念場よぉ」

 くっ……そんな事を言われたら、やらない訳にはいかないじゃないか!


「……わかりました。やります!」

「それでこそ、私の()だわぁ!」

 えらい、えらいと、僕の頭をもみくちゃに撫でながら、設定を忘れないお祖母ちゃんが、頑張ってねと激励の言葉を贈ってくれた。

 お祖母ちゃんの期待に答えるため、なによりディセルさんのためにも、魔王四天王のガマスター……僕が倒させてもらう!


「……このワシを、卒業の試練扱いとはな……ここまで舐められた事は、生前から見てもなかったぞ!」

 ビキビキと怒りを顕にしながら、ガマスターは僕達を睨み付ける。

「いいだろう、死して……いや、死ねぬ体になってから、永遠に苦しみ続けるがいい!」

 僕達をアンデッド化させると宣言したガマスターとの戦いの火蓋は、こうして切って落とされた!

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