06 私も鼻が高いわぁ
広間へ僕達が到着すると、すでにターミヤさん、ロロッサさん、そしてお祖母ちゃんまで準備を整えて待機していた。
「遅いわよぉ、二人とも!」
お祖母ちゃんが可愛いらしくプンプンと叱って来るけど、ターミヤさんとロロッサさんが「まぁまぁ……」と、宥めてくれる。
『盛り上がっていた若い二人が水を差されたんだし、大目に見てやってくれ』
「そうッス!いつも以上にイチャついていたご様子のお二人だったんで、どれほど無念だったか……」
いや、ターミヤさんとロロッサさんが力説するほど、残念がってはいないんだけど……。
「あらまぁ!ひょっとして、もうすぐ曾孫の顔が見れるかもしれない所だったのぉ!?」
「お祖母ちゃん!」
緊急事態っぽいのに、ふざけすぎだよっ!
それに、そんな風にからかわれたら、ディセルさんだって……。
「その時が来たら、頑張ります!」
うん……尻尾の揺れ具合からも、本気度がうかがえるくらい、超ノリ気だった。
いや、その気持ちは嬉しいし、僕もいずれはちゃんと気持ちに応えたいとは思うけど……今はそれどころじゃないよね。
「と、とにかく街の方も騒がしくなってるようですし、ひとまずはギルドに行ってみましょう」
「そうだね、何が起きてるのか確認しなくては」
特に異論も出ず、まずは情報収集のために僕達はギルドの建物がある、街の方へと向かった。
◆
ギルドの建物近くまでくると、すでに集まっていた多くのハンター達がひしめいていた。
なん組かのハンターチームに声をかけてみたけれど、まだ緊急事態の銅鑼が鳴らしされた理由について、説明はされていないらしい。
「ある程度のハンターが集まったら、ギルド長から説明があるみたいだが……」
「そうなんですか……ありがとうございます」
教えてくれたハンターに礼を言い、僕達もギルド長からの発表を待つことにした。
──しばらくして、ようやく姿を現したギルド長が、驚くべき現状を告げる!
「よく集まってくれた、ハンターの諸君。現在、南の方向からこの街に向かって、アンデッドの軍勢が迫っているとの報告があった。恐らく、あと数時間後にはこの街に到達すると思われる」
ざわざわと、ハンター達からざわめきが沸き上がる。
だけど、それも当然だ。
何故なら、突発的かつ偶然にアンデッドが群れを成したとしても、それは十体前後が精々で、軍勢と呼称されるほどの数がたまたま出現するなんて事はありえない。
それだけの数が一度に現れたという事は、背後に強力な死霊魔術師がいるという事の証明だった。
「それで、そのアンデッドの数はどれくらいなんだ?」
ハンター達から飛ばされた当たり前の質問に、ギルド長は一瞬だけ躊躇してから答えを返す。
「……推定では、五百体以上。しかもそのほとんどが、モンスターがアンデッド化した物だ」
その言葉に、再びどよめきがハンター達から起こった。
「ご、五百体!?」
「ここに集まったハンターの、五倍以上もいるのか!?」
「しかも、アンデッド化したモンスターって……」
想定外過ぎる事案に、みんな浮き足立っている。
でも、それは僕達も同じだ。
前の吸血鬼王の襲撃よりも厄介な事態に、どこから対策を練ればいいのか、考えがまとまらない。
そんな中、唯一、落ち着いて見えたお祖母ちゃんが、スッと手を挙げた。
「まずは皆、落ち着きなさぁい。数でこちらが劣るというならぁ、しっかりと対策を練らないと全滅するだけよぉ」
緊迫した場にそぐわない、どこかおっとりとしたお祖母ちゃんの物言いに、皆の注目が集まる。
「あ、あんた……見ない顔だが、何者だ?」
突然の見慣れない部外者からの言動に、いぶかしむハンター達へ、お祖母ちゃんはにっこりと笑顔を向けた。
そうしてから、僕の肩にポンと手を置く。
「私はあーちゃん……アムールの姉のマーシェリーといいますぅ」
「ぶふっ!」
あ、姉っ!?
唐突なお祖母ちゃんの嘘自己紹介に、思わず噴き出してしまった!
(お、お祖母ちゃん!? 急に何を言ってるのさ!)
(だって、あーちゃんは正体を隠してるんでしょう?だったら私も正体を誤魔化さないと、あーちゃんの事がバレちゃうかもしれないじゃない?)
(う……)
それは……そうかもしれない。
有名なお祖母ちゃんの本名と、僕との関係性を正直に話せば、僕がアムルズなんじゃないかと、推測する人も出てくる可能性がある。
でも……外見は確かに若いけど、いい歳をして、姉って……。
「ア、アムールちゃんのお姉さん!?」
「言われてみれば、似てるな」
「美人眼鏡姉妹……いい……」
幸い、ハンターの皆はお祖母ちゃんの言葉を、すんなり信じてくれたようだ。
何人かが、挨拶しようと順番を争っていたけど、それらを飛び越えて、ギルド長がお祖母ちゃんに声をかける。
「マーシェリー殿……といったか。しっかりとした対策とおっしゃったが、何か目処はあるのかね?」
「もちろんよぉ」
断言するお祖母ちゃんに、「おお……」と声があがり、皆が続く言葉に耳を傾けた。
「その数や珍しいアンデッドに気を取られているけどぉ、基本はその軍勢の首魁、つまり敵の死霊魔術師を倒せばいいだけの話じゃなぁい?」
あまりにも基本中な基本の話に、僕を含めた全員がハッ!とさせられた。
そ、そうだよ!
自然発生した訳じゃないアンデッドなら、それを操っている者を倒せば自壊するはずだもの!
つい浮き足立っていて、そんな事にすら気づかなかったなんて、不覚だ……。
「術師はだいたい、軍勢の最後尾に控えている物だからぁ、突貫力のあるパーティが一直線に軍勢を突っ切って、敵の頭を潰すのが一番手っ取り早い方法かしらねぇ」
確かに、無駄にタフなアンデッドを全部倒すよりは、それが現実的だろう。
そして、ここのハンター達の中で、もっとも戦力の高いチームといえば……。
皆の視線が、僕達へと集中する。
そうだよね、僕達『レギーナ・レグルス』だよね。
「じゃあ、ボク達が敵の死霊魔術師を叩く、皆にはそれを援護してもらう……で、いいのかな?」
「そうねぇ。それと、街の防衛もお願いしたいわぁ」
そうか、もしもアンデッドが街に侵入してきたら、襲われた住民がアンデッド化させられてしまう恐れもあるか。
「問題はぁ、本隊の他に伏兵なんかいた場合よねぇ」
ううむ……確かに小数でも街中に侵入して混乱を起こされれば、下手をすると挟み撃ちにされる可能性もある。
かといって、数で優る敵の本隊には、ハンター全員で当たる必要もあるし……。
皆が頭を悩ませる中、今度はロロッサさんがおずおずと手を挙げた。
「あ、あの……街の防衛なら、ウチがなんとかできるかもしれないッス……」
「本当ですか、ロロッサさん!」
「は、はい……『獄卒』の力を借りれれば、街ひとつを守るくらいは……」
「『獄卒』……ですか?」
聞きなれない単語に首をかしげていると、ロロッサさんがそれについて説明してくれた。
なんでも、創造神の『天使』や邪神の『悪魔』に匹敵する、冥界神の眷族なのだという。
冥界で、魂を管理する立場にある『獄卒』ならば、アンデッドに対して強い効果を発揮してくれるそうだ。
最初の絶望的な一報から、一筋の光明が見えた事で、皆から不安げな雰囲気が払拭されていく。
「よっしゃ!マーシェリーちゃんの作戦通り、アムールちゃん達を全力でサポートするぞ!」
「おおよ!それでもって、勝利の暁には、また大宴会といくか!」
「それなら、アムールちゃんとディセルに、また給事服を着てもらおうぜ!」
「っ!?」
な、なんでそうなるのっ!?
今回は僕達が、そんな事をする必要なんて無いのにっ!
慌てて断ろうとした僕が口を開くよりも早く、お祖母ちゃんがその話題に食いついて行った!
「なぁに、それ!面白そうじゃなぁい!」
楽しそうに訪ねるお祖母ちゃんに、ハンター達は前回の吸血鬼王襲撃後の宴会について説明する。
すると、お祖母ちゃんは目を輝かせて、とんでもない事を口走り始めた。
「いいわねぇ。なら、今度は私とロロッサちゃんも、一緒にお給事しようかしらぁ」
「ウ、ウチもッスか!?」
お祖母ちゃんの言葉に、ハンター達から歓声があがる!
その反応に気をよくしたのか、お祖母ちゃんはさらに追加でえらい事を言い出した!
「でも、前と同じじゃあ盛り上がりに欠けるわよねぇ。だから、今回はバニーガール姿で給事するっていうのは、どうかしらぁ?」
「なっ!?」
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
思わず抗議しようとした僕達だったけど、怒濤のようなハンター達の雄叫びに、それも掻き消されてしまった!
い、いったい何を考えてるんだっ!?
僕は沸き上がるハンター達から、お祖母ちゃんを連れて少し距離を取ると、声を潜めて問い詰めた!
「お、お祖母ちゃん!なんであんな事を言い出したのさっ!」
「でもほらぁ、士気はすごく上ったじゃない?」
た、確かに、みんなヤル気に満ち溢れているけど……。
「これから死地に向かうんだから、これくらいの盛り上がりが無いと、ね!」
うっ……それは、そうかもしれない。
なにより、皆が弱気になってしまい、犠牲者が増えるよりはマシ……なのかな。
少し……いや、かなり恥ずかしいけど。
「それにしてもぉ、皆があーちゃんの可愛い姿でこんなに喜んでくれるなんて、私も鼻が高いわぁ!」
あまり嬉しくないタイプの孫バカな発言をするお祖母ちゃんに、僕は小さくため息を吐く。
そんな僕の背中を、ディセルさんが軽く叩いて、にっこりと微笑みかけてくれた。
「後の事はさておいて、今は目の前の脅威に集中しよう」
「……はいっ!」
さすがはディセルさん、戦士の心構えができていて素敵だ……好き♥
そんなディセルさんの期待に応えるべく、僕はアンデッド迎撃作戦に向けて、気合いを入れ直した!




