04 あーちゃんを鍛え直してあげるわぁ
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「こ、この女性……いや、この方がアムールのお祖母様!?」
愕然としながら、ディセルさんは絞り出すように声を漏らす。
そう、この人が魔法使いの最高峰に君臨する一人。
僕の祖母である、カルノ・トロワフィルその人である。
『おいおい、なんの騒ぎだ一体?』
「ヒィッ!ど、どちらさまッスか……」
騒ぎを聞き付けて、みんなも玄関に集まってきた。
そんなメンバーを見たお祖母ちゃんは、物怖じするでもなく、ただ「あら~」と一言だけ漏らす。
アンデッドであるターミヤさんやリズさんもいるというのに、驚いた様子もないのはさすがだ。
「あーちゃん、この方達は……お友達?」
「と、友達というか、パーティの仲間です……」
「まぁまぁ……」
ぐるりとみんなを見回したお祖母ちゃんは、そこで帽子を取ってペコリと頭を下げた。
「初めまして、あーちゃん……アムルズの祖母の、カルノと申しますぅ。いつもあーちゃんが、お世話になっておりますぅ」
「あ、い、いえ……こちらこそ、お世話になっています!」
「ウ、ウチもお世話になりっぱなしで……え?」
『いま、アムールの祖母……と、おっしゃった?』
「はい」
『…………えぇぇぇぇぇぇっ!?』
ディセルさんを除いた、みんなの驚愕の声が重なって響く!
「わ、若いッス!ほとんど、ウチと変わらないじゃないッスか!」
『いや、下手すりゃお嬢より若く見えるぞ……もしかしたら、アムールのお祖母ちゃんのつもりになってる、一般女性って事はないだろうな?』
「それはそれで、おっかない話ッスよ!」
ガクガクと怯えるロロッサさんとターミヤさん。
無理もないけど、疑いがへんな妄想に行き着くくらい驚いたみたいだな……。
なんせ、お祖母ちゃんの外見は僕が赤ん坊だった頃の自分の娘……ようするに、僕の母とほとんど変わらない年齢に設定してあるらしい。
なんでも、親許から離された僕が寂しくないようにとの配慮からだそうだ。
もちろん、魔力を使って若さを保っているんだけど、常人にはそんな真似は不可能であり、伊達に世界で五指に入るなんて評価は受けていないと、感心させられてしまう。
そ、それにしても……。
「なんで、お祖母ちゃんがここに……」
「なんでって……それはこっちのセリフよぉ!」
僕の問いかけに、お祖母ちゃんはズイッと身を乗り出してきた。
「勇者のパーティから追放されたと聞いて以降、半年以上も音沙汰もないしぃ。心配して当たり前でしょ!」
うっ……た、確かに……。
「そうして、色々と手を尽くしてあなたを探しだしてみれば、こんな辺境の国で偽名を使ってハンターをやってる……どういう事なのぉ?」
あまりにもまっとうなお祖母ちゃんの疑問に、返す言葉もない。
僕がやってきた事を改めて振り返れば、そりゃ非常識としか言いようがないよね……。
「ま、待ってください!彼は彼なりに、悩み抜いた結果でもあるのです……まずは、話を聞いてやってくれませんか?」
ディセルさんが、僕を庇うように横から飛び込んでくる。
そんな彼女を、お祖母ちゃんはジッと見つめて、質問を口にした。
「貴女は?」
「私はディセルといいます。アムール……アムルズの恋人です!」
「まぁ!」
堂々としたディセルさんの態度に、さすがのお祖母ちゃんも驚いたようだ。
僕へ顔を向けると、本当なの?と問いただしてくる。
「うん……僕の大切な女性だよ」
「アムール……」
「ディセルさん……」
見つめあって二人だけの世界に浸る僕達を見て、お祖母ちゃんは「若いっていいわねぇ……」なんて呟きを漏らした。
「でも、あなた達ぃ……さっきの様子から、いつもイチャイチャ、ベタベタしているようだけどぉ、健全なお付き合いをしているんでしょうねぇ?」
「安心してください、お祖母様!『小説家になろうの規約』に反するような事はしておりません!」
ドン!と胸を張って答えるディセルさんだけど、それに照らし合わせると結構ギリギリのような気がする……。
「まぁ、その辺も含めて、ちゃんと説明してもらいますからね!」
「はい……」
拒否する権利など持ち合わせていない僕は、肩を落としながら小さく頷いた。
◆
「──と、いうことです」
場所を大広間に移し、皆でテーブルを囲みながらこれまでの経緯を話終えた僕は、リズさんの淹れてくれたお茶を口に含んだ。
はぅ……緊張しながら長話した後に、リズさんのお茶が染み渡る。
「なるほどねぇ……まぁ、家族に気を使ったのは理解できたわぁ」
じっと僕の話に耳を傾けていてくれたお祖母ちゃんも、お茶を一すすりしてから、ポツリと呟いた。
「でもね、あーちゃん。どうして最初から女装で勇者パーティに入らなかったの?」
「は、入れるわけないでしょっ!」
男である「アムルズ」として推薦されたのに、女の子の格好で加われるはずないよっ!
そう言うと、お祖母ちゃんは可愛いんだから、堂々としていればいいのに……なんて、まったく僕の恥ずかしさを理解した様子もない。
「あのね、お祖母ちゃん!いくら可愛いって言われても、女装してる人なんて『特殊な趣味の変人』と思われたってしょうがないんだよ?」
身内が相手ということもあって、つい語気が強くなってしまう。
でも、実際に女装している事で、男の人にナンパされたり、いやらしい目で見られたり、体を触られた事も何度かあった。
周囲に実力を示してからはそういう事も減ったけど、そもそもこんな形でないと魔法が使えないように僕を鍛えた、お祖母ちゃんの意図はなんだったんだろう。
変な答えが返ってくると怖いから、今までは聞けなかったけど、この際だからちゃんと教えてほしい!
僕がそう問い詰めると、お祖母ちゃんはちょっとだけ考えてから、口を開いた。
「……あのねぇ、この世界には三人の神がいるじゃない?」
……ん?
急に、明後日の方向に話が飛んだ?
お祖母ちゃんの言葉に、みんなもキョトンとしている。
い、いや……お祖母ちゃんは時々、妙な切り口で話を始める事があった。
今回もたぶんそれだと理解して、そのまま話を続けてもらう。
「みんなも見た事があるかもしれないけどぉ、三人の神は全員が女の人の姿で描かれているのよぉ」
お祖母ちゃんの言葉に、僕とディセルさんは頷いてみせたけど、ロロッサさんとターミヤさんはピンと来てないみたいだ。
まぁ、神様の絵が飾られているのは、主に町の教会とかなので、人目を避けて暮らしてきた彼女達がそれを知らなくても無理はない。
「でもねぇ、それでも三人の神は『女神』とは言われないのぉ」
「あ……」
「そういえば……たしかに」
「なぜなら、高次元の存在である『神』に性別はない……もしくは、両性だからねぇ」
そ、そうなんだ!?
でも、言われてみればそういうものかもしれない……。
創造神の使いである『天使』や、邪神の僕である『悪魔』なんて別次元の存在も、高位の者ほど両性であるなんて話も聞いたことがあるし。
「つまりぃ、神も女装していると言えるわけなのよ」
突然、すごい方向からぶっこんできた!
いや、たしかにそう言えるかもしれないけどさぁ……。
そこでお祖母ちゃんは、一旦言葉を止めて、お茶を口にする。
そうして僕の方へ視線を向けると、慈しむような目で見つめてきた。
「あーちゃんが生まれたばかりの時にぃ、その身に膨大な魔力を宿している事がわかったわぁ。そして、そのままでは魔力の大きさに耐えられず、命を落とすという事もぉ……」
……うん。それは聞いてる。
「でも、並の術式では救えない事がわかったのぉ。だから究極の手段としてぇ、『神を模倣して女装させる事で、その魔力をコントロールする術式』を施したのよ」
そ、そこで繋がるのかっ!
お祖母ちゃんの言葉に、みんなも「おお……」とため息混じりの声を漏らす。
ま、まさかこの格好にそこまでの意味があったなんて……。
「ぼ、僕はてっきりお祖母ちゃんの趣味かなにかだと……」
「それも、ちょっとだけあるわぁ」
あるのっ!?
「可愛いですもんね……わかります!」
ディセルさんも、そこに理解は示さないで……。
でもまぁ……そんな理由があったのか。
女装に意味があると理解できただけでも、収穫と言えるかもしれないな。
そんな風に納得していた僕を、いつの間にかお祖母ちゃんがジッと見つめていた。
「ところであーちゃん……あなた、まだ自分の魔力を十全に使えていないみたいねぇ」
え?そうなの?
そういう自覚は、あんまりないんたけど……?
「たぶん、潜在能力の半分も使えてないわねぇ……ちなみに、あーちゃんはどんな下着をつけているのぉ?」
「え!? い、いきなり何を……」
「大事なことよぉ?」
「あう……ふ、普通だよ……」
そう、普通の安くて丈夫で、飾り気の欠片もない最低限の女性用下着だ……。
さすがに、この格好で男性用下着を着けていたら、おかしいもんね。
でも、それを聞いたお祖母ちゃんは、小さなため息を漏らす。
「ダメよぉ、ちゃんと下着からしっかり選ばなきゃ。男の子でありながら女の子に近づく事で、あなたの魔力は開放されるんだからぁ」
そ、そんなぁ……。
「仕方ないわねぇ……様子を見に来ただけだったけど、心配だから私がまた、あーちゃんを鍛え直してあげるわぁ」
お祖母ちゃんがっ!?
でも、最近は伸び悩んでいたし、それは助かるかも!
「……うん!僕ももっと強くなりたい!」
そう、ディセルさんのためにもっ!
「うふふ、やる気に満ちているわねぇ。言っておくけど、厳しくいくわよぉ?」
「望むところですっ!」
「よろしい。では、さっそくやる事があるわぁ」
も、もう?
い、いや!ディセルさんもどんどん強くなっているんだし、僕ものんびりしていられない!
どんな特訓でも、受けて立つ!
「それじゃあ最初に、ちゃんとした下着を買いにいきまぁす」
「……はい?」
思わず言葉を失った僕に、お祖母ちゃんは真面目な顔で講義をしてきた。
「『はい?』じゃないわぁ。言ったでしょう、女の子に近づく事が第一歩だって」
「そ、それはそうだけど……」
「見えない所も、手を抜いちゃダメよぉ。むしろ、いつ服を脱ぐ事になるかわからないんだから、気合いを入れなきゃ」
「そ、そういうもの……なの?」
「そういうものなのぉ。強くなりたいならぁ、もっと可愛く可憐にならないとねぇ!」
そう言ってウィンクするお祖母ちゃんに、僕は反論する言葉をもたなかった……。




