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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
プロローグ
3/84

03 ここは私が切り込むとしよう

            ◆


 何だかんだで、弱味を握られた僕は、獣人族のディセルさんと仮のチームを組むことになってしまった。

 ついでに、ちょうどいい依頼も見つかり、早速それを受ける事にする。

 こうなったら、早くハンターの資格を取ってもらって、それと引き換えに口止めをお願いしなければ!


「ちくしょう!俺達のアムールちゃんがっ!」

「だが、下手な男と組まれるよりは、マシかもしれないな」

「ううむ……あの獣人族の女も見た目は悪くないし、美少女と美女のコンビは、ある意味で眼福か」


 勝手な感想を言うハンター達に見送られつつ、僕達は依頼書を出してきたとある村へと向かって出発した。


            ◆


「なぁ、なぜアムールはそんな格好をしているんだい?」

「うっ……」

 ふ、触れてほしくない所を、ダイレクトに攻めてきたなぁ……。


 僕達が拠点としている、バートの街から、依頼のあった村までは徒歩で二日ほどの距離がある。

 道中で、とりあえずお互いの素性を話せる部分は話そうという事になったのだけれど、ディセルさんの第一の質問がこれだった。


「正直、君の格好はとてもよく似合っているし、見た目だけなら完全に女の子だ。でも、男の子がその格好をするからには、訳があるんだろう?」

「……ボクはこういった格好じゃないと、集中して魔法が使えないんです」

 たぶん、そんな馬鹿なと頭ごなしに否定されると思っていた。

 でもディセルさんは、「なるほど、そういうものか」と、あっさり納得してしまう。

 な、なんだか意外な反応だなぁ。


「魔法使いというのは、何かと変わっている者が多いからね。君のようなパターンもあるんだろう」

 事も無げに言うディセルさんに、今まで正体をひた隠しにしていた僕は少し感動すら覚えた。

「まぁ、君が男の子である事を隠しているなら、それを広言するつもりはないよ。だから、私にも少し協力してほしいな」

 なんなら、無事にハンターの資格が取れたら、自分は別の支部に行ってもいいと彼女は言う。

 ううん……本当に僕の弱味を握って、どうこうしようという感じじゃないんだな。

 彼女を疑ったり、邪険に扱おうとした自分の器量の狭さに、ちょっとだけ自己嫌悪してしまう。


 でも、ディセルさんは言葉や立ち振舞いにもどこか気品があるし、もしかしたら彼女は獣人族の貴族階級か何かなのかもしれないな。

 気になって、それとなく生まれについて聞いてみると、「ノーコメントで」と返されてしまった。

 つまり、その辺は触れるなと言うことか……。

 でもディセルさんも僕の素性について踏み入って来なかったし、追々わかるかもしれないから、今は聞かないでおこう。


 その後も他愛のない話と旅を続けながら、キャンプで一泊を経て二日目の昼頃に村に到着した。

 この村からの依頼は、『最近村の周辺に現れるようになったゴブリンの群れを倒してほしい』といった物だ。

 ゴブリンは一匹見つけたら三十匹いると言われるくらい繁殖力の強いから、巣を叩かないとすぐに増えてしまう。

 依頼者である村の人達からゴブリンの巣とおぼしき場所を聞いて、僕達はさっそく乗り込むことにした。


 ──山の中を掻き分け、聞いていた洞窟の入り口を遠目に見ながら、僕達はいったん身を隠す。

 洞窟の入り口付近には、見張りとおぼしき二匹のゴブリンが、物憂さげに立っていた。


「どうやら、ここが奴等の巣で間違いないみたいですね」

「そうだね。さて、どう攻め込もうか」

 ここからなら、僕の魔法で見張りは倒せるけれど……。

「うん、ここは私が切り込むとしよう」

 隣のディセルさんが、そんな事を言う。

「何か、遠距離の武器があるんですか?」

「いいや、(これ)だけだが?」

 え?

 でも、洞窟の入り口までは、結構な距離があるのに……。


「まぁ、見ていなさい」

 そう言って剣に手をかけたディセルさんは、弾かれたように飛び出す!

 そのまま風のような速度で間合いを摘めると、見張り達が声を出すよりも速く、その首を断ちきっていた!

 すごいな……獣人族の人は何度か見た事があるけど、ここまで身体能力に優れた人を見るのは初めてだ。

 密かに感心していた僕の方へ、ディセルさんは手招きをする。

 合流した僕達は、そのまま洞窟の内部に侵入した。


 ──それから小一時間程度で、ゴブリンの群れの壊滅に成功した。

 洞窟の中には五十匹ほどのゴブリンがいたけれど、すごかったのはディセルさんがそれらを全て一撃で斬り捨てた事だ。

 狭くて暗い洞窟の中で、僕の作った魔法の光源だけを頼りに、一度も壁や天井に剣を取られる事なく確実に一撃で仕留めるなんて、相当の剣士でなければ不可能だろう。

 それをあっさりとやってのける彼女は、少なくともB級レベルの腕前はありそうだ。

 それに、よく見ればこの人、ほとんど返り血も浴びず汗もかいていない。

 改めてすごい剣士なんだと思うと、尊敬の念すら湧いてくる。


「……もう、生きてるゴブリンはいないようだね」

 鋭い感覚器官で周囲を確認したディセルさんが、刃についた血を拭って剣を納める。

「すごかったですよ、ディセルさん!」

「ありがとう。それで、私は合格かな?」

 一瞬、なんの事かと思ったけれど、そういえばハンターの試験的な物も兼ねていたのだと思い出す。

「腕前で言えば、文句なしです。あとは何度か依頼をこなして信用を得れば、資格を得るには十分だと思いますよ」

「そうか。なら、頑張るとしよう」

 ニコリと微笑みながら、ディセルさんは外へ出ようと促してきた。


 ゴブリンの残党なども現れず、僕達は無事に洞窟の外へ。

 狭苦しい場所から開放された心地よさを覚えて、僕達は大きく伸びをした。

「さて、あとは依頼達成の確認とゴブリンの死骸を片付けないといけませんね」

 依頼者に洞窟内を確認してもらって、その後にゴブリン死骸の処理を僕の魔法ですればいい。

 それで、この依頼は完了だ。

「ふむ、これで私の……」

 突然、にこやかに言いかけたディセルさんの目が、鋭い物になって近くの森に向けられる!


「何者だっ!」

 油断なく、森に向かって吠えるディセルさん。

 その声に応えるように、森の中から一人の人物が歩み出てきた。

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