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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第三章 迫る死霊王の影
28/84

02 付いてるんだよ、下にはな

            ◆


「──どこか、もう少し広い物件に移る必要があるなぁ」

 宿に戻り、ギルドに提出する報告書をまとめていた僕が漏らした呟きに、ディセルさんとロロッサさんが反応した。


「引っ越しかい?」

「ええ……そろそろ、真面目に考えないといけません」

 それと言うのも、ロロッサさんが無事に僕達のチームに加入できたのはいいんだけれど、いま借りている部屋がかなり手狭になっているからだ。

 正直、僕とディセルさんだけでもいっぱいいっぱいで、普段過ごすスペースも圧迫してるのが現状である。

 そこにロロッサさん(もしかしたら、ターミヤさんも)が加わり、私物なんかも増えてきたら寝る場所すら無くなってしまうだろう。

 そうなる前に、どこか新しい物件を見つけないといけないという思いから、漏れた呟きだった。


 だけど、それなりに広い家となると、先立つ物も心細いし、予算内で条件が満たせるかどうか難しい。

「いざとなったら、私の剣を売ってもいいよ」

 予算面の事をみんなに相談してみると、ディセルさんがそんな事を言ってきた。

 えっ、それはさすがにマズいでしょう……。


「いや、ターミヤ先生とも話していたんだけど、本格的に『抜刀術』を習得するために、先生が何本か所有している『ニホントウ』のひとつを譲ってもらう事になっていてね。だから、今の剣は売ってしまっても問題はないんだ」

「そうなんですか……」

 でも、剣士にとって手に馴染んだ剣を手放すのは、思うところがあるんじゃないのかな。

 もしかして、僕達に遠慮させまいと無理をしてるんじゃないかと心配になって、その辺を聞いてみる。

 すると、ディセルさんは平然と笑って、「平気、平気」と明るく答えた。


「この剣は元々、私が追放される際に獣人国(うち)の宝物殿から適当にちょろまかしてきた物だからね。それほど思い入れは無いし、なんなら路銀の足しにしようかと思って持ち出した物さ」

 それなりに、いい値段で売れるはずだと、彼女は笑う。

 そ、そうだったのか……。

 でも、宝物殿からって簡単に言うけど、警備とかもあるだろうし、持ち出すのはかなり大変だったろうに。

 さすがはディセルさんだ。


「まぁ、剣を売る売らないはともかく、ギルドの紹介で安くすむ場合もあるので、ちょっと相談してみます」

 いま僕達が住んでいる借り宿も、ギルドと提携しているために普通の宿より安く部屋を借りられている。

 かつての僕みたいな宿無しのハンターのために、ギルドがいい物件や訳有りの物件を斡旋してくれる事は、よくあるのだ。

 ただ、前者は救済的な意味合いが強いけど、後者はほぼ依頼に近い。


 例えば、ギルド所有の物件にモンスターが住み着いたから、それを討伐すれば格安で貸出すといった具合だ。

 とはいえ、今の戦力が充実している僕達なら、訳有り物件パターンでも問題はないと思う。

 なので、明日の朝一にでもギルドで調べてもらおう。


 そう結論付けて、どんな新居がいいかなんて他愛もない話をしつつ、僕達はその日を過ごしていった。


            ◆


「──アムールさんのご要望に答えられそうな訳有り物件が、ちょうど一件ありますね」

 翌日、予定通りに朝一でギルドを訪れ、カウンターのネッサさんに質問すると、そんな答えが返ってきた。

 訳有りの方か……それでも、どんな物件なのかは詳しく聞いてみよう。


「ええっと、今までにその屋敷に入居した数人のオーナーさんが、いずれも発狂したり自殺したりしてるだけなんですけどね」

 訳有りのケタが違った。とんだ事故物件じゃないか!

 な、なんなんだ、それは!?


「なんでも、その屋敷を建てた初代オーナーの悪霊が出るらしいんですね。しかも、何度かハンターや高位の神官によって祓われてるにもかかわらず、すぐに戻ってきちゃうっていうんですよ」

 悪霊絡みと聞いて、僕達の目線がロロッサさんに集まる。

「そ、それはおそらく、根本的な心残りが解決されてないパターンじゃないッスかね。その悪霊(ひと)の心残りをどうにかしないと、黄泉の眠りにつかせるのは難しいッス」

 その道のエキスパートであるロロッサさんのお話に、なるほどなと皆が大いに頷いた。


 根本的な心残りか……。

 そういえば、邪神教団に殺された狩人の村の元村長である、ラースさんも教団を壊滅させて自分達の仇を討ったら、満足していつの間にか消えていたっけ。


「ちなみに、ロロッサならその悪霊と、意思の疎通みたいな物は図れそうかい?」

「そうッスね……よっぽど、とち狂ってなければ、話くらいは聞けると思うッス」

 ディセルさんの問い掛けに、ロロッサさんはどことなく自信あり気に返答して見せた。

 おお……さすがに頼もしい。

 でも、その悪霊をどうにかできる可能性があるなら、この訳有り物件に挑戦するのは有りだ。


 僕達はネッサさんから、その訳有り物件の場所を聞き、さっそく現場へと向かった。


            ◆


 街の端、外敵からの守りである城壁に程近い場所に、その屋敷はひっそりと佇んでいた。

 正直な所、見た目だけなら引っ越し先に、この屋敷は申し分ない。

 柵に囲われた敷地内には広い庭があるし、建物自体もかなりの大きさだ。

 これでオーナーを変死させるような悪霊が出なければ、かなりの高額で売買されていたに違いない。


「それじゃあ、建物の中に行ってみましょうか」

「そうだね」

「いきなり、襲って来ないといいんスけど……」

『え、やめてくれよ。俺はそういう、ビックリ系のホラー展開が苦手なんだからさぁ』

 ロロッサさんの呟きに、ターミヤさんがビクリとしながら狼狽えていた。

 スケルトンなのに、一番悪霊にビビってるように見えるのは、なんなんだろうか……。


 なにはともあれ、僕達は建物の内部に向かう。

 借りてきた鍵で正面玄関の扉を開くと、わずかに澱んだ空気が流れ出してくるのを感じた。

 そうして、屋敷の中に一歩踏み込んだ瞬間!


 出ていけぇぇ……


 ひどくしわがれた、か細い声が奥の方から響いてきた!

 出たな!と僕達は警戒して身構える!

 しかし、警戒していたポルターガイスト系の攻撃は無く、先程の声が徐々に近づいてくるのだけがハッキリ聞こえた。

 やがて、屋敷の奥から『出ていけ、出ていけ』と連呼しながら、そいつは現れた!


『さっさと出てい……えっ!?』

 なぜか意外そうな声を漏らして、そいつは僕達を見て固まった。

 リズさんのような、半透明の姿をした四十台くらいの男の幽霊。

 そいつが、フワフワと空中を漂いながら、僕達を凝視している。


「あ、あの……おたくは何が未練でこの世に残っているんスかね?」

 幽霊相手でも人見知りするのか、ロロッサさんはディセルさんの背後から屋敷の幽霊に問いかけた。

 しかし、幽霊は彼女の問いに答えず、むしろプルプルと震えたと思ったら、突然に両腕を高らかと掲げた!


『ついに、モテ期キター!』


 モテ期……なに?

 いきなり僕達の目の前で、屋敷の幽霊はひとり乾期の声をあげている。

 ど、どういうこと?


「あ、あのぅ……なんなんスか、おたくは?」

 さすがのロロッサさんも、幽霊の奇妙な反応に困惑ぎみだ。

 そんな僕達の様子に気づいた幽霊は、コホンと咳払いをすると『ようこそ、我が屋敷へ』と頭を下げた。


『ようやく、我が望みが叶う日がきた……』

「の、望み……?」

『そう……私はかつて、素敵な嫁を迎えるために、この屋敷を作った。だが……』

 むむ?もしかして、悲恋的な話があるのかな?

『屋敷が完成してから気づいたのだ……そもそも、迎えるような相手がいなかったわ、と』

 うん……?

 よくわからない方向に飛んだ話に、僕達はキョトンとする。

 そこは、屋敷を建てる前に気づこうよ……本当に何をいってるんだ、この人。


『現実に気づいた私は、失意のうちに無念の死をとげたのだが、こうして未練は残り、現世をさ迷う事になってしまったのだ』

「でも、おたくの後にこの屋敷へ入った人達を呪ったのは、どういう理由なんスか?」

『はぁ?私は、誰も呪ってなどいない!』

「へ?」

『たんにこの屋敷に入った者達に、四六時中、耳元で愚痴をこぼし続けていただけだ!』

 いや、十分に呪いだよ、それは!

 そんな真似をされていたら、住人が発狂したりしてた理由もよくわかる。

 そんな自覚していない悪霊に、ロロッサさんは交渉を開始し始めた。


「ウチらは、おたくの未練をどうにかするために来たッス。どうすれば、安らかに眠るッスか?」

『我が望みはひとつ……可愛い女の子に、愛の言葉を囁きながら、告白してほしいっ!』

 ……あ、愛の言葉?

『私は愛に餓えているのだ!なのに、この屋敷に来るのは、おっさんだったりおっさんだったり、たまに男と同伴のハンターだったり、またおっさんだったり……いいかげんにしてほしい!』

 腹の底にたまっていた物をぶちまけるように、悪霊は捲し立てる!

 そんなに、入居者がおっさんばかりなのが嫌だったのか……。


『だがっ!ようやく女の子ばかりのパーティが、我が屋敷を訪れてくれた!さぁ、私に愛をください!』

「ええっと……要するに、彼が満足するような愛の告白をすれば、未練は無くなるみたいッス……」

 困ったようなロロッサさんの解説に、僕達も戸惑ってしまう。

 見ず知らずの幽霊に、愛の告白って言われてもなぁ……。


「ふぅ……まぁ、思ったよりも複雑な条件ではないのだから、さっさと済ませてしまおう」

 そう言うと、ディセルさんが一歩前に出た。

 そうして、悪霊に向かって「好きだ」と、棒読みかつ無表情で告げる。


『そんなんと違うっ!』

 投げやりなディセルさんの告白に、激昂する幽霊!

 確かに、いつも僕に愛を囁く時に比べれば、雑すぎたとは思う。

『次っ!そっちの黒い人!』

「ウ、ウチッスか!?」

 指名されたロロッサさんが、ビクリと震える!

 ちょっとキツいかもしれないけれど、頑張ってください、ロロッサさん!


「え、ええっと……す、好きッス……うぇへへ……」

 たぶん、精一杯かわいらしく笑ってるつもりなんだろうけど、無理をしているのが見え見えで、かなり不気味に見えてしまう。

 それでも、なんとか言えたんだから、頑張りましたね、ロロッサさん!


『……次、そこのお嬢さん』

 くっ……ついに回ってきてしまったか。ここで、僕が決めないと!

 内心で気合いを入れ、僕は理想の告白シーンを頭に浮かべる。

 恥ずかしそうに隠す口元、まっすぐに見れないながらも上目づかいで向ける視線、赤く染まる頬、モジモジと落ち着かない雰囲気……それらを発動させて、僕は告げる。


「好きです……大好きですっ!」


『ぐあぁぁぁぁっ!』

「ぐはぁっ!」

 なぜか、幽霊と一緒に膝から崩れ落ちるディセルさん。

 し、しっかりしてください!


『くっ……見事だ、少女よ。君の告白……完璧だった!』

 感無量といった顔つきで、幽霊は顔をあげる。

 よかった……これで彼も黄泉の眠りに……。

『そんなに私を愛してくれているなら、一緒に逝こう!』

「えっ!?」

 突然、飛びかかってきた幽霊は、僕を絡み付いてくる!


「な、何をっ!?」

『君の愛は受け取った……だから、冥界で添い遂げよう!』

「演技、演技ですから!」

『あー、あー、聞こえない』

 さ、最悪だ、この人!

 でもこのままじゃ、僕も道連れにされて、冥界に引き込まれてしまうかもしれない!

 なんとか逃れようとしていた所に、意外な方向から声が掛けられた!


『ちょっと待ったぁ!』

 いままで、同じアンデッド……って言うと、失礼かもしれないけど、この悪霊から存在が無視されてきたターミヤさん!

『あのな、お前が捕まえてるその子……アムールは男の子だぞ』

『なぁっ!』

 彼は僕に絡む悪霊に、刃のような冷たい言葉を突き立てた!


『ばっ、馬鹿な!こんなに可愛いのにっ!?』

『それでも……付いてるんだよ、下にはな!』

『そ、そんな』

「ひゃん!」

 ターミヤさんの言葉に、悪霊は僕の股間の辺りをまさぐる!

 そして、触れてしまった。男の子の証明に。


『お、おちん〇んやんけぇぇぇ!』

 絶叫と共に、僕に絡んでいた悪霊は砕け散る!

 そのまま霧散して、溶けるように消滅していった!


「未練の気配が……消えたッス。どうやら、存在その物が爆散するくらいショックを受けたみたいッスね!」

 そんなに!?

「一応、後で冥界にアクセスして確認しておくッス。なんにせよ、アムール氏のおち〇ちんの勝利ッスよ!」

「すごいな、アムールのおちん〇んはっ!」

『たいしたものだぜ、お前さんのおち〇ちんはな』

「あ、あんまり大きな声で連呼しないでくださいっ!」

 は、恥ずかし過ぎる!


 と、とにかく、これで新しい拠点はゲットできた。

 後はギルドに報告して、屋敷の掃除をしてから、引っ越しと、まだまだやる事は多い。

 そうやって皆と共に動き出す中で、僕はお〇んちんで悲業の最後を遂げた悪霊に、わずかばかりの追悼の念を贈るのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 裸の状態だと魔法は使えるのか? [一言] そうか、そんなにすごいおちん○んなら私も一度見てみたいな
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