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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第三章 迫る死霊王の影
27/84

01 今後ともよろしくッス

           ◆◆◆


 ひとり欠員のあるまま、再び魔王四天王のメンバー達は集結していた。

「こんな短期間に、また顔を合わせる事になるとはな……何か問題発生か?」

「うむ……例の、獣人の姫と相方のハンターを邪神教団に始末させようとした件だが……差し向けた一部が、壊滅させられたそうだ」

 問いかける鬼人王(オーガ・キング)ラグロンドの言葉に、死霊王(デス・カーディナル)ガマスターは白骨に近い顔に(器用にも)苦々しい面持ちを浮かべながら、頷き答えた。


「へぇ……詳細が聞きたいわ」

 淫魔女王(サキュバス・クィーン)ウェルティムが、楽しげに尋ねてくる。

 誰かが失態を晒し、ヘマをやらかした話は良い娯楽だ。

 それが、同じ陣営でライバル関係にある同僚の物なら、なおの事である。


「……地域的に、『冥界神の加護』を持つ者を探索させていたグループが近かったため、そやつらに抹殺指令を出した」

「そいつらは、どれくらいの規模だったんだ?」

「ざっと百人ほどか……」

「ほぅ、そこそこいたのだな」

「でも、それだけの人数が動員されていて失敗したって……よほどお粗末な作戦でも立てたのかしら?」

 クスクスと笑う二人に、死霊王はひとつため息を漏らす。


「ある村を住民を皆殺しにして乗っ取り、まるごと教団員で入れ替わって罠を張っていたそうだが……」

「ええ……なにそれ、怖っ……」

「えげつない事するわね~……」

 先程まで嘲笑っていた同僚達がドン引きするのを見て、内心で溜飲が下がった死霊王は話を進めた。


「教団の連中は、微量ではあるが邪神様のお力を得ていたのだが、それでも失敗した」

「ふむ……邪神様の爪の垢ほどとはいえ、力が与えられた奴等を壊滅させるとは、獣人の姫達は中々に手強そうだな」

「ターゲットが、思いの外やるようだというのもあるが……どうやら、奴等が失敗した原因のひとつに、勇者の介入があった事が考えられる」

「勇者っ!?」

 その単語を聞いた途端、四天王内を流れる空気に、わずかな緊張感が走った!


「そうだ。やにやら創造神の啓示を受けて、その場に居合わせたらしいとの情報が入っている」

「我等が怨敵、創造神の走狗が、また邪魔をしよったか!」

「まったく……本当に目障りな連中ね」

 人間でありながら神からの加護を受け、神器たる『聖剣』を携える勇者……。

 まさに魔族にとって天敵と言えるその存在は、目の上のコブである。


「おそらく、教団のほとんどは勇者どもに討たれたに(・・・・・・・・・・)違いない(・・・・)

「そう考えるのが妥当だろうな……」

「むしろ、それ以外に考えられないわ……」

 油断している吸血鬼王を、まぐれで倒せたハンターより、勇者の存在を重くみる彼等はそう結論付けた。


「勇者どもの動きが活発化してきている以上、今後はそちらに集中していく必要がある」

「確かにな……だが、ハンターどもの方はどうする?」

「それに、『冥界神の加護持ち』っていう奴の事もあるでしょう?」

 二人の言葉にガマスターは「むぅ……」と小さく呟くと、少しばかり顔を伏せる。

 そうして思案の時がわずかに流れ、彼は顔を上げると同時に宣言した。


「ハンターと『冥界神の加護持ち』については、ワシが動こう」

 その言葉に、ザワリと場の空気が揺れる。

「お前が、自ら行くというのか」

「ああ……留守の間、勇者達の事は頼んだぞ」

「それは構わないけど……そんなに、『冥界神の加護』を持ってる奴が気になるのかしら?」

 ウェルティムがなんとなく尋ねた言葉に、ガマスターは小さく嗤う。


「べ、別に『冥界神の加護』持ってる奴が羨ましくて悔しくて、いっぺん会ってみたいとか、そういう訳じゃないんだからね!」


 フンだ!と、腕組みしながら背を向ける死霊王の姿に、同僚の二人は(汚ねぇツンデレ?だな……)と、真顔で見つめるのであった。


           ◆◆◆


「──いえいえ、アムールさん!さすがに、それは無理がありますよ!」

 僕の申し出を聞いた、ギルドの受付嬢であるネッサさんの返答はそれだった。

 まぁ、そういう反応をされるのも覚悟はしていたけど。


 街に帰ってきた時も、一緒にいたロロッサさんはともかく、スケルトンのターミヤさんやゴーストのリズさんの姿に、ちょっとした騒ぎになりかけた。

 僕達が一緒にいたから、なんとかギルドの建物まで穏便に来れたけど、中に入った途端にターミヤさんを見たハンター達は、剣を抜いたり、逃げたり、失禁したりと大変だったもんなぁ……。

 それからの、「死霊召喚師をギルドに登録して、メンバーに加えたい」って相談だったのだから、過剰に拒否反応が出ていてもおかしくはないか。


「死霊関係に携わる魔法使いの、九割九分九厘が基本的にアウトな人達なんです!それをハンターにだなんて……」

「それはわかってますけど、こちらのロロッサさんは今まで誰にも迷惑をかけないよう、一人で隠れ住んでいた人なんですよ」

「ウ、ウチは悪い死霊召喚師じゃないッスぅ!」

『おうおう!うちのお嬢がアウトな人ってのは、どういう了見だ!』

 小動物みたいに震えながら訴えるロロッサさんに、声なき声で迫るリズさんと凄味を見せるターミヤさん!

 うん、ターミヤさんは逆効果だから、ちょっと下がっていてほしい。


「じ、事情はわかりましたけど、せめてギルドに登録されてるだけの実績や功績……もしくは、秩序を乱す存在ではないという証明が無ければ無理です……」

 この街のギルドでは最高峰にあたる、B級ハンターである僕達が保証人になるといっても、所詮は一介のチームの言葉に過ぎない。

 特例を認めるならば、それにふさわしいだけの説得力を見せなきゃって事だよね……。


「つまり、私の時のように、依頼をこなしてみせろという事かな?」

 そう尋ねたディセルさんに、ネッサさんは困ったように体を傾ける。

「いえ……時世の問題から、登録に条件が付いたディセルさんとは違って、そちらの……ロロッサさん?の職種は、登録自体が前例のない事案なんですよ」

 なるほど、そういう事なら登録に慎重……というか、拒絶するのもわかる。

 しかし、どうしたものか……。


「おう!死霊魔術師がハンターになるなんざ、最初から無理な話なんだから、さっさと諦めな!」

 困り果てた僕達に、追い討ちをかけるようにして、モヒカンで半裸のハンターが絡んできた。

「これ以上、アムールちゃんやディセルに、迷惑かけるんじゃねぇよ!」

 モヒカンハンターの言葉に、ロロッサさんはまたアワアワと小刻みに震えながら、泣きそうになる。

 だけど、勇気を出して一歩踏み出すように、彼女は反論の言葉を口にした!


「ウ、ウ、ウチは悪い……死霊召喚師じゃないッス……」

 か細く、小さく、語彙もない声でだけど、言い返してきたロロッサさんに対し、モヒカンハンターは懐疑的な態度を崩さない。

「悪い死霊……召喚師?じゃない、ねぇ……。だったら、二年前に死んだ、俺のバアちゃんを喚んだりできるのか?あぁん?」

 そういう物じゃないんですと、僕達は助け船を出そうとしたけど、それよりも早くロロッサさんは頷いた。

「や、やってみるッス!」

 そう告げて、ロロッサさんは瞑想するように目を閉じる。だ、大丈夫だろうか……。


 しかし、それから数秒後。

 彼女の横に青白い火の玉が現れ、それはみるみる間に一人の老婆の姿になった。

「おばあちゃん!」

 モヒカンのハンターが叫ぶ!

「本当におばあちゃんなの!?」

『ええ、本物ですよ。マーくんも元気にしてましたか?苦手なトマトも、食べられるようになったかしら?』

「うん!ピーマンも大丈夫になったよ!」

『えらいねぇ、マーくんは』

「おばあちゃあぁぁんんっ!」

 すがり付くようにして号泣する、モヒカンハンター。

 その様子を遠巻きに見ていた他のハンター達も、徐々に僕達の所へ集まってきた。


「……なぁ、そいつみたいに、俺達も死んじまった会いたい人を、喚んでもらってりすることはできるのか?」

 ハンター稼業は死と隣り合わせだけに、色々と無念の思いを抱いてる人は多いのだろう。

 そんな人達が、期待に満ちた目をロロッサさんに向ける。

「た、魂がまだ冥界にいれば、可能ッスけど……」

 そんな問いに答えた彼女の言葉に、わっ!と故人との再会を望む人達が殺到した!

 亡くなった肉親、死に別れた恋人、飼ってたペットなど、様々なリクエストに答えてロロッサさんは魂を喚び出す。

 やがて、あちこちで歓声や涙で咽ぶ声が上がり、室内は和やかな空気に包まれていった。


            ◆


「──と、いう事で、この場にいるすべてのハンターの皆さんから賛同された事もあり、ロロッサさんの登録を認めます」

 ちゃっかり、ロロッサさんにリクエストしていたネッサさんが、涙で濡れたまま微笑んで宣言した。

 その後ろでは、やはり恩恵にあずかったギルドマスターも、うんうんと頷いている。

 何となく、この場の空気だけで言ってる気もするけど、それでも認めてもらえたなら問題ない。

 皆の気が変わる前に、さっさと登録してもらおう。


 そうして書類等を書き、仮の認識証を受け取ったロロッサさんは、僕達に向かって満面の笑みを浮かべた。

「や、やったッス!アムール氏とディセル氏のおかげッス!」

「いいえ、ロロッサさんの実力があってこそですよ」

「それに、これはスタートでしかないからね。一緒に頑張っていこう」

「はいッス!今後ともよろしくッス!」

『よかったなぁ、お嬢……』

 すっかりロロッサさんの保護者気分のターミヤさんとリズさんが、ハンカチを涙で濡らしながら、僕達を眺めていた。


 ──こうして、僕達のチーム『レギーナ・レグルス』は、新しいメンバーを迎え入れたのであった。

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