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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第二章 邪神教団の罠
25/84

11 夜明けか……

 派手な轟音と共に、僕の放った爆発魔法が、家の二階を貫いて屋根まで吹き飛ばす!


「はっ!どこを狙っている、小娘!」

 もうもうと立ち込める煙の向こうから、僕達を嘲るような偽村長の声が響くが、もちろん上を狙ったのはわざとだ。

 万が一、捕らえられているエルビオさん達がこの建物内にいたらマズいし、村の外で待機しているであろうターミヤさん達に知らせるなら、目立つ狼煙にした方がいいもんね!

 とはいえ、予想以上に立ち込める煙は完全に敵の姿を隠してしまった。

 向こうは暗殺者だし、この状況はよくないな。


 早々に煙を吹き飛ばすべく、僕は魔法の詠唱に入る。だが、それを狙っていたか、お手伝いさん姿の教団メンバーが飛び出してきた!

 鋭い凶器が僕に向かって迫る……前に、間に入ったディセルさんが、敵を一刀の元に斬り伏せる!

 断末魔の悲鳴すら上げず、紫色の血(・・・・)を噴き出して教団の女の首が床に転がった!

 って、この血の色は……!?


「おそらく、邪神の力を得る過程で、半モンスター化したんだろう。私たち獣人族の、『完全獣人化』と似たようなものか……」

 そう説明するディセルさんの言葉には、なんだか悲しげな響きがある。

 確かに獣人族の祖は邪神側だったかもしれないけれど、そんなのは遥か昔の話だ。

 だから僕は、完全獣人化したディセルさんも素敵ですからね!と、再び念を押した。

「……ありがとう、アムール」

 照れ臭そうに微笑む彼女に、僕も内心でホッとする。

 そんな風に、暖かい空間が二人の間に流れていたのを断ち切るように、建物の外から声が響いた!


「さぁ、小娘ども!さっさと出てくるがいい!」

 いつの間にか、この建物から脱出していた偽村長……いや、邪神教団のボスは、僕達を追いたてるために一階に火を放ったようだ。

 けど……これは利用できるな。


「ディセルさん!ボクはこの煙に紛れて、上に向かいます。そこから広範囲の魔法で奴等を撹乱しますから、混乱に乗じて敵を減らしてください!」

「わかった!奴等の飛び道具に気を付けてね、アムール!」

「はい!」

 念のため、ディセルさんに防御魔法をかけてから二手に別れ、僕は急いで二階に向かう!

 高い場所を取れれば、攻撃にも援護にも飛び道具(魔法)が有利だ。


 二階に到着した僕は、先ほどの爆発魔法で空いた穴を通って、屋根の上に出る。 

 そうしてグルリと見回すと、この建物はすでに百人近くの村人……もとい、邪神教団の連中に取り囲まれていた。

 燃える一階の炎に照らされてか、奴等の目は爛々と輝き、中にはすでに人間を辞めた体型へと変化している者もいる。

 幸い、連中はまだ僕達が一階から飛び出して来るものと思っているようで、屋根の上に陣取っている事に気づいていないようだ。


 よし!これなら初撃は確実に決まる!

 僕は素早く詠唱を済ませ、広範囲にダメージを与える魔法を解き放った!


地震雷撃魔法アース・ライトニング!」


 僕の手から放たれた雷撃が、敵の密集する地面へと突き刺さり、地を覆うように広がって連中を感電させていく!

 突然、足元からの電撃を受けて浮き足立つ邪神教団へ、僕は次の魔法を発動させた!


爆発(メテオ・)流星群(エクスプロード)!」


 魔法の完成と共に発生した光の球が上空で()ぜると、そこから生まれた無数の火球が、雨のように地上へと降りそそぐ!

 下からの電撃に次ぐ、上からの炎の雨に、暗殺者の訓練を受けているであろう教団の連中からも、阿鼻叫喚の悲鳴があがっていた。


「な、なんだ!? この攻撃はっ!?」

「う、上だ!屋根の上に、魔法を使っている小娘がいるぞ!」

 おっと、見つかっちゃったか。

 しかし、地上から放たれる弓矢や短剣、さらには攻撃魔法なんかも、僕の防御魔法による障壁に阻まれてまったくの徒労に終わる。

 そんな敵の目を僕に引き付けるために、馴れないながらも「おら、おらぁ!」といった感じで挑発行為をしてみると、ますます攻撃の手は激しくなってきた。


 よしよし、いい感じに注目が向いてきたな。

 教団の攻撃がほとんど僕へ集中しだした、その時!

 一階の窓を内側から破って、美しい獣が飛び出した!

 敵の不意を突き、完全獣人化したディセルさんが縦横無尽に剣を振るう!

 その動きは以前にも増して流麗で美しく、舞うような軽やかさとしなやかさが、僕の目を引き付けた。

 明らかに、今朝よりも強くなっているディセルさん……これも、ターミヤさんと『領域(ゾーン)』で剣を交えた成果なんだろうか。

 そうやって彼女に見とれている間に、敵はどんどん減っていく。


 おっと、いけない。こっちも頑張らなきゃ!

 僕も負けじと魔法を撃ち込んでいると、すぐに敵の数は半数以下になっていった。

 これなら、ターミヤさん達が乗り込んで来る前に、決着がつくかも。

 そんな考えが頭をよぎったその時、敵首魁である教団ボスの雄叫びが轟き響いた!


「おのれぇぇぇ!たかが雑魚のハンター風情が、調子に乗るなよおぉぉっ!」

 教団ボスの狂気が滲む叫びに、僕達だけでなく敵の目もそちらに向けられる。

 そんな注目の中、突然、教団ボスは自らの手首を深々と切り裂いて、大量に紫色の血を噴き出させた!

 いったい何を……誰もがそう思っていたけれど、その理由はすぐに判明する!

 教団ボスから噴き出した血は不自然に空中へ集まり、魔法陣の形に変化していった。


「闇より来たれ!我らが主の眷族よ!」

 血を吐くような教団ボスの呼び掛けに、魔法陣が怪しく輝き始める!

 すると、その向こう側から(・・・・・・・・)恐るべきモノが、ゆっくりと姿を現す!


 真っ黒で光沢のある体表に、一つ目の牛を思わせる頭部。

 その手に握られた巨大なメイスは、この世のあらゆる物を砕きそうな迫力に満ちていた。

 あ、あれはまさか……邪神の眷族、『悪魔デーモン』!?

 普段はこの世界に存在しない、神の住む異界に住む異形の者達。

 その力は強力で、あらゆる魔法に対しても高い防御力を備えているという。

 ま、まさかこんな奥の手を残しているなんてっ……!


「フハハハ!さぁ、我らが主よ眷族よ!好きなだけ暴れるがいい!」

 狂信者の命令に、悪魔は歓喜にも似た咆哮をあげる!

 ビリビリと空気を震わすその声は、まるで魂にまで突き刺さるようだ!

 とにかく、アレはヤバい!

 残った教団の連中より、最優先で潰さなければ!


 標的を切り替えた僕達は、すぐにも悪魔への攻撃に移った!


無属性魔砲ゼロ・カノン!」


 どの属性にも寄らない、純粋な魔力の塊からなる魔法砲撃!

 おそらく、最強生物である竜にも通用するであろう僕のオリジナル魔法だけど、直撃したはずの悪魔には大したダメージを受けた様子はない!

 さらにディセルさんも果敢に斬りかかるが、彼女をもってしてもわずかな切り傷を作るのがやっとという状況だった。

 やっぱり……想定通りだ(・・・・・)


 強大な魔法防御を持つ相手との遭遇に、お祖母ちゃんと修行中に教わった事が思い出される。

 曰く、『堅い相手は、面ではなく点で穿て!』


 修行の最中に、身に染みるほどそれを実践してくれたお祖母ちゃん……。

 その凄さと容赦の無さがフラッシュバックして、知らないうちに体が震えてくる。


「魔法使いの小娘は、万策尽きたようだな……なす術なく怯えておるわ。さぁ、あの小娘を贄に捧げますぞ!」

 お祖母ちゃんとの思い出に震えていた僕に、何か勘違いした教団ボスは悪魔をこちらへとけしかける!

 それに乗った悪魔は、僕のいる建物ごと破壊してやると言わんばかりに、巨大メイスを振りかぶった!

「アムール!」

 ディセルさんが、悲鳴のような声で僕を呼ぶ!

 だけど、悪魔に対抗するために極限まで集中していた僕の耳に、彼女の声は届いていなかった!


 狙うは、あの一つ目!

 堅い壁を貫くように鋭く、穿つような回転と、それらを最大限に発揮するための速度……!

 練り上げた魔力とイメージを新しい魔法に変えて、僕はそれを解き放つ!


尖穿螺旋スパイラル・無属性貫通弾ゼロ・マグナム!」


 進路の空間を歪ませるほどの回転力を得て放たれた魔力の弾丸は、避けることなどできない速度で悪魔の魔力防御を撃ち破り、狙い通りに奴の一つ目を貫いた!


『グオォォォォッ!』

 悪魔の苦痛に満ちた声が響く!

 そこへ、文字通りに防御の穴になった頭部めがけて、剣を鞘に納めた(・・・・・・・)ディセルさんが跳んだ!


「(見よう見まねの)抜刀術・一閃!」


 鈴の鳴るような、戦場に似つかわしくない心地よい抜刀の音色と、目にも止まらぬ速さで振り抜かれた刃。

 それに伴って、悪魔の頭部の上半分がわずかに遅れてずれ落ちる。

 静かに、優雅さすら感じるディセルさんの一撃がトドメとなり、悪魔は崩れ落ちるように塵となって霧散していった。


「ば、馬鹿なっ……勇者でもなんでもない、ただのハンター風情が悪魔を倒すなど……」

 愕然として呟く、教団のボス。

 その背中に、軽い音と共にどこからか飛んできた矢が突き刺さった!


「あ……?」

『お前さんで最後だ』

 訳がわからないといった顔のまま、教団のボスは両断される!

 邪神の力で、人間を辞めていた代償なのだろうか……教団のボスは先程の悪魔のように、ボロボロと塵になって崩れ落ちていった。


「ターミヤさん!」

「師匠!」

 いつの間にか現れたターミヤさんと、おっかなびっくり着いてきた感じのロロッサさんが、僕達に向かって手を振る。

 僕は、燃え落ちかけた建物から、魔法で飛び降りると、皆の元へと駆け寄っていった。


『よう、ディセル。わりと形になってたじゃねぇか』

「ありがとうございます、師匠」

「うおおっ!アムール氏、スゲー魔法だったッス!ウチも魔法職の端くれとして、めっちゃたまげたッス!」

「ど、どうも……」

 それぞれに賛辞を受け、僕とディセルさんは顔を見合わせて笑いあう。

 って、あれ?

 ディセルさんの、完全獣人化が解けてる?

 それに気づいた僕の目に、山の合間から差し込む眩しい光が飛び込んできた。


「夜明けか……」

 昇る朝日に目を細めながら、ようやく長い戦いの夜が終わった事を、僕達は実感していた。 

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