05 よろしければ、私達の一行に
──なんで、こんな事になったんだろう。
「ふぃ~……たまらんねぇ」
「ええ……本当にいいお湯ですね」
「ア、アムール、大丈夫かい?」
全裸の美女達と共に温泉に浸かり、そちらに背を向けながらも、僕の心臓は張り裂けんばかりの勢いで脈打っていた。
当然、こんなシチュエーションに困惑しているのもあるけれど、男だとバレたらマズいという緊張感もある。
今の所、ガチガチにタオルを巻いて誤魔化してるけれど、この窮地を脱するために、早くなんとかしなければ……。
(アムール、君の事を隠すからなるべく私の影に)
(は、はい。ありがとうござ……)
ディセルさんから小声で話しかけられ、彼女の方をチラリと見た僕はそこで固まってしまった。
なぜなら、ディセルさんの大きくて白い胸の膨らみが、僕の目の前にあったからだ!
思わずジッ……と胸を見つめていた僕の視線に気づいた彼女は、少し恥ずかしそうに、それでいてちょっと意地悪そうな笑みを浮かべる。
(ん……私としては、君にならいくらでも見せてあげたいけれど、あんまり凝視されると恥ずかしいかな)
(す、すいません!)
(んふふ……そうは言ってるけど、目線は釘付けじゃないか♥)
(ディ、ディセルさん?なんだか、目が怖いですよ?)
「おーい、なにを二人でヒソヒソやってんのさ」
瞳に妖しい光を帯びてきたディセルさんに迫られていると、ルキスさんが声をかけながら割って入ってきた。
た、助かった……。
だけど、ホッとしたのもつかの間、ルキスさんはいきなりディセルさんの胸を両手で持ち上げる!
「うおっ!すごっ!この質量はヴァイエルに匹敵するぞっ!」
「こらっ!ルキスさん!」
驚愕するチームメイトを嗜めながら、ヴァイエルさんはペチンとルキスさんにチョップを叩き込む。
叩き慣れてる様子から、この二人の関係が見えてくるようだった。
「突然そんな事をしたら、ディセルさんに失礼でしょう」
「でも、ヴァイエル並みにおっきな胸なんて、触らない方が失礼じゃん!それに、アムールだって絶対に触ってるって!」
「え、ええっ?」
急に矛先が向いてきたことに、僕は慌てて首を振る!
「い、いえ!ボクはけっして、そんな事は……」
まぁ、たまにディセルさんの方から押し付けてくる事はあるけれど……。
「うっそだー!女同士とはいえ……いや、女同士だからこそ、チームメイトのデカチチなんて触らずにはいられないっしょ!」
そういうものなの!?
うーん、女同士のコミュニケーションというのは、僕が思うよりも深いらしい。
「それに、アタシもあんまり大きい方じゃないしさ、こちらのデカチチ様達にはあやかりたいよねぇ」
タオルで巻かれた僕の胸元をチラリと見つつ、ルキスさんはディセルさんとヴァイエルさんの胸に向かって手を合わせ、僕にも拝むように促してきた。
……たぶん、悲しいくらいに胸が無い事を気にして、タオルを巻いているんだと思われたんだろうなぁ。
なんだか、同情的な目も向けられてるし……。
「さぁ、ルキスさんの冗談に付き合うのは、これくらいにしましょう」
呆れたようなため息を吐きつつ、ヴァイエルさんが僕に向かってニッコリと微笑む。
「アムールさん、よろしかったら、お背中を流させてくださいませんか?」
「え?は、はい……」
変に断るのも角が立つし、怪しまれる。
まぁ、背中なら大丈夫……だよね?
とりあえず、ディセルさんの胸に興味津々なルキスさんを引き付けてもらい、僕はヴァイエルさんに背中を向けてタオルをはだけた。
「まぁ、なんてすべすべのお肌……羨ましいです」
優しく僕の背中を擦りながら、彼女は神官らしからぬ艶かしいため息を漏らす。
そうして、ゴシゴシと背中を洗いながら、ヴァイエルさんは思わぬ事を話始めた。
「ねぇ、アムールさん。よろしければ、私達の一行に加わっていただく……なんて事はできませんか?」
「なっ!」
僕よりも早く、ディセルさんの方が反応して立ち上がる!
「落ち着いてください。あくまで提案です」
「む……」
冷静に制止されて、飛び出そうとしていたディセルさんもダラリと腕を下げた。
「アムールさんのチームメイトである、貴女抜きで話せる話題でもありませんから、こうしてこの場を借りて提案しています」
そんなヴァイエルさんの誠意を理解するからこそ、彼女も黙って僕の判断を待っている。
だけど、その僕はといえば、温泉で背中を流されながらも極寒の地にいるような居心地の悪さに身を包まれていた。
「あ、あの……急にそんな事を言われても、勇者様や他の皆さんは承諾しないのでは……」
「あ、アタシは別におっけーだよ!」
気楽そうに手を振るルキスさんから、そんな返事してくる。
さらに、ヴァイエルさんからも「むしろエルビオさんは喜びます」なんて、意外な反応が返ってきた。
「この数日の間に、貴女の実力は十分に見せていただきました。アムールさんなら、きっと心強い旅の仲間になれると思います!」
勧誘に熱が入ってきたせいか、ヴァイエルさんがどんどん僕に密着してくる。
そのせいで、柔らかくもずっしりとした、彼女の胸の感触が背中に押し付けられてきた!
は、はわわわ……。
今もヴァイエルさんは、何か勧誘の言葉を囁いているけれど、背中に当たる膨らみのせいで、さっぱり頭に入ってこない。
このピンチにディセルさんの助けを期待していたけど、なぜか彼女は俯いてしまっていた。
「ねぇ……どうですか、アムールさん?」
さらに密着してくるヴァイエルさんの圧力に、ついに僕は……。
「……うわっ!アムール、鼻血がっ!」
ルキスさんがギョッとして指摘した通り、限界を迎えた僕の鼻からタラリと血が流れた!
「す、す、すいません!ボク、お先に上がらせてもらいますっ!」
慌ててヴァイエルさんから離れ、頭から湯をかぶって泡と鼻血を洗い流す!
そうして、強引に話を打ち切ると、僕は急いで脱衣場へと向かった!
「ハァ、ハァ……あ、危なかった……」
辛うじて窮地を脱したものの、呑気に髪を乾かしたり着替えてもいられない。
僕はさっと体を拭くと、部屋で着替えるべく、タオルを巻いて服を抱え、急いで脱衣場から飛び出した。が!
「うわっ!」
「きゃあっ!」
慌てていたために、脱衣場を出た所で誰かとぶつかってしまった!
僕は、抱えていた服をぶちまけながら床に転がってしまう!
しまった、かなり勢いよくぶつかってしまったけど、相手は大丈夫だろうか?
心配して上体を起こすと、その先にいたのは……。
「ア、アムール!?」
「エルビオさん!?」
ぶちまけてしまった、僕の服をその身に受けたエルビオさんが、困惑の表情で倒れた僕を見下ろしていた。
「す、すまない、大丈夫だったかい?でも、そんなに慌てて……」
そう言いながら、こちらに手を伸ばしたエルビオさんの動きが、ピタリと止まる!
なぜなら、巻いていたタオルがハラリと落ちて、彼の前で僕が裸体を晒してしまったからだ。
って、いやあぁぁぁぁぁっ!!!!
「ご、ご、ご、ご、ごめんなさいぃぃぃっ!」
謝りながら、僕は怒濤の勢いでタオルを巻き直し、エルビオさんに引っ掛かった服を剥ぎ取るとその場からダッシュでにげだした!
うわあぁぁっ!ヤバい!ヤバいよぉ!
大丈夫かな、裸を見られたけど、僕が男だってバレなかったかなぁ!?
見えたのはほぼ上半身だけで、下の方にはまだタオルがかかってしたし、体勢的には股間のモノは見えなかったと思う。そうであってほしい……。
でも万が一、男だってバレてたら……しかも、エルビオさんに……。
「あぁぁぁぁぁっ!ボクのバカっ!ドジっ子!」
自分で自分を罵りながら、僕は部屋へと駆け込んでいった。
◆◆◆
アムールとぶつかった後、慌てて走り去った彼女を見送ったエルビオは、フラフラとした足取りで部屋に戻った。
「──ん?どうしたエルビオ?」
同室のグリウスが、様子のおかしい戻ってきたリーダーに声をかける。
そんな仲間の声に、薄い反応で返したエルビオは、どっかりと自分に宛てがわれたベッドへ腰をおろした。
そうして、しばし考え込むと、覚悟のきまった表情で顔をあげて宣言する。
「僕は、全ての戦いが終わったら、アムールを……彼女を伴侶に迎える!」
「はいぃっ!?」
どんなダメージでも受け止めた重戦士が、すっとんきょうな声を出して、おかしな事を言い出した勇者を凝視した!
「お、お前、急に何を死亡フラグみたいな事を言い出すんだ!」
「……ついさっき、風呂から出てきたアムールとぶつかってしまった」
「うん?」
「その時にね……彼女の全裸を見てしまったんだ」
その光景を思い出すかのように、エルビオは目を閉じる。
「綺麗だった……」
心の底から絞り出して呟くと、グッチと拳を握りしめながら目を見開いた!
「だから男として、責任をとらなきゃいけないだろう!」
そこまで飛躍するエルビオの思考と、予想以上にアムールへの好意が大きい事に、グリウスはただ一言。
「厄介な事になりそうだなぁ……」
そう呟いて、一人で盛り上がるエルビオの姿に、大きなため息を吐いていた。




