03 やる気が満々です!
「ア、アムルズ?い、い、い、いえぇ?聞いたことはありませんが?」
なるべく平静を装おうとしたけれど、たぶん声は震えたいたと思う。
だけど、そんな僕の動揺には気づかず(?)、エルビオさん達は小さくため息をついた。
「……その少年が、どうかしたのですか?」
早々に話を切り上げたかったのに、ディセルさんが踏み込んでいく。
ええっ!? と、思ったけれど……あれ、何か怒ってる?
たぶん、僕にしかわからないレベルで、問い返した彼女の言葉と態度には小さなトゲがあるように感じた。
「確か、あなた方のパーティから追放された者が一人いたと、聞いた事があります。もしや、その少年が?」
「……ええ。アムルズは、僕らがパーティから追放した、元メンバーです」
ディセルさんの問いに、勇者一行は神妙に肯定する。
「その、追い出したら少年の行方を追っているのはなぜです?」
肯定したエルビオさんに、ディセルさんはさらに追求を重ねた。
ううん、やっぱり何かいつもと違う感じだ。
もしかしたら、追放された僕のために腹を立てているんだろうか?
だとしたら嬉しいけど、あまり深くつっこむのは藪蛇なのでは……そう思い、なんとか話を反らすために話題はないかと考えていた時、エルビオさん達から思わぬ言葉が出てきた。
「彼が……アムルズが故郷に帰っていないらしい。それが、心配でしてね」
え?
心配?追放した、僕の……?
意外なその言葉に、僕とディセルさんはキョトンとしてしまった。
「……アムルズは、とある高名な魔法使いの孫で、齢十歳という若さで僕らのパーティに加わった、魔法使いの卵です」
「だが、ろくに魔法も使えなかったようで、それを気に病んでいたのが端目にも明らかだった」
うん……あの当時は、確かに自分でもはっきり言えるくらい、役に立てていなかったもんな……。
「しばらくは進んで雑用などをこなして、なんとか役に立とうとしていたんですが、ある狂暴なモンスターとの戦いの時、ついに精神に限界を迎えてしまったんです」
せ、精神?それって……?
「戦闘時に……その、ある奇行に走ってしまいまして……」
言葉を選んで、言い澱むヴァイエルさん!
うわあぁぁっ!
やっぱり、僕が魔法を使うために、彼女の予備の服に身を包んだ時の事を言っているんだ!
あれって、僕の心が壊れたように見られていたのかぁ……うん、そう見られてもおかしくないわ、あのシチュエーションじゃ。
「戦う手段もなく、心にもヒビが入ったとなれば、この先の旅に堪えられるはずもない。しかし、彼にも自分からリタイアできぬ周囲の事情がある。だから、追放という形で彼を故郷に帰らせる事にしたのだ」
なっ!?
そ、そんな裏があったなんて……。
「まったくさ……下手な芝居までして冷たくあしらったんだから、素直に帰ればいいのに……心配させんじゃないわよ」
ルキスさんは、口では迷惑そうに憤慨しながらも、その表情や言葉の調子からは僕の身を案じてくれているのが伝わってくる。
「あの追放劇以降、行方知れずになったアムルズだが、風の噂でこちらの地方に流れて来た可能性があると聞いていましてね。今回の件で訪れた際には、彼の動向を知ってる者がいないか、調べてみるつもりだったんですよ」
そ、そうだったのか……。
それにしても、あの時のエルビオさん達から伝わってきた拒絶するような態度の裏に、僕への思いやりがあったなんて……。
「アムール!? ど、どうしたんだ!?」
不意に、ディセルさんが驚きの声をあげる!
それで気がついたんだけど……泣いているの、僕は?
「だ、大丈夫かい!?」
エルビオさん達も驚いたようだったけど、僕も驚いた。
どうやらあの裏話は、思った以上に心の琴線に触れたらしい。
「す、すみません、突然で……勇者様達の優しさに、感激してしまって……」
涙を拭って微笑むと、エルビオさん達はそれほどでも……と、照れたように謙遜する。
でも、お陰で今回の依頼に対するモチベーションは上がってきた!
今度はエルビオさん達の役に経てるよう、頑張るぞ!
「とりあえず、ボク達は準備がありますので、今日はこの辺で!」
「え……あ、はい……」
強引に打ち合わせを終わらせ、若干気圧されたエルビオさん達に頭を下げた後、僕はディセルさんの手を引いて部屋を出る!
「ア、アムール、もういいのかい?」
「ええ!いまは今回の依頼に全力でかかれるよう、しっかりと準備をしましょう!」
「そ、そうか……。でも……よかったね、勇者達が悪意で君を追放した訳じゃなくて……」
「はい!お陰でやる気が満々です!」
「……そっか」
この時、軽い興奮状態だった僕は、どことなく精彩に欠けるディセルさんの声色に、まったく気づく事ができずにいた……。
◆◆◆
急に涙を見せた後、照れ隠しなのか出発のための準備を行うという事で、バタバタと退室したハンターの二人。
唐突な退場をした彼女達を、呆気にとられながらも見送ったエルビオ達だったが、その後ギルド支部長が予約を入れておいてくれた街一番の宿へと向かっていた。
その道中、今度の同行者についての評価を一行は話し合う。
「とりあえず、腕は良さそうだ。B級ハンターの肩書きに、不足は無さそうだったな」
「運の良さもあったとは思いますけど、魔王四天王のひとりを倒したのもまぐれでは無さそうでしたしね」
パッと見から伝わってくる、様々な要因の分析から、実力のほどは十分そうだと評価するグリウスとヴァイエル。
だが、ルキスだけは二人と違う所で、アムール達に引っ掛かる物を感じていた。
「でもさぁ、あの二人ってアタシ達に隠し事してるよね……アムルズの事とか」
その言葉に、ヴァイエルも頷く。
「アムルズさんの名前が出た時に、あからさまに動揺していましたし、少々食ってかかって来る様子がありましたからね……」
ほんのわずかな違和感から、その結論に至った彼女達は『レギーナ・レグルス』とアムルズの関係について、考えを巡らせる。
そんな中、勇者は先ほど少女と握手を交わした右手をジッと見つめていた。
「……アムール、か」
ポツリと彼女の名を呟いたエルビオに、ヴァイエルとルキスは顔を見合わせる。
「ねぇ、さっきのアムールって娘、もしかして……」
「ええ……その可能性は高いですね」
何かピン!と来たような女性二人は、勇者の様子を見ながら頷き合った。
「……何の話だ?」
ひとり、よくわかっていない表情を浮かべながら、グリウスが小首を傾げてヴァイエル達に問いかける。
そんな重戦士に、女性二人は肩をすくめた。
「もう……エルビオの様子を見て察しなさいよ!」
「たぶん、あのアムールさんという方……」
女性陣が説明しようとしたその時!
勇者の口から、絞り出すようにして声が漏れ落ちた。
「アムール……なんて可憐な少女なんだ!」
目を輝かせたエルビオは、ギュッと拳を握って熱い想いのこもったため息を吐き出した!
それを見たヴァイエルとルキスは(やっぱり……)といった感じで、自分の額を押さえる。
「あー……まぁ、あのアムールさんは、エルビオの好みのど真ん中でしたからね……」
「眼鏡で低身長、それで胸の薄いぺったん娘……勇者のくせに、難儀な性癖してるわ、ほんと」
「ああ、そういう事か」
ようやく、グリウスも合点がいったという感じで、大きく頷く。
そう、聖剣の勇者であるエルビオにとって理想の外見は、現代で言えば『合法な年齢の見た目ロリ』。
そんな彼の好みに、アムールという少女はハマりすぎていた上に、他人の身の上を聞いて涙するほど優しさに溢れている!
文句なしの、一目惚れというやつであった。
「くっ……まさか、使命の最中にこんな出会いがあるなんて……神様も、粋な計らいをしてれるものだな!」
胸のトキメキを押さえきれず、エルビオは「これが恋というものか!」などと呟く。
そんな様子に、仲間達はやれやれといった表情を浮かべた。
「なんにしても、今は目の前の目的に集中しましょうか」
疲れたように、そう締め括くるヴァイエル。
その言葉に、仲間達はもっともだと頷いていた。




