08 開幕三行かよ!
◆
「無属性魔砲!」
「グエェェェッ!」
僕の放った高濃度の魔力の塊を食らって、ルドは以前と同じように吹き飛ばされていった!
「って、自信満々に変身しながら引っ張っといて、開幕三行かよ!」
早すぎた決着に、また素の顔を覗かせながらスウォルドがツッコミの叫びを放つ!
まぁ、「血みどろの戦いを……」なんて格好つけてお膳立てしたのに、訳のわからない告白劇や見せ場なしの決着を見せられたら、そう言いたくなるのもわかるけど。
「……ふうぅぅぅぅ」
眉間を押さえながら、スウォルドは長いため息を吐き出す。
そうして、気を取り直すようにパンパンと手を叩くと、「よし、切り替えていこう!」と自分に言い聞かせて、僕達に向き直った。
「大したものだな、アムールとやら。獣人族の姫だけでなく、君のような逸材に出会えるとは、私はツイている」
貴族然とした態度を取り戻したスウォルドは、僕の事も品定めするようにジロジロと見回す。
そんな奴の視線から僕を守るように、ディセルさんが間に入って話しかけてきた。
「ルド兄様は排除できたけど、あの吸血鬼への対抗策とやらは使えそうかい?」
彼女に声をかけられただけで、自然と顔が熱くなってくる。
うう……さっきの首輪のやら取りがあった事もあって、まともにディセルさんの顔が見れない……。
でも、今は戦闘中だ!
ディセルさんも目の前の敵に集中してるみたいだし、僕も気持ちを切り替えていかないと!
「は、はい!吸血鬼の弱点をつく魔法があります!」
「弱点?」
「ええ!それはズバリ、『太陽の光』です!」
僕の答えを聞いたディセルさんが、キョトンとした顔になった。
まぁ、今は真っ昼間だし、太陽も出ているのに平然としているスウォルドを見ているんだから、そんな顔になるのも無理はない。
「……見てください。スウォルドの体を、黒いオーラが包んでいますよね」
「ああ、確かに」
「あれは、上位の吸血鬼が纏う『闇のオーラ』と呼ばれる物で、アレのお陰で奴は昼間でも外で活動できるんです」
「なるほど……」
「あの『闇のオーラ』は、自身の弱点の属性魔法を打ち消す効果も持っています。だけど、僕の『無属性魔砲』なら掻き消す事ができるはず。おそらく、奴もなんらかの対抗手段を、取ると思いますが……そこへ、切り札の魔法を使います!」
「そこまで計算しているのか……すごいな、アムールは!」
お祖母ちゃんから学んだ知識を総動員して話す僕へ、ディセルさんが尊敬の念を込めた目を向けてくる。
うふふ……彼女の期待に応えられそうで嬉しい♥
「ですが、少しばかり魔法を完成させるのに時間がかかるので、その間ボクの命をディセルさんに預けます!」
「任せてくれ。君の事は……私が守ってみせる!」
力強く頷いたディセルさんの横顔に、ときめく鼓動を押さえながら、僕は『無属性魔砲』と切り札の二つを連続して使うべく、魔法の詠唱に入った!
「フッ……なにやら小細工を目論んでいるようだが、魔王四天王にして吸血鬼の王である私に、人間の策ごときが通用すると思うなよ!」
スウォルドの「やれ!」という命令が響くと、空と地上から十数匹の使い魔達が僕達目掛けて殺到してきた!
あ……ルドの一件でうっかりしてたけど、ディセルさんに身体強化の魔法を使ってなかった!
迫る使い魔の群れを前に、僕がハッとした顔をしたけれど、ディセルさんは小さく笑って剣を構える。
「心配ないさ」
そう彼女が呟いた次の瞬間、目にも止まらぬ無数の剣閃が走った!
同時に、真っ先に飛びかかろうとした魔蝙蝠と鬼狼数匹が、一瞬で斬撃の餌食となる!
さらに、戸惑ったモンスター達へと踏み込んだディセルさんが再び剣を振るうと、残る使い魔達もあっという間に斬り伏せてしまった!
すごい……思わず見入ってしまった僕に、ディセルさんはニコリと微笑みかけてくる。
「君の魔法に頼りっぱなしというのも、よくないからね。私もこっそりと修行していたんだ」
「頼りっぱなしだなんて、そんな……ボク達は仲間なんですから、頼ってくださいよ!」
「もちろん、いざという時には頼りにさせてもらうよ。でも、地力で君を守れるくらいに、私も強くなりたかったからね」
そんな事を言いながら、さらに襲いかかってきた使い魔達を、ディセルさんは軽々と斬り捨てた!
やだ……格好いい……♥
「フハハハ!いい、とてもいいぞ!」
使い魔達を倒したディセルさんの腕を見て、スウォルドが高笑いしながら前に出てきた。
「調教してペットにでもしようかと思っていたが、気が変わった!お前達ふたりは、私自らが血を吸い尽くし、眷族として部下に据えるとしよう!」
使い魔達を下がらせ、ギラリと牙を光らせたスウォルドは、歪んだ笑みを浮かべたまま、歩を進めてくる!
くそっ!誰がそんな真似をさせるもんかっ!
「無属性魔砲!」
詠唱を終えた僕の魔法が、油断していたスウォルドを直撃する!
「むっ!」
まともにヒットはしたものの、完全獣人化したルドより遥かに高い魔法防御を持っている上に、とっさに魔力の障壁を張ったらしい吸血鬼王に与えられたダメージは、ほぼ無いに等しい!
だけど、僕が狙っていた通り、奴の『闇のオーラ』だけは吹き飛ばしていた!
「ちぃっ!」
遮断していた太陽の光を浴び、スウォルドの肉体から白煙があがる!
だけど、吸血鬼王はすぐさま次の手を打った!
「小賢しいわ、小娘がぁ!」
スウォルドの叫びと同時に、奴の体から噴き出した漆黒の魔力が、僕達を含めた周辺の空間を包み込む!
まるで、ここだけ切り取られて夜になったような世界に、スウォルドの笑い声が響いた!
「フハハハ!これぞ、選ばれし吸血鬼にのみ発動可能な、特殊結界よ!」
得意気に告げたスウォルドの瞳が、血のように赤い光を宿す!
「この空間内は、我ら吸血鬼が最も力を発揮できる、真夜中を再現している。つまり、今の私は無敵という事だぁ!」
牙を剥き、血に餓えた本性を現しながら、スウォルドが迫る!
だけど、そんな吸血鬼の突進よりも先に、僕の魔法が完成した!
「くらえっ!『太陽光創成魔法』!」
突き出した杖の先に、拳大の光の球体が浮かび上がり、まばゆい光が放たれる!
「ぐおぉぉぉっ!?」
夜の結界を切り裂くその光を受けて、スウォルドの体からは再び白煙が立ち上った!
これぞ、お祖母ちゃんから教わった対吸血鬼用の究極魔法!
膨大な魔力で疑似太陽を作り出し、吸血鬼をこんがり焼いてしまうという、用途が限定すぎて割りと使い勝手の悪い魔法だ!
だけど、それだけに効果は抜群で、太陽光に焼かれながらスウォルドは後ずさっていく!
よし、行けるぞ!
僕が、そう思った時の事だった。
「…………なんてね」
ニヤリと歪められたスウォルドの口から漏れた呟きと共に、奴の肉体からあがっていた煙がピタリと止まった!
なっ!? これはいったい……!?
「ハーッハッハッハッ!まさか太陽光を作り出す魔法があるとは驚いたが、吸血鬼の王たる私には、そんな物は通用しない!」
な、なんだってー!?
「あらゆる吸血鬼の弱点を克服したからこその、『王』なのだ!むしろ、健康のために日光浴をするレベルよ!」
め、めちゃくちゃな事を言ってる!
だけど、実際に陽光によるダメージは受けていないみたいだし、太陽光が弱点だったように見せていたのも、効いてる振りだったみたいだ。
「ククク……こうして、弱点を突けば勝てると思い、すがっていた希望が全くの無駄だと知って心が折れる……その瞬間の敗北者を見るのは、たまらなく楽しいなぁ!」
う、うわぁ……なんて悪趣味で性格の悪い奴!
その言い方から、何度も同じようにだましてきたんだろうなと、察する事ができた。
だけど、奴の言う通り弱点が無いのだとすれば、どうしたらいいんだ……。
「ククク……さぁ、どうする?どうする?君ならどうする?」
捕らえた獲物をいたぶるように、問い詰めるスウォルドの手が僕へと向かって伸びてきた。




