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追放・獣人×女装ショタ  作者: 善信
第一章 出てくる場所が違くない?
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06 君に決めたのは、間違いじゃなかった

 建物から飛び出した僕達の目に映ったのは、街の上空を覆い尽くすような暗雲!

 一瞬、何かの魔法による物かと思ったけど、よく見ればどこかおかしい。


「あれは……蝙蝠こうもりの群れか!」

 視力に優れたディセルさんが、上空を睨みながらそう言った。

 確かに目を凝らしてみると、細かい物体が群れをなしているみたいに見える。

 でも、結構上空を飛んでるみたいなのに、この距離であの大きさ……間近で見たら、どれ程の巨体の蝙蝠なんだろう。


「おそらく、魔蝙蝠(デーモン・バット)だね」

 ディセルさんがそう言うと、ハンター達の間に衝撃が走る!

 魔蝙蝠……確か 全長で三メートル以上ある蝙蝠のモンスターで、その巨体にもかかわらず機動力に優れた厄介なやつだ。

 蝙蝠系のモンスターでは最上位に入る種だけど、それがこんなに群れを成すなんて聞いた事がない。

 空を覆うようなこいつらの数は、千や二千ではすまないだろう。


「空だけじゃねぇ!街の周辺も鬼狼(オーガウルフ)に取り囲まれているんだ!」

 先程、ギルドに駆け込んできたハンターの言葉に、再び僕らの間に衝撃が走った!

 鬼狼は、文字通り角のある巨大な狼系のモンスターだ。

 こちらも、狼系では最上位に位置する恐ろしいモンスターだけど、それが街を取り囲むほどの数で押し寄せているなんて……。

 とても、自然に発生したものとは思えない。

 何か……もしくは誰か、モンスター達を率いている首領がいるはずだ!


「お、おい!上を見ろ!」

 誰かの叫び声が響き、僕も天を仰ぐ。

 すると、そこには魔蝙蝠の一部が集まり、人の顔らしき物を形成していくのが見えた!

 見えたんだけど……なんだろう、アレ?

「顔の……下半分……?」

 ザワザワとする人達の言う通り、蝙蝠達が形作ったのは鼻から下の半分。

 たぶん、大きく顔を現そうとしたんだろうけど、実働する蝙蝠が足りなくてこんな中途半端な状況になったんだろう。

 まぁ、蝙蝠のやることだもんなぁ……。

 それにしても、何者なんだろうか、あいつは!?


『ククク……恐れおののいているようだな、人間ども』

 下半分だけで話だした巨大な顔に、周囲からどよめきが起こる。

 うーん、向こうからはこっちの様子が見えていないんだろうか?

 結構、間抜けな状況に、「誰か教えてやった方が……」なんて声もひそかにあがる中、このモンスター達を操っているであろう何者かは言葉を続けた。


『我こそは、魔王四天王が一人。『吸血鬼王(ロード・ヴァンパイア)』ことスウォルド・ミケロガロである!』


 魔王四天王!? 『吸血鬼王』!?

 こんな、辺境の街に出てくるようなレベルじゃない大物を名乗った顔の半分に、再びどよめきが沸き上がった。

『ククク……お前達の動揺、目に見えてわかるぞ』

 でも、目の部分が無いのに「見える」とか言っちゃうスウォルドの少し間抜けな姿に、浮き足だっていたみんなもなんとなく冷静さを取り戻す。


『さて、本題に入ろう。この街にいる、ある人物を引き渡してもらおうか』

 ある人物?

『そいつの名はディセル。獣人族の女だ』

「なっ!」

 突然、名前を挙げられたディセルさんに、僕達の注目が集まった!

『今から一時間以内にその女が出てこなければ、天と地を覆う我が使い魔達によってこの街を滅ぼす……ククク、賢明な判断を下す事を期待しているぞ』

 そう言うと、下半分だけの顔はバラバラと分かれて、蝙蝠の群れに戻っていった。


 吸血鬼王の姿が消えた後、どこか青ざめた様子のディセルさんがギュッ!と拳を握る。

「……行かなければ」

「待ってください!」

 ポツリと漏らして歩き出そうとした彼女の手を、僕は掴んでひき止めた!


「離してくれ、アムール!私が行かなければ、この街が……」

「落ち着いてください、ディセルさん!一人で行くなんて、自殺行為ですよ!」

「でも……」

「ディセルさんが行くなら、ボクも行きます!」

「なっ!? 何を言ってるんだ!君まで巻き込む訳には……」

「ボク達はパートナーじゃないですか!貴女ひとりに、責任を負わせたりしません!」

「アムール……」

 困ったような、それでいて嬉しいような複雑そうな表情を、ディセルさんは浮かべる。


 彼女はかつて、獣人族が邪神サイドに着く事に反対して、ひとり国を追放された。

 ここでまた、吸血鬼王の要求に従って似たような屈辱を味わわせるなんて、僕が許さない!

「君の気持ちは嬉しいよ……でも、私が行かなければこの街が滅ばされてしまう!」

「ディセルさんが行っても、同じことかもしれません」

 僕の返した言葉に、ディセルさんを含むハンター達がざわついた。

「スウォルドは、ディセルさんが出てこないとこの街を攻めると言いました。でも、その後にこの街を攻めない(・・・・)とは、言っていません!」

「そ、そう言われてみれば……」

 そもそも、仮に撤退すると約束した所で、僕達人間を見下している魔族が、それを律儀に守るとは思えない。

 むしろ「騙されたな、バカめ!」とか言って、反故する可能性の方が高いと思う。


「た、確かに……」

「魔族って、そういう所あるよね……」

 何人か魔族と戦った事のありそうなベテランハンター達も、僕の言葉に頷いてくれた。

「で、でも、あのモンスターの群れに対して、対処する方法はあるんですか?」

 不安そうに、新米ハンターが訊ねてくる。

 確かにあの数は脅威だけど、僕には勝算があった。


「奴は、魔蝙蝠や鬼狼を使い魔と言っていました。つまり、頭であるスウォルドを倒せば、モンスター達は逃げ出すはずです」

「おお……」

「なるほど……」

 ハンター達の間から、声が漏れてくる。

 勝てる見込みがあるのと無いのでは、大違いだもんな。


「ただ、下手に乱戦になると、数の多い向こうが有利です。ボクとディセルさんが、要求に従った振りをして、奴を倒します!その間、皆さんには全力で街を守ってください」

「だけど、アムールちゃん達だけじゃ、それこそ数に食われるんじゃないのか?」

「いえ、四天王なんて名乗るくらいですから、かなりプライドは高いはず……たった二人に戦いを挑まれれば、そんな手段は取らないと思います」

 みんな僕の分析に納得してくれたようで、大きく頷いていた。

「奴は一時間なんて猶予を与えるくらいに、ボク達を甘くみています。その間に体勢を整えて、必ず勝ちましょう!」

 おお!と歓声があがる!

 そんな中、ディセルさんは一歩踏み出すと、ハンターのみんなに向かって頭を下げた。


「みんな、すまない。私が迷惑をかけたばかりに……」

「へっ、“上等(いい)”じゃねぇか!」

 頭を下げるディセルさんに、ハンターのひとりが笑いかけた。

「むしろ、俺達みたいな田舎ハンターに、こんなでっけぇ“舞台(戦場)”で“踊る(戦う)”チャンスが来るなんて、ハンター冥利につきるぜぇ!」

「ああ!マジ“感謝感激(ありがてぇ)”!」

 なぁみんな!と一人のハンターが呼び掛けると、それは怒号のようなうねりとなって返ってきた!

 魔王四天王なんてとんでもない奴が相手だというのに、ハンター達 の士気はとても高い。

 きっと、みんな日々の生活に燻り続けながらも、こんな『ハンター』として全力で燃えられるシチュエーションを待っていたのかもしれないな。


「みんな、ありがとう……無事に帰れたら、全員に一杯奢らせてもらうよ!」

「へっ、どうせならお前さんとアムールちゃんに、ウェイトレスの格好で酌でもしてもらいたいもんだな!」

「お!グッドアイデア!」

「じゃあ、報酬はそれで決まりだな!」

 なぜか、あれよあれよ賛成多数で話が決まり、戦いの後に僕達はコスプレまがいの事をする事になってしまった。

 うう……さすがに、盛り上がっているこの雰囲気の中では断れない。

 ええい仕方ない!

 男は度胸、ウェイトレスでもなんでもやってやるっ!

 半ばヤケクソで決意した僕は、与えられた時間内にすべき事をサッと話すと、ギルドの職員も含めた皆に急いで行動を開始してもらった。


 残されたのは、スウォルド戦に向かう僕達二人。

 よぉし、今のうちに僕達も色々準備しなきゃ!

 そう思って、ディセルさんに声をかけようとした、その時。

 彼女は僕を、ギュッと抱き締めてきた!


「ありがとう、アムール……君がいてくれて、本当に良かった」

 感無量といった感じで囁くディセルさんに、僕は胸に挟まれた顔をあげて笑いかける。

「気にしないでください。僕達は、パートナーじゃないですか」

「……うん!」

 上気した顔に、満面の笑みを浮かべて頷くディセルさん。

 年上の女性に対してちょっと生意気かもしれないけど、その姿が妙に可愛らしくて……彼女を一人で行かせなくて本当に良かったと、心から思えた。


「……やっぱり君に決めたのは、間違いじゃなかった」

 ん? 何か言ったかな?

 首の認識証を撫でながら、ディセルさんが小さく呟く。

 あまりにも小さな呟きで、よく聞こえなかったけど、いったい……?


「ディセルさん、いま何か言いましたか?」

「……あー、君のウェイトレス姿、私も楽しみだなってね」

「うっ……」

 ディセルさんにそんな事を言われてしまったら、乗り気でなかったコスプレにも気合いを入れざるを得ない。

 それに、考えてみればディセルさんのウェイトレス姿も見るチャンス!なんだよな……うん、なんだかやる気がモリモリ湧いてきたぞ!


「勝ちましょうね、ディセルさん!」

「ああ、もちろんだ!」

 奮起した彼女にまた抱き締められて、僕は再び胸の谷間に顔を埋める形になった。

 ……この柔らかな温もり、絶対に守ってみせる!

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