表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/83

第四章 4-15 ぼくが感謝すべきもの

 クーデター回顧録。

 やっぱりアルコ婆の見立ては正しかった。

 説得の結果、約束通りテュルミー中尉は中立を貫いてくれて、

 僕はマクシミリアン帝とのサシの勝負まで持ち込めたワケだから。


 でも、勝利の要因は、それだけじゃない。

 【龍災】戒厳令下で行われた、僕とテュルミー中尉の秘密会談。

 最終的に、僕と中尉の合意は成った。

 悪王は排除すれども、政治空白を許さない――その空白を埋めるピースが「僕の顔」だ。

 マクシミリアン帝が「完璧な影武者」を演じさせるために喚んだ、異世界の自分。

 それを逆手に取ってやろう、という目論見である。

 「異世界の自分」なので、容姿の違いを見破れる者はいない。

 民衆も、貴族たちも、諸外国も……見掛けだけなら近習でも気づけないだろう。

 その「そっくりさん」を武器に無血クーデターを果たしてやろう、という筋書である。


 そのために、加護の龍・カジャグーグーには一芝居、打ってもらった。

 いかにも「今から帝都を襲いに行くぞ」という素振りで、近くのテーブルマウンテンに留まってもらったのだ。

 そうすることで帝都には緊急配備が敷かれる。

 王は「絶対安全圏」の地下壕へと篭もり、僕らが好き勝手できる余地が生まれた。


 だがそれでも【異世界召喚術式】の秘密は、最後の最後まで分からず、冷や汗をかいたけど。

 「儀式の秘密」を僕らが知り得たのは、塔の高窓から一部始終を観察してくれたハミングバードさんのお陰だ。

 彼(彼女?)の証言で儀式のキーアイテム(=玉璽)が分かった。

 そしてその「鳥語」を翻訳してくれた妖精さんもね。本当にありがたいよ。

 僕らだけではどうにもならなかった。


「誠、感謝に堪えません――加護の龍、カジャグーグーよ」


 僕とルッカは、再び龍の巣を訪れていた。


 無血クーデター作戦に助力してくれた龍に、謝意を述べるために。

『構わぬ、人の子。新しき約定が果たされるのならば、些かの労苦はやぶさかではない』

「人の子を代表して、ここに誓い申し上げる。これより先は、決して龍の安眠を妨げぬと」

『結構』

 すると龍は、穏やかに羽を休め、眠るように身を鎮めた。


 ☆


 龍の寝息を横目に、そっとねぐらから退去した僕らだったが……

「あ……渡しそびれた」

 加護の龍に渡すはずだった勲章が、ポケット入ったままだった。

「要らないんじゃない?」

「一応、感謝の印は必要かな、と思ったんだけど……」

 こんなもの貰っても仕方ないか。

 勲章なんて人間だから価値を見出だせるものだし、龍も鳥さんも妖精さんも、要らんわな……


「じゃ、これはキミのものだよ」

 立派な勲章を、ルッカの胸に着けてあげた。

「ありがとうルッカ。キミがいなければ、事を成せなかった」


 今回のクーデター作戦のキモである【国璽の奪取】は、優秀なアサシンがいたからこそ、遂げられた偉業だ。薄暗闇に紛れ、巧妙な擦り替え術の達人業わざがなければ。

 切り札(=玉璽)の入手はルッカの手柄だよ。

 てかそもそも……吊り橋から転落した時に死んでたよな僕は、ルッカがいなければ。


「ううん」

 首を振った彼女は、

「感謝するのは私の方だよ」

 自分の胸から勲章を外して、僕の胸に着けた。

「だって、おばあちゃんを助けてくれたのは男爵だもの」

 一筋、涙がキラリ☆

 そうだった。

 こんなバカみたいに規模が大きくなってしまったクーデター劇も、結局はアルコ婆の救出が最大目標だったワケで。

 それさえ叶えば大体はオッケーな話なのだ。

(よかった……)

 僕は彼女の涙に胸を撫で下ろした。

 あんなストーキング無理矢理婚活押し付け婆さんでも、ルッカにとって血を分けた肉親であり、賢者という弱者救済機関の導師として敬愛する存在だ。

 あのクソババアが助かっただけでも、骨を折った甲斐があったというものだ。

「おばあちゃんは男爵が諦めなかったから助かったのよ。この勲章は、あなたのもの。咲也」



 でもルッカ……諦めなかったからじゃない。

 諦めたくなかっただけだ。

 僕と同じような悲しい別れ方をする子が、いちゃいけないと思ったからだ。

 大切な人との別れは厳粛で、そして優しいものでなくてはいけない。

 理不尽に引き離されて、死に目にも会えないなんて寂しすぎる。

 獄中死など以ての外。

 ルッカ……アルコ婆の最期はキミが看取らなくてはいけない。

 だから僕が――――必ず助け出す。そう誓ったんだ。

 それが愛する家族との正しい別れ方なんだよ。



「……あのね、男爵?」

 僕の胸に勲章を着けつつ、うつむきながら彼女は呟いた。

「私、迷惑かけすぎよね……男爵に」

「そうかな?」

「龍退治をそそのかしてドラゴンゲートの通行証を取らせたし、

 王族や貴族の腐敗を知った時は、龍と一緒に逃げようとしたし、

 挙句の果ては、一人で王様を殺そうと先走っちゃったし」

「うん……」

 でもそれは、決して悪意の発露ではなくて……ルッカはルッカなりの義憤で行ったことだし。

「【あの男】と手を組むのも大反対しちゃったし……」

「でも、最後は手伝ってくれた。たぶん、もし僕が一人で屯所に忍び込んでたら、三秒も保たずに斬られてたよ」

「男爵……」

「何度だって言うよ――僕はキミがいたから全てを成し遂げられたんだ。本当に感謝してる。こんな勲章程度じゃ気が済まないくらい」

「ほんとに……?」

「だからルッカ、何か欲しいものはない?」

「えっ?」

「僕は単なる代行者、臨時の王様だけど……一応王様だからさ、一回くらいは権力の私的行使してもいいよね? それをキミのために使いたいんだ」

「でも……」

「最大の功労者に何もなし、じゃ王様のメンツが立たないだろ? 僕を立てると思ってさ」

「じゃあ、賢者協会を国教化し……」

「できません!!!!」

 そんな国の形が変わるようなヤツは無理だっちゅーの!

「もっと、穏便で僕に出来るようなヤツを頼むよ……」

「それなら……ずっと、ここに居て」

 そう言ってルッカは僕を静かに抱き締めた。

「男爵、言ったよね? 「ようやく、くたばったか!」って笑いながら、おばあちゃんを見送ってあげるんだ、って」

「ああ……まぁ確かに……」

「長生き……すると思うよ?」

 ぎゅ。

「おばあちゃん長生きするから、それまで……ずっといてくれるんだよね?」

 まるで「離さない」とでも言わんばかりの強さで。

 知ってるくせに――僕が、元の世界へ帰りたくて仕方がない召喚者だって。

 それでもなお、繋ぎ留めたいという気持ちが伝わってくる抱擁だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ