第四章 4-13 これが僕の、追放系なろうだ! - The ISEKAI template in my own way
遂に発動する王の秘術【異世界召喚術式】!
丸腰の咲也に抗う術はあるのか?
「己が立場を弁えぬ不逞の輩よ! 時空の藻屑と消えるべし!」
玉璽を僕の額に押し付け、勝ち誇る王が言い放つ。
秘孔は既に突いた。貴様は既に死んでいる――――とでも言わんばかりの表情で。
王よ、あなたは何斗何拳の使い手ですか?
………………………………しかし、
「――――ぬ?」
おかしい。
何も起きないではないか?
スタンプされた邪魔者は跡形もなく消え去る――気配もない。
【異世界召喚術式】の前提要件たる魔法陣なら、正常に展開されている。
この広いバルコニーを覆わんばかりの、眩い光の結界が浮き出ている。
ならば、詠唱を唱え、この国璽を対象に浴びせつければ、術式は完成するはずである。
精神を患い、使い物にならなくなった影武者や、
勝手に国政を壟断しようとする傍若無人の影武者も、
別時空へと転移させてしまえるはずだ。
昨夜の儀式でも、召喚者(桑谷)の処分は成功裏に済んだではないか――転送儀式に不手際など起こりえない、これまで全て、恙なく施行されたのだ――術式が発動すれば、その強大な魔力に抗える者など存在しない――
なのに!
この出来損ない影武者は! 未だ、姿かたちを保ったまま! おるではないか! 余の前に!
数万の民の目が注がれる中で、存在し続けておる!
お か し い で は な い か !
「――――おかしくなどございません、陛下」
インファイトで打ち合うボクサーの距離で、僕は囁いた。
「なに?」
「パソコンとて料理とて、失敗するのは手順が間違ってるからです――魔法もまた然り」
僕の説明に、狐につままれた顔の王様。
「まだ、ご理解いただけませんか? 賢帝陛下」
ワトソンを諭すホームズの笑みで、僕はクイクイと「印章」を指した。王が手にする国璽を。
「…………」
すると王様、みるみるうちに血の気が引いていく。
青ざめていく「自分」を間近で見るのも、相当~に珍奇な体験だな、こりゃあ。
「これは……!」
どうやらお気づきあそばされたようだ。
僕の額を打ち付けた国璽の底――その感覚が違ってることに。
魔術刻印の刻まれた凸凹の面が、印章から失われていることに。
まるで、のっぺらぼうのようなツルツルの底面に。
思い出していただきたい、聡明なる王よ。
宰相が肌見放さず抱えてた袱紗、それを【離してしまった】瞬間がございましたね?
「――壕の階段か!」
都合の悪いことを喋りまくる影武者=僕の口を、一刻も早く塞ごうとした結果、
王様は側近も国璽も置き去りにしてしまった。防空壕から地上へ繋がる、暗く長い階段の途中で。
そう、【暗く長い階段】だ。
脚元も覚束ないほどの階段ならば、「僕のアサシン」にとって無敵のフィールドさ。
どんな暗躍工作だってやってのける。
そう、ルッカ・オーマイハニーならね!
僕の隣、得意満面の彼女の手には神楽鈴。
龍の前で行った神事の舞い、あの時に持っていた賢者の神具だ。
「男爵」
ルッカから神具を手渡された僕は……
「悪しからず、本物の陛下」
ゴリアテに投石するダビデの如く、豪快にバックスイング!
「これで退場です!」
神楽鈴のグリップエンドを! 王の額へ目掛け! 振り下ろした!
「魔術刻印だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「この世界」で王が見た、最後の光景。
それは、神楽鈴の底面に貼り付けられた、国璽の魔術刻印だった!
――――スパーン!!!!
「カウンターのコツは、タイミングと勇気だぜ」、
小説家は人を殴る商売じゃないけど、余計なインプットだけは人一倍ある。
世界一の必殺カウンター使いの助言通り、僕は右腕を振り抜いた。
敏腕アサシンがすり替えた魔術刻印を、本物の王様の額へ押し付けたのだ!
「国璽の主たる王が許す――――――――――――転移せよ!」




