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第四章 4-12 廃棄影武者 - scrapped decoy

 【龍災迫る!】その厳戒態勢下、

 敢えて影武者の任を買って出た咲也は、ここぞとばかりに勝手な告知を発信する。

 「本物」の許可も得ず、そんな勝手な放言を撒き散らしてしまったら……逆鱗に触れてしまう。

 「本物」の意に沿わない影武者は廃棄される。

 精神を病み、使い物にならなくなった桑谷同様、

 次元の彼方へポイ捨てだ。


 どうする咲也?

 このまま廃棄を甘んじるのか?


 その頃――

 王城の丘、最深部。

 帝都で最も頑丈な防空壕は、城の裏手、秘密の坑から――ギザの大ピラミッド並の階段を下った先にあった。

 丘を深く掘り抜いた地下の間が、龍の灼熱ブレスを防ぐ鉄壁の防御壕だった。


「小説家風情が! ――勝手なことを!」

 普段なら、表向きの公務は影武者に任せ、プライベートを満喫する本物マクシミリアン王、

 だが、任せっきりと言っても、同じ城の中である。

 仮に影武者(ニセモノ)が暴走したとしても、対処は容易だ。

 城中に王の手駒は存在し、「乱心」した影武者を即座に拘束できる。

 普段ならば(・・・・・)


 ところが現在――【龍災】に備えた厳戒態勢下では、話が異なる。

 護衛兵も宮廷の官吏も城を退去し、それぞれの陣や壕に籠もっている。

 そんな状況では、王自らが出るほかない。


 深夜の影武者選定会議を終えて、再び王族専用の地下壕へ戻っていたマクシミリアン帝、

 間髪入れず、再び苦行を強いられることになった。

「ハァハァ……ハァハァ……ハァハァ……ハァ……」

 角度は四十五度、段数にして数百段。

 一緒に避難していた、老齢の大臣たち、元老院議長らは早々に脱落していったが、

「うわぁぁっ!」

 遂には、若き宰相まで足がもつれ、階段に倒れ込んだ。

「何をしている、若者が!」

「陛下! 私どもなど構わず、先をお急ぎ下さい! アッー!」

 スネを押さえて、悶絶の宰相。

「使えぬ奴よ!」

 だが王は立ち止まってなどいれらない。影武者の暴走を一刻も早く止めねばならない。

「今は、あの出来損ないを消さねばならぬ!」

 無様な宰相を待たず、王は一人で先を急いだ。


 ☆ ☆


 長い長い登り階段を踏破し、地上へ顔を出すなり、王は叫んだ。

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……テュルミー! テュルミー・バンジューインは何処か!」

「は、バンジューインは此処に」

 テュルミー中尉、待ち構えていたかの如く、王の御前に馳せ参じる。

彼奴きゃつを捕らえよ、バンジューイン! 即刻!」

「畏まりました」

 喫緊の勅命を受け、踵を返す中尉――しかし、そこで何かを思い出したかのように立ち止まり、

「ですが陛下、それでは済みますまい」

「……なに?」

「この国に王はただ一人、マクシミリアン・フォン・カストロプ・スターリング様、お一人にございます。その今上陛下がのたまわれた言葉を、容易く「なかったこと」には出来ませぬ」

 理路整然としたカリスマ指揮官の弁に、昂ぶる王も理性を戻す。

「バンジューイン。そちの申すべきも尤もである。しこうして、如何するか?」

「真なる王は何方どなたか、民へお示しあそばされるべきでしょう。陛下の御威光を以って」

「ふむ」


「申し訳ございません、陛下!」

 遅れ馳せながら、ようやく宰相も追いついてきた。

「よし……では、天下に周知させてやろうではないか。誰がこの国の王なのか、をな!」



 ☆ ☆



 群衆の熱気は冷めやらず、未だ歓喜の木霊する王城前広場。

「「「「オー! マクシミリアン! 解放王マクシミリアン! 偉大なり我が王!」」」」

 それを受けるバルコニーは、王のステージである。

 各種祝賀行事のスピーチは元より、【龍災】に於いては、凄惨なるノブレス・オブリージュを果たす舞台でもある。

 そこからの景色は――選ばれし者しか拝めない、真の絶景である。

 僕は果報者だよ。

 こんな極上のインプットを体験できる小説家など、世界に何人もいないよ。

 本物の「王座」を肌で、目で、息遣いで感じることができるなんて。


 ――とクリエーターの幸福感に酔っていたら、


「オイッ!」

 舞台上手より、僕をなじる声が。

「不埒なりニセモノ王! そこへ直れ! このマクシミリアンが成敗いたーす!」

 途中で合流した思想警察も加え、従者数十名を従えた「本物」が、衆人環視のバルコニーへ登壇してきた。

 (ぼく) vs 数十 ――いやはや、こんなの詰んでいる。

 【スペランカーで無双ゲームをやれ】のシチュエーションじゃないか。

 さっさと降参するに限るね、こんな破滅的なバランスじゃ。


 ☆


「王様が二人?」

「ど、どうなってんだ……?」

 解放の熱狂に酔っていた広場の民衆も、言葉を失ってる。

 嘘か真か? 冗談か余興か?

 何のフリもなく、こんな光景を見せられたら、戸惑うに決まっている。


 ☆


 広場に集った数万の民衆が固唾を呑んで見守る中、

「さぁ、バンジューイン! 曲者を引っ捕らえよ!」

 一刻も早く事態を収拾したい「本物」、中尉に僕の捕縛を命じた…………のだが、

「…………どうした? はようせい!」

 「本物」の周囲を固める隊士たちは、誰一人、動かなかった。

「何をしている、バンジューイン? はよう指揮を執らんか! バンジューイン? ……む?」

 そこで、やっと「本物」は気づいたようだ。

 そう。この場に「いるべき男」がいない。

 思想警察を仕切る「あの男」の姿が見当たらないのだ!

 これでは隊士は動かない。

 なにせ思想警察は、中尉の私兵集団に限りなく近い。一人のカリスマの個人的な魅力の元に集った集団だからだ。

 中尉のためなら命を投げ出す隊士でも、王は彼らの主君ではない(・・・・・・)


「どこだ? どこへ行った? この肝心の時に! バンジューインー!」

 動揺して「舞台」を右往左往する「本物」に対し、


「おっと、これは……」

 「本物」一行とは反対の、舞台下手に現れた――メタルの仮面に情報部の軍服、精悍な目つきと引き締まった体躯の男。

 元大陸軍第七師団少佐、現情報部預かり、非合理思想摘発局(通称・思想警察)局長、

 テュルミー・バンジューイン中尉の登場である!


「失敬失敬、仮面を控えに忘れまして……取りに戻っておりました」

 飄々と語るカリスマ軍人に対し、

「バンジューイン!」

 本物は叱責を向けるが……

「おや! なんと陛下がお二人!」

 などと猿芝居を始めてしまう始末。

「なんと、これは困った……どちらが本物の陛下か? 私どもの仕えるべきは!」


「何をしらばっくれておるか、バンジューイン! 余に決まっておろうが!」

 まぁ、三文芝居なら僕だって負けてはいないよ。

「いいえ局長、我こそが真の王、マクシミリアン・フォン・カストロプ・スターリング!」

 もし演技が上手かったら、小説家より声優になってたさ。


「これは困りましたな……どちらが本物か、分からない」

 これみよがしに頭を抱え、僕と「本物」交互を見比べる中尉、

「バンジューイン! お前もか!」

 だけど、王の言葉は隊士たちには届かない。

 思想警察の隊士たち、我先にとカリスマの元へ集う。護衛していた「本物」の側を離れて。

 中尉こそが絶対なのだ、彼らにとっては。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おおーっ、そうくるか! なるほど… そっくりな影武者だからこそ成し得る展開!
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