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第四章 4-2.5 異世界ライターの取材日記 1:帝都地下水源 - DRAGON scrap and build 2

 「災厄の龍は、邪悪な存在ではない」 ――――決死の思いで龍の巣へ赴き、ようやく僕らが掴んだ真実を……王は既に知っていた????

 それを承知の上で、僕らを「龍退治」へと送り出した!?

 ど、どういうことなんですか、王様!


 王の言葉に動揺していたのは、僕らだけではなかった。

「案ずることはない、宰相。あの龍(・・・)は、初代建国王と契りを結んだ加護の龍よ。安眠を妨げる盗掘者には懲罰を与えんとはすれど……人を見捨てることなど有り得ぬ(・・・・)

 就任して間もない青年宰相も「初耳だ!」と言わんばかりの表情を隠せないでいた。


「心得ておくがよい、新しき若き宰相よ――――確かに龍は怒っている。その怒りが故に、龍脈の維持を放棄し、それを人への「戒め」とする」

 耳を疑う臣下を弄ぶように、更に王は、とっておきの「国家機密」を暴露した。

「だが、その怒りも【龍災】というガス抜きが済めば、収まる。必ず鎮まる。それが龍の習性よ。龍とは、そういう生き物なのじゃ。何百年と変わらぬ」


「そんな……」

 青い顔の宰相。

 そりゃそうだろう、帝都に産まれた者ならば、身分の貴賎を問わず、【龍とは恐ろしいもの、人の手に余る災害と同じ】と刷り込まれてきたのだから。【何の前触れもなく都を襲い、人を喰らって去っていく悪魔】と忌み嫌われてきたのだから。

 それが今更、「あれは初代王と契約を交わした加護の龍だ」とか言われても、どんなリアクションを返していいのか、分からないよ。

 しかも相手は専制君主――彼が黒と言ったら白いものも黒くなる。そういう絶対上司だ。

 若き宰相、心中お察しする。


「【龍災】という通過儀礼が済めば、再び、この水瓶は満々と水をたたう」

 これまで幾度も幾度も繰り返されてきた営みだ。

 確信に満ちた王の態度が、そう物語っていた。


「それではマクシミリアン陛下」

 エリア51の宇宙人標本を前にした大統領状態の若宰相を押し退け、

「こたびの【都市計画】案に、ご裁可を戴きとう存じます」

 海千山千の老官僚が、都市図を広げながら王へ伺いを立てたが、

「東側の貧民区か――良きに計らえ、工部卿」

 仔細を吟味もせず、王はGOサインを与えた。

「では早速、都市外壁の解体業者を手配致します」

「派手にやらせよ工部卿、派手に。被災域が狭いと貴族どもが煩い。とにかく、狭いは論外。もっと派手にね!」

「陛下の仰せのままに」

「いずれにせよ龍の到来は近い。段取りを急がせよ、工部卿」

「本日より、昼夜突貫で当たらせまする」



「何の話だ????」

 どうも会話が腑に落ちない。どうして被災が少ないと貴族から王へ文句が行くんだ?

『それはだね~、王国の法では【龍災】被災地には特例が適用されるのよ~』

 ヘイsiriとコールしなくとも、僕のクエスチョンに答えてくれる妖精さん、マジ高性能。

「特例?」

「龍に踏み潰されたり、火を吹かれた土地は、もうメチャクチャになるでしょ?」

『龍災特措法第二十四条第九項により【龍災】被災地は所有権が喪失し、国家の接収となる~』

「へぇぇ……」

『接収された被災地は国家予算で復興され、そののち臣民へと払い下げられるのよ~』

「合理的と言えば合理的……なのか?」

 個人で更地から再建するのは、過大な経済的負担を強いられるだろうし。

「建前上、はね」

 渋い顔を浮かべるルッカ。何が彼女を、そんなに悪い顔にさせるのか?

払い下げ(・・・・)よ男爵! 金を持ってる奴が根こそぎ掻っ攫っていくのよ!」

 あー、なるほど。元の所有者に返されるんじゃないのか……

「毎度毎度、一等地は貴族や大富豪が独占するの! かつての住民は、狭苦しい裏長屋よ!

『そもそも、ドラゴグラードは城郭都市で~、限られた土地に所有権が細かく設定されていて、ものすごく再開発がしづらいのよ~、まとまった土地を得ようと思ったら気の遠くなるような歳月と書類の山が待っているのよ~、好立地であればあるほど誰も手放そうとしないしね~、いっしょけんめいの街なのよここは、いっしょけんめい~』

「え? 待って待って妖精さん、ルッカ。つまりそれって……」



「それと工部卿」

 そそくさと実務へ戻ろうとする老官僚に、王が尋ねた。

「あー、余のハーレムは、どうなっておるか?」

「ご安堵召されよ陛下、最良の立地に新しい後宮を築造させましょう」

 小脇に抱えた書類から精緻な青写真図を抜き出し、老貴族は王に奏上した。

「中央に室内庭園を配した吹き抜け四層構造にございます。移植した巨大樹が天上楽園を模する、壮大な離宮となりましょうぞ! かつてない規模と! 壮麗さで!」

「ほほう……して、どの程度の女どもを迎えられるのか?」

「女中を含め、総勢五百人ほどを」

 上機嫌の王は、更に満面の笑みを浮かべ、

「完成が待ちきれぬな工部卿!」

 老貴族を激賞した。

「我ら、準備万端にございます、陛下」

「あとは龍が城下を焼くだけか! アァッー! もどかしき龍よ! 今すぐ我が帝都を襲え! 街を焼け! 男を殺すのじゃ! 残された美しき女どもよ、男旱おとこひでりの不均衡は、このマクシミリアンに任せよ。新しき宮殿が、そなたたちの住まいとなろう!」



「なっ!」

 なんて言い草だ! 傲慢にも程がある!

 今すぐそいつを! これからそいつを! 殴りに行ってやる!

「抑えて男爵! あんた死ぬわよ!」「だ~め~な~の~!」

 衝動的に飛び出しかけた僕を、ルッカと妖精さんが身体を張って止める。

 ああ、自分でも分かっているさ。

 今、出張ったところで、悪王に一矢を報いることすら出来ないと。

 小説家の戦闘力はほとんどゼロだ。それが現実だ。


 だけど!

 だけどこんなの許せるか!

 これがこの国の王が行ってきた【|都市計画《DRAGON scrap and build》】の正体だとか!

 許せるワケがない!


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