第三章 3 - 16 遠すぎた橋 - A Bridge Too Far
災厄の龍、改め、守護の龍・カジャグーグーは僕らに約束してくれた。
龍の森を荒らす不届き者を根絶してくれれば、帝都へ「お灸」を据えに行くことはない、と。
龍と人間との契約を再び確認した僕らは、意気揚々と帰途に着いた。
これで帝都の民は【龍災】に怯えずに済み、
理不尽な賢者弾圧も解かれるだろう。
万々歳だ!
ほら吹き男爵の龍征伐軍、大逆転ホームランじゃないか!
と、浮かれる僕らの前に――――思いがけない人影が現れた!
「あれは……」
数十メートル先、揺れる吊り橋の袂には――軍服姿の男が。
見覚えがある。
目元を隠すメタリックなマスク。戦傷は勇猛の証、とでも言わんばかりの無骨なマスクを、忘れたくても忘れられるものか。
彼は上司。
今の僕は龍征伐軍を率いる大将ではあるが、思想警察を除隊した覚えもない。
形式上、まだ彼は僕の上司であるはずだ。
非合理思想摘発局=通称【思想警察】局長、テュルミー・ヴァンジューイン中尉。
天性の扇動者にして、類まれなるカリスマで思想警察を率い、日夜、帝都の思想犯を取り締まる快刀乱麻の人。
テュルミー中尉、その人がいた。
どうして?
なんでここに中尉が!?
まさか、僕の比類なき大手柄を祝福にやってきたの?
邪教徒幹部捕縛事件の時みたい、僕を英雄として祀り上げて、自分の発言力を増してやろう、という腹積もりか?
いや!
それにしたって、地獄耳が過ぎる!
【龍との新しい契約】は僕とルッカしか知らないはずだ。まだ誰の耳にも伝わっていない。
それなのに、僕らの帰途を待ち構えているのは――――おかしい!
「ルッカ!」
僕は咄嗟に彼女の手を取った。
(悪い予感がする!)
何か良からぬ運命が、僕らを待ち構えている気がする!
このまま進んではダメだ!
――と、身構えても、遅かった。
時既に遅し。
「ポイズンくん!」
深い渓谷に朗々と響く声で、
「悪いが――君には死んでもらう」
中尉は僕に告げた。
「なぜですか! 中尉殿!」
「君らは、知りすぎたのだよ」
とだけ答えると、
「やれ」
テュルミー中尉の号令で、思想警察の隊士たちが刀を振り下ろした。
吊り橋の根本に向けて、叩きつけられる軍刀――――そして敢えなく、橋のメインケーブルは破断した。




