インターミッション : しくじり先生「俺みたいになるな!」(講師 : 堀江咲也さん(転生者(現地名 ポイゾナススネイク男爵)・思想警察所属・勅命龍征伐軍最高指揮官))
ここで整理しよう。
まず事の発端は、僕、堀江咲也が「英雄」に祀り上げられたことに始まる。
【思想警察】の強引なお膳立てで、僕は一夜にして帝都の有名人に仕立て上げられてしまった。
「邪教徒・摩利支丹の大幹部を捕縛した」ヒーロー、ポイズン男爵として、大々的に宣伝されてしまったのだ。
でも、僕はそんなことを望んでもいないし(むしろ早く元の世界へ帰りたい!)、そもそも「邪教徒・摩利支丹の大幹部」って、アルコ婆でしょ?
アルコ婆は、ただの敏腕見合いババアだよ?
確かに「霊界通信」みたいなアコギなシノギも手掛けていたかもしれないけど、それは、あくまで活動資金(お布施)を得るための儀式だ。客も合意の上での。
摩利支丹=賢者は、あくまで【龍災】で家族を失った寡婦たちの救済を大義とする組織だ。
間違っても「反社会的勢力!」とか後ろ指さされるような団体じゃない。
そりゃ確かに、ストーキングまがいの強引婚活は勘弁だけど……それも「善意の迷惑行為」。
スケープゴートとして獄に繋がれるほどの極悪人じゃない!
理不尽だよ!
だから僕は、アルコ婆を助けたい!
事情を知らなかったとはいえ、婆の捕縛に手を貸してしまった負い目もあるし……
で、龍征伐軍。
「帝都のヒーロー」となった僕は、とんでもない計画で人々を驚かせた。
都を悩ます龍の災害、その災厄の龍を「僕が退治してみせる!」とブチ上げたのだ。
いや、これも僕の自発的提案ではなく、ルッカ嬢(=アルコ婆の孫)に唆されてやったことなんだけどね。
僕は最初、単なる罰ゲームと思い込んでいた。
都中の名士が集まった社交パーティ、そこで出来もしないことをペラペラ喋らせることで、プライドの高い貴族の鼻っ柱を圧し折る、厚顔無恥の刑かと。
でも、その「ホラ吹き男爵の大言壮語」が瓢箪から出た駒、嘘から出た真、棚から牡丹餅……僕の想像を越えて、独り歩きし始めた。
民衆からは樽募金が届き、募集してないのに志願兵が集まり大混乱!
果ては、王様からのお墨付きを得て、正式に龍退治軍が結成される始末。
それほどまでに【龍災の撲滅】は、帝都民の悲願だった。
現代人の僕には理解できない、実生活直結の懸案だったのだ。
斯くしてルッカ嬢の目論見通り、僕らは「龍退治」へと向かうことになった。
いや、当のルッカ嬢は、龍を退治するつもりなんて全くなかったんだけどね……
ルッカ嬢の目的は【賢者の復権】だ。
王様(=啓蒙君主、迷信否定派)によって禁教とされてしまった賢者信仰、その復興が第一。
賢者の禁教が解かれれば、当然、アルコ婆も解放される。
なのでルッカ嬢は、賢者の聖典である賢者の議定書の証明を果たすつもりで龍退治を僕に唆したのだ。
(※賢者の聖典に拠れば、龍は災厄の龍などではなく、民を守る加護の龍らしい……マジで?)
しかし、そこで……問題児が颯爽登場。
その名は、パラマウント曹長。
軍に志願する前は、血の気の多いヤンキーとして、界隈でブイブイ言わせてた輩である。
龍を前にするなり「ワイが災厄の龍を倒して、名を揚げるたるわ!」と猪突猛進、
彼の抜け駆けで、賢者の儀式も台無しである!
結局、ルッカの賢者復権計画も、パラマウント曹長の特攻策も頓挫。
龍の反撃をモロに浴びた龍征伐軍、哀れ瓦解の憂き目に。
その大失敗を受け、
「龍が倒せないなら、都へ帰ろう!」と主張するパラマウント曹長派と、
「改めて、賢者の儀式で龍とのコンタクトを図ろう」というルッカ派に別れ、
龍の巣と外界とを仕切る【ドラゴンゲート】の通行証(=勘合符+朱印状)、それを巡っての、血で血を洗う争奪戦が始まってしまったのだった…………




