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第三章 3 - 11.75 嘘つき将軍と壊れた曹長

 「龍とのコンタクト失敗」という大イベント後の幕間だもの、

 肩の力がスカッと抜けた、お手軽エピソードが来るはずでしょ?


 そんな“エンタメ小説のルーティーン”に毒されていた咲也(新進気鋭の小説家(※自称))、

 見事に足をすくわれるの巻。


 金八先生ばりに「君たちィ~! 女風呂の覗きはいけましぇ~ん!」と、綱紀粛正の訓示を垂れてやろう、としたのも束の間、

 武器を持った部下たちに囲まれてしまっちゃってるし!?!?

 なんで!?


「え…………これ、どういうこと?」

 好戦的な未開部族のテリトリーを、ついウッカリ侵してしまった探検家みたいなことになってるんですけど、僕????

 問答無用で鋭利な槍先を向けられてるんですけど?

 ぼ、僕はただ、「いくら暇だからって、女湯を覗くなんてケシカラン!」と、穏便に部下をたしなめようとしただけなんだけど?

 なぜ?

 なぜ僕が銃を向けられた犬養毅状態に!?

 ウハウハ女風呂覗き(ピーピングトム)から一気に五・一五事件!

 頭が、ついてけないよ!


「――――これはこれは将軍閣下、話が早い」

「パラマウント曹長!」

 生きてたのか、お前!


 龍に向かって特攻(ぶっこみ)ダイブを仕掛けた元ヤン曹長、あんな高さから飛び降りて、よく死ななかったもんだ……未来少年の方のコナンくんもビックリだよ。

 運良く龍の寝藁にでも墜落()ちたんだろうか?

 それでも、立花道雪もくやの輿こしに担がれている辺り、無事では済まなかったようだが。


「本来は、閣下の女を預かって穏便な交渉を……の、つもりだったんですがね。こうなれば直接、頂くほかありませんな、閣下!」

 頂く? 何をだ曹長?

『朱印状と勘合符よ~』

 そこで妖精さん、すかさず補足してくれる。

「どうしてそんなものを?」

 あのギガンテスは対龍決戦兵器に転用できない=龍脈を離れると地蔵化する、それは曹長たちも認識しているはずじゃないか!

 無理なんだよ、朱印状と勘合符があったとしても。

『ちがう。勘合符と朱印状(それ)がないとかえれないのよ~』

「あ…………」


 そういうことか!

 彼らにとって朱印状と勘合符は、僕にとっての異世界召喚術式だ。

 [ 王様(=異世界召喚術式の独占者)] - [ 僕 ]

 [ 僕(=朱印状と勘合符=ドラゴンゲートの通行権の独占者) ] - [ 龍征伐軍の兵士たち ]

 同じ図式だ。

 独占者の意向に沿わない限り、帰ることは叶わない。そういう絶対的な構図がある。


「そういうことです、閣下。お譲りいただけますね?」

 ギラリ――突きつけられたきっさきが鋭利に光る。

 龍の鱗は貫けなくとも、人の皮膚なら一発だ。

 前後左右、十本前後、全て囲まれ退路なし。


 でも。だからといって、

「……渡せない」


 だって、まだ僕らは何も遂げてない。

 龍との和合儀式を果たすことで、賢者の正しさを証明する――そのために、龍の巣(ここ)まで来たんだ。僕とルッカは。

 賢者の正しさを証明できなければ、【思想犯】の檻は閉じられたままだ。

 まだ白旗を揚げるワケにはいかないんだ! 僕は!


「そもそも、あんたが嘘をついたのがいけないんだ。帝都民の前で『自分ならば龍を倒せる』とか散々吹いたせいだ。自業自得ですよ、ポイズン将軍閣下!」

 嘘のプレゼンは、結局、手痛い竹箆しっぺ返しを食らう。

 全国の就活生に伝えたいよ、僕の実体験を。

 たとえ大目標を果たすための方便だとしても、嘘つきの末路は、こうなる(※自嘲。


「だいたいねぇ! 邪教の儀式で龍を手懐けようとか、頭どうかしてるよアンタら! 閣下も! あの女も!」

「「恥を知れ!」」

「マクシミリアン様は【迷信は悪】と仰った! この国を統べる王が! 貴族や教会が独占していた知識を庶民に解放し、新たな稼ぎ口を与えてくれた帝王が!」

「「インパク知! インパク知! インパク知! マクシミリアン陛下、万歳!」」

「その王が禁じた邪教など、俺らが従ういわれはない!」

「「そうだ! そうだ!」」

「拠って、この遠征に大義なし! 速やかに帰らせてもらう!」

「「帰るぞぉー! 俺たちは都へ帰るんだ!」」

 兵たちは全面的に曹長を支持し、僕は文字通りの四面楚歌。


 さすがパラマウント曹長、筋金入りの元ヤンキーだ。

 兵隊の心を掴み、士気を上げる――やり方は違えど、テュルミー中尉に勝るとも劣らないアジテーション能力じゃないか。

 昔とった杵柄は伊達じゃない。ヤンキー恐るべし!

 悲しいかな、小説家には絶対に太刀打ちできないコミュ能力だよ…………


「さ……渡して貰いましょうか、閣下。あのゲートの通行手形(朱印所と勘合符)を」

「……断る」

 それでもツッパる。ツッパることが男のたった一つの勲章だ!


「そんなら……死体を漁らせてもらうほか、ありませんなぁ!!!!」


 まさか!

 まさか僕の死因が弁慶死になるなんて!

 前後左右から槍に貫かれ、弁慶並みの立ち往生とか。

 劇的な最期として、宮廷劇場の戯曲家に舞台化されちゃうんじゃないの?

 クソッ!

 僕なら、もっと面白い結末を書けるのに!

 なんでこんなところでバッドエンドなんだよ! 中途半端すぎるだろ!


 などと、運命という名の編集者に文句を垂れても、是非もなし。

「お前ら! ホラ吹き男爵のー! タマ獲ったれやー!」

「「ウッシャー!!!!」」

 嗜虐の笑みを浮かべつつパラマウント曹長の執行命令が!


 直後、白い陣幕にスパッタリングされる赤の飛沫!

 ギャーッ!!!!


 ところが……

 悲鳴の主は、僕ではなかった。


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