第一章 1-4.5 あなた最低です - You suck
華々しい活躍を見せる『ブラザー・プリンシィズ(※花の召喚同期生)』を横目に、
僕だって、ただ手を拱いていたワケじゃない。
僕はラノベ作家だ。
編集への持ち込み活動だって吝かではない。
卵だろうが、作家の嗜みは持ち合わせているさ。
☆
というワケでやってきた、ザイツィンガー王立歌劇場。
この龍都ドラゴグラードが誇る、常打ちのオペラハウスらしい。
舞台から見上げれば五層の天井桟敷……さすが王立、客席まで綺羅びやかな異次元空間だ。
「貴君がポイゾナススネイク男爵殿ですかな?」
恰幅のいい、しかし一癖ありそうな紳士が、僕に問う。
アヴァンギャルドな色使いが、いかにもアート関係者を思わすゴージャスな服装だ。
「この度は、貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます。ルトロヴァイユ芸術卿」
「いや、男爵殿直々の願いとあらば、このルトロヴァイユ、喜んで機会を設けましょうぞ」
と、露骨に恩を売ってくる男、この歌劇場の総指揮者を務める子爵である。
ライトノベルで言えば、レーベルの編集長である。
この人の鶴の一声で書籍化が決まったりする、偉い人である。ラノベ的に言うと。
そこへ僕は自作を持ち込んだのだ。
「ところでポイゾナススネイク家とは、どちらの領地を収めて…………」
「いや! お忙しい卿のお手を煩わせては心苦しい! さっそく本題に!」
偽貴族の(ニセではないが)素性をツッコまれても藪蛇だからね。
「あ……ああ……この本ですな……男爵殿がお書きになられた新作戯曲台本ですか……」
うっ!
あからさまにルトロヴァイユ芸術卿の顔が曇る。饒舌さが影を潜め。
嘘????
これは、どう見ても選外の反応じゃん! 結構、自信あったのに!?
「ど、どの辺りがお気に召しませんでしたか……? 芸術卿?」
嫌な汗を垂らしながら、ソロソロと訊いてみると……
「困りましたな……このルトロヴァイユ、男爵殿の前では口が憚られ……」
「どうぞ忌憚のないご感想を仰って下さい、芸術卿!」
「では恐れながら男爵殿…………この台本、悲劇は、どこにございますか?」
「悲劇?」
バッドエンド?
そんなのダメだよ!
今の読者は極力ストレスを減らさないと、途中で読書体力が尽きてしまうのに!
ストレスコントロールに細心の注意を払うのが、ラノベ作家の書き方だよ?
「差し出がましきことながら男爵殿、悲劇がなければ演劇は始まらぬものです」
「へ?」
「我々のオペラを観劇くださる御婦人方は、よりドラマティックな悲劇をご所望なのです」
と芸術卿、アート関係者らしい慇懃無礼さでレクチャーを始めた。
「それにこの主人公、なんですかコレは?」
「なんですかと言われても……」
「男爵様。物語とは、登場人物が困難を乗り越えるからこそ、話のヤマと成るのです。
ですが、この主人公には困難が見当たりません。強大な力で呆気なく障害を粉砕していく。これでは、退屈した観客から靴を投げられてしまいますなぁ」
お、俺TUEEEE!!!!概念を全否定です、ありがとうございました!
「それに、歌唱のシーンがまったくない。これはいけない」
か、歌唱?
急に唄うよ、的なアレ?
アニメ実況では確実にツッコミが入る、一種のお笑いシーン?
そんなものを僕に書けと?
「もし歌唱もない台本など渡したなら、私ども、役者や楽団からストライキを起こされますな、ハッハッハ!」
「ちがいない!」
と、舞台総責任者ルトロヴァイユ氏、肩をすくめて苦笑いでござる。取り巻きと一緒に。
要するに「箸にも棒にもかからぬ素人脚本」と言いたいらしい。芸術卿と、取り巻きの劇場関係者たちは。
「どうも男爵殿は、台本のイロハが理解っていらっしゃらぬご様子」
「よろしければ、我が歌劇団の舞台を、もっとご覧になってみては?」
「さすれば、物語とは何ぞや、という極意も知れましょう」
☆
速攻でパルテノン神田へ帰宅した僕は、
「――――二度と行くかぁぁぁぁ!」
原稿の束をゴミ箱へ放り込み、頭を抱えた。
「なんなんだよ、全く……あのハンプティダンプティ野郎……バカにしやがって…………」
僕は、天下の連撃大賞受賞作家だぞ?
未来の超売れっ子作家だぞ?
幾多のヒット作を基にして、血の滲むような研究を重ね、その果てに習得した売れ線ライトノベルの作風が!
ことごとく……ことごとくNGを食らうなんて……
「最低だ……」
異世界なんて最低だ!
本項は、重いコンダラ(@gnoinori) / 司弐紘 さんのご意見よりインスパイアされたものです。
ありがとうございました m(_ _)m
より、咲也が惨めっぽくなりましたw
司弐紘さんの作品はこちらより。
https://mypage.syosetu.com/282354/