表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/83

第三章 3 - 9.5 推しが龍の巣いってくれたら死ぬ

難関・ドラゴンゲートを無事通過し、遂に龍の巣は目の前!


……という所まで至りながら、空中分解してしまう龍征伐軍。

兵に見捨てられた咲也とルッカ、果たして大願を遂げられるのか?


 小説家からすれば――とかく聖典とは厄介なものだ。

 「この物語はフィクションです、登場する人物・団体・名称等は、実在のものとは関係がありません」とは記されていない(・・・)のに、科学的・客観的なドキュメントには当たらない(・・・・・)

 むしろ神話やファンタジーに近い。

 その「読み物」が【この儀式を行えば、龍と和合できる】と説いても、

 果たして、それを鵜呑みにできるのか?


 完全に世俗との関係性を断ち切った者なら、神話と現実の整合性は採れるかもしれない。

 龍の前に身を晒す行為も、捨身飼虎の徳行と納得できるかもしれない。

 しかし、

 世俗の側から見れば、単なる自殺志願者にしか映らない。


 小説家的に考えると――「聖典」は本当にタチが悪い。

 神話とは、あらゆる読み物の中で最も、生存者バイアスが高い読み物かもしれないからだ。

 教義ではなく「歴史」として内容を俯瞰した場合、

 ノアを除く大多数の人類は、洪水で溺れ死んでいたかもしれないし、

 モーゼに率いられなかった者たちは、捕囚されたまま生を終えたかもしれない。

 たまたま上手くいった(・・・・・・・・・・)成功者が、書き残したのが神話であって、

 その強運や脚色が、奇蹟として描写された可能性が高い。

 物書きとしては、その可能性を排除できないのだ。



 そんな聖典を、信者でもない輩に「信じろ!」と強いる方が無茶なのだ。


 なので…………


 現在の龍征伐軍、 四 名 ま で 減 り ま し た 。


 部活アニメなら廃部騒動で一悶着してるところだよ。


 僕 [ 将軍 ] とルッカ [ 上級特佐 ] と、残り、平隊士が二名。

 なんだ?

 なんだこれ?

 帝都は出発した時には、都合百名を越える精兵部隊の体を成していたのに。

 (実際は素人同然の志願兵ばかりだとしても)

 ほぼほぼ、Go Go Westな三蔵法師一行みたいなもんじゃないか?

 あるいは鬼退治に向かう桃太郎か。

 ファンタジーな禁書(神話)を再現するんだから、むしろ、これくらいメルヘンな構成の方が似合ってるんじゃないか?

 物は言いようだね(ため息)。


 え? 四人じゃない? 五人だって?

 妖精さん、中枢神経経由で僕の脳に直接語りかけています。

 もはや存在が一体化してる肩乗りフェアリーこと、翻訳妖精さん。

 裏方には違いないが、忘れちゃ困る。異世界生活には欠かせないキャストです。

 忘れてないよ、大丈夫、忘れてない。


 で……

 他の、百余名の兵士たちはどうしたのか、って?


 上官(ぼくら)に反旗を翻したパラマウント曹長たちは、隊を離れて行った。

 無謀な自殺行為には従えない、と僕らに背を向け。

 曹長の取り巻き以外にも、相当数の兵士が彼らの後を追った。

 やはり「龍征伐軍は龍を倒すべき」という曹長の訴えが響いたんだろうな。


→「ガキの使いじゃねぇんだよ! 俺たちは!」

→「親兄弟やダチの期待を背負って、軍に志願したんだぞ、俺たちは!」

→「龍の野郎と刺し違える覚悟で参加したんだ! ふざけるな!」


 無理はない。

 もし僕が生粋の帝都っ子だったとしたら、曹長の訴えにシビレたと思う。


 曹長たちの行為は、本来であれば敵前逃亡で軍法会議ものである。

 が――

 止める力は、ルッカにも僕にもない。

 所詮は寄せ集めの烏合の衆だ。

 志願兵から戦闘意欲を除いたら何が残るというのか?


 そして……

 そんな叛乱者たちに加わらなかった者たちも存在した。

 三割ほどの兵はどちらにもくみせず、洞ヶ峠を決め込んだ。


 こうして征伐軍は三分裂。

 僕ら四名だけが、カルデラの中央火口丘――龍の棲み家――への登攀を開始した。


 ☆


 分裂劇の現場から離れ、他派閥の兵たちには声も届かなくなった頃、

「特佐、お訊きしてもよろしいでしょうか?」

 何かね沙悟浄くん(※仮名)?

 僕とルッカ嬢に従ってくれた兵士二人のうち、ヒョロっとしてる方、なんか河童っぽい彼が尋ねてきた。

「僭越ながら――特佐は、竜絶蘭の舞の手ほどきを受けた方なのでありますか?」

「ええ。お婆ちゃんにね。物心つく前から」

「マジすか!」

 沙悟浄と猪八戒、小躍りして喜んでる。


「え? それって、すごいことなの?」

「すごいですよ将軍! マクシミリアン帝のインパク知政策で、都では賢者狩りが横行しましたからね。今や、竜絶蘭の師範は絶滅危惧種ですよ!」

 奇特な兵士の太ってる方、猪八戒くん(※仮名)が鼻息荒く説明してくれた。


「あの竜絶蘭を! ナマで見られるなんて夢にも思っていなかった!」

 猪八戒くんと沙悟浄くん、熱烈な地下アイドルの追っかけと見紛うばかりに、興奮丸、大出航状態である。

 いやま、宗教にもそういう側面(=盲目的偶像崇拝)があることは否定できないが。


「見たいのならいくら見てても構わないけど、分かってるわね? あんたたち?」

「はい!」

「もちろんです、特佐!」

「「おかさない! ですね!」」

 な、なに言ってんだ、この豚と河童……

「え? 将軍知らないんですか? 【おさない・駆けない・踊り子さんには触らない】ですよ! そんなの常識じゃないですか! 竜絶蘭の演舞では!」

 何の常識だ、何の?

 賢者の舞いの追っかけの常識か?

「というか、竜絶蘭の禁則は、四番目が最も大事なんですよ! 将軍!」

 ローカルルール多いな、これだからヲタクは!


「【決して、喋ってはいけない】、これが守られないと、即座に儀式は中止されます」


「……喋るな?」

 儀式の厳かさを強調する演出だろうか?

「絶対に喋らないで下さいね将軍! 竜絶蘭をナマで観られる機会なんて、もう二度とないかもしれないんですから!」

 豚と河童の圧が強い……

「お、おう……」

 元から、威厳など無いに等しい大将だったが、ここに来てそれが地に堕ちた。

 踊り子(アイドル=崇拝対象)>豚(アイドル狂信者)+河童(アイドル狂信者)が揃って、すっかり僕だけ蚊帳の外じゃないか。

 なんだこのパーティ?

 「推しが龍の巣いってくれたら死ぬ」系?


「というか君ら、よく分かったね?」

 ルッカが賢者の末裔だと。

「僕ら、隠れ賢者シタンですから!」

「今の帝都じゃ、おおっぴらに出来ませんけど!」

「特佐が【古の儀礼に則って、龍と和合する】って宣言した時、すぐにピンときましたよ!」



 ☆



「ここが龍のハウスね……」

 小高い丘を登ること三十分ほど。

 巨大な一枚岩の麓に、クラックがあった。

 ちょうど茶室の躙口にじりぐちほどの隙間を覗けば――――巨大空間の気配がする。

 これはヤバい所だ――間違いない!

 緊張が背筋を伝い、本能が足を竦ませる。

 しかし、

「いいですか将軍? 絶対に声を上げないでくださいよ!」

「ぶち壊しですから!」

「「そしたら一生恨みますからね!」」

 ヲタク兵士たちに念を押され、おかしな空気のまま割れ目を潜ると……



「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 あれだけ豚と河童から注意されたのに、思わず悲鳴を上げそうになってしまった。

 だって、そこは――――本当に龍の棲み家だったんだもの!


挿絵(By みてみん)


 狭苦しい火口の底に、【 ヤ ツ 】がいた! ――振り返らなくても奴がいる。


 忘れもしない、あの災龍が!

 あの日、帝都を蹂躙し、数十棟の住宅倒壊と数百名の犠牲者を生んだ、暴威の龍、

 そいつが本当に巣に横たわっていたんだから、驚かないワケがないだろ、常識的に考えて!

「!!!!」

 思わず、腰が抜けそうになった。

 大型トラックとか、そんなもんじゃない。

 NASAの博物館に展示されている巨大ロケットの標本くらいのスケール感だよ。

 石油タンカーとか豪華客船を間近で見た時の、圧倒される感じ、

 あれが目前に迫ってくる。

 大きい。

 それ以外に表現のしようがない。言葉が出てこない。

 僕は小説家失格だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 隠れ賢者シタン と 振り返らなくても奴がいる で笑いました ついに龍の巣!! 義勇兵2名が残った理由に納得 [一言] 主人公が小説家であるということを 忘れさせない描写が必ず差し込まれて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ