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第三章 3 - 8.99 格好悪いふられ方

 カネに目が眩んだアウトローたちの惨状を尻目に、

 王と元老院から預かった「通行許可証」の威力は絶大!

 (文字通り)鬼のような門番にも、僕ら龍征伐軍は、問題なく通過を許可された。


 やった!

 これで目的の「龍の巣(ザ・レジデンス)」に入れる!


 ……と喜んだのも束の間、ルッカ嬢に「ここでお別れ」と宣告されてしまった!

 ちょっと待って!

 どうして僕が?

 この龍征伐軍のトップは僕だよ????(名前だけとはいえ)

「この馬を使って、男爵。こいつに捕まってれば、無事に帝都まで連れ帰ってくれる」

 と、愛馬を僕に差し出すルッカ嬢。

 あの、帝都を暴走しても無傷で走りきった、彼女の駿馬・ヒステリックルーラを。

「なに言ってんのさ? 僕は、この龍征伐軍の大将だよ? 司令官が逃げてどうすんのさ?」

 僕に徳川慶喜の汚名を着せる気か?

「男爵」

 いつになく真剣な顔で、ルッカ嬢は僕に告げた。

「あんた――この世界の人間じゃないでしょ?」

「!!!!」

(嘘!?)

 彼女、僕の正体をズバリ言い当てた。

(まさか、ブラフだったのか?)

 あのポンコツ賢者見習い姿は、僕をあざむくための三味線?

 大賢者(オーマイハニー)の血筋を引く者なら、僕の正体を見抜くくらい朝飯前なのか?

 そんなところまで、計算づくの計画だったの?

 ルッカ・オーマイハニー!


「この世界のことは、この世界の人間が解決する。それが筋でしょ?」

「ルッカ嬢……」

「私は、この賢者の議定書エルダーズ・プロトコールを信じてる。我がオーマイハニーの血族が秘蔵してきた古文書は、真正なる契約の書。

 これを以ってすれば、再び龍と人との和合が果たされるわ。

 だけど……

 異世界人にまで、これを信じろ(・・・・・・)なんて無理強いできない。

 あんたは、あんたの信じる神様に従って生きるべきよ」

「ルッカ……」

「逃げて男爵。ここから先は私が(・・)何とかする」


 と告げると、ルッカ嬢は龍征伐軍の殿しんがりを追った。馬を押し付けられた僕を置き去りにして。

「じゃ、バイバイ異邦人……いい人を紹介してあげられなかったことだけが心残りよ、婚活コンサルとして」


 えええ……

 最初から、そのつもりだったのかよ? ルッカ嬢……

 僕に壮大なピエロを演じさせて、無事にゲートを抜けられたら用済み?

 あとは、ちゃっかり帝都へ帰って、自堕落な影武者浪人貴族へ戻れと?


 ふ……


 ふざけんなぁあああああああ!


「ハイヨォオオー!」

 見様見真似で鞭をふるい、閉じかけのゲートへ突っ込む!


「男爵!」

「あっぶねぇえええ!」

 ほぼ逝きかけました。

 いかにジョッキーが危険な職業か、身を以て知らせれたわ!

 乗馬初心者に西部劇並みのスタントとか、正気の沙汰じゃない!

 こっわ!


「どうして来ちゃったのよ!」

「着いていくさ! ルッカ!」

「どうして? あんたは来る義務も責任もない、異邦人でしょ?」

「あるさ!」

「僕を見くびるなよ! 日本人だぞ!」

「は?」

「日本男児たるもの、世話になった人を見捨てて、国に帰れるか!」

「男爵……」

「僕はアルコ婆を助けたい! 助けられる可能性があるのなら、それに賭けたい!」

 本当に「(婆に)世話になった」のか、あまり振り返りたくもないが、

 あんな後味の悪い別れ方じゃ、夢見が悪い。時空を越えて化けて出てくるよ、あのバイタリティなら。超時空老婆アルコだよ。

 それに……

 婆が強引に縁談を勧めてくる、お節介ババアだとしても――

 今、婆は牢に囚われている。理不尽な逮捕で、自由を奪われている。

 そんなの!

「見て見ぬフリなんて出来るか!」

「男爵」

「どうせ乗りかかった船だ。嵐の気配にビビっててもしょうがない! 今更だよ!」


「バカね……あんた死ぬわよ……」

 と呟いたルッカ嬢――いつもの呆れ果てたような顔じゃなかった。

 軽く肩を震わせながら、瞳を潤ませていた。

「僕は死なない。だって正しいんだろ? 賢者の議定書エルダーズ・プロトコールは?」

「ええ、もちろん!」

 強がる彼女の頬を、熱いものが伝った……ように見えたが、見なかったことにしておこう。

 武士の情けさ、見習い大賢者殿。


 ☆


「ほぉぉ……」

 内側から見ると、よく分かる。外から見るより分かりやすい。

 龍の巣は、カルデラの中にあるんだ。

 切り立った「天然の要害」はカルデラの外輪山だ。

 綺麗なミルククラウン状に巣を囲っているんだ。

 その内側、

 カルデラの内部は鬱蒼とした森が広がり、龍の巣はその中央火口丘に存在するらしい。


 隊列も構わず雪崩込んだ、龍征伐軍が再び行軍態勢を整え直す間、

「ねぇ男爵?」

「ん?」

「本当に、世話になったと思ってる?」

 ルッカ嬢……やっぱり有ったのか罪悪感が。

 乗り気じゃない男にも無理矢理、縁談を勧めている自覚が。

 だけど……

「そんなことはどうでもいい」

「えっ?」

「子供も孫も、先に死んじゃいけないんだよ。親や婆ちゃんより一秒でも長く生きるのが、子や孫にとって、たった一つの使命なの」

 どの世界だって一緒だ。異世界だって同じだ。

 僕は、そう信じてる。

 だって、そう教えられたんだ、僕は。大好きだったお婆ちゃんから。


「だからさ、文句はアルコ婆の葬式で言ってやる。あんたの見合いで、どんだけ僕が迷惑したか、延々と愚痴り尽くすよ、安らかに眠るアルコ婆に向かってな。ようやく天寿を全うしたか、清々したぞババア、って死に顔に手を合わせるんだ。地獄の底まで、ストーカー行為の慰謝料を請求しに行くからな! って念を押すんだよ、埋葬される前に」

「男爵……」

「そうやって、笑って送ってやるのが僕らの義務なんだよ。分かる?」

「うん…………」

「だからルッカ嬢、君はアルコ婆より先に死んじゃいけない。絶対に、だ」

「うん…………」

「僕が君を守るよ。死なせない。アルコ婆のために、君を死なせない」


 じゃあ、僕に何が出来るのか?

 小説家風情に何が出来る?

 戦になったら何の役に立たない木偶の坊が、何を?

 巨大な災厄の龍を前にして。


 分からない。

 分からないけど、見過ごせない。

 あの龍に、一人でも対峙すると決めた女の子を、見捨てられるものか。

2021/5/5、時系列を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく良い場面なのに 超時空老婆アルコでフいてしまった笑 咲也がすごく主人公っぽいーー! ルッカも一族の威信をかけてるし、 ここに来て本当に絆が確かなものと成った気がする でも龍だしな…
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