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第三章 3 - 8.75 地獄の門 - La Porte de l'enfer

 都を挙げての壮行を受け、いよいよ龍の巣へと乗り込む咲也たち・龍征伐軍一行。

 賢者秘伝の古文書に何の疑いも持たないルッカだったが、

 咲也は半信半疑、というか、かなりの及び腰。


 だって、あの災厄の龍だよ?(※咲也談


「見えて参りましたぞぉ、将軍閣下!」


 僕らの馬車を御するのは、若き志願兵、確か名前はゴルジ・パラマウントとか言ったか?

 都屈指の大商人である、パラマウント商会の八男だか九男だったか、

 まぁ、あれと一緒だ。カジノ王、ロドリゴ・ビスコレッティ、その娘のフローラ。

 女子は玉の輿、

 男子は武功(腕っぷし)で、狙うんだよ。

 虎視眈々と、上流階級入りを。

 封建社会じゃ、長男以外は出世の道がないからね。


 そのパラマウント曹長が、叫んだ先には――――遠く遠方に山並みが見えた。



 帝都ドラゴグラードは、都市城壁に囲まれた街だ。

 数階建てのビルに匹敵する、レンガ造りの人工障壁に囲まれた街である。


 対して龍の巣(ザ・レジデンス)――それは天然の要害だった。

 切り立った崖が、キロ単位で横たわる。

 プロ仕様の登攀とはん装備でも用いねば、歯が立たない急登斜面に見える。

 「壁」に近づけば近づくほど、その角度に心を折られる。


 だが――人を寄せ付けぬ断崖でも、ただ一箇所、壁の崩れた部分があった。


挿絵(By みてみん)


「あそこがドラゴンゲートですよ! ポイズン将軍!」

 縦笛大の望遠鏡を覗けば、さび色の扉が見えた。

 いや、扉というよりは【関】と呼んだ方が妥当かもしれない。

 この距離で分かるってことは、相当に大きい。

 箱根の山は天下の険、函谷関も物ならずと詠いたくなる、思わず。

 もし、あれを扉として使うとしたら、ガンダムサイズの人間だろう。

 …………ゼントラーディの方が的確か?

 それくらいの異質なスケール感で、僕らを威圧してくる。


「あれが……龍の巣への、唯一の道……」

「仰る通り、あそこ以外は切り立った崖で囲まれてるんで、蟻の子、一匹入れやしません。それこそ龍みたいに空でも飛ばなきゃ、ね」

「よく知ってるね、パラマウント曹長?」

「なに、帝都の悪ガキの通過儀礼みたいなもんですわ。龍の巣越えは」

「そうなの?」

「跳ねっ返りのクソガキが「俺なら出来る!」と大口を叩いては、転げ落とされて帰ってくる――不良の通過儀礼みたいなもんですわ」

 それってつまり、自分も相当なヤンチャ小僧だった、と自己紹介してるみたいなもんだろ?

 いくら大商人の息子でも、八男だか九男では鬱屈が溜まる一方なのか?


 ☆


 目指すべき目標が見えてきたことで、進軍の足もはやる龍退治軍だったが……

「全体ーッ! 止まれッ!!!!」

 そこで突如、パラマウント曹長が皆に停止を命じた。

「どうした曹長?」

「前方に先客です、ポイズン将軍殿!」


 改めて望遠鏡でゲートの方を眺めると……


「ヒャッハー!!!!」


 という絶叫が聴こえてくるようだ。望遠鏡を通して。

「なんだあれ!?!?」

 数にして数十騎、馬に乗った荒くれ集団が、派手な土煙で暴走している。

 手には弓、斧、槍などの武器を携え、奇抜なデザインの衣装と旗印と棘付き肩パッド。

 どう見ても反社会的勢力です、ありがとうございました。


「ああ……ドラゴンゲート名物ですわ」

 元ヤンキー(?)、パラマウント曹長が苦笑いで説明してくれた。

「カネに困った、冒険者崩れの連中ですよ、将軍」


『龍の巣なんだから~、だっぴではがれおちたうろこ、つめ、きばがさんらんしててもおかしくないのよ~』

「レア素材の宝庫なのね……」

『うろこいちまいでも、のうふやしょくにんのねんしゅうがかすむほどのたいかをえられるの~、まかりまちがってぎきりんやまがたまなんかひろったら、いっしょうあそんでくらせるのよ~』

 妖精さんも、解説ありがとう。


「本当の見どころはここからよ、男爵」

「本当の見どころ?」

 馬車から降りたルッカ嬢、余裕綽々の表情で座り込んだ。

「いいの? そんなに悠長に構えてて?」

 あいつらの後塵を拝したら、何かと面倒なことにならない?

「いいから、見ててよ男爵」

 ルッカ嬢やパラマウント曹長だけでなく、龍征伐軍全員が高みの見物を決め込んでいる。

 なに?

 なにが起こるワケ?

 知らぬは本人ぼくばかりなり?



 先に、あんな半グレ集団に龍の巣を荒らされたら、古文書の儀式どころじゃないんじゃないの?

 ――そんな僕の心配を他所に、


 目の色を【$】に変えた山賊軍団、一気呵成にドラゴンゲートへ突入!

 巨木の丸太を破城槌にして、門を破壊する目論見らしい。

 望遠鏡でも確認できるほどの丸太だ。相当の太さに違いない。

 あんなものを勢いよく叩きつけられたら、金属製の扉でも一溜まりもないんじゃ?


 ドーン! ズドーン!

 数百メートル離れていても、響いてくる打撃音。欲にまみれた除夜の鐘が、荒野に響く。

「これマズいんじゃないの?」

 門の破砕も時間の問題では? と不安げな僕に、

「始まるわよ、男爵」

「始まる? 何が?」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 地響きと共に、崩れ落ちる石像。

 門の左右で、それを守護するように立っていた二体の神像が崩れ始めた!

 いや?

 崩れていない。

 剥がれた(・・・・)んだ!

 神像を覆っていた石の「皮膚」が一斉に剥がれ落ち……現れる巨大な羅刹!

 人を数倍する巨人の像が、ジワリ……動き始めた!


「なんだあれ!?」

「ゲートキーパーズよ、男爵」

「ゲートキーパーズ?」

「龍の巣への不法侵入者を撃退する守衛装置。いにしえの天才錬金術師が作り上げた自動人形ゴーレム・オートマティカ、ギガンテス【アー】とギガンテス【ウン】よ」

「マジですか!」

 あれが人造のゴーレムだって!?

「扉への振動が検知されると、動き出すのよ」

 高級車のセキュリティアラームかな?(すっとぼけ

 しかし、異世界の警告装置は、そんな生易しいものではなかった・


『この扉を抉じ開けんとする者……死あるのみ』

 無慈悲な警告を発したギガンテス、

『石の巨人よ、暴力を舞え!』

 天才錬金術師の「指令(録音音声)」を合図に、その巨体に見合わぬ速さで襲いかかる!

 ズガアアアアン!

 まさに【鎧袖一触】!

 巨木の丸太よりも更に太い腕で、悪漢十数人をまとめて吹っ飛ばす!

 右の巨人は、山賊の破城槌を奪い取り、逆にそれを山賊に叩きつけた!

「…………」

 圧倒的である。

 人と同じ速度で動ける石の巨人とか、そんなの敵うわけがない。

 あのダビデだって逃げ出すよ、こんなのが相手じゃ!


 結局、半グレ騎馬民族は数分で半壊、這々の体で荒野へと消えた。


「あ、あれがゲートキーパーズ……」

「分かったでしょ? 無理なのよ、ドラゴンゲートの強行突破は。不可能なの」

 だからか。だからルッカ嬢は【公的に認められた龍征伐軍】の印を欲しがったのか。


「てか、僕らは大丈夫なの……?」

 このまま下手に近づいたら、山賊の二の舞になったりしない?


 ☆


 ……という僕の心配も杞憂に終わった。

 ヒャッハー軍団退場後、ドラゴンゲートのたもとへ到着した僕ら、

「我ら、王と議会に認められし者なり! その審判をあらためられたい!」

 ルッカ嬢が巨人たち(ゲートキーパーズ)へ促せば、

『証を見せよ……』

 彼らの要求に従って、左のギガンテス【アー】に勘合符、右のギガンテス【ウン】に朱印状を渡すと……

『裁可』

 ふんぬ! ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……………

 巨人たちは人智を超える剛力で金属扉を開き――――僕らの前に道が開けた。

 うお!

 すごいな勘合符! すごいな朱印状! これが勅許の力か!


「よし、急げ! 急げ! 遅れるな! ゴーゴーゴー!」

 パラマウント曹長が兵たちを急かす。

 ドラゴンゲートは人類史上最大の自動ドアだ、通り抜ける前に閉まっては目も当てられない。

 雪崩込む龍征伐軍の兵たちに続き、僕も門を通り抜けようとしたが…………

「待って、男爵」

 ルッカ嬢が僕を止めた。


「男爵とは、ここでお別れよ」

2021/5/5、改稿。

パラマウント曹長を追加してみました。

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