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第一章 1-4 同期の桜 - The Honor of our Colleague

影武者を引き受ける報酬として、貴族の地位を得た咲也たち。

彼らの異世界ライフとは?

 国王陛下・マクシミリアン帝より、僕ら召喚者たちへ下げ渡された貴族証。

 元々、本来の家系が、不行状ふぎょうじょう無嗣断絶むしだんぜつで改易で棚上げとなってしまっていた家名が適当に配布されたのだが……

 僕の場合は「Baron PoisonousSnake ThunderYou」とかいう、どれが名前でどれが苗字かもよく分からない家名で……

 とりあえず僕は「咲也・ポイゾナススネイク男爵」を名乗ることにした。


 で、

 あの悪夢の召喚儀式から、数週間――――


 王に『ブラザー・プリンシィズ』と称された、僕ら召喚同期生。

 【並行世界の自分】という王の説明通り、全員同じ顔、瓜二つというかクローンみたい。

 しかし、それぞれの世界でつちかってきた経験は、全く違うもので……


 たとえば出席番号十一番:半場四葉と名乗る僕は美大の学生らしく、喜々として職人街の絵画工房へ飛び込んでいった。

 出席番号九番:川澄千影は音大生、早くも宮廷お抱えの楽団に認められ、王立劇場での公演プランを練っている。

 出席番号八番:神崎凛は化学メーカー研究員で、錬金術界の革命児として迎えられたようだ。

 大手ゼネコンに勤める出席番号一番:桑谷亞憐は、早速関係者にリクルートされ、王城の補修・増築現場を任されたらしい。

 出席番号二番:望月花王や出席番号十番:嘉数遥ら、アグレッシヴな肉体派は冒険者ギルドでパーティをマッチングし、定番の異世界勇者として冒険へ旅立った。

 【王と同じ顔】を隠す仮面さえ被れば、この世界で何をしようが僕らの勝手だ。


 僕を除き、翻訳妖精が根付かなかった彼らだが、専門分野に通じる同志なら言葉は要らない。

 すぐに現場の仲間と意気投合して、スクラッチから現地語を覚え始めている。

 好きこそものの上手なれ。

 脳筋代表のプロレスラーでも、海外武者修行から帰ってきたら英語もペラペラ的なアレである。


 つまり僕の特技=翻訳はイキナリ不要になった、ということである!


 そもそも、なぜ僕だけに翻訳妖精(コティングリー種)が適合したのか?

 ・僕が小説家(の卵)だから?

 ・僕の両親が日本人と外国人の夫婦だから?


「ま……後者だろな……」

 そういう家庭で育ったから多言語環境への適応性が高かった、というだけの話だろう……

『きにすんなよ~』

 僕の脊髄に自分の尻尾をブッ刺した妖精さん、気楽に言ってくれる……なんだ、その手は? オヤツか? 餌をねだってるのか?

「妖精さんって、なに食うんだ?」

『えだまめ』


 妖精さんのリクエストに応えようと街へ出てみたが……そこらじゅう、【僕】がいた。

 正確に言えば王様(マクシミリアン帝)のポートレートが、ごまんと掲示されているのだ。

 総選挙の立候補者ポスターなんて目じゃないほど、ありとあらゆる場所に【僕】がいる。

「妙な気分だよ……」

 それらの似顔絵には必ず、同じ文言が記載されていて、

 『この王が誓う! 必ずや科学の力で、世の迷妄を晴らしてみせよう! 【インパク知】!』

 ワンフレーズポリティクスって奴かな?

「【インパク知】ねぇ……」

「旦那、もしかして他所よその方かい?」

 謎の粉モノを注文した屋台で、店の主人から尋ねられた。

「ええ、まぁ……」

「マクシミリアン様は、ありがた~い王様よ」

「そうなんですか?」

「陛下が即位なすってから、子供たちは全員学校へ行くことになったんじゃ」

 見ず知らずの爺さんが会話に割り込んで、熱弁した。

 つまりこの世界、義務教育制度が始まったばかり、ってことか……

「それだけじゃねぇ、これまで教会や貴族どもが独占してきた、酒や塩の商売もできる!」

「紙や綿だって、そうさ!」

「そのお陰で、仕事にありつけた奴も大勢いる!」

 なるほど……あの王様は啓蒙君主なのね。

 さすが【僕】だ。民のために善政をく名君だね。

「【インパク知】! ほら、旦那も!」

「え、ええ~?」

 渋る僕を余所よそに、

「「「「【インパク知】! 【インパク知】! 【インパク知】! 【インパク知】!」」」」

 ツッコミ爺さんの音頭で湧き上がる、マクシミリアン帝への礼賛コール。

 通りすがりの老若男女から子供までも、名君バンザイ! と気勢を上げた。


 ☆


「あの~、つかぬことをお訊きしますが、妖精さん」

『なによ~』

 粉モノに乗っていたグリーンピースで活力を取り戻した彼(彼女?)に訊いてみる。

「この街に本屋とかあるんです?」

『ないね~』


 妖精さんの説明では、この世界の本は学術書か経典だけで、それらは教会か貴族邸の書庫に収まっているらしい。

「じゃ、エンタメ的な本は?」

『まーけっとが存在しないわよ~』

 確かに。

 つい最近まで義務教育制度が存在しなかった国なら、識字率など推して知るべしである。

 でも、啓蒙君主であるマクシミリアン帝が初等教育を義務化したんだから、テキストエンタメのマーケットだって、やがて生まれるはず?

『ま、じゅうねんごくらいかな~』

 ですよね……

 広く識字率が向上しないことには、活字エンタメ市場なんてものは……


 てことは!

 小説家なんて!

 →→→→ 十 年 間 無 職 決 定 ! じゃん!


「あー! もう嫌だ! 帰りたい! 帰れば、帰れさえすれば! 僕は! この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることもなしと思へば状態なのに! あの藤原実資ふじわらのさねすけですら「パーペキな歌なんで、返歌とか無理です」ってお手上げになるほどの栄華なんだぞ?」

 最高峰の新人コンペで賞を勝ち取った男だぞ! この僕は!

「なのに! なんだこれ?」

 僕は勝ち組なのに!

「異世界ライターなのに異世界でこの仕打ち! 十年間無職決定????」

 信じられない!

「異世界転生したら現代の知識で無双状態! が、お約束じゃないのかよ?」


 僕は小説しか書けない。それしか能がない。

 この世界にも「物語」的な説話は存在するらしいが、

「むぅかぁし~希臘ギリシアのイカロスわぁ~、ろうで固めぇたぁ鳥のはぁね~」

「祇園精舎の鐘の声ー、諸行無常の響きありー、沙羅双樹の花の色ー、盛者必衰の理をあらはす」

 ベベンベンベン。

 人が集まる広場で、琵琶っぽい弦楽器が掻き鳴らされ、演者を取り巻く聴衆はノリノリだ。

 字が読めない庶民向けに、吟遊詩人や琵琶法師は存在するらしい。

「むかしむかしあるところに、三匹の子ぶたがおりました」

 また別の場所では、紙芝居屋に子供たちが群がっている。

「これが、この世界の小説家(・・・)か……」


 しかし!

 僕は絵など描けないし、楽器も弾けない――――ピュアな文筆家なのだ!

 子供たちにウケる愉快なMCなんて、出来っこない!

 そんなのYoutuberやVtuberの領分だろ? ラノベライターの仕事じゃない!


 つまり僕には、何のアドバンテージもない!

 帰れば人生の絶頂! ⇔ 異世界(この世界)では木偶の坊(でくのぼう)

 落差が激しすぎるよ、神様!


サブタイトルは「小説家の存在に耐えられない軽さ」でも良かった?


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文体は軽妙ですが、知識と品の良さを感じます。 [気になる点] 妖精がオスかメスか。 はっきりしている方が、イメージしやすいかも。声とか、姿かたちとか。
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