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第二章 2-11 英雄作成 - produced by lieutenant Turmee

 「もう、ここには来るな」と、ルッカに告げられてしまった咲也。

 摩利支丹=賢者協会の裏側を覗いてしまった彼は、果たして何を決断するのか?


「ルッカよ、手伝ってくれぬか」

「はい、大賢者様」


 アルコ婆からアシスタントを頼まれたルッカ嬢は、儀式の部屋へ。

 僕一人、応接間に残された……


「やれやれ……僕は小説家失格だ……」

 だって、そうじゃないか。

 【読心術師】アルコ婆の裏側を覗いてしまった結果、それを【詐術】と感じてしまうのは、僕が現代人だからだ。

 現代人としての倫理観を排除できず、その価値判断でしか物事を判断できないから【人を騙すことはいけない】という呵責かしゃくへと流れ着いてしまう。

 種も仕掛けも有る猿芝居と、脳が判断してしまう。

 でも、ここは異世界だ。

 現代日本とはセーフティネットのレベルが違いすぎる。

 ルッカ嬢の言う通り、【龍災】のような大災害にも(近代的な)公的復興支援システムなど【無くて当然】の世界だ。

 気まぐれな篤志家とくしか貴族が、雀の涙ほどの私財を分け与えるだけだろう、せいぜい。

 自己責任の切実度が月とスッポンだ、僕らと世界と比べたら。


 そういう世界なら……

 詐術の倫理性を問うよりも、手っ取り早い対処療法が必要なのかもしれない。

 何にも頼れず、明日をも知れぬ不安に苛まれる寡婦たちにとっては。


 たとえ、迷信排斥の啓蒙君主から「摩利支丹は邪悪なネクロマンサーである!」とレッテリングされても……それでも傷ついた寡婦を癒やしたい、というルッカ嬢やアルコ婆の志は……

「邪悪とは思えない……」

 思想警察が暴力的に取り締まるべきだとは……僕には思えない……


 組織人として、いやしくも思想警察の隊士ならば――僕が採るべき行動は一つ、

 摩利支丹の指導者であるアルコ婆の通報だ。

 でも……

「出来ないよ、そんなことは……」


 僕が見た【邪悪導師・アルカセット】は、民を惑わすカルト指導者とは似ても似つかぬ人だ。

 古めかしい詐術を善意の嘘として、求める者に与えるなさけの人だった。


「決めた!」

 中尉には『情報はガセだった。摩利支丹の指導者など、いなかった』と報告しよう。

 うん、それがいい。

 アルコ婆、お節介見合いババアとしては多少問題のある婆さんかもしれないが、

 治安警察が血眼で捕らえにかかるような悪漢ではないよ!

「どうせ、もうお迎えも近いクソババアだし。ほっといても、すぐヴァルハラ逝きだよ」

 だから、僕は【嘘の報告】をする。

 それが一番正しいんだ。

 アルコ婆やルッカ嬢は嘘つきかもしれないが、僕も嘘つきになろう!

 それでいい。



「ごちそうさま」

 ティーカップを呷り、茶を飲み干した僕は……ケアルームの扉に向かって挨拶した。

 もう、ここに来ることは二度とないだろう。

 大山鳴動して鼠一匹も出てきませんでした! で終わりだ、今回の騒ぎも。

 僕が嘘の報告を中尉に果たせば、全てが終わる。



 ――――と、思ったんだけど…………



 ドッカーン!!!!!!!!

「ホゲぇぇぇぇぇぇ!」

 扉が! 跳んできた!

 廊下側の仲人事務所の扉が、すんごい勢いで跳んできた!!!!


 そして、間髪をいれず、

「御用改である!!!!」

 聞き覚えのある声が怒鳴り込んでくる!

「いざ、神妙にお縄に就けぇぇぇーぃ!」

「沖田さん!?」

 思想警察の切り込み隊長が突貫してくると、続いて隊士たちも仲人事務所に雪崩込んできた!

「何処かァァ! 邪教導師アルカセット!」「居るのは分かってるぞ!」「絶対に逃すなァ!」


 隊士たちが破壊的な家探しを始める中、悠々と入室してきたテュルミー中尉、

「よくやったポイズンくん、斥候任務ご苦労。あとは我々に任せ給え」

 何が何やらワケが分からず、呆然とヘタリ込む僕を労ってくれた…………



 ☆ ☆


 翌日、帝都市中にバラ撒かれた瓦版各紙には、


 『 お 手 柄 ! ポ イ ズ ン 男 爵 、

    摩 利 支 丹 ・ 最 後 の 大 物 を 捕 縛!』


 との大見出しが踊っていた…………


 以上で二章は終了となります。


 異世界の大人たちに、踊らされるだけ踊らされてしまった咲也くん、

 果たして今後、彼は無事に元の世界へ帰れるのか、

 もう少しだけお付き合い頂けると幸いです m(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず展開が全く読めませんねwさすがですw やはり人前では読んではいけない物語ですね……w
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