第一章 1-3 転生者の一存 Reincarnater's Discretion
「そこの、軍服の……背に矢筒を背負った者よ」
え? 僕?
詰め襟って軍服に見えるのか? 矢は縁起物の破魔矢ですけど?
「この度の召喚で、翻訳妖精が適合したのは其方のみ。余の言葉を其の方らに伝えてはくれぬか?」
「えっ? そうなんですか?」
「Hey Brothers! Put Your Fucking Hands Up!」
はい。
MC王様のコールに、パーリーピーポーよろしく、両手を掲げた…………のは、僕一人。
他の十一人は、ぽか~んとした顔で「「「「何事?」」」」という視線を僕に向けている。
どうやら本当に意思疎通できてないらしい。王 ⇔ 【僕以外の僕】たち、には。
その証拠に、
『つうじてないのよ~、適合しっぱい事例よ~』
僕の妖精さんは、行儀よく肩に乗っているが、
他の妖精さんは、グッタリと地べたに寝転んでたり、猛烈な勢いで走り回ってたり、主人を攻撃したり、全く御せてない。カオス。全力で「はたらきたくないでござる!」を体現してる。
なのでここは、僕が翻訳を買って出るしかない。(※以下:翻訳者=僕)
王「よくぞ参った、並行世界の余たち。余は、このプリティロングアイランド王国を統べる者、マクシミリアン・フォン・カストロプ・スターリング」
僕2「並行世界だって?」
王「いかにも。其の方らは、並行世界に於ける余、である」
僕3「あんたが俺たちを、この世界へ召喚したのか?」
王「いかにも」
僕4/5/6「迷惑千万だぞ!」「すぐに戻せよ!」「聞いてないよ! 訴えてやる!」
怒声飛び交う謁見の間。
仮にも相手は王様、そんな明け透けに文句言ったら即座にデスラースイッチを押されてしまわないか? とヒヤヒヤしながら翻訳したが……王様は不問に付してくれた。いい人だ。
王「なに、帰すとも」
僕7「本当か?」
王「其の方らには余の影武者の任を与える。それを全うした暁には、望み通り、元の世界へと帰してやろう」
僕8「つまり、俺たちに『無償で奉仕しろ』と?」
王「余を見くびるな、異世界人たちよ」
すると半ズボン小姓たちが、僕ら一人一人に『証書』を配った。
王「対価である」
「これは……貴族号!」
誰一人読めない証書を、僕だけが理解できた。翻訳妖精さんの力を借りて。
この証書を持つ者を貴族と認める、という国家の保証書である!
王「其の方らを、今より正式な貴族として遇する」
僕9/10/11「ヒュ~、マジかよ……」「そう来るか……」「こいつぁヘヴィーだぜ……」
非難轟々だった十一人の【僕】ら、王様の条件提示に、手のひらクルー状態。
球団から数億の年俸を提示された野球選手みたい、ニッコニコである。
「えっ? キミら帰りたくないの?」
元の世界に未練はないの? やりがいのある仕事とか、かけがえのない恋人とか……
僕以外の僕たち「馬鹿いうな、貴族だぞ貴族!」「封建国家の貴族とか、やりたいことはしほうだい!」「人類史上、他に類を見ないほどの特権階級じゃないか!」「石油王レベルの!」「それを王が保証してくれるんだぞ?」「破格だろ、常識的に考えて!」「上級国民なんて比べようもない、本物の特権階級じゃん!」
11 vs 1である。
召喚者世論は、圧倒的に【受諾】である。
「こんな美味しいバカンスが他にあるものか!」が(僕以外全員の)総意らしい。
「契約は此処に成りし!」
王の言葉を右筆が記し、召喚術式は完了。
ほどなく、他の世界へと通じる次元の穴も、虚空へと蒸発……
それを呆然と見送る僕に、マクシミリアン王は絶望の事実を突きつけた。
「これで次元扉は、来年の魔術式典の夜まで開かぬ」
じゃあ、少なくとも僕らは、来年まで滞在を強いられるの????
「並行世界から導かれし、ブラザー・プリンシィズよ――ゆるりと、我が国を満喫するがよい」
嘘でしょ?
困るよ王様!
そんな寛大な笑みで語られても!
導入の構図は前作(ケモミミ添乗員さん)を踏襲しておりますが、
増えてますね?
今回は十二人です。
そんなに要るの?