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第二章 2-6 生き残りたい生き残りたい - The Spider's Thread

大混乱の葬式を逃げ出して、思想警察の屯所へと逃げ込んだ咲也。


そこに現れたテュルミー中尉の「吉報」が、彼の運命を変える!?

 思想警察屯所、道場大広間。

 車座に集った思想警察・隊士たちに対し、

「つい今し方、帝都市中へ放った斥候せっこうから連絡が入ったァ!」

 歓喜に震えつつテュルミー中尉が告げる。


「【摩利支丹・最後の大物】の居場所を突き止めた、とのことであァーる!」


 オオオッ!

 隊士たちも一斉にどよめく。

「その名も【邪淫導師・アルカセット】!」

 ウォー!

「既に十一人が捕縛されている、摩利支丹最凶導師が最後の一人! アルカセットを! 遂に!」

 ウォォォォッ!

「彼奴さえ捕縛できれば! 摩利支丹は帝都から一掃されるも同じ!」

 YATTA! YATTA! YATTA!

「それを我が思想警察の手で成し遂げるのだ! これぞ今上帝(マクシミリアン様)の御威光に叶う大偉業ぞ! 隊士諸君ッ!」

 ヒューヒューヒューヒュー! オスオスオスオス!

「ただし! 腐っても最高導師! 侮るなかれ、隊士諸君! いかなる怪しげな術式で悪足掻わるあがきしてくるか分かったものではない! 進退窮しんたいきわまれば、彼奴ら摩利支丹が秘匿する秘義中の秘義を繰り出される危険もある!」


 摩利支丹の秘義!?

(ゴクリ……)


「私は……見たくないのだ! 愛おしき諸君が、怪しげな呪術の餌食となる様など!」

 バァン!

 激しく壁を殴打し、中尉は感情を剥き出す。

「私は君らを愛している……心の底から愛おしい、君たちよ、死に給ふこと無かれ……」

 テュルミー中尉の男泣きに、野太い嗚咽が幾つも漏れる。

 ほんと、中尉は生粋のアジテーターだ……ついこの間、知り合ったばかりの僕ですら、グッと感情を掴まれそうになる。

 ルッカ嬢的には「人前で涙を見せるような男は信用できない!」らしいけど……


「諸君……」

 隊士たちが落ち着いた頃合いを見計らって、中尉が穏やかに語り始める。

「この作戦、言うまでもなく思想警察結成以来の重要ミッション……当然、失敗など許されない。華々しい大戦果のみ、上意に叶う」

「…………」

「従って、確実な作戦遂行のために、更なる確信的な情報が必要と私は考える」

「…………」

「そこで誰か居るか? 挺身ていしんして、敵のアジトを探らんとする者は?」



「――――――――中尉殿!」

 静まり返った屯所に響く声。

「是非! 是非その御役目、この一番隊隊長、ポイゾナススネイク男爵・咲也に御命じ下さい!」

 小山評定の山内一豊ばりのスタンドプレーで、僕は中尉にアピールした。

「今こそ! 我が命を救ってくださった中尉殿に報いる時! 何卒、私に申し付け下さい!」

「おお、ポイズン君……」

「輝かしき誉れの思想警察! 賢王マクシミリアンに栄光あれ!」


 一瞬の静寂の後――

「よかろーぅ!」

 テュルミー中尉は隊士全員の前で断じた。

「この役目、ポイズン君に任す!」

 やった!

「ありがたき幸せ! ポイゾナススネイク男爵・咲也、この身に代えましても、必ず!」

「うむ!」

「悪逆非道の【邪淫導師・アルカセット】、化けの皮を剥いで参りましょう!」



 ☆ ☆



 と、思想警察隊士全員の前で大見得を切った僕だったが……

 そ ん な も の は ハ ッ タ リ で あ る 。

 言うまでもなく口実に過ぎない。


 僕が欲しいのは、【摩利支丹が秘匿している、秘義中の秘義】だ。

 帝都ドラゴグラード中の書庫を巡り、魔術書という魔術書を片っ端から読み漁っても、ついぞ発見できなかった『異世界召喚の術式』、それを王はどこから手に入れたのか?

 教会や錬金術師たちは、王の啓蒙政策に従い、内々で長く秘匿していた魔術知識を公開した。

 なのに、その中に『異世界召喚の術式』に関する知識は、一切、見当たらなかった。

 となれば…………残る可能性は、摩利支丹の秘術に隠されていると見るのが妥当ではないのか?


 そう、僕は直感した。

 中尉の演説の最中、ピンときたのだ。


 僕がすがるべき――最後の蜘蛛の糸を。


ゆくぞ決死の潜入行!


皇国の興廃この一戦にあり!

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