第二章 2-5.99 恋のバカンス 4 - LES VACANCES DE L'AMOUR 4
掟破りの婚活ババア、アルコ婆の罠にハマり、
美貌の巨乳プリースト・アーナセルにデレデレの咲也。
いくら「卑怯だぞ!」と訴えても、後の祭りか?
「ふ……とか言うてお主、相当~気に入っておったじゃろ? その娘子を」
「そ、そんなことねーし!!!!」
「縁談話は全部お断り、とか言ってるくせに、自分から声かけてたわよね……」
何故そんなイラッとした表情で詰問してくるのよ、ルッカ嬢?
こわいこわい。詰問の圧がこわい!
「た、たまたま魔が差したというか……そもそも、僕は声をかける気なんてなかったのに、召喚同期生が『あの子を探ってこい』とか僕を唆すから!」
と、しどろもどろの僕に対して、
「これだから男って奴は……」
婚活サービスの関係者とは思えないほど、厳しい視線を僕に向けてくる。
こわいよルッカさん!
「ま、そんなことはどうでもいいんじゃ、お節介見合い婆的には!」
とルッカ嬢を宥めつつアルコ婆、
「要は! 男爵殿が! その娘子を【気に入ったか、否か】じゃ!」
「うっ!」
「さぁ、どうなのじゃ、ポイゾナススネイク男爵! 咲也殿!」
またもや! アルコ婆の眼力が僕を射抜く!
【嘘など通用せぬ!】とでも言わんばかりの読心眼で!
マインドシーカー・アルコ婆が、僕をロックオンして離さない!
もし、もし、ここでまた、再び災厄の龍が現れてくれたら、この見合いも破談となる。
が、その代償として、影武者は龍に喰われる。
ブラザープリンシィズの残機は確実に一機減り……僕の命も風前の灯。
望月と柚木が死んじゃったから、「当選確率」は更に上がってる!
嫌だ!
死にたくない!
僕は生きて現代へ帰るんだ!
生きて帰って、我が世の春を謳歌するんだ!
何故に異世界ライターが異世界で龍の餌食にならないといけないのか?
んなの、意味が分からん! 理不尽すぎる!
誰か!
誰か僕を救ってくれる救世主は居ないか?
災厄の龍【以外】で!
超やり手見合い婆の婚活怪進撃を止めてくれるメシアは?
「さ、ここらで観念せぇ、男爵殿……」
大聖堂の座席列は映画館やスタジアムと同じ、左右の端からのみ、出入りが可能。
その両端を、前門の婆、後門のナースに固められ、万事休す!
「理想の娘子と身を固めて所帯を持つ。それが男の幸せじゃ……男子の甲斐性よ、男爵殿」
僕の肩をポンポンと叩き、「投了」を促すアルコ婆、
後ろからはルッカ嬢、僕の首を裸締めにして、婚姻届を頬に押し当ててくる。
もはやどこにも逃げ場なし!
遂にこれまでか?
堀江咲也、異世界にて年貢の納め時か?
そう諦めかけた、その時…………………………………………
「ちょぉぉぉぉーっと待ったぁぁぁぁ!!!!」
ダスティン・ホフマンの卒業は結婚式だ。葬式じゃないよ。
そうツッコみたくなるほど、既視感たっぷりに現れた――眼鏡のエルフ美女。
聡明で美しく、知性まで兼ね備えた理想の嫁候補第一号。
「ソノ男、アタシとメオトになーる男だよ! ドウボーネコはオトトイ来やがれダーヨ!」
ジュンコ・チアチアクラシカさんの、たどたどしい王国標準語が大聖堂に響いた。
「えーと……? この場合、ダブルブッキングでは?」
ジュンコさんの立場からすれば、正式に僕から断られたワケではないんだから、優先権の主張も分からないではない。
「婚活サービス的に、これどうなの? …………アッー!」
いない!
見合い婆も、ハートフルケアマネージャーも、真っ先にトンヅラしやがった!
なんという逃げ足!
☆ ☆
「腕が千切れるかと思った……」
あの後、アナさんとジュンコさんから人間綱引きされる羽目になり……
大岡越前の居ない大岡裁きに、葬式も大混乱。
スマン、望月&柚木。
「ポイズン隊長殿! 邪教徒どもの反撃に遭ったのでありますか?」
「いや、まぁ……なんというか……」
這々の体で思想警察の屯所へと逃げ込んだ僕は、隊の衛生兵のお世話に。
ボロボロの服を見れば、大立ち回りの後と推察されても無理はない。
(くそ……あのクソ婚活サービスめ……無責任にも程がある! こうなったらネットで星1評価を撒き散らして……)
いや、ネットとか無いんだけど。異世界だし。
もし存在したのなら、あらん限りの罵詈雑言を書き連ねてやるのに!
小説家の語彙力を舐めるなよ!
(とはいえ……)
こんなダブルブッキングを招いてしまったのは、僕の責任もゼロではない。
僕がジュンコさんへ【明確に】お断りを伝えなかったから、でもある。
いくら【龍災】で、有耶無耶になってしまったとはいえ。
昔、婆ちゃんは言っていた――――
『ええが咲也? やんばいしてける人さ、ぶじょほしてらんね』
妖精さん的に訳せば「誠実に接してくれた人を、疎かにしてはいけない」ということだ。
こちらからは脈のない見合いだとしても、誠実に臨んでくれた女性には真摯に返さなくては。
礼を以って丁重に断りを入れなくては。
単にアルコ婆へ責任を丸投げすべき問題じゃない。
(だよね? 婆ちゃん!)
それが婆ちゃんから教えられた、人として正しい倫だ。異世界も元の世界も関係ない。
「キッチリと返さねば……」
施術台で手当されながら、ポツリと呟くと、
「邪教信徒どもに倍返しですか? ポイズン隊長殿?」
「あ、いや、まぁ……一応、男としてキッチリ落とし前を着けないと……」
「さすがです隊長殿!」「それでこそ隊士の誉れ!」「邪教信徒も戦々恐々ですな!」
隊士たちも稽古の手を休め、僕に称賛の拍手。
いやいやいや……派手に誤解されてるけど、僕は木刀すら握ったことないからね!
修学旅行の土産物屋でしか。
邪教徒成敗なんて夢のまた夢………
バァン!
――――そんな緩んだ雰囲気を一閃!
屯所の扉が乱暴に開かれれば、
「隊士諸君!」
空気が一気に張り詰める!
「中尉!」
突如現れた指揮官に、襟を正す隊士たち。僕も慌てて治療を中断し、上官へ向き直ると、
「朗報である! 吉報である! 慶ぶべき知らせである!」
稀代のカリスマ・テュルミー中尉が、高らかに宣言した。
次回、テュルミー中尉のもたらした「慶事」が、咲也の運命を変える??




