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第二章 2-5.5 恋のバカンス 2 - LES VACANCES DE L'AMOUR 2

『ふこうぎょうかいに、とくじゅがきてるのよ~』


 何ですか妖精さん、そのバチ当たりな特需は????

 それから数週間後……

 妖精さんの思わせぶりな言葉の意味を、僕は知ることになった。


 【龍災】という大災害で、種の保存本能(・・・・・・)が刺激されたせいだろうか?

 なんとなんと、

 僕以外の僕たちは、急かされるように縁談をまとめていった。

 出席番号五番:千葉、

 出席番号十番:嘉数、

 出席番号十一番:半場、

 出席番号十二番:水木、

 彼ら召喚同期生は、次々に現地民との結婚を果たした。

 「いつ死んでしまうか分からない」というモチベーションは、こんなにも強いのか?


「特需だ……まさに特需だ、これは」

 パルテノン神田の共用掲示板に貼られたカレンダーには、毎週末、仲間たちの結婚式&披露宴パーティの予定が記載されている。これが元の世界なら、ご祝儀貧乏で泣きが入るようなスケジュールじゃないか。

「なぁに、貴族様の縁談をまとめるなど、朝飯前じゃよ」

 と事も無げに語る、帝都一の婚活コーディネイターこと、アルコ婆。余裕の笑みである。

 そりゃこの短期間に四件もの縁談をまとめたんだ、そのカップリング能力は認めるしかない。

「ぐぬぬ……」

 アルコ婆とルッカ嬢、婚活サービスの代理人として、このパルテノン神田にも足繁く通い、ほとんど顔パスみたいな状態になってた。帝都で一番セキュリティの厳しい、王城の丘に建ってるのに。

 ほんと、只者じゃないわ、この婆さん。


「さ、片付くものも片付いた。次は……男爵殿の番じゃのぅ!」

 選りすぐりの見合い写真をジュリ扇のごとく掲げ、獲物を狙う目のアルコ婆、

「ふ……」

 そう来ると思ったよ、クソババア!

 あんたの思考は把握済みサ!

 既に、鉄壁の想定問答も完成している!


「残念ながら、アルコ婆。当方、止むに止まれぬ事情にて、承りかねます」

「ほう? 事情とな?」

 僕は自信満々にカレンダーを叩く、

 仲間の結婚式と結婚式の間に挟まれている、「もう一つのセレモニー」を指して。

「喪中につき、お断りさせて頂きます!」


 そうなのだ。

 望月と柚木が死んだのさ。とってもいい奴だったのに。

 なので、僕は「合法的に」アルコ婆の魔の手を交わすことが出来るのサ!

 サンキュー望月と柚木。不謹慎だけどサンキュー、二人とも。



 ☆ ☆



 ――『望月花王、柚木マリオ 合同葬』。

「南無妙法蓮華経……」

 帝都中央で威容を誇るマックスプランク教会、その大聖堂に木霊する木魚とお経。

 ひどく混乱した和洋折中の空間で、僕らは同期の死をいたむ。


 望月と柚木――二人の死因は性病だった。


 龍災被害による目標の喪失、その慰めを柔肌に求めた望月と柚木、

 毎夜、花街で繰り広げられた放蕩の果てに待っていたものは――――性感染症だった。

 科学の進んだ世界なら難なく快癒かいゆする疾病も、ここでは事情が異なる。

 医療の劣る社会での不特定多数との性交渉、その危険度は龍のブレスに迫る。

 望月と柚木(彼ら)も十分に承知していただろうに……結局、絶望は死に至る病、か。

 冒険者ギルドにこの人アリ! と一目置かれた、肉体自慢(元軍人コンビ)も、

 驚くほど呆気なく逝ってしまった……


 ――――絶望は死に至る病。

 明日は我が身だ。

 僕が正気を保てているのも、「必ず元の世界へ還る」という希望にすがっているからだ。

 王が秘匿する【異世界召喚の儀式】、それを入手できれば、全て解決する。

 そう信じているからこそ、堕落の沼へと沈まずに済む。

 その希望が絶たれたら、僕も死神に招かれてしまうかもしれない。


「なぁ、堀江……あれ知ってる?」

 隣に座る千葉が、僕の肩を叩いてきた。

「あの子」

 彼が指したのは……僕らの席とは離れた後方。参列者席の隅で、祈りを捧げる少女だった。

「ンンン? 見覚えないけど……」

 確かにない。見覚えはない。初対面の子だ。

「望月か柚木の知り合いか?」

「可能性あるな。もしかしたら馴染みの冒険者かもしれん」

「格好的にヒーラーっぽいし」

 意匠は似通っているが、彼女、純聖職者とは異なる戦闘用のプリースト服を着てる。

「でも可愛くない? 半端じゃなく」

「なんだよ千葉? 新婚のくせに。奥さんにチクるぞ?」

「でも実際、可愛いじゃん」

「水木……お前もマリッジブルーか? 式は来週なのに、目移りしてどうすんだよ?」

「というか葬式の最中に! お前ら不謹慎だぞ!」

 と仲間を注意しつつも……僕も彼女から目を離せなかった。

 厳かな大聖堂に馴染む、シスターのベール。

 こぼれる髪は工芸品の艶やかさで、ステンドグラスのジェイコブズ・ラダーに映えていた。


「堀江、探りを入れてこいよ」

「なんで僕が?」

「お前だけだろ、翻訳妖精が根付いてるのって」

 実際、この帝都ドラゴグラードは文字通り、人種の坩堝るつぼ

 王国標準語で話しかけても、訛りが酷くて聞き取れない、なんてことも日常茶飯事だ。

「望月か柚木の関係者だったら、お悔みくらい言ってやるべきだろ?」


挿絵(By みてみん)


これが……不幸業界の特需か!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勢いがよく、一気に最新話に追いつきました。 翻訳妖精や異世界同位体など、物珍しい設定もかなり好みです。 過去作も読ませて頂こうと思います。 [気になる点] 勢いが良すぎて少し疲れました………
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