表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/83

第二章 2-3 龍曲掃界 ポリフォニカ! - The Power of Music compels the invader

巨大な、災厄の龍に襲われた帝都!

頼みの駐留軍は都に背を向け、素人同然の自警団が犠牲者の山を作る!


果たしてこのまま、都は蹂躙されてしまうのか?

『襲いかかる巨龍バイオレンス、怪しい黒い影!』

 まるで僕のいきどおりを聴いていたかのように……()は魔法ビジョンに現れた。

『立ち向かわずして、何が王か!』


『よくやった、無辜むこの民たちよ!』

 王のねぎらいを合図に、一斉に龍から飛び退く自警団たち。

 すると朱雀大路から人影は消え――龍と王城との射線が通った(・・・・・)

 つまり?

 自警団は巨龍の侵攻を止めるために戦っていたのではなく(・・・・)

 龍を王城前へと誘導するために突っかかっていた、ということか?


『このマクシミリアン――貴様らの犠牲、決して無駄にはせぬ!』

 龍都ドラゴグラードを見下ろす特等席、王城のバルコニーで王はうたう。

『我、マクシミリアン・フォン・カストロプ・スターリング、今こそ為そう! ノブレス・オブリージュ!』

 白く荘厳な衣をひるがえし、

『楽団よ! 音を鳴らせ! 余の導きのままに!』

 従えるは、百人規模の宮廷交響楽団シンフォニーユニット。国中から選りすぐられた最高峰の演者たちである。

『響けオウケストラ! ターンナップザスピーカー!』

 オペラで言えば楽団の位置に、数十人の宮廷魔術師が陣取り、音響増幅魔法を唱える。

 電力ではなく、魔術を駆使した音響増幅装置なのだ!

『今が、その時だ!』

 ブオーッ!

 魔法アンプリファイアは巨大な音圧の塊を生み出し――暴れ龍めがけて放たれた!


 グギャーッ!


 王の音塊を浴びた龍は……藻掻き苦しむ! 巨大な手足を痙攣させ、朱雀大路で倒れ込む!

 自警団が何百人がかりでも敵わなかった暴虐の龍が――自由を失った!

 王と、その子飼いの楽団の! 音楽の力によって!


「どうだ? 災厄の龍よ? アーユーフィーリン!?」

 王城バルコニーから、苦しむ巨獣を煽りたてるマクシミリアン王。

「まだだ! もっと叫べシンフォニー! 龍曲掃界ポリフォニカ!」

 宮廷楽団の奏でる旋律は、特殊な波長で龍の聴覚を痛めつける「音響兵器」だった!

 物理攻撃では歯が立たない巨大龍、それを封じる唯一の手段なのだ!


 楽団は奏でる。

 帝都中の期待を乗せて。蹂躙に怯える人々の祈りを受けて。

 王がふるう、一心不乱の指揮に応え。

 その単調なフレーズは、音楽と呼ぶより、むしろ呪術のトランスサウンド。

 ごくごく単純な音階を飽くことなく、極上のマエストロが奏で続ける。


「グ…………グギャァァァァァ……」


 延々とリフレインされる【龍殺しのメロディムジカ・ドラゴスレイヤ】、

 見守る庶民たち、自警団も固唾かたずを呑み、徐々に徐々に弱りゆく龍を凝視する……


「よし! もう少しだ!」

「マジかよ……本当に音楽で龍を撃退できるのかよ!?」

「これか! これがあるから正規軍を首都警護から外せたのか!」

「すげぇ……まさに『王の秘密兵器』!」

 初めての「龍狩り」を目の当たりにした僕ら、ブラザープリンシィズも大興奮、

「よし! いけいけ!」

「弱ってるぞ! もう少しだ!」

 弱りゆく龍の中継を、九人全員で見守った。



 ……………………九人?


「あれ?」

「どうした? 堀江?」

「一人、足りなくないか?」


 僕らブラザープリンシィズは、当初十二人で、この世界へと召喚されたはずだ。

 王曰く「平行世界の余」という、王様と瓜二つの容姿をした十二人が。

 その中で、横手白雪は規則違反(※王との契約違反)で打ち首に処され、

 現在は小林衛がマクシミリアン帝の影武者を担っている。

 つまり、12ー2=…………

 この『帝都で最も安全な防空壕』には、十人の【召喚者】が集っていなければならないはずだ。

 なのに【僕ら】は九人しか居ない。この部屋に。


「別の防空壕に避難してるんじゃないの?」

「俺たちは国家に寄与する【上級国民】様だぞ? どうせ残りの一人も、どっかで匿われてるさ」

 千葉や柚木は「堀江は心配性が過ぎる」とでも言わんばかりの口調で。


 まぁ、彼らの言う通りかもしれない。

 僕だって、小姓軍団に発見されるまで、避難民の群衆に埋もれていたワケだし……

 ただの取り越し苦労の可能性も……


「もしかしたら、コイツだったりして?」

 と神崎は、魔法ビジョン中継を指しながら軽口を叩いた。

 この場に居ない【残り一人】こそ、今現在、対龍最終兵器たる宮廷楽団を指揮している奴なのではないか?

「……………」

 それは有り得ないと思う。

 魔法ビジョンに映る『救国の英雄』は、王様自身、あるいは現・影武者の小林衛、どちらかであるはずだ。対龍最終兵器である、楽団「龍曲掃界ポリフォニカ」を指揮する人物は。

 しかし、それは断言できない。

 僕ら【ブラザープリンシィズ】は王様と瓜二つ、

 マクシミリアン帝曰く「平行世界の自分を召喚した」ワケだから、王様の格好されたら、その真贋を見極めるのは、僕らでも不可能だ。


「まぁ、誰でもいいんじゃね?」

 薄ら笑いを浮かべながら半場が呟いた。

「コイツが小林だろうと、ここに居ない誰かであろうと、王様自身であろうと」

 自分には関係がない、とでも言わんばかりに。

「結果として、龍を撃退すれば良し。手柄は王様のもの。俺たちは、影武者役をまっとうするだけよ。その交換条件で、悠々自適の貴族生活を保証されているんだし」

「王様は名誉を獲り、俺たちは実益を取る」

「Win-Winよなー」


 ――それが僕ら召喚者ブラザープリンシィズのコンセンサスだった。

 少なくとも、この時点までは。


 しかし…………

 龍に特殊音塊を浴びせ続けること、数十分……


 プペッ!

「「「「!!!!」」」」

 一糸乱れぬ完璧な演奏に、乱れが生じた!

 管楽器の一部が、音程を外してしまったらしい!


 緊張が走る!

 見守る帝都民にも――僕らブラザープリンシィズにも――楽団や王自身にも!


 だが、さすがは国家を代表する一流のアーティストたちである。

 無事リカバーし、何事もなかったように単調なリフレインに戻った。

 全ての帝都民が胸を撫で下ろした――


 ――のも、束の間!


 今度は、突然マジックスピーカーの音量が低下した!

 世界最大のEDMフェスティバルに匹敵する、巨大な魔法音響装置が……不調に陥った!

『チィッ!』


 原因はマジックスピーカーを駆動する魔術師だ。

 人海戦術で保持してきた大音響なのに――魔力消耗が限界に達した魔術師から次々に倒れ、出力を削がれていく!


 マズい!

「グルルルルル…………」

 あと一歩で無力化できていたはずの龍が、息を吹き返し……恨み骨髄、とばかりに牙を研ぐ!

「おいおいおいおい!」

 勝利確実からの思いがけないアップセット!

 地下壕の僕らも全員、頭を抱え天を仰ぐ。


 ブォワァァァァァァァァァァァ!!!!


挿絵(By みてみん)


 怒り心頭の火炎は、地上に現れた超新星の如し。

 溜まりに溜まった鬱屈の火球が――――王城を包み込んだ!


 絶句、である。

 息も出来ず、人々は見上げていた。一兆℃の火力が王城を灼き尽くす様を。

 帝都ドラゴグラードを象徴する勇壮なシンボル()が、無残にも崩れ落ちる地獄を。


「ギョワァァァァッ!」


 不快極まる音源に制裁を加えた龍は、溜飲を下げ、

 雄大な翼を広げて、飛び去った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ