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第一章 1-15 俺の見合い相手がこんなに可愛いわけがない - My Matchmaking partner couldn't be this pretty

さて、お見合い当日。

咲也のために、お節介見合い婆こと、アルコ婆の連れてきたお相手とは……?

「ババア、やりやがった!」


 翻訳妖精は本当に優秀だ。

 会話する相手に合わせて、貴族語・庶民語・各種ローカル種族語に切り替えて、僕の脳へ直接語りかけ、あるいは発声してくれる。

 しかも、TPOに合わせて「発声(翻訳)しない」ことまで判断してくれる。


 今、僕が口走った汚い言葉は、周囲には「○▼※△☆▲※◎★●」という意味不明の音声として届いたはずだ。

 すごい、翻訳妖精さん。なんて有能なんだ!


「どうじゃ男爵殿? あまりに美しくて、言葉にもならんか?」

 ストーキングクソババアこと、アルコ婆さん、「してやったり」の顔で窺ってくる。

 そうね、

 そりゃドヤ顔にもなろうってもんだ。

 だって!

 あの!

 美化100%肖像画通りの美女が! 僕の前に立ってるんだから!


「嘘だろ……おい……」(※翻訳妖精、訳さず)

 あの肖像画(見合い写真)は、天才画家が最高級の美化を施して仕立て上げた、ほとんどフェイクの過剰宣伝画じゃなかったのか?


「ジュンコ・チアチアクラシカと申します」

 丁寧に頭を下げた彼女は、着物姿も艶やかな大和撫子……いや? 大和エルフ? エルフ撫子?

 肖像画では「森の聖女」みたいだった髪も、夜会巻きにまとめ、エキゾチックな髪飾りで色を添えている。

 完璧だ。完璧なお見合いスタイルだ。

 アルコ婆が指定した日本庭園に、何の違和感もなく馴染んでいる!

 エルフなのに!


「チッ……」

 アルコ婆と共に仲人役を務めるルッカ・オーマイハニー嬢は、苦虫を噛み潰したような顔で。

 『これだから男は……』とでも言わんばかりの。

 ジュンコさんの美しさに意味不明の呟きを繰り返す(=翻訳妖精がワザと訳していない)僕に、ほとほと呆れているらしい。


 だって仕方ないじゃないか!

 あの肖像画通りの! ルーブルとかエルミタージュに掲げられている絵から抜け出てきたみたいな美女が目の前に現れたら、そりゃビックリするよ! そうだろう?


「それじゃ、あとは若い二人にお任せしますので……」


 形式的な挨拶を済ませると、アルコ婆とルッカ嬢は席を立った。

 瀟洒しょうしゃな東屋に残されたのは、僕とジュンコさんのみ。


「…………」

 て!

 ななな何を話せばいいんだ? 初対面の女性と?

 趣味? 職業? 年収? いやいやいや、何もかも僕は嘘じゃないか!

 身分も家名も爵位も、王様から適当に配られた証書に書いてある、嘘八百だ!

 そんなもので何が分かるというのか?


『ぶちこわーす! んじゃなかったの~?』


「はっ!」

 そうだった!

 なに上手く立ち回ろうとしてるんだ? 僕は?

 これは上手く行っては「いけない」話じゃないか!

 ありがとう翻訳妖精さん! ついウッカリを初心を忘れるところだった!


「初めまして男爵様、本日はお日柄もよく……」

「ええ、まさか仏滅の日に見合いを設定するとか、あの仲人、何を考えているのか……」

 強引にでも、気まずい方向へ会話を誘導せねば……


 ところが、僕の目論見もくろみに反して……

「あら? 確か今日は大安でしたよね?」

「え、エルフ文化にも六曜ってあるんだ?」

「エルフの暦にはありませんけど、王国標準暦には書いてありますから」

 意外にもジュンコさん、的確に話題を合わせてきた。

「エルフの暦とは?」

「私たちエルフは深い森の民なので、月の満ち欠けで暦を設定しているんですよ」

「太陰暦か……じゃあ、うるう年はどうやって設定するんです?」

 この世界が並行世界=天文条件が同じだとすれば、地球の公転周期は365.242日。

 対して太陰暦の一年は、354.367日だから……

 月の満ち欠けを基準にすると、約十一日ほど、太陽暦の一年には足りなくなるはず。

「季節のズレを調整するため、だいたい三年に一回、閏月が設定されるんです」

「なるほど」

「でも厳密に三年に一回じゃないですよ。十九年に七回です」

「メトン周期だ!」

 すごいな、このエルフさん、メトン周期を知ってるのか!


 …………って……

 お見合いの席でする話じゃない。

 ついつい、調子に乗って話を膨らませてしまったが……

 いや、これは破談計画なのだから、それでいいんだけど。


「うふふ……」

 しかし、お相手のジュンコさん、満面の笑みで応えてくれる。

「楽しいですか?」

 こんな色気のない話で?

「ええ、とっても…………だって、こんなにエルフ語を話せたのは何年ぶりか分かりません」

「あ……」


『かなり特殊めの辺境エルフ語に変換中よ~』

 さすが高性能! 翻訳妖精さん、気づかぬ間に自動チューニングしてくれていたのか……


「私、大人になってから都へ越して来たので……日常会話にも苦労しまして……」

「なるほど……」

「久しぶりに『自分の言葉で』話せるのが、こんなに楽しいなんて! 自分でも驚いてます!」


 東屋を離れて庭園を散策する僕ら、

 木漏れ日の下、踊り出しそうなジュンコさん、

 竹林生い茂る日本庭園でも、エルフには森が似合う。可憐で無邪気な姿を目で追ってしまうよ。


 というか……美しいだけでなく、性格も穏やかで、頭脳も明晰、理性的。

 正直、「嫁候補」として判断するなら、非の打ち所がない。

 こんな素敵な人、現代へ帰ってから必死に婚活しても、絶対に出会える気がしないわ……


『ええんか~、そのモノローグ、ぜんぶ翻訳してええんか~? ええのんか~?』

 だ、だめに決まってるでしょ妖精さん!

 モノローグまで翻訳するとか、反則にも程がある! 一人称ライトノベルじゃないんだから!


 てか「僕には勿体ないほどの嫁候補」に見惚れていてはいけない! 初心忘るべからず!

 これは【約束された破局の宴】だから!

 【絶対に成功してはいけないお見合い二十四時】だから!

 相手が誰であれ! いい雰囲気になるなど、言語道断である!


「ジュンコさん……」

「はい?」

 僕は――泣いて馬謖ばしょくを斬らねばならない! どんな美女を前にしても!

「一つ、お尋ねしたいことがあるんですが――――」


 ☆ ☆


 話は昨夜に遡る。


『ところがねー、そうでもないのよ~』

 翻訳妖精さんが語る【とんでもない美人が、引く手数多にならない理由】とは?

『龍都ドラゴグラードは~、じんしゅのるつぼなのよ~』

 はぁ? ドラゴグラードはニューヨークみたいなもんですか?

『のんのん。じんしゅの概念が、ちが~う~』

 あ、そっか。


 ここは異世界である。

 街中をフラリと歩くだけで、ツノや尻尾の生えた獣人種が闊歩かっぽしている。

 人間種だって、姿形が明確に異なるドワーフや精霊種が混在して、普通に社会生活を営んでる。

 「雑多」のレベルが、僕らの世界とは大きく異なる。

 ボトルネック効果で多様性が失われた人類とは、別の過程を経てきた世界なのだ。この世界は。


『じんしゅが異なると~、縁組がむずかしいのよ~』

 確かに。

 言われてみれば、妖精さんの言う通り。

 異人種間でライフサイクルが異なるほどの差異が存在すれば、婚姻そのものが成り立たない。


 それこそ、この龍都で【とんでもない美人が、引く手数多にならない理由】か……


 ☆ ☆


 つまり、この見合いには【必ず、話を破談に持っていける問い】が存在するのだ。

 絶対破談の秘策が、僕には有る!


「ジュンコさん、あなたはエルフ族ですね?」

「はい」

「エルフは、かなりの長命種と聞きますが……僕は人間です。高確率で、僕が先に老いて死ぬでしょう。それを承知で、この縁談を受けたのですか?」

※補足:あくまで並行世界の地球なので、メトン周期はありまぁす(cv小保方晴子)。

 社会構造や人種構成が大きく異なりますが。


※特に要らない情報:ミランコビッチ・サイクルもありまぁす。


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