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騎神伝  作者: 一一【ニノマエ ハジメ】
出会い
9/56

華麗なる一族3

  13時42分 オフィス街 公道

 

 橘は悔し涙を拭い、スマホを取り出し何処かへ電話をかける。

「橘です。以前よりお願いしていた例の件ですが・・・頼めますか?」

 

 

 ーー5 風の用心棒 ーー

 14時00分 〇〇ビルエントランス前 緑化スペース

 

 海の槍が翼を貫く寸前、胸部への衝撃と共に海の体は宙を舞い、10m離れた地面に叩きつけられる。

 突然の出来事に一瞬呆気にとられるも、胸の痛みで我に帰り直ぐに立ち上がる海

 そこで目にしたのは翼の隣に立つ不気味な仮面とハットを被った騎神【風虎棒】の姿だった。

 

 白と黒を基調にした胴着のような服に白い手袋、レリーフの彫られた棒を持つ、長身の騎神

 

 突然の出来事に腰を抜かし動けないでいる翼に仮面の騎神は手を差し伸べる。

「大丈夫ですかボッチャン?」聴き慣れない声と聴き慣れない呼称に警戒する翼に仮面の騎神は小切手を取り出し翼にみせる。

「俺は橘さんに雇われた用心棒みたいな者です。一応自分の身を守るために顔は隠させてもらってますが、腕には自信がある。ボッチャンがビビって騎神を殺せないから代わりに騎神を始末するよう仰せつかってます。

 あー、名前は・・・ヒュウガマンとでも呼んでください!」ヒュウガマンが見せた小切手は確かに北条院財閥の物で、高額な金額と共に橘のサインが書いてあった。

「橘さんが・・・」震える声で呟く翼を尻目にヒュウガマンが前に出る。

「まあ、ここは俺が殺っとくんで、ボッチャンはお下りください。」棒を脇に構え海を見据えるヒュウガマンに対し、身構える海

 

 

 

 一瞬だった。

 瞬き一つする間にヤツは視界から消え、気付けば俺の体は宙を舞っていた。

 そうかと思えば上から棒で叩き落とされ、地面に叩きつけられて直ぐに蹴りの応酬

 ガードしながらなんとか立ち上がっても、視界に入るのは不気味な仮面と目の穴から覗く冷酷な瞳

 最後に強烈なアッパーカットが俺の顎を貫き、また俺の体が宙に舞う。

 頭から落ちて脳震盪をおこしたらしい、でも朦朧とする意識の中でも、くぐもった爆発音と焦げ臭い匂いは感じた。

 


 

「おい藤堂!起きろ!手貸せ!!」海は闘気のビンタで目を覚ます。

 起きてすぐに目に入ったのは自分同様ヒュウガマンに蹂躙される竜馬の姿だった。

「高圧水流で援護しろ!その隙に俺と竜馬で殺る!」闘気は斬撃を飛ばしながら斬りかかるが、ヒュウガマンは竜馬の攻撃を去なしながら迫る斬撃と水流を叩き落とす。

そして斬りかかる闘気の刀を去なすついでに足を払い、倒れた闘気に棒術を叩きつけるがそれを竜馬が受け止め、その隙に闘気が刀を振るうもヒュウガマンは一瞬で後退する。

 

 流れるような棒術に歯が立たず防戦一方の三人に対し、顔は見えないが余裕そうなヒュウガマン、その強さに海は二人に提案する。

 

「山城・白金、トカゲの尻尾だ。」

「あぁ!?」「何言ってんの!?」

「元々そういう話だったろ、俺が囮になる。その隙にお前らは逃げろ。

 俺はトカゲの尻尾なんだろ?山城!」闘気の目を見て話す海と目を合わせられない闘気

「ダメだよ!」二人に割って入る竜馬

「オッチャンに「生きろ!」って言われたんだから生きなきゃ、僕らの前にオッチャンに借りを返さなきゃでしょ?」竜馬は闘気の隣に移動し、闘気と剣を合わせ始める。

 

「おいバカ、何する気だ!」

「こういう時は新しい技が活躍する絶好の機会でしょ!!」そう言いながら闘気の刀と自分の剣を無理やりヒュウガマンに向け突きつける竜馬

「おいやめろ!こんな時にバカなこと考えんな!漫画じゃねぇんだよ!!」

「大丈夫!追い詰められたらなんだってできんだって!!」

「そんなに追い詰められて無ぇんだよ!!」闘気の制止も聞かず竜馬は剣に力を込める。

「やめろーーーーーーーー!!!!」

「新・合体新必殺技!こくえ・・・・」大爆発と共に二人はそれぞれ東西に吹き飛ばされ、残されたのは大きなクレーターだけだった。


 その様子を見てヒュウガマンは大笑い

「雑魚が助けに来たかと思ったら、何がしたいんだお前らは・・・まぁいい、余興はここまでだ。

 ボッチャン、俺の実力は今のでわかってもらえたと思うんで、コイツら片付けたらゆっくり今後のギャラの話でもしましょう。」

 翼はヒュウガマンの後ろでずっと考え込んでいた。

 自分の信頼する橘の雇ったヒュウガマンという存在に対し翼は強い嫌悪感を抱き始めていた。

 

 

 

 ーー6 不殺の信念 ーー

 

 僕の考えの甘さがこの事態を引き起こした・・・

 誰も殺したくない

 誰も傷つけたくない

 それでも生きたい

 そんなわがままを叶えるために騎神を雇って僕の代わりに戦わせる・・・橘さんなら思い付きそうなことだ。

 彼が騎神を倒せば僕が手を汚さずに済むし、戦うのは彼だから僕は誰も傷つけないで済む、彼が戦い続ける限り僕に危険が及ぶ事は無い。 確かに僕の要望を全て満たしている。

 ヒュウガマンからしても僕を守ることで高額な報酬と騎神の能力強化も同時に行え一石二鳥、互いに利のあるWin-Winな関係と言える。

 

 でも、それは僕自身の意思じゃない!

『全ては、未来の北条院財閥のため』

 財閥のために僕がいるんじゃない

 僕は北条院翼、一人の人間だ!

 

 ごめんなさい橘さん、せっかくのお気遣いですが・・・それでも僕は・・・・・

 

 

 

「風見の一矢!」ヒュウガマンの背後から放たれた一矢は海と戦うヒュウガマンの背中向け直進する。

 背後から迫る一矢、戦い続けるヒュウガマンは背後に迫る風を感じた。

 すぐさま揉み合っていた海を払い飛ばし背後を確認すると、そこには風を吸収した一矢が地面に突き刺さっているのを見つける。

 次の瞬間、一矢が吸収した風を一気に解放し無数のかまいたちがヒュウガマンを襲う。

 

 ヒュウガマンは咄嗟に風の防壁を作り防御、少し袖を破る程度でヒュウガマン自身は無傷だった。

「なんのつもりです、ボッチャン?」余裕の佇まいながらも驚きを隠せない様子のヒュウガマン

「僕はあなたを雇うつもりはありません。申し訳ありませんが、退いてください!」弓の弦を引き絞りヒュウガマンに突きつける。

「人を殺せないボッチャンに、俺を討てると思いますか?」突きつけられた矢に全く怯む様子の無いヒュウガマン、背後から来る海の攻撃も難無く躱し戦闘を再開する。

 

「討てません。ですが、信じています。あなたの実力なら討とうとしても討てないと!」翼の放った矢は真っ直ぐヒュウガマンの心臓目掛け進んでいく、すぐさま振り向き様に矢を弾き飛ばすヒュウガマン

 その隙に海が槍を突き立てるも躱され反撃を受ける。

 海への猛攻の隙間を縫うように再度矢が放たれる。

 翼の絶妙なタイミングで放たれる矢によりヒュウガマンは攻めあぐね海を仕止めきれず苛立ち始める。

 

 そこへ東と西から火の玉と斬撃が飛んでくる。

 ヒュウガマンは自分への直撃コースでは無いと分かるとそれらを無視した。

 すると的外れな位置で二つの攻撃がぶつかり合った次の瞬間、ぶつかり合う火の玉と斬撃を竜馬が大剣でフルスイング、撃ち抜かれた火の玉と斬撃はヒュウガマン向け迫る。

 

 北に海、南に翼、東から竜馬、西からは十中八苦闘気が現れる。東西南北を囲まれ苛立ちが頂点に達したヒュウガマンは風の力を凝縮した棒を地面に突き立てた。

 その瞬間、突き立てられた地面から衝撃波と同時に無数のかまいたちが周囲に拡散、竜馬が打った攻撃は無数のかまいたちによって雲散霧消、なおかつ翼のものと違い数も大きさも段違いのヒュウガマンのかまいたちは、無差別に竜馬たちに襲いかかる。

 

 そして、それは翼も例外ではなかった。 

 

 

 

  ーー7 執事の誤算 ーー


 ヒュウガマンの無差別攻撃に四肢から血を流しその場に蹲る三人の騎神

 

 ヒュウガマンは蹲る翼の前にしゃがみこみ話かける。

「ボッチャン!あまり俺をイラつかせないほうがいい、さっき見せた小切手はほんの前金です。

 ボッチャンを騎神の戦いから生きて帰す、無事に帰せば報酬としてあの倍額が支払われる約束です。

 だが、守るべきボッチャンがその態度じゃね〜

 俺は別にいいんですよ?前金だけでも十分儲けた。ボッチャンとここに居る全員始末して、他のおぼっちゃまに鞍替えしたっていいんだ。どうしますボッチャン?」


「言ったでしょ!お断りします。」ヒュウガマンの目を真っ直ぐ睨みつけ言い放つ翼、その表情を見て鼻で笑うヒュウガマン

「では、契約破棄ということで・・・本日はご利用いただき誠にありがとうございました!」ヒュウガマンは翼に止めを刺そうと棒を叩きつける。


 が、そこに黒い刃が割って入る。

「その報酬ってな、いくらになるんだい?」離れた場所にいたため無傷だった闘気はニヤケ面でヒュウガマンに問う。

 ヒュウガマンはその表情にイラッとしたようで闘気を突風で払い飛ばした。

 宙に飛ばされた闘気は体勢を捻りヒュウガマンに向け斬撃を飛ばす。ヒュウガマンが斬撃に気をとられている隙に翼は後退、矢を放つがヒュウガマンは背後に竜巻を発生させ矢を跳ね返す。

 翼に迫る矢を今度は大剣が叩き落とす。

「で、次はどうすんの闘気?」

「逃げる!」闘気のこの言葉の意味に気付き竜馬は海が居た場所に目をやるが、そこに海は居らず、そこには水溜りがあるだけだった。

「闘気!」「行け!!」闘気の言葉に歯を食いしばり涙目になりながら翼を連れて逃げる竜馬

 翼には竜馬がなぜそんな顔をするのかこの時はまだ分かっていなかった。


 逃げようとする二人に一瞬で追いつき背後から襲い掛かるヒュウガマンだったが、天空から聞こえてくる風を切る音に気付く。

 見上げた先にあったのは迫りくる三叉槍と海だった。

 翔水一擲を槍を持ったまま発動しヒュウガマンに突進する。

 だが、ヒュウガマンは風の力を込めた棒で海もろとも弾き飛ばす。

 

 海の突貫を退けたヒュウガマンだったが、そこにはもう竜馬と翼は居らず、闘気も姿を消していた。残るは弾き飛ばされて地面に横たわる海のみ・・・

「なるほど・・・トカゲの尻尾ねぇ・・・」ヒュウガマンが呟くなか、ボロボロの海は槍を杖代わりになんとか立ち上がり構える。

 

 ヒュウガマンは仲間に見捨てられても尚戦おうとする海の姿勢に、呆れ果てたように失笑する。

「なんなんだお前、そこまでする意味あんのか?いいように利用されて切り捨てられてんだぞ?」満身創痍の海にゆっくりと歩み寄るヒュウガマン「まぁいいや前金もあるし、今日の収穫はお前一人だ。おつかれさん!」力を込めた棒が海目掛けて振り下ろされるその瞬間

 

「待ってください!!」翼の声がこだまする。

 

 

 ーー8 浮世の沙汰も金次第 ーー

 

「おやおやボッチャン、コイツらがせっかく逃してくれたのに戻って来るとは(笑)契約の再検討ですか?それともご自分の命一つでこの騎神を助けたいとか?」

「もちろん前者です。僕らが生き残るためにはそれしかありませんから!」

「よくおわかりで・・・だが、ボッチャン以外の騎神を見逃すとなると話は別だ。

 元々橘さんとの契約内容は、ボッチャンを狙う騎神を倒してボッチャンを守ることが条件だ。ボッチャンを守ることで報酬を得られ、尚且つ騎神を倒して力も得られる。俺にとって損のないおいしい仕事だったはず、でもその内容を突然変えられてもねぇ」勿体ぶった態度で話すヒュウガマンに対し、翼は毅然とした態度で話す。

 

「十倍でどうですか?」翼の提示額に驚くヒュウガマン「本気ですかボッチャン!?」

「ええ、橘さんが提示した報酬の十倍をお支払いします。その代わり・・・」

「その代わり?」

「二度と僕の前に現れないと約束してください!」翼の変更内容に『なるほど』と深くうなずいたヒュウガマン

 少し考えた後に「いいでしょう!一度の仕事でそれだけ稼げりゃこっちは文句無いですよ。ただ、送金の方は必ずお願いしますよ!もし送金が一日でも遅れたり、送金額が一円でも少ない場合は、ボッチャン諸共屋敷の使用人全員を血祭りにあげる事になる。

 それができることもお分かり頂けたはずですから・・・」ヒュウガマンの脅しを含めた確認に翼は苛立ちを抑えながら承諾する。

「それでは本日はご利用ありがとうございました。」ヒュウガマンはピエロのような大仰なお辞儀をし、風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまった。

 

 

 ヒュウガマンが居なくなったことで満身創痍の海は力なくその場に倒れ込む。そこに竜馬が駆け寄り肩を貸す。

「白金・・・俺は、あんなヤツに助けられたのか?」

「あんなヤツって、一応命の恩人なんだからそんなこと言っちゃダメだよ」隣で呟く海に竜馬は苦笑いしながら歩き出す。

 

 そんな二人を見て翼は呟く

「皆さんは、お互いを信頼されてるんですね」「あ?」翼の隣でタバコを手に話を聞く闘気

「騎神同志あーやって手を取り合って助け合う。素晴らしいと思います。」羨ましそうに海と竜馬を見つめる翼

 闘気はそれを鼻で笑い、タバコに火をつけながら思う『温室育ちで平和ボケのおぼっちゃんか・・・』



 14時30分 四人はその場を後にする。

 

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