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騎神伝  作者: 一一【ニノマエ ハジメ】
出会い
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華麗なる一族2

 13時40分 オフィス街 建設中のビル

 

「藤堂!アレ持って来てくれ!」「うっす」 地上20mの高所、鉄筋コンクリートの骨組みの上で行われる重労働に汗を流す海

 そんな中、遥か下から女性の叫びが聞こえてくる「キャーーー誰か、そのひったくり捕まえてーー!」声を聞きすぐに骨組みから下を覗く作業員達

 そこには目にも止まらぬ速さで動く人影とそれを追う高級車

 そしてそこから身を乗り出した少年が姿を変えた瞬間、逃げる人影と少年が騎神であると確信し海は地上20mから身を投げた。

 

 

 

 ーー3 守る為の逃走 ーー

 

 怯む翼に海は槍を向け構えると、動けない翼に襲いかかる。その瞬間、橘が車のアクセルを踏み抜き、タイヤが擦れるけたたましい音とともに翼を乗せた車が走り出す。

 勢いで海は投げ飛ばされるがすぐに起き上がり、槍の石突きを地面に突き立て、そこから高圧水流を発射

 水圧の勢いで飛び上がり車に追いついた海は再び翼に襲いかかる。

 突き立てられた槍を翼は弓で受け止めるが、不安定な車の上でバランスを崩し道路に投げ出されてしまった。

 

「翼様!」慌てて急ブレーキをかける橘だったが、そこに他の車が追突

「橘さん!!」翼が心配する中、なんとか車から脱出した橘に翼は「よかった・・・」と呟くが、すぐに海が襲いかかってくる。

 海の攻撃を避けながら翼は「橘さん逃げてください」と言い残し海の攻撃の隙をついて逃走、海がそれを追う。

 取り残された橘は追いかけようとするが、追突された衝撃で脚を痛めたらしく、膝から崩れ落ちてしまう。

 橘は痛めた脚を殴り悔し涙を流した。

 


 人通りの多いオフィス街を二人の騎神が駆け抜ける。

『よし、これで橘さんから引き離すことができた。あとは僕がどう動くか・・・生き残る為の最善の手段は・・・ここだ!』翼は弓を構えながら振り向き海の頭上の看板を吊す鎖を射抜いた。

 落下する看板に驚き海が一瞬脚を止めた隙に逃げ果そうとするがそこはオフィス街、広く開けた道に点在するビル、隠れる場所もなければ、顔も見られ人に紛れることもできない。結果的に距離を開ける程度のことしかできなかった。

 

 

 

 コイツは一体何がしたいんだ?

 騎神のくせに俺と戦おうともせず逃げてばかり・・・弓矢使ってんならさっきの隙を狙えば俺を倒せたのにしなかった。

 命中率が低いとは思えない、あの距離から看板の鎖を狙い撃てる奴が俺を射抜けないわけがない・・・じゃあ、なんでだ・・・・

 

 

 

 翼の行動に疑問を持ちながら追いかける海、互いに高圧水流と矢で牽制しあうが、どちらも当たらない。

 そのうち翼は開けた場所に出て脚を止める。

 

 

 

 ーー4 風の結界 ーー 

 13時45分 〇〇ビルエントランス前 緑化スペース

 

 そこはビル群の中心、緑化プロジェクトの一つとして作られた公園で、普段はサラリーマンやOLがランチなどで集まる場所

 

 その中心で翼は弓を構え海を迎え撃つ

 

 翼の行動に警戒する海は距離をとって槍を構える。

 終始無言で対峙する二人、そこで聞こえるのは風の音だけ・・・互いに相手の出方を伺う中、先に動いたのは翼

 

 弦から矢が放たれ真っ直ぐ海の顔面へ飛んでいく

 しかし十分距離を取り、なおかつ翼を視界に捕らえた状態で直線的に放たれた矢では海に届くよりも早く槍で弾かれてしまう。

 そこへ間を置かず矢を放ち続ける翼、次々と向かってくる矢を海は目視で捉え、槍で弾いたり体捌きで回避しながら翼に捻り寄る。

 

 翼の放つ最後の矢が海の槍に貫かれ粉砕された時、海と翼の間の距離は半歩ほどしか無かった。

 海の槍が翼を貫こうとしたその瞬間、一本の矢が槍を持つ海の右腕を弾いた。

 

 弾かれた衝撃で槍を手放す海、その隙を突いて再度弓を構えた翼に反応し急いで距離を取る海

 落とした槍を取りにいくが、その手前に次々と矢が突き刺さる。

「退いて下さい!」翼の注意喚起に脚を止める海、周りをみると周囲を小さな竜巻に囲まれていることに気付く。

 しかもその中にはいくつもの矢が竜巻の中を旋風に乗って旋回していた。


「まさか・・・」

「ええ、能力を使って周囲の風をコントロールして作りました。

 あなたが回避した矢を全てあの竜巻に飲み込ませ、入射角や射速を変化させてあなたに放つことができます。

 今あなたは僕の作った風の結界の中にいます。武器を手放したことで騎神の能力は使えませんし、こちらはいつでもあなたを狙い撃てます。

 これ以上の戦いは無意味です、退いてください!」

「なぜ俺を殺さない・・・騎神である以上自分以外の騎神は全て敵だ、敵である俺を殺して力を得なければ生き残れない。なのになぜ!!」殺さない理由を問う海に、翼は顔を曇らせながら答える。

 

「僕は・・・たとえ騎神だとしても誰かが傷つく姿を見たくありません・・・誰かを傷つけるのも嫌ですし、殺すなんて絶対にしたくありません!!

 だから・・・誰も殺さない!生き残るために戦うことはあっても、誰も殺さずに僕は生き残ってみせる!!!」翼の言葉に海はゆっくり立ち上がり「・・・じゃねえよ・・・」海は微かに言葉を漏らした。

「えっ?」海の言葉が聞き取れずしかめる翼

「舐めたこと言ってんじゃねえよ!!」怒りの形相で向かってくる海、その迫力に気圧され咄嗟に矢を放つも的外れの方向に飛んで行き、視界に迫るのは海の拳。

 

『バキッ』海に殴られ倒れ込む翼、生まれて初めての出来事に呆然とする中、遅れてくる痛みに怯えながら海を見上げる。

「俺達は命懸けの戦いをやってるんだ。少し優位に立っただけで調子に乗ってんじゃねえよ!!」海は翼に怒声を上げながら槍を拾い穂先を突きつけ言い放つ。

「次は殺ろす気で来い!!」海の気迫に息を飲み立ち上がる翼

 その瞳は気迫に満ち真っ直ぐ海を見詰める。

 弓を持つ手に自然と力が入り、ゆっくりと弦を引き絞る。

 その様子を見て海も槍を構え迎撃態勢を取る。

 

 互いに攻めるタイミングを見計らい睨み合う両者

 一瞬の沈黙の後、先に動いたのは海

 

 高圧水流で牽制しつつ接近、翼の構えた弓を槍でなぎ払い翼を蹴り飛ばす。

 その場で尻餅をつく翼、その隙に海は高圧水流で高く飛び上がる。

「翔水一擲」太陽を背に天高くから迫る槍、翼は避けようとするも間に合わない、万事休すの中翼は死を覚悟して目を閉じた。

 

 

 真っ暗な世界、痛みも苦しみも何も感じない世界、あるのは死への恐怖だけ・・・翼は恐る恐る目を開ける。

 そこには足元に深く突き刺さる一本の槍

「えっ?」目の前の状況が理解できず呆然とする翼、そこに海が降り立ち言い放つ

「これでさっきのはチャラだ。次は殺ろす」槍を引き抜き構える海、翼は我に返ると急いで弓を手に取り構える。

 

『僕は何て愚かなんだ、この人の言う通り騎神になった以上戦いは避けられない。そして・・・生き残るためには、時に非情さも必要なんだ!!』

「必殺・風見の一矢(かざみのいっし)」翼が放った矢は周囲の風を吸収しながら直進、矢は海の顔面ギリギリを通り抜け、その先にあった木に命中

 矢が吸収した風が一気に解放され、周囲に無数のかまいたちが発生、木は木っ端微塵に吹き飛び大小様々な木片が飛び散った。

 

 

 翼はその場に膝から崩れ落ち大粒の涙をこぼす。

「僕には・・・できません・・・・・」震える翼を見て海はゆっくりと近づき、槍の穂先を下に持ち替えた。

 海を見上げる翼の泣き顔を前に海は「言いたいことはそれだけか?」翼は何も言わずゆっくりと瞳を閉じる。


 海は翼に三叉の刃を突き立てた。 

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