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騎神伝  作者: 一一【ニノマエ ハジメ】
出会い
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華麗なる一族1

 7時30分 名楠町内国道


 多くの車が行き交う朝のラッシュアワー、人々が眠い目を擦り運転する中ラジオから交通情報が流れる。

「前日に起きた謎の巨木の倒壊により破損した道路の修繕工事が行われている影響で、国道○号線が一部車線通行止めのため渋滞が発生しています。」


 この渋滞にはまる一台の高級車



 ーー1 華麗なる通学 ーー


 運転するのは黒の燕尾服を着こなす銀縁眼鏡の紳士 橘真人たちばなまさと(28)

 渋滞にはまりながらも狼狽(うろたえ)ることなく落ち着いた様子でハンドルを握る姿は気品と余裕に満ち溢れている。


 広い後部座席には薄茶色の色素の薄い瞳に、淡い髪色の日本人離れした端正な顔立ちをした小柄な少年が一人 北条院翼ほうじょういんつばさ(14)

 落ち着いた様子で本を読み、そばに置かれた程良く冷めたミルクティーからほのかに香る甘い香りが車内を包む。


 橘は北条院家の執事で翼の教育係兼専属執事、翼が幼い頃から仕えているため翼は橘に全幅の信頼を寄せている。


 橘は時間を確認して、頭の中でルートを模索しながら到着予定時刻を翼に報告する。

「翼様、申し訳ありません。到着が少し遅れて8時45分頃になると思います。」

「問題ありません、橘さんにお任せします。」翼は本を読みながら丁寧な口調で返し、橘は軽い会釈を返す。


 渋滞を少しずつ進んで行くとそのうち公園の前に差し掛かる。

 橘がおもむろにバックミラー越しに翼を見ると、翼が本を読むのをやめ公園の方を見つめていた。

 視線の先にあったのはグランドの中心で向かい合う三人の騎神・・・竜馬と闘気、そして海

 翼の大きな瞳が見つめる中、三人が動く。




「いくよ、闘気!」楽しそうに闘気に合図を出す竜馬に、闘気はやる気なさそうに「ヘイヘイ・・・」と答える。

 隣り立つ竜馬と闘気が互いの武器を重ね合わせ力を込める。

 それに対し海は槍を構え防御体勢をとる。

「いくよ海さん!新必殺技!!黒え・・・」竜馬が技名を言い終わるより早く、重ね合わせた力が暴発し爆発

 竜馬と闘気は吹き飛ばされ、対峙する海は茫然と立ち尽くし無傷

 一方、吹き飛ばされた竜馬は目を回し、闘気はこめかみに血管を浮き上がらせながら竜馬に近づき蹴りを入れた。

「何が新必殺技だ!あんなもん失敗するに決まってんだろーが!!」闘気の蹴りで目を覚ました竜馬は不思議そうに起き上がり頭を掻く

「あれ?なんでだ・・・こういうのって、なんとなくいい感じに力が混ざって凄い技になるんじゃないの?」なんの根拠も無い思い付きに巻き込まれた闘気はこめかみの血管を更に太く浮き上がらせる。それを見た竜馬は一目散に逃げて行き闘気は刀を振り上げそれを追う。

「バカらしい・・・寝る。」海は呆れ果てプレハブに戻った。



 公園の様子を見ていた翼は寂しそうに読書を再開する。その後、渋滞を抜けた橘は目的地へと急いだ。




 とある山道、その先にある門には厳重なセキュリティー

 セキュリティーを抜けた先の道を走るのはどれも滅多にお目にかかれないような高級車の数々、その先にある広大な敷地内には数々の煌びやかな建築物と至る所に飾られた彫刻、噴水や花畑


 ここは私立桜蘭(おうらん)学園、広大な敷地内に幼等部・小等部・中等部・高等部があり、こことは別の場所に附属大学まである一貫校、ここで学ぶ生徒の多くが国内有数の資産家の子息という世に言う『超お金持ち学校』




 8時45分 私立桜蘭学園中等部正門


 予測通りの時間に到着した橘は後部座席の扉を開け翼に学校鞄を手渡す。

「いってらっしゃいませ」頭を深々と下げ翼を送り出す橘

 校舎へ向かう翼の後ろ姿は凛としながらもどこか虚げに見えた。



 私立桜蘭学園・・・生徒達全員が名のある企業・財閥の御子息であり、どの家の御子息かによってクラスのポジションが決まってしまう。一人一人誰がどんな人間かなどどうでもいいのだ。

 こうやって離れて彼らを見ていると息苦しさを感じてしまう。

 我々執事にとって主人のそんな姿はあまり見たく無いものです。


 特に翼様は日本経済界のトップたる【北条院財閥の御曹子】という肩書きがクラスひいては学園全体、いや日本経済そのものに影響を与えかねない存在として扱われ、それが翼様を孤独にさせている・・・。


 生徒・教職員の全てが翼様を見るなり深々と頭を下げて道を譲り、話せば何処かヨソヨソしい丁寧語と謙譲語が並べ立てられる。

 彼らは決して翼様を仲間外れにしたりイジメているわけではありませんが、翼様との間に一定の距離を保っている。


 それは生徒たちにとって企業・財閥・家の代表としての責任感によるものであり、教師たちにとっては今の地位・名誉を守るための防衛でもある。

 皆、この肩書きに怯えるあまり、肩書きに支配され翼様個人を見ようとしないでいる。

 翼様が真に求めているものはここには無い


 いや・・・どこにも存在し無いのかもしれない・・・・・ 



 18時30分 帰宅


 学校も終わり朝同様、橘の車で帰宅する翼

 橘が自宅である大きな洋館の扉を開くと「「翼様、お帰りなさいませ」」ズラリと並ぶ使用人たちが深々と頭を下げて出迎える。

 翼は「ただいま」とだけ呟きカバンをメイドに渡し書斎へ向かう。


 書斎といっても中はほぼ図書館同様、広い部屋を所狭しと巨大な本棚が並べられ、膨大な量の書籍が本棚を埋め尽くす。

 翼は入るなり本を物色し、手頃な本を手に取るとソファーに腰掛け読書にふける。


 すると扉の隙間から翼を見つめる人影

「翼様、今日は何を読んでらっしゃるのかしら?」

「先日は夏目漱石の『こころ』を読まれてましたから・・・同じ時代の本を手に取られたんじゃなくて?」

「相変わらず、読書されてるお姿も愛らしく凛々しいわ〜」数名のメイドたちが隙間から翼を覗き見していた。

 翼はその端正な顔立ちと小さく細い身体からショタ好きメイドたちからの人気が高く、覗き見されていることが多い、そんなメイドたちにとって翼の存在は()()であり、()()でもあった。


「何をされているのですか?あなた方は」メイドたちは背後から突然現れた橘にびっくりして腰を抜かす。

「「しっ失礼しました!」」とその場を立ち去るメイドたちを尻目に「まったく・・・」と小言を言いつつティーセット片手に書斎の扉をノックする。


 橘はティーセットを翼が取りやすい位置に置くと、スケジュール帳を取り出す。

「翼様、明日の日程ですが、午前10時に役員会議、その後会食、14時より新規事業のプレゼンテーション、その後経産相主宰の懇親会出席となっておりますが、変更等はありませんか?」

「ええ、予定通りでお願いします。」

「かしこまりました。それと夕食は20時を予定しております。そちらを読み終える頃には調度いいかと・・・」橘はそう言い残し書斎を後にする。

 その後翼が本を読み終えたのは19時58分、橘の予想通りの時間であった。





 ーー2 多忙なる一日 ーー 

 13時30分 オフィス街 北条院財閥所有ビル


 役員会議と会食を終え、次のプレゼン会場に向かう翼と橘

 煌びやかなエントランスを抜け車に乗り込むと入り口前に中年・老年の役員たちが横並びになって頭を深々と下げ見送る。14歳の少年に親程歳の離れた大人たちが頭を下げる異常な状況だが、役員たちは誰一人として不満を漏らさない

 それどころか彼らは清々しい笑顔で翼を見送っていた。


「翼様、申し訳ありません。会食の方が少々伸びてしまいましたので、次のプレゼンは途中からの参加になってしまいます」運転しながら翼に予定変更を報告する橘

「すいません、皆さんのお話に聞き入ってしまいました。やはり人生経験豊富な方達の経験談や失敗談・処世術というのは大変勉強になりますね。」翼は北条院財閥傘下の会社数社の経営を任せられている。

 任された当初は小さな会社でしかなかったが翼の行った人事により経営が上向き、年々成長し続けている。


 翼の人事は他の北条院財閥内の企業からリストラされた社員を多く登用し、翼自ら品定めして一人一人の能力にあった部署に割り当てていくというもの、その際の翼の先見の明たるや神がかっていた。

 翼の人事で入社した社員のほとんどが画期的なプロジェクト・製品を発案・制作し結果を出して行った。


 一度は職を失いどん底の状態に陥った人々の経験談は、温室育ちの翼にとってとても新鮮で興味深い話だった。

 だが、それも翼が経営者であることが前提の話、役員たちから見ても翼はあくまで目上の存在、決して子供扱いでもなければ、対等な関係でも無い、あくまで言葉はへり下り翼をたてる物言いばかり・・・子供としても、経営者としても、翼は孤独だった・・・。




「キャーーー誰か、そのひったくり捕まえてーー!」オフィス街の広い歩道から女性の叫び声がこだまする。翼が声の方を見るとそこには被害を受けたと思わしき女性と、その遥か先を走る男の姿、しかもその男は目にも止まらぬスピードで動き、格好も普通の服では無かった。


「橘さん、サンルーフを!」

「しかし・・・」

「いいから!!」

 橘は車のサンルーフの開閉ボタンを押し車を走らせる。男に接近し翼は確信した

 男が騎神【速亀剣】であることに

 翼はサンルーフから身を乗り出し騎神化【風鳥弓】

 白を基調にした小袖に右腕を通し、騎神のベルトの下から身頃(みごろ)をたなびかせる

 左腕には弓籠手(ゆごて)を通し、その手には長弓が握られ、右肩甲に光の矢が現れる。


 光の矢を引き抜き弓を構えて弦を引く。その時翼は照準を僅かにズラし放った。


 矢は騎神の足元の数㎝前を射抜いた。

 突然の出来事に驚き姿勢を崩した騎神は盛大に転んだ。

 騎神はすぐさま起き上がり矢を放った翼を見つけ武器を持って襲い掛かる。

 【速】の能力で一瞬で翼に接近、翼は一瞬の出来事に体勢を崩し身動きが取れない。

 騎神の剣が翼を切り裂こうとした瞬間、上空から一本の槍が真っ直ぐ騎神の体を貫いた。


 騎神は絶命しオーブとなって空に舞い上がっていく、その先には急降下してくる一人の騎神、オーブを吸収し着地した騎神は地面に突き刺さった槍を引き抜き翼を見る。


 その騎神は総髪で目の据わりきった男・・・ 

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