騙し絵の牙2
18時30分 会食準備中
橘は闘気に電話する。
『ま〜あの手の奴はそう来るだろうな!』突然の厳春の訪問に対し然もありなんといった様子の闘気
「やはり予測済みですか」
『だいたい向こうの考えてることはわかんだろ?翼の度が過ぎたお人好しも向こうは把握済みだろうから適当に綺麗事並べて煽てりゃ翼は乗ってくるとでも思ってるだろうし、実際翼は乗るだろう?
だったらそのまま逆手に取って翼を餌に油断させたところを一網打尽にすればいい!
あんたならできんだろ?橘さん!』
「…どこまで、予測しているのですか?あなたは……」
『いやいや…大事なのはその先だろう?』
ーー4 その先 ーー
何も知らないまま会食を終えた翼は厳春の提示した戦いの平和的終結に向け動き出す。
海と美樹カムイはそんな翼を止めようとするが、それを橘が静止する。
「畠山厳春については我々だけで対処しましょう。」この言葉に驚く三人
「現在鋭意調査中ですが、情報を集め次第皆さんには動いて頂きます。」「情報?」
それは闘気の予測…『騎神を従わせるのは難しい。一般人なら金を払えばいくらでも雇えるが、騎神となるとそれだけじゃ済まない。
金以外にも、例えば……人質』
「…!!そこまでしますか!?」
『やるだろ!騎神だぞ?こっちは選択一つ間違えば即死につながるんだ、そんな甘っちょろい事言ってられっかよ。』騎神である闘気だからこそ言えるリアルな意見に橘は言葉を失った。
『とりあえずの優先事項は向こうについてる騎神たちの切り崩しだ!
それさえ出来りゃ騎神たちがアイツに従う義理は無いからな!上手く転べばこっちに引き込んで利用できるかもだし、、、』
「人質を取っているとしたら、どこかに収容・監禁しているはず……」
『いや、相手は大財閥の次期当主なんだろ?旅行と偽って……「豪華クルーズで海の上!」なんてこともあんじゃねぇか?世界一周とかなら1〜2年くらい軟禁状態にできる!』闘気の夢のある意見に対し橘は呆れた様子で息を吐く
「残念ながら畠山厳春個人の資産はそこまで大きくはありません
彼の場合、実業家としての能力はそこまで高くありません。会社自体の収支こそ悪くはありませんが、そのほとんどは実弟である夏樹様のご助力あってこそ
もっと言えば…厳春様の負債を夏樹様が補填しているのが現状です。」一般では知り得ない内部事情を聞いて驚き笑う闘気
『なんだよそれ、とんだ穀潰しじゃねぇか』
「歴史ある名家というのは得てしてそういうものなのです。
どうしても本人の資質や実力より血筋、長子相続が基本です。
何より厄介なことは名家が故に当人がその事実に気付く環境にないことなのです。」
『なるほどね、、、だったら切り崩しは思ったより簡単そうだな!』
翌日6月9日朝、橘の元へ調査報告が入る。
『不確定な情報ではありますが、畠山財閥の保有する慰安施設に不自然な形で20名以上の社員が長期療養を理由に入館しています。
それともう一つ、現在畠山財閥上層部に於いて厳春様保有の企業数社を解体する方針でほぼ確定しているようです。
原因としては数年に渡る多額の赤字経営と従業員からの就労環境への不満、それと以前から水面下で動いていた夏樹様による切り崩し工作によるものではないかと思われます。』調査部の報告にスマホを耳に当てた状態で固まる橘
闘気の見解…『畠山と北条院じゃぁ動かせる資産も使える人員も物資も桁違い!だとすれば持たざる者は持つ者からできる限り多く絞り取ろうとするはず。そのためには翼の出資額を大きく吊り上げさせてから始末する必要がある。』
「つまり、厳春が動くとしたら翼様が出資額を提示された後ということ…それまでにこちらは水面下で動き先手を打つと?」橘の解答に対し闘気は少し間を開けて答える。
『……奴がまともな経営者ならそうだが…さっきの話しを聞く限り、実際どうだかな?
もし、畠山厳春が俺らの想像を絶するほどの無能だったとしたら?』
「名家故の驕り……ですか…」この時の橘はあくまで闘気の予想でしかないと考えていたが、調査結果とその内容の整合性の高さから闘気に恐怖すら覚えた。
そして同じ頃…海は畠山財閥所有の慰安施設を訪れる。当然海に調査報告は届いていない…では何故海がこの場所を訪れたか……
「よう、来たか貧乏人!」久しぶりに耳にするその声に海は不快感を露わにする。
そこに居たのは白い仮面を着けた私服のヒュウガマン、翼から得た報酬でかなり羽振りの良い生活をしているようでハイブランドの服に高そうなアクセサリーを身につけている。
会食の後、ヒュウガマンは厳春に取り入りこの場所の情報を入手した。しかしその情報を敢えて橘には知らせず海にのみに知らせた。
それはヒュウガマン自身が橘の忠実な部下ではなく、ただの雇い雇われる側の関係に過ぎないことの証明…そして直情的な性格の海は操り易く、他人を疑うことはしても深くは考えない短慮なところがある。
「ここがそうなのか!?」
「ああ、中は見てきたし居場所も把握済み。ざっと2〜30人ってとこだ!車は?」
「この先に準備してある。人質を車に乗せた後は俺らで警備の目を引きつけ、その間に人質を逃す。で、いいんだよな!?」ヒュウガマンを睨みつけ確認する海
「なんだよ!?俺が信用出来ねぇってのか?」ふざけた様子で返すヒュウガマン
それに対し海が返答することはなくただただ睨み合う二人、数秒間の沈黙にヒュウガマンが口火を切る。
「……とりあえず、仕事しようか……」「ああ、仕事だ!」互いに一定の緊張感を保ったまま施設内に侵入する二人
ヒュウガマンの案内で施設奥深くまでスムーズに進んで行き、人質が軟禁されている区画までたどり着く。
しかしその区画の入り口前に居たのは6人の黒服たち「ん?そいつ一人だけか?」
「お前ら程度の腕じゃ複数を一度に相手にするのは無理だろ!それより一人一人順番に片付けた方が確実だと思ったんだよっ!」そう言うと海の背中を叩いて黒服たちの方へ押し出すヒュウガマン
その瞬間黒服たち全員が騎神化、一斉に海に襲いかかる。
「じゃあ、次の奴連れて来るから、それまでにそいつ片付けといて〜」自分を裏切りその場から出て行くヒュウガマンに対し怒り心頭の海は一人複数の騎神相手に立ち向かうのだった。
同時刻 厳春に呼び出され翼が中等部校舎から高等部視聴覚室へ向かう。
内容は『今後について高等部の騎神《仲間》たちと情報共有をしておきたい』と言うもの、翼は前日までに思いついたアイデアをまとめた資料片手に勇んで高等部に向かう。
そして視聴覚室で待つ厳春は…結城からのヒュウガマンと海の施設来訪の報告を受けほくそ笑んでいた。
ーー5 本性 ーー
視聴覚室の扉を開け中に入る翼
そこに待ち受けていたのは中心の席に一人座す厳春
「他の方々はどちらに?」目を見開き周囲を見渡す翼に対し厳春は椅子に腰掛けた状態でくすりと笑い翼を見つめる。
「……先輩?」顔を曇らせながら首を傾げ一歩前へ踏み出した瞬間視聴覚室の扉が閉まる。閉められた扉を見て初めて自分が置かれている状況に気付いた翼が再び振り向くと、厳春は笑いを堪えるあまり前屈みになって震えていた。
その姿を見た翼は全てを察し、絶望と共に持っていた膨大な資料が手からこぼれ落ち、紙媒体の一部が風に乗って厳春の足下に落ちる。それを拾い上げ一瞬目を通すと厳春はゆっくりと翼に見せつけるように破って捨てた。
「まさか、まさかまさかここまでの愚か者とは思わなかったよ!翼君
君の性格・習慣・言動・趣味嗜好まで色々な角度から君の本性を探り出そうとしたが…解らないわけだ!!
世間一般で知られている君は清廉潔白にして品行方正、誰もが君の在り方を賛美し敬っている。だが、そんな人間は得てして存在し無い!人間とは誰しも心の内にドス黒い本性を隠しているモノだが……今回のことで思い知ったよ!いる所にはいるものだ〜
どこまでも気高く崇高で清い、穢れを知らない本当に無垢で優しい心を持った者がいることを…
それが君だ翼君
君は穢れを知らずどこまでも正しく生きて来た……だが同時に、他人を疑うことを知らない…
人間の本質とは他者を疑い、利用し、裏切り、蹴落としていくモノ
人間が他の動物と比べ唯一圧倒的に優れている能力は頭脳であり、その証明が嘘を自在に操ること!
それができて初めて人間たらしめ、今日の人類の繁栄がある。
嘘ができない君は……人間とは言い難い!
そして…戦うことをしない騎神に生きる意味は無い!」厳春は騎神化【毒鳥剣】手に持つ短剣から発生する瘴気が視聴覚室に充満していく。
翼も騎神化、弓を構え厳春に向け弦を引き絞るも、厳春は余裕の表情を崩さず動かない。
目の前に今にも放たれそうな矢尻が自分に向けられているというのに動かない、それどころか椅子に腰掛けたまま手に持つ短剣すら構えずゆらゆらと小手先で弄ぶ始末
「何故ですか先輩!?
先輩の提示した案は平和的且つ経済的にも有益なモノだった!実現すれば必ず……」
「平和?…有益?…バカな、そんなことであげられる利益など微々たるモノに過ぎん!
それより世界に戦争を起こして莫大な利益と利権を獲得する方が効率的だ!
所詮は妾の子、、、視野が狭い。」厳春の危険な考え方に危機感を覚えた翼は奥義を発動、風針尖を召喚して厳春を取り囲む。しかしそこに召喚された風針尖は僅か5本、その数の少なさに厳春は大声で手を叩いて笑う、笑い過ぎて呼吸がうまくできなくなるほどだった。
「……愚かさもここに極まれりだな!
戦う覚悟が無いから騎神を殺せず、殺せないから能力が無く、能力が無いから脅しにもならずまともな交渉もできない!
その上…平和ボケが過ぎて毒の騎神相手に時間を与え過ぎる。
まったく!終わってるよお前!!」ゲラゲラと大声で笑いながら話す厳春に怒り心頭の翼だが、反論しようと口を開いた瞬間その口から鮮血を吹き出し膝から崩れ落ち召喚した風針尖は消滅した。
密閉された室内で毒の騎神が強力な瘴気を発生させているのだ、当然室内は毒の瘴気で満たされ翼の身体を蝕む。
厳春は翼があくまで戦闘では無く交渉で解決しようとしてくることを知っていた。だから敢えて騎神化してすぐには攻撃せず、翼を煽り時間をかけて毒の瘴気が全身に廻るのを待った。
それは翼から身体の自由を奪い、身体を内側から徐々に蝕むことで時間をかけて苦しめるため……
「この際教えておいてやろう、この一週間の間に起きた高等部内での失踪事件、アレをやったのは俺だ!
当然君も疑問に思ってるだろう?『学内の規模に対し犠牲者の数が多過ぎる』と、当然だ!生徒・教師・その他関係者全ての中で騎神はほんの数人しかいなかった。
じゃあそれ以外の人達はどうしたかって?
騎神であればオーブに変わり、吸収すれば何も残らず単なる騎神の戦いとして処理される。
だが普通の人間の場合は死体が残りそれは殺人事件となる。だから、毒の能力で死体を人の形をとどめない程に腐食させてから土に帰した。学園内の果樹園にとって良い肥料になったろう……それに人間が徐々に腐って朽ち果てていく姿は実に幻想的だったよ!
これまで見てきたどんなモノよりも美しく、その光景に今までに感じたことの無い興奮を覚えた。
肉体の崩れ方も千差万別…腐り落ちる身体に恐怖しのたうちまわりながら腐肉を撒き散らしながら逝く者、泣き叫び命乞いの末伸ばした指先から崩れ落ち絶望の果てに逝く者、醜く腐り果てる己が身に耐えられず発狂し自ら顔を潰し逝く者……ああ〜どれもとても素晴らしかった。」過去に手をかけた者たちのことを思い出し恍惚の表情を浮かべ悦に浸る厳春……そして身体中を毒に侵食され指一本動かせない状態の翼が意識を失うその瞬間!突然窓から差し込んでいた日の光が陰る。
それに気付き窓側に振り向いた厳春の目に飛び込んだのは迫る巨大な拳




