進撃の巨人1
6月5日 20時00分 翼邸
喫煙室での話しを終え、帰路につく闘気を見送った橘が邸へ戻ると、そこへ石動が現れる。
「橘さん、本当にあの男を信用するんですか?」
「盗聴器ですか?フッ、私も爪が甘い…」いつもと変わらず落ち着いた様子で返す橘に石動は物申す。
「本当にあの男にそれだけの能力があるのなら、それこそ脅威なのでは!?」
「力関係が対等ならそうでしょう。ですが、今の所その関係はこちら側に傾いている。
なら、利用した方がコチラにとって有益です。何より…騎神である翼様をお護りする上では、我々よりも騎神である彼の方が上手く立ち回れる。」
「藤堂がいます!」石動は橘に対し強く反論する
「藤堂さんはあくまでいざという時の保険!先ず大事なのは騎神の戦いを大きく見る視野と冷静で的確な判断力です。
それは藤堂はもちろん、カムイさんや彩名さんも持ち得ない
当然、金でしか動かないヒュウガマンにもそれは不可能……
残酷なことを言いますが、今の我々に翼様を護る術はありません。出来ることがあるとすれば、それはリスクを負う覚悟を持つ事ぐらい……石動さん私も辛いんです。」橘の言葉にぐうの音も出ず拳を握り締める石動…やりきれない思いを石柱に叩きつけるもビクともしない柱に己の無力を思い知らされ歯噛みする。
ーー1 コンペ ーー
6月7日 都内イベント会場
この日、翌日に控えた北条院財閥関連企業のコンペティションを前に会場の準備が急ピッチで進められていた。
各企業が社の威信を賭けたプロジェクトのお披露目会を前に、所狭しと動き回る準備スタッフと技術者達
そんな喧騒の中、翼は橘を連れ立って自身の所有する企業ブースに向かい進捗状況を確認し、コンペの流れなどスタッフとの入念な打ち合わせを行う
裏方のセキュリティールームでは石動が海と共に会場警備の動きを確認する。
広大なイベント会場の中心にはイベントの目玉として、エンタメ企業の人気キャラクターの大型モニュメントが建造されていた。
その巨大立像を呆然と見上げるカムイと、そんなカムイを見つめる美樹
翼の付き添いで訪れていた二人は特に仕事もないので関係者として自由に会場ブースを見学していた。
翼の関係者ということもあって会場スタッフが二人をぞんざいに扱うことはなかった、二人も仕事中のスタッフの邪魔にならないよう離れた場所から出し物や開発中の商品や映像を覗き見するだけ、それでも美樹はデート気分で楽しかった。
そんな二人の他にも部外者を招いている者がいた。
「いや〜明日のコンペ、楽しみですな〜」翼へ声をかける高齢の男性
「これは代議士!いつもお世話になっております。」大物代議士 大代大作(70)の登場にその場のスタッフ全員が深々とお辞儀をする中、代議士は周囲に頷きながら翼に近寄り声をかける。
「その若さでこれだけの会社経営をされていらっしゃるとは、さすがは北条院財閥の御曹司ですな〜」
「いえ、僕のチカラでは…全ては働いてくれている皆さんのチカラです。」
「またまたご謙遜を…全てはあなたのカリスマ性あってのコト!この国の未来はあなたのような有望な若者にかかっているのです。よろしくお願いしますよ!!はっはっはっ」代議士の言葉に苦笑いしながら頭を下げ見送る翼、そしてその側で橘が呟く
「あの方は相変わらずですね…」
「いいじゃないですか、別に悪い方ではありませんし…」顔を上げ打ち合わせに戻る翼
「あの方はね……」少し離れた場所のブースで女性スタッフに話しかけている男を横目に打ち合わせに戻る橘
高級スーツこそ身につけているものの、派手な髪色と浅黒い肌、複数のピアスの穴と袖の隙間から僅かに覗くタトゥー
正直、真っ当な社会人とは程遠い見た目の男だった。
男は女性スタッフの連絡先をゲットすると満足そうな顔でブースから離れ、巨大立像の方へ向かう。
そしてそこで美樹を見つけると男の目の色が変わる。
美樹を見た男はスマホを取り出しグループLINEに送信する。
『よう、あん時のオンナ見つけたぞ…男と一緒だ!
おもしれぇことになりそうだから溜まってる奴は来いよ!』すぐに複数の既読が付くと『了解!』『OK』『イッきまーす!』などの複数の返事とスタンプが送られてくる。それを確認すると男は美樹を見ながらゲスな表情を浮かべ舌舐めずりをする。
そこへ代議士の秘書が声をかける。
「御令孫、お時間です。講演会へ向かいましょう。」男は先程の代議士の孫 大代進次郎(20)
秘書の言葉に進次郎は目もくれず「俺はいい、爺さんに今日はもうあがるって伝えといてくれ…」まるでヤル気の無い様子の進次郎に対しムッとした表情でスケジュール帳を開く秘書
「またお爺様のお手を煩わせるつもりですか?」秘書に対し、進次郎は嘲笑うように「今の俺はあの頃と違うんだよ!テメェのケツはテメェで拭くさ!」進次郎のこの言葉に呆れた様子の秘書はため息を吐くと吐き捨てるように一言
「くれぐれも証拠は残されませんように…」スケジュールの書き換えを済ませその場から去って行く秘書に進次郎は独り言のように呟く。
「大丈夫、あのオンナに何かあっても何の問題にもならないさ……」しばらくするとLINEに『到着』の連絡が入る。
「さぁ〜て、お楽しみの時間だ!」進次郎はゲスな笑みを浮かべながら仲間達の元へ向かう……何も知らない美樹はカムイとのデートを楽しんでいた。
ーー2 親ガチャ ーー
数年前…当時未成年だった進次郎は祖父大代大作の威光を傘に好き勝手に生きていた。問題を起こしてもその全てを大作がもみ消してきたからだ。
当時は未成年であることから少年法にも守られ、逮捕されたとしても刑期は大作の権力によって大きく短縮されたものとなり、そのことで進次郎は更に増長した。
そして三年前、悪友数名と連れ立って当時13歳の少女に性的暴行を加え重度の傷害を負わせた。
その少女の名は一条藍華……KCS一条朱音の妹であった。
この事件の際も先述の通り大作の圧力によって刑期は当初のものより大幅に短縮されたが、その後すぐに麻薬取締法違反で逮捕された際は流石に更生施設に入れられ、更生プログラムによって薬物からの脱却には成功したものの、そう簡単に人間の本質が変わるはずも無く……
そして現在、進次郎は成人し少年法という傘が一つ外れたことにより以前までの増長は幾分和らいだかのように思われていたが、依然女遊びが止むことは無く…女性問題に関しては未だ大作の威光と金に頼りきった状態であった。
進次郎が関係者用入場口へ向かうと仲間達4人が警備員に止められもめていた。
「おいおい、そいつら俺の連れだから通してくれ!」この言葉を警備員は不審に思い、顔を顰め進次郎の関係者証明を確認するが来客用であることを確認すると再び入場を拒否した。そこへすかさず進次郎は警備員のポケットに数枚の万札を入れた。
「まぁ警備員なんてやってるくらいだ稼ぎはあまり良くないだろう?ちょっとした小遣い稼ぎだと思ってくれ…」若い進次郎からの賄賂に中高年の警備員は複雑そうな表情で進次郎の仲間達を中に入れた。
「それでいいんだよクソジジィ!」警備員に悪態吐きながら入場する男達を尻目に警備員は聞こえないように舌打ちする。
そして進次郎は仲間達を連れ美樹の元へ向かう。
相変わらず美樹はカムイの側から離れずカムイの顔をキラキラした目で見詰め続け進次郎達の存在にも気付かない。
そこに仲間達を連れ立った進次郎が声をかける。
「おい!久しぶり!!」流石に気付いた美樹が進次郎の方を見ると先程までの幸せそうな表情が一変、顔を曇らせる。
「誰?」小首を傾げる美樹に進次郎は驚き顔を曇らせる。そんな進次郎を周りの男達は鼻で笑う。
仲間達に笑われプライドを傷つけられた進次郎はこめかみに血管を浮き上がらせる。
「あっ?〇〇のアパート、覚えて無いのか⁉︎」この言葉に美樹は徐々に思い出し進次郎を睨みつける。その表情を見て進次郎は嬉しそうにほくそ笑む
「なつきだっけ?」
「なぎさ!!」
「あ〜思い出した。あのブスなぁ〜、ちょっと優しくしてヤレばすぐに堕ちてよ!」進次郎はふざけた表情と言動で美樹を煽る。この言葉に美樹は怒り心頭、その場で騎神化する。
「アンタこそ忘れたの?あたしが騎神だってこと!痛い目見ないとわかんないみたいだね」氷の鞭を手に取り凄む美樹と対峙しても一切物怖じしない進次郎
「さぁ〜て、痛い目見んのはどっちかなぁ〜」そう言うと進次郎も騎神化【氷亀鎖鎌】
進次郎の騎神化に驚く美樹、同様する美樹にカムイが反応、騎神化して前に出る。
それを見て驚いた進次郎は「おっと、これは予想外!男も騎神だったか、お前らヤれ!」進次郎の指示に仲間の男達は一瞬不満そうな顔をしながらも全員騎神化しカムイに襲いかかり二人を切り離した。
突如始まった騎神の戦いに会場内は大混乱
我先にと避難する人々に対し石動の指揮の下、警備員たちの指示で会場から多くの人々が脱出していく、そんな中海は翼の元へ急ぐ。
『カムイ美樹、何やってくれてんだ!』駆ける海はGPS片手に翼を探し見つけ出す。幸い翼は橘に止められ騎神化はせず混乱の中で動けずにいた。
「橘さん!」海の声掛けに反応した橘は手を上げ海に位置を伝え合流する。
「無事か?」海が翼の安否を確認すると翼は立ち上がり冷静に指示を出す。
「会場スタッフの避難を最優先に!避難完了後に騎神に対処します。急がないとカムイくんと彩名さんが危険です。」
「馬鹿野郎!まずお前が避難すんだよ!!」海の怒号と共に翼は力任せに引っ張られ会場の外に連れ出された。橘は海の強引なやり方に圧倒され、それに追従した。
外の避難場所に辿り着くと翼と橘を石動に任せ、避難活動へ加わるためインカムからの指示に従い再び会場へ向かう海
その後ろ姿は正しくボディーガードのそれだった。




