疾風迅雷1
6月5日 19時00分 翼邸
明との戦闘でPTSDを克服した海が邸に戻る。直属の上司である石動やその他の使用人たちからの手荒な歓迎を受けながら自室へ戻る海
久しぶりに帰ってきた自分の部屋は小林の手によって綺麗に整理整頓され、片付けを終えようとしている小林が優しく微笑み「お帰りなさい。疲れたでしょう?お風呂入っておいで」と浴室へ促す。
海は疲れた表情で微笑み「すんません…ありがとうございます。」と感謝の気持ちを伝え浴室へ向かう。
服を脱ぎ湯の張った浴槽に身体を沈める海
暖かい湯船が全身の疲れをほぐしていく
そんな感覚に大きく息を吐きリラックスしていく海、自然と瞼が重くなり眼を閉じる。
次の瞬間、閉じた双眸にあの光景が蘇る。
身体を包み込む水というスイッチでフラッシュバックするその光景は、周囲に漂う無数の死体!脳みそを掻き乱す死屍累々の映像と呼び起こされる恐怖の記憶!力無く漂う一人一人の騎神の顔が鮮明に蘇る。
浴槽から出ようとするがパニック状態で足を滑らせ、逆に頭まで浴槽に浸かってしまう。
大量の湯を飲みながら浴槽で溺れる海
暴れれば暴れるほど浴槽から出られず踠き苦しむ、壮絶なトラウマが感覚を支配し水の中へ引きずり込もうとする。
そして蘇る水月のゴミを見るような眼!
次の瞬間、優しく暖かい感覚が海を包み込み、海を引き戻した。
「大丈夫…あなたは私がまもるから……」柔らかく心地良い優しい声に海は落ち着きを取り戻す、開いた双眸に映るのはびしょ濡れになりながら自分を抱きしめ心配する小林の顔
「辛かったんだよね……でももう大丈夫だから……」小さな身体で強く海を抱きしめる小林、そのぬくもりに包まれながら海の瞳から自然と涙が溢れる。
そのまま小林の胸の中で泥のように眠る海、それを受け入れる小林
そしてそのすぐ側では、偶然騒動を聞いて部屋に飛び込んだ美樹が二人の様子を見てニヤニヤしていた……
ーー1 風と雷 ーー
夜の繁華街、狭い路地をかき分け必死に逃げる一人の騎神、周囲を見回し丁度いい暗がりに入り込み息を潜める。
しばらくしてこの騎神を追って来た男が路地を走り抜けて行くのを確認すると、騎神は暗がりから這い出てその場から立ち去ろうとするが、上から何かが落ちてくる。
恐る恐る振り向くとそこにはジャージ姿の騎神狩り 榊明がいた。
悲鳴をあげる間もなく始末されオーブに変わる騎神を虚しく眺める明
つまらなそうな顔でその場を後にする明、すると違う暗がりから声をかけられる。
「よう、あんたが『雷に選ばれし者』かい?」
先の見えない暗がりから聞こえる知らない声に眼を顰める。
「だったら?」明の返事に暗がりから一歩前に出て来たのは不気味な仮面にハットを被った【風虎棒】の騎神 ヒュウガマンだった。
「はじめまして、俺はヒュウガマン!あんたと同じ『風に選ばれし者』だ!」選ばれし者という単語に反応する明
「風神からの依頼でね!雷神が選んだあんたの実力を見て来いってさ!それとある人からの命令もあってね……
風神と雷神ってのは仲が悪いというか、お互いをライバル視してるみたいでね!
風に選ばれし者としては風神の命令を無視するわけにもいかないってことで……面倒だが、一つお手合わせ願えるかい?」棒を構えるヒュウガマンに対し、少し顔を綻ばせ明は騎神化する。
「ほ〜、逃げも隠れもしないってか!さすがは選ばれし者だ、肝が据わってら…いや、そうこなくっちゃ!」選ばれし者同士の戦闘が始まる。
風と雷の騎神の戦い…自然と天候が著しく変化していく。
吹き荒れる突風と天を覆う黒雲、燻る雷鳴と建物の隙間を縫う激しい風音が鼓膜を揺らし、同時に周囲の大気をも揺るがす。
それを肌で感じ緊迫する二人、そして強烈な突風と落雷の衝撃を合図に二人はぶつかり合う。
二人は互いの攻撃を否しては組み否しては組みを繰り返し取っ組み合いになる。
至近距離での高度なやり取りに互いの実力を確かめ合った二人は同時に距離を取り遠距離攻撃を放つ。
互いの攻撃がぶつかり合い相殺された空間には稲妻が燻り、周囲の物をかまいたちが切り刻む。実力の拮抗する両者はニヤリと笑いヒュウガマンが動く。
風を纏い宙へ浮き上がり空中戦へ移行するヒュウガマン
縦横無尽に飛び回り、機動力と三次元的な動きを駆使したヒットアンドアウェイ戦法で襲いかかる。
これまでに無い戦い方をしてくるヒュウガマンに対し、明はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のような表情で応戦する。
明の放つ雷吼砲を軽々と躱し、空中から無数のかまいたちを浴びせかけるヒュウガマン
容赦無く襲いかかる風の刃が明の視界を埋め尽くす。
迫り来るかまいたちの群れに明の拳が緩む。
ーー2 「奥義・雷陣太鼓」 ーー
天を覆う黒雲から巨大な落雷が降り注ぐ。
その衝撃に無数のかまいたちは一瞬にして消滅、落雷の跡には右手を振り下ろした明、その手には稲妻で形成された桴が握られていた。
落雷の衝撃に一瞬唖然とするヒュウガマンに対し明は容赦無く襲いかかる。
建物を蹴り上げ一気にヒュウガマンに接近し振り下ろされる桴、それと同時に空から落雷が落ちヒュウガマンを襲う。
間一髪落雷を避けたヒュウガマンだったが、雷の衝撃に体勢を崩し落下する。
その隙を明が逃すわけも無く、両手に持つ桴を次々と振り下ろしそれに合わせ落とされる落雷がヒュウガマンに迫る。
再び風を纏って高速で移動するヒュウガマン、しかし明は自分の足元に雷を落としその衝撃に乗って爆発的に加速、ヒュウガマンに追いつくと容赦無く桴を振り下ろす。
落雷を避けきれず地面に落下するヒュウガマン、落下した衝撃で土煙が舞う路地
視界不良でヒュウガマンを見失う明…次の瞬間
ーー3 「奥義・風針尖」 ーー
煙の奥から無数の風を纏った棘が一斉に明に襲いかかる。
桴の一振りで棘を無力化しようとする明だったが、その棘は落雷の間合いの一歩手前で静止、衝撃が収まるのを待ってから明に襲い掛かった。
棘の集団はそれぞれが独立して動き、その動きは極めて戦術的且つ無軌道で、明は雷陣太鼓の落雷で迫る一部の棘の集団を相殺するも、次々と繰り出されるあらぬ方向からの攻撃に苦戦する。
上下前後左右さまざまな方向から繰り出される風針尖の戦術的な動きに翻弄される明
遂には死角から接近するヒュウガマンに反応できず、強烈な一撃をその身に受けてしまう。
衝撃で吹き飛ばされる明
だがヒュウガマンは隙を与えず、風針尖の棘で追い討ちをかける。
建物の壁に叩きつけられる明を襲う風針尖の群れ、落雷が落とされることは無く全ての棘が明を襲い、土煙を上げながら周囲の壁を半壊させる。
空かさず視界を塞ぐ土煙を突風で吹き飛ばすヒュウガマン
そこにいたのは血塗れの明、手甲を顔の前で構え防御体勢をとるも、その手甲には無数の棘が突き刺さり、急所は避けているものの身体中に無数の傷を負った明が鋭い眼光をヒュウガマンに向けていた。
「フッなんだよ!お手合わせっつっても騎神同士なんだ!殺し合いには違いないんだぜ!手加減でもすると思ったか?お手合わせだからって勝手に手を抜いたお前が悪い…じゃあな!!」ヒュウガマンは周囲に無数の風針尖を召喚すると一斉に明目掛けて突撃させた。
次の瞬間、明は背後の半壊した壁の穴に飛び込むと同時に雷吼砲で建物自体を倒壊させた。風針尖の棘は全て崩れ落ちてくる瓦礫に呑み込まれ、ヒュウガマンも瓦礫の下敷きになるのを避けるため後退する。
風に乗って上空へ飛び出すヒュウガマン
次の瞬間、複数の落雷が同時に降り注ぎ、激しい閃光がヒュウガマンの眼を眩ます。
再び眼を開いたヒュウガマンの視界は漆黒の闇に覆われていた。
繁華街の上空、それはネオンライトや電気の光に満ちた世界のはず…その全ての光が一瞬にして失われた。その原因は先ほどの落雷、明はあらかじめ周囲の送電網を把握し、その全てに落雷を落として停電を発生させたのだった。
そしてヒュウガマンは激しい閃光による反動で、闇夜に順応しきれない!
「はっ!!」ヒュウガマンは自分の真下を見る。
そこには稲妻走る両手の桴を大きく上段に振り上げ、勢い良く地面に叩きつける明がいた。
凄まじい落雷に打たれたヒュウガマンは煙を上げながら落下していく。




