家無き子2
深夜 雑居ビルにある事務所
タバコのヤニがこべりついた黄ばんだ壁、高そうな置物や掛け軸、恐らく飾り物であろう日本刀
そんな事務所に昼間公園で暴れていたチンピラたちが痣だらけの顔で正座させられている。
その周りを屈強な男性数名に囲まれ、逃げ場が無い状況にチンピラたちの手足は小刻みに震えている。
そのそばでモクモクと葉巻の煙を吐き出しながらソファーに腰かける中年男性が言う
「この程度の仕事も片付けられんとなると〜、も〜お前ら置いとく意味無いな〜」この言葉にチンピラ達は泣きじゃくりながら床に額を擦り付け謝罪したが、中年男性は何も言わず、吸っていた葉巻を灰皿に擦り付けた。
これを合図にチンピラたちを囲んでいた男達が動き出し、それを見たチンピラは逃げ出そうと必死で足掻くがすぐに取り押さえられた。
「待ってください!チャンスを!もう一度だけチャンスを!!」中年男性に必死で訴えかけるチンピラに見向きもせず、取り巻きに上着を着させると中年男性は事務所を後にする。必死で命乞いをするチンピラの声は扉を閉める音と共に悲鳴へと変わった。
中年男性が取り巻き数名と車に乗り込むと一人に指示を出す。
「あいつら遣ってとっとと片付けさせろ」男性の指示に取り巻きは「はい」とだけ答え携帯を取り出し連絡する。
「浮浪者風情が、とっとと逃げれば死なずに済んだものを・・・」
ーー4 臭い物には蓋をしろ ーー
8時30分 名楠町中央公園
登校途中に公園によった竜馬と闘気はオッチャンから前日の出来事の事の顛末を聞いていた。
「・・・まぁそんなこんなでこの新入りがチンピラ共を追っ払ってくれたわけだ!」上機嫌に笑いながら朝からワンカップ酒をチビチビ飲むオッチャン
「オッチャン笑い事じゃないよ、ホームレス狩りじゃんそれ」心配する竜馬に闘気がスマホ片手に冷静に割って入る。
「ただのホームレス狩りなら襲うホームレスは一人でいい。だが昨日の場合、公園内のほぼ全員を襲ってる、しかもかなり積極的に・・・。
つまり連中には明確な目的があって、そのためにホームレス達を襲う必要があったってことだ。」スマホを見ながら言う闘気はある記事を見つけて指を止めた。
「例えば・・・こんなのとかな・・・」スマホの画面を二人に向ける闘気、それは嬉優市のホームページ、そこに書かれていたのは【名楠町に新しい商業施設建設を計画中】といったもの
この記事を見て唖然とする竜馬とオッチャン
「だから?」ただ、竜馬が唖然としている理由は闘気の言いたいことがわからないからであった。
「ま~そんな計画があることは知ってはいたが・・・まさかいきなりこんな手で来るとはなぁ・・・」難しい顔でタバコを吹かすオッチャン
オッチャンの様子を見ても、まだわからない様子の竜馬に闘気が説明する。
「例えば、公園にこの新しい商業施設を建てるとする。そのためには、ここに住む邪魔なホームレスを片付ける必要がある。通常いくらかの金を渡して出て行ってもらうのが普通だが、オッチャンみたいに地域に根付いてる人間は慣れ親しんだ場所から動くことを嫌う。そのせいで余計に金や時間がかかるぐらいなら、いっそホームレス達から出て行きたくなるように仕向ける方がコストも時間も節約できるってわけだ!」
「ってことは・・・オッチャン達を襲った理由って・・・」
「「また痛い目にあいたくなかったら、とっとと公園から出て行け!さもなければ次はもっと痛い目に合わせるぞ!!」つって脅しをかけてきたってことだろ・・・
そうやってホームレスを追い出しても、別に誰も気にも留めないし、むしろ市議や町の連中からすれば願ったり叶ったり、町からホームレスを追いだせりゃそれだけで町はキレイになる。キレイになればキレイにした連中は評価され、それなりの見返りが手に入る。臭い物には蓋をしろってな!」闘気の説明を聞いて竜馬は胸糞悪そうに渋い顔をしている。
「まー何にせよ、気を付けろよオッチャン、連中はまた来るぞ!今回は新入りのおかげで助かったが、次はそうはいかねぇぞ!!」闘気の言葉にオッチャンは鼻からタバコの煙を出しながら深くため息をつく。
「そーだな、、、」タバコを吹かしながら悩むオッチャン、そこにプレハブから新入りが這い出てくる。
首の骨を何度か鳴らしながら眠そうな顔で出てきてオッチャンの前に立ち「おやっさんは俺が守る!」そう宣言した新入りに対しオッチャンは吹き出す。
「いいよ、お前は!お前はまだ若い、今は金貯めてとっととこんなとこから出て行くことだけ考えろ!オラッ今日も夜勤だろ。寝とかねぇと体がモタねぇぞ!しっかり働いてもらわねぇと俺の明日の酒が無くなるじゃねぇか!!面倒みてやった恩を仇で返す気か!?」新入りはばつが悪そうな顔で「すんません・・・」とプレハブ小屋に戻っていった。
「お前らもさっさと学校行け!勉強しねぇとオレみたいになるぞ!!オラ行け行け!!」オッチャンは急かすように竜馬と闘気を行かせる。
オッチャンはお金に困っている人や路頭に迷った人を見る度に寝る場所や仕事を工面してあげてる、そしてその見返りにワンカップ酒を一杯奢ってもらうようにしている。
オッチャン曰く「困ってる奴助けるだけで酒がタダで飲める!こんなうまい話は無い!!」って言ってるけど、本当は早く独り立ちしてもらうために照れ隠しで言ってることをみんな知ってる。
だからこの町の人はみんなオッチャンのことが大好きで、誰もオッチャンをこの公園から追い出そうとしない、だってオッチャンが居るからみんなこの公園に来るんだから・・・
もしオッチャンがこの公園からいなくなったら・・・
悩んでる時、誰に悩みを打ち明ければいいのか・・・
救けてほしい時、誰に救けを求めればいいのか・・・
人生の壁にぶつかった時、誰に導いてもらえばいいのか・・・
何かに迷った時、ここに来れば必ず居るその人が・・・いなくなったらボクたちは、この町の人達はどうすればいいんだろう・・・・・
そんなことを考えながらどこか切ない表情で授業を受ける竜馬
一方闘気の頭の中にはある可能性が浮かんでいた。
闘気が見つめるスマホの記事の内容は『不審火!建物内から突然の発火!原因不明』『暴力団組員による抗争か!!廃墟に残された無数の血痕と破壊された廃屋の数々!!』『若者の行方不明者この数か月で急増!!』そして昨晩警官が言った「「まぁ、騎神同士の戦闘は事件というより現象のようなものですから・・・」」という言葉を思い出し闘気は胸騒ぎをおぼえた・・・
ーー5 騎神の遣い方 ーー
翌日16時30分 名楠町中央公園
駐車場に黒塗りの高級車とド派手にフルカスタムされた車とバイクが横並びに停車する。
バイクに乗ったガラの悪い男性がヘルメットを取る、高級車からインテリ風の男性、カスタムカーから大柄の男性が出てきた。
三人は愛車から降りると公園内を見て回る。そして、ある程度愛車から離れた場所で「そろそろいいか・・・」と一人が合図すると三人は同時に騎神化した。
バイクに乗っていたガラの悪い男性 騎神①は【雷猿鎖鎌】
高級車に乗っていたインテリ風の男性 騎神②は【土蛸盾】
カスタムカーに乗っていた大柄の男性 騎神③は【木馬鉈】へと騎神化、互いの武器をぶつけ合い戦闘が開始された。
しかしその戦闘は単なる三つ巴の戦いではなかった。
騎神①の攻撃を騎神③が躱す、するとその攻撃は騎神③の背後にあったホームレスのプレハブに命中、電撃を乗せた一撃はプレハブを跡形も無く爆発四散させた。
幸いそのプレハブのホームレスはその場にいなかったが、もし中にいた場合ホームレスの命は無かっただろう。
そんなことはお構いなしに三人の戦闘は続く
今度は騎神②が【土】の能力を使って地面を隆起させる攻撃を繰り出すと、それを避けるため走る騎神①を追うように隆起する地面
それに巻き込まれプレハブが隆起する勢いで破壊され、中に居たホームレス達が柔らかくなった土に巻き込まれて次々と生き埋め状態になる。
騎神③の【木】の能力を使った攻撃、公園に植樹された高さ数mの木を操り騎神②に投げつけるが、騎神②はそれを盾でダメージを吸収しなぎ払う。
そして薙ぎ払われた木はその先にあったプレハブ数棟を直撃、数名のホームレス達が木の下敷きになった。
はたから見れば三人は騎神の戦いをしているように見えるが、実際の標的はホームレス達で、騎神の戦いに巻き込む形でホームレスを公園から排除することが目的
三人の騎神は周辺のホームレスを一掃したことを確認すると次の区画へ移動する。国道に面した大きなグランドのある区画へ・・・
ーー6 家無しの守護者 ーー
ベンチに腰掛けシケモクを吸いながらワンカップを舐める年老いたホームレスを見て、騎神①が鎖鎌の鎖分銅を振り回しながら接近するが、そこにベンチが投げ込まれる。
突然の出来事に驚く三人の騎神
特にベンチが直撃した騎神①は投げつけられたベンチを跡形も無く破壊し、ベンチが飛んできた方を睨みつける。
その時騎神①の視界に映ったのは自分の顔面に迫る『膝』だった。
が、その膝が騎神①の顔面を抉るより早く騎神②が盾で膝の持ち主を突き飛ばす。
突き飛ばされた男は、総髪の頭に汚れたツナギを着た据わりきった眼をした青年・・・ホームレス達の最後の砦、新入りだった。
「ほー、お前がうちの若い衆をヤッた総髪のクソガキか・・・」騎神③が新入りを興味深そうに眺めるそばで騎神①が「関係あるか!」とキレぎみに向かって行こうとするが、そこにオッチャンが割って入る。
「待ってくれ、新入りは見逃してくれ、あんたらは俺たちがここから出ていけばそれでいいんだろ?若い者は見逃してくれ!コイツはまだやり直せるんだ!頼む!!」騎神達の前で土下座して頼み込むオッチャンに対し、騎神①は唾を吐きつけ「うるせぇジジィ!こちとら端っからホームレス全員消す気で来てんだよ。」オッチャンは唖然とした表情で騎神達を見上げる。
「いいですか?我々騎神の行う戦闘行為またはそれに準ずる器物破損・損害は天災扱いされ、法的措置を受けないんです。つまり、あなた方を殺しても騎神同士の戦闘中に起きた不慮の事故として処理され、我々が罰則を受けることは無いんです。それに仮に警察が逮捕しようとしても騎神の能力で反撃できますから・・・」騎神⓶の話に絶望し震えだすオッチャン、その姿を見て拳を強く握り締める新入りを騎神⓷は鼻で笑う。
「とりあえずお前はウチの若い衆のケジメを付けような!」そう言って鉈を振り下ろす騎神⓷
しかし、その鉈は新入りを切り裂く一歩手前で止まる。
そこには騎神化した新入りが槍を手に鉈を受け止めていた。
その姿は頬の高さまで覆う大きな襟のついた蒼い服に、左肩に肩当て、波のレリーフが彫られた手甲と三叉の三叉槍を持つ
【水鮫槍】の騎神だった。
新入りは槍を大きく振り回し牽制、騎神達と距離を取り構える中、新入りがオッチャンに耳打ちする。
「おやっさん逃げてください」オッチャンは新入りの身を案じ一緒に逃げようと手を差し伸べようとするが「逃げろ!!」新入りの怒号に気圧され「すまねぇ・・・」と悔しそうに走り去る後ろ姿を見て
「おやっさん・・・お世話になりました。」
一瞬穏やかな表情を浮かべつつも、次の瞬間には闘志剥き出しの鋭い眼光に変わり、槍の穂先を突きつけ騎神達に殺気を飛ばす。
「騎神3人相手に一人で挑むとは・・・正真正銘のバカだなお前・・・」騎神⓷は笑いを堪えながら鉈を突き付ける。
この絶望的な状況に新入りは顔色一つ変えず、三叉槍を強く握り締める。
据わりきった瞳に迷いは無く、死を恐れる様子も無い・・・・・