Thunderstruck1
第30話 導かれし七人・明の続きのお話です。
名楠町中央公園
近くの教会で配っている炊き出しを手にプレハブに戻るおっちゃん
「今日の炊き出しは結構豪華だぞ!ほらっ」プラスチック容器に入った豚汁うどんを両手に持って海に見せつけるが、海に反応は無い。
一口大に細かくしたうどんを豚肉と野菜で包み海の口に優しく入れてやると、自然と口が動き出し飲み込んだ。
その様子を見ておっちゃんに笑みが溢れる。食事はできるようだ。
食事を済ませ海の身体を拭いてやろうと水道水を汲みにタライ片手にプレハブから出ると、そこには私服の小林がいた。
「おう、嬢ちゃん今日は休みかい?」
「はい、、、あの…彼の様子は……?」おっちゃんの後を追いながら質問する小林
「今飯食ったところだよ。食欲はある!食って寝てれば人間大丈夫だ!!」おっちゃんの言葉に少し安心した様子の小林は率先して水の溜まったタライを持ってプレハブに運ぶ。
「いいのかい?せっかくの休みなのにこんなことしてて」おっちゃんは何か察したようなニヤけ顔で言うと、小林は少し頬を染めながら答える。
「一応、ほぼ同期みたいなもんなんで……仲が良かったというか…
よく職場の愚痴を彼に聞いてもらってたんですよ…だから、、、それだけです。」せっせと海の世話をする小林に優しく微笑むだけのおっちゃん
『なんだよ…ちゃっかりいいヒトもいるんじゃねぇか……』安堵した様子で海の身体を拭く小林を見つめるおっちゃんは、それを肴にワンカップを開ける。
次の瞬間、快晴の空から眩い閃光と一瞬遅れて鳴り響く雷鳴に驚いたおっちゃんは、身体をビクつかせワンカップの半分以上をこぼしてしまう。地面に染み込む酒染みを呆然と見つめ絶望するおっちゃん……するとその視界に酒染みを踏みつぶす足が入り込む。
・名楠町鈴井川河川敷
青天の霹靂の衝撃が残る河川敷、四人の見知った顔を前に明は騎神化、間を置かず襲いかかる。
すぐさま騎神化したカムイが前に出て大斧で拳を受け止める。
電撃を乗せた拳の衝撃が周囲の大気を揺らす中、翼が語りかける。
「榊さん!あの時の提案への回答をお聞きしたいのですが!?」真剣な表情で語りかける翼に対し、明は目を合わせないまま「なんのことだ?」と言って大斧に当てた拳からさらに強力な電撃を放ちカムイごと吹き飛ばした。
そのまま翼にも襲い掛かろうとする明だったが、振り上げた拳に氷の鞭が絡み付く。
「だったらもっかい話し聞けっての!」全体重をかけて必死に鞭を引く美樹に対し、冷めた表情で軽く鞭ごと美樹を引っ張り上げる明
引き寄せられた勢いで宙に浮く美樹に向け容赦無くかざした掌に電撃を収束するが、次の瞬間収束されたエネルギーを翼が射抜き暴発させた。
「お忘れでしたら、もう一度最初から説明させていただきますよ。榊さん!」引き絞る弦の奥から翼らしからぬ鋭い眼光が覗く。
翼の瞳に強い意志と威圧を感じ取る明だったが、そんなことは明にとっては瑣末なことだった。そしてようやく気付く。
「そういえば…白金の奴はどうした?あと、槍の奴も!試練で死んだか?」明の心無い言葉にさらに表情が強張る翼、そしてカムイが吠える。
「死んで、無い!!海、生きてる!竜馬、戻る!必ず!!」牙を剥き出し怒るカムイを見て構える明だったが、そこでもう一つ気付く……闘気が少し離れた場所で騎神化もせずただただ明達の戦闘を見ていたことに……
闘気の行動に違和感を感じた明は言い放つ
「相棒が死んで意気消沈か?やはり白金がいなければまともに戦うこともできないみたいだな!」明の挑発に対し闘気は表情ひとつ変えず無言のままガムを噛む。
無気力な闘気を訝しみつつ、明は他三人と相対するのだった。
ーー1 雷道雪 ーー
刹那の閃光が濡れた岩肌を貫く、一撃の下に複数の騎神を跡形も無く葬り去る落雷
穿たれた衝撃によって削れた場所には稲妻が走り燻っていた。
目の前の光景と出来事に全ての騎神が息を呑み沈黙、その衝撃に戦慄を覚える。
そして、稲妻走る岩場の中心には輿の上で立て膝ついて鎮座する老人が…
その異質な存在に騎神達は恐怖する。
軽装な甲冑に身を包み、鞘に納まった大太刀を抱くように肩に立て掛けたその姿はまさしく古強者!
その顔に深く刻まれた多くの皺と剃髪された頭に刻まれた大きな傷が老人の凄みに磨きをかける。
カッと見開かれた双眸から放たれる凄まじい闘志と殺気の籠った眼光がこの空間全体を支配し、老人の圧倒的な威圧感に耐えられず、目が合っただけで恐怖に膝を屈する者もいるほどだった。
「我が名は戸次麟伯軒道雪
これより試練ば始める!」地響きのような低い声が騎神達の鼓膜を揺るがす。すると輿から雲が現れ、道雪を乗せた輿が宙に浮き上がる。そして道雪はおもむろに腕を上げ彼方へ指差す。
「よいか!うぬらが目指すは彼処」道雪の指し示した遥か先にあるのは山脈の頂上、更に詳細な位置を教えるかのようにその頂上に落雷が落とされる。
「あん場所ば行け!
さすれば我が主雷神様ばおわす。
雷神様のご尊顔ば拝むことが、この試練の目的じゃ!
ばってん、生き残れるは半数のみ!早い者勝ちったい!」道雪は肩に掛けた太刀を鞘から途中まで抜くと「始めい!」の一声と同時に太刀を勢いよく納刀し、その時の金打の音を開始の合図とした。
意味もわからず走り出す騎神たち、誰一人今の状況に納得はしていないが、道雪の恐ろしさに誰一人声を上げられる者などいなかった……だが、その道雪の恐ろしさ故に動くことができない者たちもいた。
「やはり、戦いを避けてきた者達は動くこともできんか……是非も無し……」おもむろに太刀に手を掛ける道雪の動きに、一斉に逃げ出す騎神たち!
だが次の刹那、金打の音が響く前に閃光が落ちた。
金打の残響が残る中、周囲に残る消し炭の跡が結果を知らせる……
一方、山脈目指し駆ける騎神たちに背後からこだまする落雷の音を気にする余裕はなかった。
なぜなら彼らもまた、落雷に襲われていたからだ。
試練の開始と同時に無差別に落とされる落雷にすでに相当数の騎神が消し炭にされ、運よく直撃をまぬがれても衝撃に吹き飛ばされ負傷したり、感電して動けなくなる者が続出した。
そんな後方の状況など知るよしも無く、突出する前方の騎神たち
雷の騎神は一定の領域を超えると雷の動きが見えるようで、前方を駆ける騎神の多くは落雷を目視で確認して避けながら山脈へ向かっていた。
中でも明のように突出した実力者は落雷を目視した上で、落雷が地表に落ちる前に攻撃して雷自体を破壊しながら前に進んでいた。
自然、そんな方法で駆ける明は先頭集団の中でも一人突出する。
そして、そんな明に対し凄まじい闘志を燃やす者が一人、徐々に戦闘集団に躍り出る。
先述の通り、雷の騎神は一定の領域を超えると雷を目視し避けれるようになる。
そして更に領域を超えると雷を自力で破壊、または弾き飛ばすことができるようになる。
そして、その更に先の領域に達すると、己の闘志を電気エネルギーのバリアに変えて周囲に展開し落雷を弾くようになる強者もいた。
その強者が弾いた雷が側を駆ける騎神を襲い、周囲に死屍累々の山を築きながら一直線に明目掛け迫り来る。
「サーカーキーーー!!」怒号と共に明に背後から襲いかかる騎神【雷鮫剣】
怒りを乗せた一刀をヒラリと躱し、脚を止め相対する明
只ならぬ勢いで自分に襲いかかった男を前に明は口を開く。
「誰だお前!?」この言葉に男はこめかみに血管を浮き上がらせる。それと同時に刃に走る稲妻の勢いが激しくなり男の全身に纏わり付く。
「忘れたとは言わせねぇぞ榊!!」怒髪天を衝く勢いで怒り心頭の男、剣の切先からつま先まで稲妻を走らせ明と対する男
そこに男目掛け落ちた落雷が男の凄まじい怒りの闘志によって分散し周囲に散らばった。
明は自分に飛び火してきた雷を冷静に弾き飛ばすと記憶に無い男の実力に表情が綻ぶ。
試練中にも関わらず脚を止め相対する二人を、後方の集団が抜き去っていく。
だが、その集団の中にも明を見て立ち止まる者たちがいた。
脚を止めた騎神たちも明のことを知っていた。そして皆同じように明を憎んでいる様子だった。
自分を囲む数人の騎神……全員が全員明を睨みつけ苛立っている。
一人一人の顔に見覚えは無いが、この状況に身に覚えの無いこともない様子の明
それに対し、周囲の騎神たちを煩わしく思う男
周囲の騎神たちはそれぞれに恨み節を呟きながら明に襲いかかる。
明は後から来た騎神たちを弄ぶように軽々といなしながら、決して男から視線を外さなかった。まるで『こいつらを片付けた後、一対一で殺り合おう』とでも言いたげな表情で…しかし、明たちが脚を止めていることをあの老人が見逃すはずがなかった……
「「なんばしよっとかっーーー!!」」雷鳴と見紛うほどの大音声がこだまし凄まじい落雷の衝撃がその場の騎神全てを吹き飛ばした。そして再び道雪が現れる。
「うぬら、今は試練の最中ぞ!
この道雪に斬って捨てられたかか!!」この道雪の恫喝に対し頭に血の登った騎神たちは怒りに任せ一斉に文句を言い放つが、道雪が鞘の鐺を地面に突き鳴らす衝撃に一瞬のうちに騎神たちは静まり返った。
「駆けよ!
今はよかっ!!ばってん、次は無かぞ…」道雪の脅迫に多くの騎神は従った。だが、唯一【雷鮫剣】の男と明はしばらく道雪を睨みつけていた。道雪も二人と睨み合うだけで何も言わなかった。
そして二人が再び駆け出すと道雪はしみじみと「よかぁ〜眼ばい」と呟いた。
ーー2 孤狼と鰐鮫 ーー
道雪の叱責を受け大人しく駆ける騎神たちだったが、やはり明に対する怒りや恨みが治まるわけも無く、駆ける明に数名の騎神が妨害を企てる。
後ろから追いついて来た明に対し、自分に落ちてきた落雷を明目掛け弾き飛ばす者や岩場を砕き小石を撒き散らす者、単純に振り向き様に電撃を飛ばして攻撃する者もいた。だが、その代償は高く付いた。
なぜなら後方を走る明にとって前方を走る騎神などただの的でしかなかった。
明目掛け落ちる落雷、それを冷静に見極めタイミングをズラし電撃を乗せた正拳突きで落雷を弾く
すると正拳突きの勢いで広く分散した雷が前方の騎神たちを無差別に襲う。
いくら雷を目視できるといっても、背後から向かってくる雷を回避・迎撃するにはどうしても動きが一瞬遅れる。
多くの騎神が雷の餌食になり行動不能に陥る中、それでも回避・迎撃の間に合う実力者には直接明が襲いかかった。
背後から接近し拳の一撃で頚椎を砕き不随にした騎神を天高く投げ飛ばし、避雷針代わりにして落雷の餌食とした。
空中で雷の直撃を受けた騎神は木っ端微塵に吹き飛び、それを見た騎神たちは震え上がる。だが少しでも隙を見せれば最後、一人また一人と確実に仕留めていく明
そしてその様子を後方から冷静に見つめ、内に秘めた遠雷を胸に牙を磨く鰐鮫鏑木時生(18)彼の中では試練のことなどもうどうでもよくなっていた。
狙うは榊明ただ一人…身体を駆け巡る稲妻と漏れる殺気は前を駆ける明にも伝わっていた。
明が最後の妨害者に鉄槌を下し終える頃、そこには明と時生だけが取り残されていた。
拳にまとわりついた返り血を振り払って構え直す明、その視線の先にいる時生を挑発する。
二人の中では既に試練のことは二の次となっていた。
稲妻走る剣の切先を地面に擦り付けながら引きずるような構えをする時生
時生の中で燻っていた遠雷は今、霹靂となって時生自身を貫き、本能のままに暴れる鰐鮫を覚醒させる。
最初に仕掛けたのは時生
牙を剥き出し恐ろしい形相で稲妻走る剣を引きずりながら迫る、その切先は岩肌を削り放電現象を発生させながら明に襲いかかる。
大きく振り下ろされた刃に対し、明は珍しく大袈裟に避けた。迫る刃の動きを素早く見極め最速で最大の距離を取るための回避だった。そしてこの判断は正しかった。
時生の一撃は周囲を無差別に巻き込む広範囲攻撃だった。
空振りに終わった一撃の先は彼方まで深い溝が刻まれ、その周囲を放電が燻り続けている。
距離を取ったつもりの明でさえ指先のギリギリのところまで放電が届いていた。
この一撃で明から余裕は消える。
真剣な眼差しで構える両者、そして明は思い出す。鏑木時生との出会いを……




