仄暗い水の底から2
三叉が切り裂いた水月の頬の傷は、海を睨み返す間に元通りに修復した。
『ゴミ』とまで蔑んだ雄が放った一撃が、一瞬とはいえ水の神の頬を傷つけたのだ、水の神水月のプライドに泥を塗った海…その先に受ける報いを海はまだ知らない……
ーー3 神の怒り ーー
「ゴミが調子に乗りおって、、、
本来であれば貴様ら雄など一匹残らず滅ぼすモノを少しでも温情をかけてやればこの始末!
やはり雄は雄か!
醜い!やはり一人も生かす価値も無し!」
「死に晒せ!」水月のこの一言に瀑布を含め全ての水の流れが止まる。
一瞬の静寂と共に全ての水が頂上の水月の下へ集約されていく。
水を失った滝壺には無数の騎神達の水死体が山を築き、その上に海は落ちた。水死体がクッションになり海は無事だったが、周囲を囲む無数のブヨブヨの水死体の山を見て、目の前に迫る『死』に震え上がる。
上を見上げるとそこには障害だった滝が消えている隙に必死に頂上を目指す騎神たち…そして、その遥か彼方の頂上で膨大な水を一つに集約する水月
騎神達を見下ろすその眼に一切の慈悲は無く、まるでゴミ箱に紙クズを捨てるような手つきで集約された水を騎神たちが居る崖底に落とした。
膨大な水が崖を削る激流となって全てを呑み込んでいく
登る騎神もその足場となる岩肌も全て破壊しながら、崖底の死体の山から見上げる海を呑み込まんと迫る。
圧倒的水量で全てを破壊しながら迫る激流を前に、海の脳裏に走馬灯が走る。
一瞬のフラッシュバックの最後に残るはおやっさんの言葉「「生きろ!!」」この言葉に海は正気を取り戻し行動に出る。
海は周囲の死体の中からそれぞれ槍などの長物の武器を拾い上げ周囲の死体に突き刺していく、その上に数人の死体を乗せ傘を作ると大槌をその中心に差し込みその側で踞る。
そのうち落下してきた水が死体の傘に降り注ぐ。圧倒的水量に死体に突き刺した長物の武器は次々と圧し折れ、激流の勢いに圧し潰された傘代わりの死体は徐々に重みを増し、必死に耐える海を圧し潰さんとのしかかる。
大槌を柱に重量を分散させて圧死はまぬがれたが、それでも容赦無く襲いかかる圧倒的水量に身体中に激痛が走り、骨まで軋みをあげる。歯を食いしばり耐える海だが、今度は下から水が海を呑み込んでいった。
水の浮力で上からの重圧からは解放されたが今度は濁流に呑まれたことで酸素を奪われ呼吸ができない、水面に出ようと必死で足掻くも濁流の流れと無数の死体が行く手を阻み、限界を迎えた海の身体は力尽き、そのまま流れに呑まれていった。
しばらくして水月は水を抜き、崖底に溜まった無数の死体を見て満足そうに微笑み立ち去ろうとするが、崖底から微かな心音を感じ驚く。
そして死体の山からその心音の主を見つけ出し目の前まで引き上げる。
力無くうなだれる男、それは水の神である水月に傷をつけた不敬者にして汚らわしく醜い雄 藤堂海だった。
一命は取り留めているものの呼吸は微か、心臓もいつ止まってもおかしくない状態まで衰弱しきっていた。
すぐさま止めを刺そうとする水月
そこへ水月の背後から声をかける存在が現れる。
「おやめください姉上!」手を止める水月、そこに居たのは氷の女神 凍月だった。
「たとえ姉上に不敬を働いた者だとしても、試練を達成した事は事実!
命を奪うことはないのでは?」凍月の言葉に自分が引き上げたことで、崖の頂上に海が上がっていることに気付く水月
少し考え「よかろう」と海をぞんざいに投げ捨てると別次元へ飛ばした。
「相変わらず、男に対し厳しすぎるのでは?」崖底の惨状を見ながら話す凍月
「其方に指図される謂れはない。
元よりこの世界は妾のもの、何人たりとも異を唱えること能わず…たとえ其方であろうともな…」冷たい目で言い放つ水月を見て凍月は軽くお辞儀をしてその場から消えていった。
斯くして水の試練は海を残し全ての男が脱落して終わった。
女達は別次元で戦う意志の有る者は無条件に試練を突破し無き者のみ脱落した……たとえ女性であっても戦う意志の無い騎神は切り捨てる。あくまで水月のさじ加減ではあるが、試練としての選別は明確に行われていた。
海の肉体は別次元へ移動する間に回復した。
だが、身の毛もよだつ戦慄の経験の果てに九死に一生を得たものの、その心には大きく深い傷を残した。
河川敷に帰還してもその心は虚ろなまま、意識があるのかないのかあやふやな精神でフラフラと彷徨うだけの抜け殻と化した海だったが、それでも最後に辿り着いたのはおっちゃんのプレハブだった。
ーー4 帰還 ーー
翌日、国内の至る場所に突然落雷が落ちた。
晴天・曇天関係なく落ちたその雷が意味するのは、雷の騎神の帰還…当然、快晴の河川敷にも青天の霹靂が落ちる。
そして帰還早々明を出迎えるのは4人の騎神 闘気・翼・カムイ・美樹
眼前に並ぶ4人の騎神を冷静に見つめ明は騎神化、帰還早々も臆することなく立ち向かうのだった。




