家無き子1
某所にある少年院
この日一人の青年が出所する。
母親と教官に連れられ正門から出ると青年は教官に深々と頭を下げる。
それに答える様に教官は肩を叩き「がんばれよ!」と声をかける。
そんな二人のやりとりを尻目に、手続きだけを済ませた母親は正門前に停めてあった車に乗り込む。
そして非行を繰り返し続けてきた息子を見捨てる様に走り去っていった。
そんな母親の行動に若干バツの悪そうな顔で再度肩を叩き「まぁ・・・なんだ、困った時は連絡しろ!!」そう言って施設内に戻っていく教官に再度深々と頭を下げ、青年は少年院をあとにする・・・・・
ーー1 公園の主 ーー
8時00分 名楠町中央公園
竜馬と闘気の通学途中にある公園
敷地内には区画ごとに遊具やグランド、遊歩道があり
芝生や木々に囲まれた地元の人々の憩いの場
そして所々に散在する段ボールやベニヤ板で作られたプレハブ小屋に住むホームレスたちの居住区でもある。
早朝、公園内のグランドから爆発音とともに焦げ臭いにおいが漂う。
大きな焦げ跡の周りを砂煙と黒煙が舞い上がる中「ゲホゲホ」と咳払いが聞こえてくる。
その咳の主は風下に立つ闘気
「ゲホッ、まぁこんなもんだろ・・・ゲホッゲホッ」口と鼻を腕で覆い咳き込みながら焦げ跡の中心の方へ声をかける。
「へぇー・・・」焦げ跡の中心で大剣をまじまじと見ながら感心する竜馬
光の騎神との戦闘の翌日、竜馬に騎神の能力の使い方を教えるべく二人は早めに家を出たのだった。
竜馬はバカだが飲み込みは早い、まぁ体を使ったものに限るが・・・
幸い竜馬の能力は『火』、俺の『悪』と違ってわかりやすく単純な能力、覇気を込めりゃ大剣の炎の勢いが増し威力も上昇する。
イメージ一つで火の弾も撃ち出せるようになったし、能力の使い方は大体理解したみたいだ。
思ったより早く特訓も終わったし、眠気覚ましにベンチで一服することにした。
「よー、一本くれよ」一人の年老いたホームレスが俺のタバコを求めて声をかけてくる。
「相変わらずだなオッチャン!」とタバコを差し出すと
「へへへ、お前らが朝っぱらから花火やるもんだから起きちまったんだよ!」手慣れた手付きでタバコをヒョイと抜き取ると、大事そうに吸い始める。
朝っぱらから小さなワンカップ片手にタバコと酒を交互にチビチビ、汚ねぇジジイの至福のひととき
このじいさんは公園に昔から住み着いているホームレスで、名前・年齢・ホームレスになった経緯その全てが謎のホームレス
通称『オッチャン』この町の住民のほとんどが知り合いで、この街の表と裏から住民の個人的な事情まで、大概のことに顔の利くこの町のご意見番
この公園に住む全ホームレスたちの元締めで、公園以外の場所に住み着くホームレスたちの世話もしている。ホームレスたちからは尊敬の念を込めて『おやっさん』と呼ばれ、又の名を『公園の主』
「オッチャーンひさしぶり~!」竜馬がグランドから大きく手を振りながら向かってくる。
「おー、相変わらずだなリョウ坊!あのな、花火するのは構わんが静かなやつにしてくれ!最近入った新人が夜勤明けで今寝たとこなんだ。」オッチャンが指さす方向に目をやると、人ひとり入るくらいの真新しい段ボールでできたプレハブがあった。
「おい、またろくでもねぇ奴の面倒見てんのかよ!?」
「まぁそういうなトウ坊!あいつはそのうち出て行くよ、今は金が無えだけだから」
「何者なんだよ?」
「知らね。」オッチャンの適当な返答に「え?大丈夫?」竜馬が心配そうな顔で言うが、オッチャンは頭や首を掻きながら
「まぁ、誰にだって触れてほしくないことの一つや二つあるもんさ!
それにいろいろ知らない方が後々何かあったとき『知らん!』で吐き通せるからな!!はっはっはっ」
「大丈夫かよ?」
「ん~?まぁ~盗られて困るような物も無いしな!!はっはっはっ」笑いながらタバコを吸うオッチャンに呆れて言葉も出ない
俺が吸い終えたタバコの火を消して捨てようとした瞬間、それをオッチャンが奪う。
「勿体無い勿体無い・・・」と器用に形を整えて懐にしまった。
その様子を見て得も言われぬ表情で俺らはその場をあとにした。
ーー2 家無し達 ーー
14時30分 名楠町中央公園
人通りの少ない並木道をガラの悪そうな男数人がサングラスの隙間からガンを飛ばしながら横並びに闊歩する。
派手な服装に横柄な態度、服の隙間から見える地肌に彫られたタトゥーの数々、いわゆるチンピラというヤツだ。
その中の一人がプレハブ小屋を見つけ嘲笑、おもむろに近づき壁のベニヤ板を蹴破る。
突然の出来事に驚いて出てきたホームレスを見てチンピラ達は爆笑する。
「なっ何なんだ、あんたたちは!?」と聞くホームレスに対し、チンピラは唾を吐き捨て見下した態度で言い放つ
「悪いんだけど、臭ぇからどっか行ってくんね!」この無茶苦茶な理由に困惑するホームレス
そこへ他のチンピラたちも罵声を浴びせながらホームレスを足蹴にする。
その様子を離れたところで見ていたホームレス達は関わらないように一目散に逃げて行った。
それを見つけたチンピラたちは逃げて行ったホームレスたちにも罵声を浴びせながら追い駆け襲い掛かる。
チンピラたちはまるで楽しむかのようにホームレスたちを襲い、そのたびにホームレスたちの悲痛な叫びが公園内に響き渡るのだった。
片っ端からホームレスを襲っていったチンピラたちは、ついにオッチャンの住処であるグランドに入っていった。
そしてチンピラの一人がオッチャンのプレハブを見つけ、チンピラ達を集めて向う。
その時オッチャンは一人、しけもくのフィルターにつまようじを刺して吸い、それを肴にワンカップ酒を大事そうにチビチビ飲んでいた。
「おい!昼間っから酒飲んでんじゃねぇよジジィ!!」チンピラの一人が大声を上げながらオッチャンに近づいていく、そこに先ほどまで暴力を振るわれていたホームレスが叫ぶ
「おやっさん!!逃げろっ!!!」叫ぶホームレスを近くにいたチンピラが腹を蹴り飛ばして黙らせる。
「若ぇのが昼間のこんな時間になんだ?見ねぇ顔だな!?」酒に酔っているのかフラフラと立ち上がるオッチャンに、チンピラは近づきながら拳を振りかぶった。
その瞬間、横から段ボールの塊がチンピラの顔面を薙ぎ払った。
突然の出来事にビックリしたチンピラは怒声を上げて起き上がると、そこにはツナギを着た長髪の男が頭を掻きむしりながら眠そうな顔で立っていた。
ーー3 家無しの怒り ーー
長髪の男の行動に怒り心頭のチンピラは、怒りに任せ殴りかかる。
チンピラの拳は男の頬をとらえるが、殴られて横を向いた顔が再びチンピラに向いた瞬間、先程までの眠そうな顔が一変、完全に据わりきった目はチンピラの顔を捉えると一瞬動揺したチンピラの鼻筋目掛け素早く頭突き
衝撃で後ろに倒れそうなチンピラのむなぐらを倒れるより早く掴むと、引き寄せ拳を顔面に叩き込む、拳は正中を見事に捉えチンピラは失神、その場に力なく倒れ込んだ。
「おいてめぇ!ふざけんな!!」仲間の6人のチンピラ達が血相変えて男に向かってくるのを見て、男は長髪を後ろにまとめて紐でくくり、首の骨を鳴らしチンピラ達の中心に飛び込んでいった。
まずは先頭を走るチンピラの顔面向け飛び膝蹴り
そのまま着地の勢いを乗せた拳を隣にいたチンピラに叩き付け
着地と同時に裏拳で背後のチンピラを一蹴
さらに続くチンピラ二人に連続で頭突きをお見舞いし
最後の一人は強烈な前蹴りで払い除けた。
ほんの数秒の出来事に後から現れたチンピラは男から数m離れた場所で勢いを失い、その場に立ち尽くしていた。
男の足元で苦しそうに悶絶する仲間たちを見て恐怖し震えだしたチンピラに対し、男は表情一つ崩さず足元のチンピラを踏みながら最後の一人に向かって行く。
あまりの恐怖にその場にへたれ込み悲鳴を上げるチンピラ、そこにオッチャンが声をかける。
「その辺にしとけ!」オッチャンの言葉に男は立ち止まりチンピラに言う。
「おい!こっちは寝てんだから静かにしろ!!」そう言って引き返そうとするが思い出したように戻ってチンピラの髪を鷲掴みにし「あとホームレス相手に粋がってんじゃねぇよ!三下が!!」と啖呵を切りチンピラの頭を勢いよく振り払った。
「悪いんですけど・・・そこの人達連れて帰ってもらえませんかね?こっちとしても警察沙汰になるといろいろと面倒でね・・・」オッチャンの言葉に渋々立ち上がり仲間たちを連れて公園を出て行くチンピラ
「ちょ・・・っとめんどうなことになったな~」オッチャンのこの言葉を気にすることもなく男は再度段ボールに包まり眠り始める。