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騎神伝  作者: 一一【ニノマエ ハジメ】
試練
35/56

Shout At The Devil 2

 血の雨に打たれ前髪に滴る真紅の雫に震える闘気、知らぬ間に息が荒くなり意識が飛びそうになる。

 その間も前に立つ自分を警戒するが、視界が霞み距離感も掴みづらい、離れた場所から聞こえる悪魔の笑いと騎神の悲鳴に闘気の意識は混濁する。

 気付けば周囲を見知らぬ死体が埋め尽くし、呼吸するたびに死臭が鼻を突き激しい吐き気に襲われる…闘気は正気を失いかけていた。




 ーー4 屁は笑い草、煙草は忘れ草 ーー


 次にコピー(ヤツ)はどう動く?

 考えろ!自分ならどう動くか、この最悪な状況でヤツも思考が鈍ってるはずだ!早く決めなきゃ悪魔が来る……考えろ!

「ヴゥッ」チクショウもう限界だ。この臭いだけでもどうにか出来りゃ……!!



 精神的ストレスと強烈な吐き気に後退りする闘気が偶然触れた袴に感じた感触

 それはくしゃくしゃのタバコの箱、中には最後のタバコが一本と100円ライター

 震える手で取り出し火をつける。

 それを見て対峙する自分が慌てて向かって来る。


 一気に半分以上が灰になるほど大きく吸って口から白い煙を吐き出す闘気、副流煙の臭いが一瞬だが周囲の異臭を忘れさせ冷静な思考を取り戻した。


 闘気は答えを出す。


「もらった!!」向かってくる自分の斬撃を最低限の動きで避け、死角から大きく斬りつける。

 直刀を落とし跪く自分と睨み合う闘気

 口から煙を吐き出し、地面に刃を突き立て『串刺し公(ヴラド・ツェペシュ)』黒い棘が貫く瞬間、コピーが薄っすらと微笑んだように見えた。

 闘気は自分が無数の棘に貫かれる様を見ながら短くなったタバコの灰が落ちる前に刃を引き抜いた……。



 破裂する自分の姿と飛び散る自分の肉片を浴びる闘気……タバコの火はすでにフィルターまで到達し口からこぼれ落ちる。

 そして意識の拠り所を失った闘気の鼻腔が血生臭い臭いで満たされ、食道から一気に込み上げる。

 次の瞬間、闘気は堪らず胃の中のモノ全てを吐き出しその場へ倒れ込む。


 そして…今まで頭を支配していた笑い声がピタリと止み、闘気の周りの死体が闇に呑まれていく。

 その様子を見て闘気は自分も闇に呑まれまいとその場を離れようと足掻くが、そこへ猛スピードで迫る足音が聞こえてくる。



「ア〜レアレアレアレアレ〜〜〜!」足音の主はアモン、遠く闇の彼方から迫り来る白い仮面に怯え後退りする闘気

 だが、アモンは猛スピードで迫る勢いのまま闘気の吐いた吐瀉物に足を取られ闘気の目の前で盛大に滑り転げて行った。


 アモンの滑稽な姿に平静を取り戻した闘気は立ち上がり息を整えた次の瞬間、背後に白い仮面が現れる。

「まーーーーさか、ボクチンがイタズラする前に倒しちゃうとはね〜

 キミ、一等賞ダヨ!!」突然耳元で囁かれ反射的に斬り払う闘気

 アモンのカラダは真っ二つになるが闘気に斬った感覚は無い、それどころか二つに分かれたカラダはすぐに元通り再生、闘気を見つめる仮面が真横に傾き裂けた口が開いて『ケタケタ』と笑う。

 その様子に今度は仮面を斬りつける闘気、真っ二つに破れた仮面はそのまま力無く下へ落ち粉々に砕け散り、体は闇に溶けていった。


 驚きのあまり息を切らす闘気に再度アモンは耳元で囁く。

「まーまー落ち着いて〜、キミの試練は終わったんだからさ〜」アモンの声に今度は振り向くだけの闘気、怯えつつもアモンの言葉に耳を傾ける。

「こんなに早く試練をクリアするなんて…キミ、面白いねぇ〜」目の前に立つ悪魔に怯えつつも徐々に落ち着きを取り戻し呼吸も安定する闘気

「でもキミ、未成年なのにタバコは良くないよぉ〜……」言った瞬間アモンは闘気の前から姿を消し、次の瞬間後ろから闘気の背中に手を突っ込んだ!!


「ほぉ〜ら〜こんなに肺が汚れちゃってぇ〜、も〜真っ黒じゃないかぁ〜」アモンは闘気の肺を弄り肺内にこべりついたタールをかき集める。

 その間、肺の中を直接握られている闘気は呼吸ができずもがき苦しみ抵抗すらできない。

「ダメだ!ダメだよ!!まだ若いのにこんな身体悪くしてぇ〜」もがき苦しむ闘気をお構い無しに鼻歌混じりに弄り続けるアモン、遂に闘気は酸欠で気を失いアモンが手を引き抜くと力無くその場に崩れ落ちた。




 ーー5 試練の終わり ーー


 意識を取り戻し目を覚ます闘気

 覚醒直後でぼやける視界、混濁する意識の中で徐々に視界が鮮明になっていく……そして気付く、ここが先程まで居た漆黒の闇と恐怖に覆われた地獄のような空間ではなく、ただの広い部屋の中であることに…

 そして周囲には自分と同じ悪の騎神達、多くの者が憔悴しきり立ち上がる気力も無い様子で……、一点を見つめ譫言を呟き続ける者や正気の無い目で壁に寄り掛かり涎を垂らす者、ひどい者だと過呼吸ぎみの荒く早い呼吸で瞳孔も開き膝を抱えた状態で全身を震わせる者もいた。

 改めて見ると、ここも違った意味で地獄のような場所といえる。



 そこへ闘気の手元に「「べチャッ」」と気色の悪い音とともに黒い二つの玉が落ちてくる。

 闘気がそれに気付き手に取ろうとすると、視界に黒いカラダが映り込む。

 見上げる闘気と目が合ったその存在は悪魔アモンだった。

「やぁ、お目覚めかな?」アモンの声に部屋中の騎神達がどよめき悲鳴を上げ恐怖する。闘気もあまりの恐怖に呼吸を忘れるほどだったが、アモンは黒い玉を拾い上げ闘気に差し出す「キミのこと、気に入っちゃったよ!お近づきのしるしにコレをキミにあげちゃう!」闘気は震える手で玉を受け取る。ベチャッとした気色の悪い感触と、タバコと血生臭さが混じったような独特な臭い…黒い玉の正体は闘気の肺から抜き取ったタールの塊だった。



「さぁ、みんなは試練をクリアした。ご褒美として【悪の奥義】と【固有技】をみんなに伝授するよ!!

 もっとみんな()遊んでいたかったけど残念、それが終わったらみんなを元の世界に帰さないといけないんだ……淋しいな〜」アモンによる技の伝授が始り、騎神達は奥義とそれぞれ別の固有技を身に付けていった。




 ーー6 帰還 ーー


 全ての騎神が奥義と固有技を習得し終えると、騎神達は元の世界へ帰還する。

 漆黒の空に開かれる空間の裂け目に、騎神達が来た時同様光の球体に包み込まれ裂け目に吸い込まれていく

 闘気は上昇する光の球体の中で下から見送るアモンを見る。

 アモンは漆黒のカラダから大きな手を出して大仰に手を振る。アモンの光る目が自分を見ている気がした闘気はアモンに向け中指を立てた。すると仮面の口が開き長く大きな舌がダラんと飛び出す。


 アモンの返答に闘気は震えつつも鼻で笑う。


 そして気を失う。



 目を覚ますとそこは嬉優市内鈴井川河川敷

 空間の裂け目に吸い込まれた場所、最後に明と交戦し翼の交渉に明が返答する直前だった。

 闘気は河川敷の風景を懐かしみながら大きく深呼吸する。そして気付く、以前より大きく・深く息が吸えることに、そして手に握りしめる。二つの黒いタールの塊を……


「(ワンッワンッ)山城くん?」背後から犬の鳴き声とともに聞こえる声に振り返ると、そこには同級生浅倉マナミがいた。

「浅倉!?」

「どうしちゃったの?学校何日も休んで!」マナミの質問に驚く闘気はすぐさまスマホを取り出し日付を確認した。


 5月30日…試練の開始から既に五日が過ぎていたことに驚愕し一瞬放心状態になる闘気、そして恐る恐るマナミに質問する。

「浅倉、俺以外にも何日も学校休んでる奴っているか?」

「うっうん、なんか季節外れのインフルエンザか何かじゃない……って思ってたけど?」竜馬と闘気が裂け目に吸収されていくところを目撃していたマナミは辿々しい言動で答える。

「浅倉、竜馬は戻ってきてるか?」

「白金くんも学校には戻ってないよ。山城くんは知らないの?」マナミの返答に闘気は一目散に駆け出して行く。

「山城く……、行っちゃった。」



 走りながら闘気はスマホで情報を確認する。

 試練が始まって騎神のいない世界で何が起こったか、それに対しメディアや政府がどう判断しどう報告したか、そして何より直近で起こった【騎知らせ】による騎神による戦闘発生の注意喚起がないか……


 調べていくうち闘気の足取りは徐々に緩やかになる。


 調べる限り試練開始から今までに騎神による戦闘は無し……

 自分が帰還したタイミングで自分以外、竜馬たちの存在はなかった……これは試練を終えた騎神は全員同時にではなく、属性ごとに順次帰還していることを証明し、そして恐らく現場帰還しているのは悪の騎神のみであるだろうという仮説が立てられる。

 しかしそれは同時に自分達が騎神であることを世間に知られる危険性を孕んでいた。



 闘気は我が家にたどり着くと、最初に隣の白金家のインターホンを押す。

 憔悴した様子で出迎える麻美に事情を話し安心させると、闘気は自宅へ戻り泥のように眠った。


 この日、闘気はタバコを一本も吸わなかった……



 翌日、闘気は河川敷へ向かった。

 試練を終えた騎神は元の場所へ戻ることがわかった。そのため竜馬が戻ってくるとしたら河川敷ここなのだ。

 コーヒー片手にスマホを見ながら待つ闘気、そんな中【騎知らせ】の通知が鳴る。

 やはり試練を終えたのは悪の騎神だけなのだろう

 久々に報告された騎神同士の戦いにメディアは大慌てで緊急情報を流す。

 離れた場所の戦闘であったため慌てず河川敷を眺め続ける闘気


 そこへ突然強烈な突風が吹き、舞い上がった土埃に目を瞑る闘気、そして再び目を開き河川敷を見ると、そこには人影が…

 驚き立ち上がる闘気、そこにいたのは小さな身体に淡色の髪、薄茶色の大きな瞳の少年


 翼だった。 

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