ボディーガード3
中庭の会議が終わり翼の用意した送迎車に乗り込み帰宅する竜馬と闘気、それを見送る翼とカムイ
美樹とメイド達は中庭でカムイが食べ散らかしたビュッフェの後片付けを始める。
書斎では闘気専用の喫煙室の設置を検討する橘に石動が話しかける。
「いいんですか?あの少年に言い包まれる形になってしまいましたが・・・」険しい表情で話す石動に橘は配置できそうなスペースの寸法を測りながら答える。
「そうですか?私には結果として翼様の望まれた形で終わったように見えましたが・・・」
「ですが、あれでは藤堂の覚悟が・・・」
「彼はあくまで翼様のボディーガード、彼の望むやり方を尊重する義理はありません。結果が全てです。」寸法を測り終え石動と視線を合わせる。
「相変わらずですね。そういう翼様のためなら手段を選ばないトコロ・・・」
「元々はあなたに教えて頂いたことです。主人の安全確保を最優先に・・・そのためなら手段は選ばない・・・そうでしょ?」少し微笑みながら返す橘に石動は吹き出す。
「まだそんな事覚えてましたか、あの頃は俺も若かった・・・あなたも家族を持てばわかる。」
「鬼の教官も丸くなったってことですか?」
「ええ、腹周りもこの通りだ!」ビール腹を叩きながらふざける石動に橘も吹き出し大笑いする。
「それにしても石動さんが藤堂を気に入るとは意外でしたよ。あんなに熱心に訓練に付き合うとは・・・」
「それを言うならあなたが騎神を敷地内に入れたことの方が意外だ。
翼様が藤堂を雇いたいと申し出て、そこからはあれよあれよと、今じゃ騎神三人とほぼ同居ときたもんだ・・・これはどういうことなんです?橘さん」石動の質問に対し一拍間を開けて口を開く
「翼様が藤堂海を雇った理由、それは翼様が持つことを許されなかった『自由』を彼が持っていたから・・・」
あれは榊明との初戦闘後のこと、調査部から白金竜馬・山城闘気・藤堂海の調査報告を受けました。
調査部が指摘した藤堂の過去・・・それは学生時代に複数の非行・犯罪行為を犯していたこと・・・まぁそれだけならただの非行少年で済むトコロですが・・・
三年前、彼の在学する高校とそれと敵対関係にあった高校で抗争があり、争いの中で一人の生徒が刺され命を落としました。
藤堂自身が人を殺めたわけではありませんが、その事件に深く関わっていたこともまた事実・・・そのせいで藤堂はつい最近まで少年院に服役、出所後も両親から勘当同然の扱いを受け、そのことで路頭に迷った彼がホームレスになったことも容易に想像できる。
藤堂の境遇には同情の余地はありますが、調査部の見解通り看過し難いこともまた事実
当初、翼様がこの調査結果を聞けば藤堂を危険視して遠ざけられると思いましたが、結果は逆の方向に進みました。
調査結果をご覧になった翼様はご自身とは全く逆の人生を生きてきた藤堂に俄然興味を示された。
家に縛られ、周囲のしがらみに自由を奪われた翼様
身勝手に生きた代償に全てを失い、それでも必死にもがく藤堂
そんな彼から翼様は何かを学ぼうとされている。そんな気がするのです・・・
ーー6 榊明捕獲作戦 ーー
5月25日 名楠町鈴井川河川敷
小高い堤防に挟まれ穏やかに流れる鈴井川、その堤防から河川敷を見渡すと所々に公園や野球場などの娯楽施設があり、川に架かる数カ所の高架橋と高架線それらを利用する人々が見える。
そんな穏やかな昼下がり、竜馬達六人は人気のない雑草の生い茂る場所にいた。
「ねぇ〜、マジでヤんの?」嫌そうな顔で文句を言う美樹
それに対しスマホをいじりながら闘気が返答する。
「もう【騎知らせ】に俺らの情報は流れてんだから中止は無しだ。とっとと始めろ。」軽々しく言い放つ闘気に対し、翼は諭すように「お願いします彩名さん」と丁寧に頼む。
翼の頼みに闘気に対しブツクサと文句を言いながら騎神化した美樹は、自分を起点に鞭を振るい巨大な氷の柱を作り出した。
突然現れた巨大な氷の建造物は周囲の人々の目に止まり、【騎知らせ】の情報とも一致するその場所から人々がチリジリに逃げていく。
「とりあえずこれで人的被害は出ないだろ」SNSに投稿された氷柱の画像を見ながらタバコをふかす闘気
「ええ、こんなことに無関係な人たちを巻き込むわけにはいきませんから・・・」一目散に逃げていく人々を見つめる翼
「来るかな〜榊くん・・・」川の下流側を見ながら呟く竜馬に対し、逆の上流側を見ながら闘気は言う
「来るさ・・・余計な連中を潰しながらな・・・」このの言葉を疑問に思い闘気の顔を見る竜馬、その視線の先には上流の方から至る所で光の筋が空に上がったり、一度光った光が消えまた別の場所で光っては消えを不規則に繰り返していた。
その光に竜馬が目を凝らしていると氷柱の上から美樹の声が響く
「ホーちゃん!あっちの方からなんか来るよ!!」美樹が双眼鏡で下流側から接近する者を確認して翼に知らせるが闘気がすぐさま指示を出す。
「待て、それは榊じゃない・・・榊は上流側だ、下流側は藤堂に行かせろ」海が闘気の指示に下流側へ向かうが途中で足を止め「おい!」と闘気を睨みつける、それに対し闘気が振り向き言い放つ
「竜馬は榊にとって一番のエサだ、それにカムイが行ったって相手が女だったら意味が無い、翼がいったって殺られるだけで足止めにもなんねぇだろ。
ご主人様が心配なら、とっととそっちの敵片付けて来い!!」闘気の檄に海は舌打ちしてカムイに翼の護衛を任せ下流側へ駆ける。
そうこうしているうちに上流側のかなり近い場所から光の筋が打ち上がり、それからは先程まで見られた光の現象は無くなる。そして氷柱の上から響く美樹の声
「来た・・・来たよりょうちん!」美樹の双眼鏡がとらえたのは、騎神狩り・榊明の姿だった。
・フェーズ1
竜馬は騎神化、明を視界に確認すると大剣を構え飛び出す。
明も竜馬を確認すると騎神化、空からオーブを吸収しながら電撃を乗せた拳を振りかぶり竜馬を迎え撃つ。
竜馬の大剣と明の拳が激しくぶつかり合い、河川敷の草むらを焼き焦がす。
焦げた雑草が灰になって舞う中、数度打ち合った二人は距離をとって対峙する。
竜馬との戦闘を楽しむ明は上機嫌に微笑み、構えた片手で竜馬に合図を送る。
明は知っていた・・・竜馬の本領は『大炎上』で気合を入れてからだと言うことに・・・
そして竜馬は明の意思を汲み取りニカッと笑い大剣を天高く振り上げ雑草の群れに叩きつける。
「大炎上!!」周囲の雑草の群れを一瞬で更地に帰すほどの爆発と、辺りを焼き焦がす炎から竜馬が飛び出し斬りかかる。それを待ち望んでいた明は正面から受けて立つ。
炎と雷が激しくぶつかり合う中、闘気はただただタバコをふかし眺めるばかりで何もせず翼・カムイも手を出そうとはしなかった。
一方、氷柱の上で周囲を見渡す美樹は少し離れた場所で四人の騎神と戦う海を発見する。
「ニコ中!ポニさんがあっちの方で四人と戦ってる。結構ヤバそうなんだけど!!」美樹の報告に闘気は吸い終えたタバコを足元に落とし踏み潰すと「後は任せた・・・」と翼の肩を叩き下流側へ向かった。
山城さんの作戦は、【騎知らせ】と氷柱であえて自分達の居場所を知らせることで、こちらに有利な戦場へ榊さんを誘き出すこと・・・
その際【騎知らせ】の影響で榊さん以外の騎神も現れることも考え、榊さんとの戦闘を白金さんに一任して、その間に美樹さんに高所から周囲の騎神の監視をしてもらうことで榊さんだけに専念できる状況を作る。
幸い、上流側の騎神は榊さんがこちらに向かう途中に一掃したようで上流側からの騎神の接近は無し、残るは下流側からの騎神のみ
恐らく藤堂さんが引きつけた騎神を山城さんが一掃して自身の能力を強化するつもりなのでしょう。
山城さんにとって白金さんは榊さんを引きつけるためのエサで、藤堂さんは自身の強化のための擬似餌にすぎない・・・・・やはり、闘気とは相容れない・・・・・。
そうこうしているうちに下流側から来た騎神を撃破した海と闘気が戻ってきた。
「さて、下準備は終わった。次のフェーズに移行する。美樹!」闘気の合図と同時に美樹は氷柱を破壊、崩れ落ちる無数の氷塊が竜馬と明に降り注ぐ。
・フェーズ2
竜馬は大剣に覇気を込めることで高熱を発生させ氷塊を一瞬で溶かし水と水蒸気に変えた。
対して明は雷吼砲で氷塊を吹き飛ばそうとするが構えた瞬間、海の翔水一擲が襲いかかる。間一髪身を捩って躱すも再び竜馬の猛攻が明を襲う。
遅れて落ちてきた美樹をカムイが受け止める。カムイの腕の中で惚ける美樹だったが、カムイはすぐに美樹を下ろし騎神化、斧を振り上げ上空に巨大な刃を召喚して明目掛けて振り下ろした。
竜馬の大剣とその隙を縫うように襲いかかる鉄の刃に明は防戦一方となるが、その表情にはまだ余裕があった。
そこへ海も加わり高圧水流を放つ。この直線的な攻撃を明は軽々と避ける・・・が、避けた高圧水流を竜馬が斬った。
次の瞬間、高熱の剣で斬られた水は蒸気に変化、一瞬で竜馬の姿は靄に包まれ明は竜馬を見失う。
その間も襲いかかる鉄の刃と高圧水流、全て避けていく明だがその間も避けた水流を竜馬が蒸気へ変えていく、気付けば明の周囲は真っ白な蒸気に覆われ視界不良、そんな中容赦なく鉄の刃が襲いかかる。
明は風を切る音に反応して刃を避けながら拳に能力を込め地面に叩きつける。
周囲に電気エネルギーを放出することで靄を吹き飛ばし視界を確保した先に見たのは、巨大に膨れ上がった黒炎弾!
「よけてみな!!」闘気の捨て台詞と共に放たれた黒い塊は容赦無く明を呑みこまんと迫る。
前回の戦闘で能力を限界まで溜め込んだ黒炎弾には明も雷吼砲で対抗するのに一定の溜めを必要とすることが判明している。
溜める隙を与えず放たれた黒炎弾になす術の無い明・・・次の瞬間、一本の矢が黒炎弾を貫きその衝撃で暴発する。
・フェーズ3
爆発の衝撃とそこから拡散する黒刃に身体の至るところを切り刻まれながら吹き飛ばされる明、血まみれになりながら浅瀬に着地するもその場に膝をつく。
顔を上げ睨んだ先に居たのは、弦から手を離した状態で弓を構える翼だった。
明はすぐさま立ちあがろうとするが、すかさず美樹が浅瀬に鞭を打ち明の周囲を凍結、川に浸かった下半身と膝についた左腕の自由を奪った。
翼は弓を下ろし明に優しく語りかける。
「榊さん、お話ししませんか?」
・フェーズ4
翼は明の前に歩み寄り騎神化を解くと、明に深々と頭を下げ謝罪する。
「まずはこのような状況になってしまったことを深くお詫びします。
でもご理解ください、こうでもしないと面と向かって榊さんとお話しすることも叶いません。そのことを踏まえた上で聞いてください。」明は翼の行動に驚きつつも臨戦体制を崩さず、無言で翼と他五人の様子を伺う。
後ろで待つ五人も翼の指示で騎神化を解くが、明を警戒しその場から動かない。
竜馬はその場に座り込み、闘気はタバコに火を着け、カムイは心配そうに翼を見つめ、美樹はそんなカムイを見つめ、海は殺気剥き出しの眼で明を警戒していた。
明に対し懇切丁寧にこれまでの経緯の説明と自分の意見・主張・共闘することの利点を伝える翼、それを終始無言で聞き続ける明、翼が全て話し終える頃には夕日が沈み始めていた・・・
「いかがですか?榊さん・・・僕たちに協力していただけませんか?」翼は右手を差し出し明に合意を求めた。
差し出された翼の手に、唯一自由の効く自分の右手を見て明は一言
「アンタの考えはわかった・・・だが、やり方が気に入らない。」
冷静な目で翼と目を合わせ放った一言と共に明は右手から雷吼砲を足下で炸裂させて脱出する。
その瞬間後ろで待機していた四人が騎神化、翼を守るため飛び出す。
すぐさま翼の前に出て槍を突き立て明に向かっていく海とそれに続く竜馬
カムイは翼の前に立ち翼を守るため牙を剥き出し斧を構えて明を威嚇
美樹は明を警戒しつつ翼の手を引きその場から逃がそうとするが、放心状態の翼は引っ張られるままに力無くフラフラと歩く。
その先で騎神化せずに呑気にタバコを蒸す闘気がすれ違い様に「なっ!やっぱり無駄だったろ!」
この言葉に我に帰った翼は美樹の手を振り解いて闘気を見る。
だが、反論しようにも言葉が見つからず、大粒の悔し涙がこぼれ落ちる。
「ちょっ、ニコ中!!」美樹の怒声に闘気は吸い終えたタバコを地面に捨て騎神化、刀を手に明に向かって歩き出す。
「いいか、ああいう手合いに交渉だの説得なんてな無意味なんだよ!
あーやって戦いでしか語れない奴に力の無い奴がどんなに懇切丁寧に説明したって、口だけの戯言にしか聞こえない。
お前は戦わないことを絶対の正義と考えてんだろうが、戦いの中でなければ伝わらないこともある。
だから、お前じゃダメなんだよ・・・」そう言って明に向かって行く闘気の背中を呆然と見つめる翼
翼は闘気の言葉とその背中に己の無力さを思い知らされ、再び力無く美樹に引っ張られて行った。




