キミはともだち4
明が手刀を振り下ろそうとした瞬間、聞き覚えのある唸り声が聞こえてきた。
「うおぉぉぉーーー!」熱気を帯びた大剣を振りかぶり明に向かってくる騎神を見て明は嬉しそうにカムイから離れる。
「大炎上!!」爆発による熱気と衝撃波によりカムイの身体は吹き飛ばされ、その先にいた少女が能力で雪のクッションを創り出し受け止めた。
大炎上の衝撃で明が損傷させた柱が崩壊、支えを一部失ったことで高架線の一部が傾き沿線の運行が停止された。
明は呟く「白金竜馬・・・やはりお前はおもしろい・・・」明が見つめる先には土煙の中勇ましく構える傷だらけの竜馬
その後ろには同じく傷だらけの闘気・海・翼の三人が惨状を前に呆然と立ち尽くしていた。
ーー6 CIVIL WAR ーー
20時05分 名楠駅前ロータリー
翼の放つ矢を避けようともせず黒刃を振るい向かっていく闘気
「平和ボケのおぼっちゃんが、お前が俺を射抜けないことはわかってんだよ!」翼は闘気の攻撃を避けつつ再度弓を構え弦を引くも最後の覚悟が決まらず、どうしても闘気の足元を射抜いてしまう。
そんな状態の翼に容赦無く斬りかかる闘気、斬撃を弓で受け止める翼に闘気は語りかける。
「いい加減にしろ!お前の安っぽい正義感だけで生き延びれるほど、この戦いは甘く無いんだよ。」刃に体重をかけながら迫る闘気に翼は必死に抵抗しながら強い意志を示す。
「考えが甘いことはわかっています・・・ですが、それでも僕は彼を・・・友達を護りたい!」翼の頑固さに闘気はこめかみに血管を走らせ翼を蹴り飛ばす。
その様子を竜馬と戦いながら見ていた海は焦り始める。
「おい白金!山城は本気で翼を殺る気なんじゃ!!」
「あれ?おかしいな・・・」鍔迫り合いの中曖昧な返答をする竜馬に海の焦りがピークに達する。
竜馬を振り払い翼の加勢に向かう海だったが、その背後を狙う者がいた・・・
そうこうしている内に翼は武器を弾き飛ばされ追い込まれた。
「その甘い考えで護った友達に、いつかお前自身が殺されることになる。
お前の好きな本にも書いてなかったか「我 人に背くとも 人 我に背かせじ」と」闘気の出した三国志に登場する曹操の一文に対し、翼も一文を返す。
「あなたがそうなら、僕の考えは「人 我に背くとも 我 人を背かじ」です。」翼が返した劉備の一文に、納得したように小刻みに頷く闘気
「やはり、俺とお前は相容れない・・・ここで終わりにしよう。」闘気は刀の切先を地面に向け突き立てた「串刺し公」次々と現れる無数の黒い棘たちが翼に迫る。
『間に合わない・・・また、俺は・・・』自分の不甲斐なさに絶望する海
だが、その背後から何かが棘の前に投げ込まれる。
「ぎゃぁぁぁーーーーー」投げ込まれたのは一人の騎神、海を背後から狙っていた騎神を竜馬が捕まえ投げ込んだのである。
騎神が棘に貫かれたことで翼に迫っていた棘たちは止まり、投げ込まれた騎神を無数の棘が貫いた。
闘気は舌打ちして刀を引き抜き騎神を破裂させオーブを吸収した。
「竜馬、テメェ・・・」不機嫌そうに睨みつける闘気に対し竜馬は落ち着いた様子で言い放つ「ダメだよ闘気、翼君に何かあったら母さんが悲しむ・・・」竜馬の言葉に大きくため息を吐きタバコを一口吸うと「まぁいい、そろそろ頃合いだしな・・・」「え?」竜馬の疑問に闘気は答える。
「今殺った騎神も俺ら同様【騎知らせ】の情報を元にここに来たはず、だったら同じ考えの奴が他にも集まってくる可能性が高い。そうなる前に退散しないと囲まれて袋叩きにあっちまうぞ。」それを聞いて海はすぐさま翼を連れて行こうとするが翼は拒否する。
「だとしたら・・・カムイ君が心配です。探さなくては・・・」
「そうだね、行こう!」竜馬はすぐにカムイが走り去っていった方へ駆け出す。
「おい、何のつもりだ!?」駆け出す竜馬を制止する闘気、それに対し竜馬は一瞬考え答える。
「わかんないけど・・・海さんで言うとこの「カムイ君には借りがあるから」・・・かな?もらった木の実美味しかったし!」そう言って翼とアイコンタクトを取り二人は駆けて行く。
「・・・仕方ねぇな」悪態を吐きながら二人の後を追う闘気
その背中を疑いの目で見つめる海
迷いの中、槍を握り締め後を追う。
離れた場所で車内から様子を見ていた橘も考え込んでいた。そこへ何処からともなく声が聞こえてくる。
「どうする?いつでも行けるぞ」橘は謎の声に驚くでも警戒するでも無く冷静に返す。
「まだ早い・・・ですが、いつでも動けるように準備しておいてください・・・」
「はいよ・・・・・」
ーー7 守りたい人 ーー
20時20分 高架下公道
首を鳴らし微笑む明、ゆっくり息を吐き八相に構える竜馬
静かな闘志をぶつけ合う二人を他所に、翼は雪のクッションに包まれたカムイの元へ向かう。
そこには血塗れで横たわるカムイの手を握り締め泣きじゃくる少女、翼の存在に気付くとぐしゃぐしゃの顔で翼に助けを求めた。
「助けて・・・この人を助けて!!早くしないと・・・・・死んじゃう・・・」少女の願いに翼は手を差し伸べようとするが、そこへ海が割って入る。
「よせ翼、この女は危険だ!」少女に槍を突き立てようとする海だったが、翼が弓でそれを受け止めた。
「藤堂さん、橘さんを呼んでください、カムイ君を病院に運びます。
彼女は彼を「助けてくれ」と言った。僕も彼女と同意見です!僕は友達を助けたい!」弓を持つ手を震わせながら必死に訴える翼に、海は遣る瀬無い気持ちを振り払うように槍を地面に突き刺し携帯で橘に連絡する。
一方、対峙する竜馬と明は動き出す。
先に動いたのは竜馬、炎弾を放ち牽制するも明は拳から稲妻を放ち炎弾を破壊、そこへ飛び散る火の粉を切り裂きながら竜馬が真っ直ぐ斬りかかる。
明は迫る大剣の側面を稲妻を纏った拳で殴りつけた。稲妻の衝撃と反動で大剣は大きくブレて地面に叩きつけられる。
その隙を突いて明は反対の拳でみぞおちを狙う。が、竜馬は大剣を手放し左手で明の拳を払い右の拳を振るう。
明はすぐに反応し避けながら後退する。
明は楽しそうに構え直し顎で大剣を拾えと合図を送る。竜馬が大剣を拾おうとしたその瞬間、竜馬のすぐ横の地面から黒い棘が次々と現れ真っ直ぐ明に迫っていった。
迫る黒い棘に対し明は脚に稲妻を走らせ大きく踏み込んだ。すると足元のアスファルトが衝撃で吹き飛び周囲のアスファルトも大きく揺れ、その衝撃で闘気は突き立てた刀から手を離してしまいヴラド・ツェペシュは不発に終わる。
明は離れた場所にいる闘気を見つけると冷めた表情で首を横に振る。明のこの余裕の対応に闘気は悔しそうな表情を浮かべ斬撃を飛ばすが、明は片手で雷吼砲を放ち一掃
そのまま闘気に迫るが闘気は回避、回避先を読んでいた明はもう片方の手から雷吼砲を放とうと掌を振りかざす。が、そこへ竜馬が斬りかかるも素早く反応、ヒラリと躱し再び竜馬と相対する。
そこへ橘が到着、カムイを車に乗せようとするが運悪く戦闘中の明に見つかる。
明は竜馬を投げ飛ばしその隙にカムイに止めを刺そうと接近、海が身を挺して止めようとするも生身の明に一方的に敗北した過去を持つ海に明に対抗する術はなく、すぐに絡み取られ投げ飛ばされてしまう。
明はすぐさまカムイの止めを刺そうと歩を進めようとするがその時、足に違和感を覚えた。
足元を見てみると足に薄い氷が張り付きその氷は周囲のアスファルトへ広がり明の足を止めていた。しかもその氷はみるみるうちに範囲を広げ、ほんの数秒でふくらはぎ辺りまで広がっていった。
すぐさま氷を破壊して足を違う位置に踏み込むが、踏み込んだ先からすぐに氷が張り付き身動きを奪う。
明が氷に苦戦しているうちに橘と翼はカムイを回収した。
「その人のこと・・・絶対助けてね・・・」翼は少女の言葉に驚き、そして真っ直ぐな瞳で答える。「・・・ええ必ず、必ずカムイ君を救ってみせます。」翼の解答に少女は満足げに微笑み明の方に向かって歩き出す。
「行って!あいつはあたしが食い止める。」
「僕も加勢します。橘さんカムイ君をお願いします。」カムイを橘に預け翼も後に続く。
橘は翼を止めようとするが、カムイの状態を見て渋々運転席に座り車を走らせる。
「言っとくけど、あたしが助けたいのはカムイだけだから、明と一緒にあんたも倒しちゃうかもなんで・・・」翼に背を向け言い放つ少女に翼は微笑む
「あくまで「かも」ですよね。平気です!僕には頼りになる仲間がいますから・・・」少女は氷の鞭を取り出し、翼は弓を構え弦を引く。
明は電撃を乗せた拳を地面に叩きつけ周囲のアスファルトごと吹き飛ばし、ようやく氷から解放された。
病院へ急ぐ車内で橘はインカムを着け指示を出す。
「やることはわかっていますね・・・ええ、よろしくお願いします。」
ーー8 利害の一致 ーー
口から吐き出される白い息が周囲の気温の低下を知らせる。
鞭を構える少女から発せられる闘志が冷気の波動に変わり周囲の物を凍てつかせる。
少女の動きに対し変速的な動きで追従する氷の鞭、宙を舞った氷柱からは強力な冷気が放たれ大気中の水分を凍結することでダイアモンドダストを発生させキラキラとした放物線を描いていく。
その間を縫って放たれる翼の風の矢、強力な冷気を纏った矢が明の手首ギリギリを通過するその瞬間、通過した軌道の水分が凍結、明の腕に氷が張り付きその先の矢の軌道へ沿って凍結、手首から矢の刺さった高架柱まで氷で繋がれてしまう。
すぐさま氷を破壊しようとするが、海が明を拘束する氷に能力で水を発生させ繋ぐ氷を肥大化させて強度を上げた。
翼は間を開けず次々と矢を放ち明の四肢の自由を奪う。
そこへ鞭をしならせ襲いかかる少女
しかし明は力ずくで片腕の氷を破壊、迫る氷の鞭をなんとか受け流したが、鞭に触れたことで籠手の一部が凍結、手自体も軽い凍傷を負うも雷吼砲を少女目掛けて放つ。
そこへ危険を察知していた翼が間一髪少女に飛びつき直撃を免れた。
明はすぐさまもう片方の腕の拘束を破壊し足の拘束も壊そうとする。そこへ海が襲いかかるが両腕でいなされ組み合いになる。
「藤堂離れろ!!」闘気の声にすぐさま離れる海
明の眼前に待ち構えていたのは少し離れた場所で背中合わせに立つ竜馬と闘気、そして二人が突き付けた剣先には黒い炎に覆われた禍々しい漆黒の球体
「溜めに溜めた一撃だ・・・」
「前とは比べ物になんないかんね!」二つの力が混ざり合った黒い塊を前に明は両足を拘束された状態でニヤリと笑った。
「「黒炎弾!!」」放たれた黒い塊、明に回避する手段は無く拘束された脚を踏ん張り真っ向から受けて立つと言わんばかりに構える。
両掌に稲妻を集中させその力を一つに集約、凄まじい電撃の塊を創り出し放つ「雷吼砲!」両手で放たれた一撃は黒炎弾と衝突
前回とは違いすぐに爆発はせず力の塊同士は押し合い進退を繰り返す。
明と竜馬・闘気は互いに歯を食いしばり押し合う。
そしてついに互いの力が臨界点に達し二つの力の塊は大爆発を起こす。その衝撃と拡散された黒刃で周囲に建つ建造物と数カ所の高架柱は軒並み崩壊、高架線は崩れ落ち周囲一帯は瓦礫の山に埋め尽くされた。
幸いカムイ達が戦闘を行なった段階で、住民たちは避難していたため人的被害は出なかったようだが、復旧にはかなりの時間を要することになるだろう・・・
瓦礫の山から這い出た海は急いで翼がいた場所を掘り返す。
そこには分厚い氷に守られ気絶した翼とその側で海を見つめる少女が居た。
一瞬槍を持つ手に力が入るが、槍を手放し少女に手を差し伸べ少女は迷いながらもその手を取り翼と一緒に引き上げられた。
「海さん!無事?」竜馬の声に海が振り向くと竜馬が闘気を肩で支えながら現れた。
「ああ、そっちは?」
「なんか闘気の必殺技って結構力使うみたいでさ、なんかバテちゃったみたい・・・」
「うるせぇ・・・要は一日に何発も乱発できないってだけだ・・・。榊は?」
「オーブが飛んでないってことは、死んでない・・・」
「野郎最後の最後まで笑ってやがった。」闘気は拳を握りしめ悔しさを滲ませる。
そこへ一台のバンが現れる。運転していたのは小林だった。
「みっ皆様!お迎えに上がりました。藤堂さん!翼様をお早く・・・」緊張気味の小林の登場に驚きつつも急いで翼を抱え上げバンに乗せる海、それを見つめる少女には黒い刃が迫る。
寸でで気付き反応する少女、闘気を睨み鞭を取る。
「チッ避けたか・・・竜馬・藤堂!翼が寝てるうちにこの女仕留めるぞ!またおぼっちゃんが変なこと言い出す前にな・・・」フラフラの状態で少女に刃を向ける闘気、海も槍を持ち少女のもとへ向かう。
「乗れ!」海の言葉は竜馬・闘気にではなく少女に向けて発せられた。
「えっ!?」驚き呆然とする少女に背を向け槍を闘気に向ける海
「なんのつもりだ?藤堂!」
「山城、悪いが俺はお前を信用できない。
白金はお前に翼を殺る気は無いと言っていたが、それだけの力を消費して放つ技を殺意の無い奴が使う理由がない。
俺は、翼の意向に従い主人の恩人を護る。
白金・・・お前の言う通りだ、借りがあるのはお前であって山城じゃない!」真剣な面持ちで闘気だけに槍を向ける海
その姿を見て竜馬は納得したように笑い、闘気の肩を叩く。
「もういいじゃん闘気!海さんもあー言ってることだし・・・
君もごめんね、翼君を守ってくれたんだよね・・・ありがとう」少女にお礼だけ言って竜馬は闘気を連れ帰路につくのだった。
・21時00分 小林の運転する車内
後部座席で眠っていた翼が目を覚まし、慌てた様子で周囲を見る。
「お目覚めですか翼様」運転する小林と助手席に座る海、そしてもう一つの後部座席で眠る少女を見て翼は落ち着きを取り戻し助手席の海に質問する。
「藤堂さん、白金さんと山城さんはどうされたんですか?」
「あいつらは歩いて帰った・・・さっき橘さんから連絡あってカムイも無事らしい、医者が言うには安静にしとけば1~2週間程で動けるようになると・・・」
「そうですか、良かった・・・」カムイの無事の報告を聞き嬉しそうに背もたれにもたれかかる翼
「で?その女はどうすんだ?
一応瓦礫からお前を護った礼があるから乗せてるが、これからどうする?」海の問いに翼は「もちろん、彼女には僕自身が助けられた恩がありますし、カムイ君が護った女性ですから当然無下にはできません・・・それに、借りは返さなければいけませんからね。ねっ藤堂さん!」翼の言葉に海は面倒そうに溜め息を吐き、話しを聞いていた小林は運転しながら少し笑う。
ーー9 家出少女 ーー
翌日、医者の見立てに反しカムイはベッドから起き上がり獲物を見るような目で飛び回る鳥を目で追っていた。
「全く驚きました・・・運び出された時はひどい裂傷と打撲・骨折と身体中ボロボロだったにも関わらず応急処置とICUだけでここまで回復するとは・・・
裂けた皮膚組織と筋組織は驚くべきスピードで修復を始めすでに肉芽組織を形成、大量出血したにも関わらず今朝にはそれも正常値に・・・骨折に至ってはほぼ完治・・・・・恐ろしい回復力です。
まだ痛みはありますから派手な動きはできず大人しくしていますが食欲も旺盛で、すでに病院食を何杯もおかわりしています。この様子だともう明日明後日にでも退院して自宅療養で十分でしょう。」主治医は翼に説明すると「お大事に」とだけ言って入院室を後にした。
「一時はどうなることかと思いましたよ、カムイ君!」
「翼、ここメシ、不味い、竜馬母さん、作るメシ、食べたい・・・」カムイは白金家で振舞われた料理を思い出し涎を垂らしながら翼を見る。
翼は前と変わらぬカムイの言葉に嬉しそうに笑いながら「いいですね!僕もまたご馳走になりたいです。」微笑む二人に対し部屋の隅で冷静に一点を見つめる海、その視線の先には少女がばつが悪そうに佇む。
彼女の名前は彩名美樹さん(14)
詳細は不明ですが、話によると現在家出中で少し前まで友人の家に居候していたようで、いつまでも迷惑はかけられないと生活費を稼ぐため友人達と大好きなストリートダンスを路上で披露しそこで得たチップで生活していたと・・・ですが、騎神に覚醒後は友人たちも彼女を恐れ離れて行き・・・寄りどころを失った彼女は効率良く騎神から所持金を奪うため、あえて人目が多い場所で能力を使い騎神を誘き寄せ金品を奪い倒していたとか・・・
ですが、そのことで起こる【騎知らせ】による弊害などは思いつかなかったそうです。
昨夜その弊害について美樹さんに説明すると彼女はカムイ君に大怪我をさせてしまったと責任を感じてしまい、泣き崩れてしまいました。
アテム族の女尊男卑の文化のことや、その上でカムイ君が彼女を命懸けで護ることは彼にとって当然のことであり、美樹さんが無事でいることがカムイ君にとっての誇りであると伝えると、突然「えっ?じゃあ女の子なら誰でも同じことしたってこと?」と問われたので「ええ、おそらく・・・女性なら・・・」と答えると彼女は更に大泣きした。
「あたしのためじゃなかったんだ〜!!ヴヴヴェェェ〜〜〜」泣き叫ぶ美樹さんを見て彼女はカムイ君のことが好きなのだとわかりました。
「カムイ君、紹介します昨日君が助けた女性、彩名美樹さん。助けてくれたお礼がしたいそうです。」カムイは美樹の方を見ると傷ついた体を引きずるようにゆっくりと近づいて行く。
「あっあの・・・護ってくれて、あっありがとっ・・・・えっ!?」美樹が緊張しながら感謝を伝えるより前にカムイは美樹を抱きしめた。
「よかった・・・無事、カムイ、美樹、護れてた!」カムイの大きな体に包まれた瞬間、美樹はまた大粒の涙を流した。だがそれは喜びと幸せが入り混じった歓喜の涙だった。
翼は抱き合う二人を尻目に海を見る
「ねっ、彼女は僕たちの敵ではないでしょ!カムイ君がいる限り彼女が敵になることは無い。」翼の言葉にメンドくさそうにため息を吐く海、そこへ橘が入室する。
「翼様、彩名様についてですが、警察の方に彩名美樹という名の少女の捜索願いは出ていないとのことです・・・いかがしますか?」翼は美樹の方を見る。
美樹はカムイの腹に顔を埋めながら「知らない!ってかそういう親なのよ!あたしのことなんてどうでもいいんだ!あんな家二度と帰んないから・・・あたしはカムイと生きていく。」意固地になる美樹に翼は少し考え提案する。
「橘さん、邸の部屋はまだいくつか余っていましたよね・・・」橘は一瞬で翼が次に何を言うのか予測し天井を見上げる「・・・はい」
「では美樹さんにそのお部屋をお貸しします。その代わり僕のもとで働いてもらうことになりますが、いかがですか?」美樹はカムイの腹から顔を出し尋ねる。
「カムカムと一緒に住んでるの?」カムカムという美樹がカムイにつけた愛称はともかく、翼はカムイが私有地内の山で生活していることを話すと、美樹はカムイの原始的な生活スタイルと翼が海や橘・小林の主人であることを改めて知り、翼の持つ権力・財力・人徳に気圧されるように「・・・よっよろしくお願いします。」とかしこまった礼をするのだった。それを見て翼は半笑いしながら「はい、こちらこそ・・・」と美樹を受け入れた。
・22時00分 翼邸
海は仕事を終え自分の部屋へ向かう途中、廊下からメイドたちの世間話を聞いてしまう。
「翼様も本当に可哀想よねぇ〜、タダでさえ周囲からは御曹司と色眼鏡で見られているというのに、騎神になってしまわれた上に得体の知れない連中に振り回されて・・・あんなにお優しい方なのに・・・」
「そのお優しさからあんな面倒事に巻き込まれてしまわれて・・・本当に可哀想・・・」
「そもそも奥様が子供を産めないからって無理矢理母親から引き離されて来たわけだからねぇ〜」
「旦那様も旦那様ですよ!無理矢理引き離さなくても、奥様と別れて翼様のお母様を新しい妻として迎え入れればいいものを・・・
奥様のご実家に気を使ってそれをしないなんて・・・ほんとに身勝手な方・・・」海は翼の出生を知りいてもたってもいられず急いで部屋に戻った。
一方、その頃橘は北条院本邸に居た。
厳かな扉の前に立ち深呼吸してからノックをし「失礼します。」と珍しく緊張した様子で入室する。
そこは執事長室
整理整頓された埃一つない洗練された一室の中心に、多くの書類が積まれたアンティークデスクで老眼鏡越しに書類に目を通す英国風の老紳士 藤村俊忠(72)
「少しお待ちください橘さん、今終わりますから・・・」書類に目を通し終え書類を片付けると優しい表情で橘を見つめる。
「橘さん、翼様のお屋敷で新しいボディーガードとメイドを採用されるそうですね。」やわらかな表情と口調で話す藤村だが、橘は神妙な面持ちで「はい」とだけ答える。
「聞いた話によるとご友人も新しく採用した二人も全員騎神だとか?」橘は冷や汗を滲ませながら「はい」とだけ答える。
「騎神とは最後の一人になるまで戦い続ける宿命にあるものとか・・・」藤村の問いかけにもう声も出せずただ険しい表情で頷くだけの橘
藤村は緊張する橘を見ておもむろに立ち上がりゆっくり歩きながら話す
「確かに・・・皆が言うように翼様にとって非常に危険な状況のようにも見える。
騎神同士の戦いになれば、あのお優しい性格が災いして翼様の命を危険に晒すこととなるだろうことは容易に想像できるでしょう。
しかし・・・あなたは主人の意思を尊重した・・・それで?あなたから見て彼らはどうですか?」藤村は話しながら橘の側に歩み寄り問いかける。
「申し訳ございません!翼様の執事であるはずの私が不甲斐ないばかりにこのようなことに・・・」橘は深々と頭を下げ藤村に誠心誠意謝罪する。
その姿に藤村は優しく微笑み再度ゆっくり歩きながら話し始める。
「確かにあなたの役目は翼様の執事兼教育係、翼様の身の回りのお世話だけでなく、時に主人が判断を誤った時は諫め、正しい道に導くのがあなたの仕事です。
その中でも、まだお若く人生経験の浅い翼様の周りには十分注意しなければならない。
「人とは誰と関わるかでその人生が決まる」先代のお言葉です。」藤村の言葉に橘は深く反省し、決意を固めたように顔を上げ藤村へ進言する。
「やはり私のような者には翼様の教育係は相応しくな・・・」橘が言い終わる前に藤村は言葉を続ける。
「しかし、その人間の本質が善か悪かを知るのは難しく、その判断には時間がかかる。
彼らが今後翼様の敵となるか味方となるかはこれからの動向を見守る他ありません。
唯一あなたにできることは、主人を信じる事・・・
真人、あなたを信じる翼様をあなたが信じなさい。」
藤村の言葉に橘は大粒の涙を溢しながら「はい・・・・お父さん・・・・・」




