鉄血のオルフェン3
11時00分 嬉優市内〇〇銀行前
捜査本部
正臣の指揮のもと慌ただしく動く警官たち、そんな中作戦前の柔軟をする剛に正臣が声をかける。
「隊長、やはり今回は死神は使わない方がいいのではないでしょうか?」「なんで?」柔軟しながら理由を聞く剛
「一応周囲1km四方に避難指示は出していますが、市街地での死神の解放はやはり危険です。万が一の事を考えるとやはり・・・」正臣の尤もな意見に頷く剛だったが
「ん〜でもな〜、俺走るの苦手だし死神だと投げるだけでいいから楽なんだよな〜
まーできる限り俺一人で何とかしてみっからさ!とりあえず所定の場所に置いとこうや、使わないように俺も頑張るからさ!」剛はいつもの様に正臣の肩を叩き、頼もしげに作戦位置に向かう。正臣は体勢を戻しながら不安げに剛を見送る。
銀行近辺のマンション屋上
地上30mほどの高さから周囲を一望できるこの場所で朱音は双眼鏡を覗き込み周囲の地形や建物の情報収集を行う。その周りでSAT部隊が作戦準備と周囲の監視を行なっている。
「まさか、半日足らずでまたお前に呼び出されるとはな・・・」朱音の隣で愚痴をこぼす中年男性、SAT部隊隊長 東郷公輝(53)昨夜横浜港で協力していたSAT部隊は東郷の部隊で、東郷は朱音の元上司だった。
「だって私のコネが効く部隊なんて隊長の部隊ぐらいしかないですし、他の連中使ったってKCSを馬鹿にした使えない連中が来るだけですから。」双眼鏡を覗きながら軽口で答える朱音に東郷は苦笑いする。
「ところでどうだ?新しい部署は・・・」「えっ!?」突然の東郷の問いに驚き双眼鏡から目を離す朱音
「昨日はチャイニーズマフィア相手で話しもできなかったしな・・・お前も色々あったわけだし・・・もうお前の上司ではないが、悩み事や相談ぐらいは乗ってやれるぞ」実の父親の様な表情で接する東郷に、朱音は照れ臭そうに笑う。
「案外居心地は悪くないです。副隊長は年下だけど優秀な上司に恵まれたと思うし、隊長は良い意味でも悪い意味でも豪快で頼もしい人です。
でも敢えて言うとしたら・・・セクハラですかね?昨日もシャワーを覗かれました。」あかねのこの悩みに東郷は爆笑
「そうか覗きか!そういえばお前が新人だった頃にも同じことをしたヤツがいたが、あの時のヤツは確か半殺しにされて寮に全裸で吊るされてたんだったな!!」昔の事を思い出しさらに笑う東郷と朱音、まるで本当の親子の様に話す二人、そんな中周りで準備を進める隊員達の一人が冷や汗を吹き出し震えていた。
ーー4 作戦開始 ーー
全ての準備が整いそれぞれの配置に着く全職員たちは正臣の合図を待つ、そこにインカムに正臣からの通信が入る。
「作戦内容を確認します。
1、狙撃によるスプリンクラーの作動を一条さん
2、脱出する騎神の切り離しを隊長
3、切り離し成功後の人質の救出と犯人確保はSATおよび所轄で
4、あとは切り離した騎神を避難区域内で撃破すればこの任務は終了です。
一条さんの狙撃と隊長の実力があれば被害を最小限に抑えられます。そのためにも死神の使用は極力避けてください。」
「「了解」」「では、作戦開始!」
銀行の見取り図を見てスプリンクラーの位置を確認した朱音は騎神化、屋上の隅に寝転びライフルで狙いを定める。朱音の隣で東郷が双眼鏡越しに銀行内の様子を見ながら
「直径10cmほどのセンサーをこの距離からか・・・うちの元エースなら余裕だな」「当然!」引き金を引くと同時に炎を纏った弾丸が放たれ、銀行の窓ガラスを突き破りスプリンクラーのセンサーのギリギリを掠めていった。すると弾丸を覆っていた炎にセンサーが反応、ブザー音と共に天井から大量の水が降り注いだ。
銀行内では突然の放水に人質たちがパニック状態の中、犯人ABはせっかくカバンに詰めた金が水に濡れていることに気付く。
「おい、ヤベェぞ!金が濡れたらそれだけ重くなって運ぶのが面倒だ、早く運べ!」
「待て、出るなら騎神を囮にして裏口から出るぞ!おい警察ビビらせて来い!」犯人Cは言われるがまま騎神化し大斧を振りかぶり正面口前を巨大な刃で薙ぎ払い牽制し、外へ出る。
その時犯人ABは裏口へ向かうが当然警察の手によって塞がれた後だった。
「チクショー、今なら正面からでも!」しかし正面口の方では外に出た犯人Cが隠れていた剛の強烈なタックルに合い、動転した犯人Cはその場から逃げ出した。
騎神を失った犯人Bはパーカーのポケットから拳銃を取り出し発泡する。
その時すでに人質救出のためSAT部隊が周囲を取り囲んでいたが突然の銃声に動きを止めた。
「お前ら、それ以上近づいたら人質ぶっ殺すぞ!!」犯人Bが怒声を上げながら人質の一人に銃を突き付け窓ガラスの前に立つ。
それを見て警察は手をこまねくが、そこに落ち着いた様子で騎神化し前に出る正臣、ゆっくりと短鞭の先端をかざすと次の瞬間凄まじい閃光を発生させた。
閃光に一瞬目をくらませた犯人Bが闇雲に引き金を引く瞬間、マンションの屋上には騎神化を解きサングラスを掛けライフルを構える朱音が引き金を引く。
弾丸は窓ガラスを貫き犯人Bの銃を破壊、犯人が衝撃で人質を手放した隙に正臣は接近、犯人Bの喉笛に短鞭を突きつけ「騎神相手にこれ以上抵抗する場合、命の保証は無い。」と自首を促す。
残された犯人Aが隠し持っていたナイフを取り出した瞬間、そのナイフも朱音の狙撃によって撃ち抜かれ、その後犯人ABは警察の手によって取り押さえられ、人質たちも無事救出された。
だが、KCSの仕事はまだこれからが本番だった。
「一条さん、隊長の方はどうですか?」朱音は監視担当の隊員から指示を受け剛と犯人Cの位置を特定し正臣に伝える。
「現在北西400m先を追跡中、そこまでで本格的な戦闘は無かった模様。死体袋(死神の体を拘束する袋)も回収済みです。
この距離なら狙撃も可能ですが?」朱音の情報に正臣は不安が的中したのか少し顔を強張らせる。
「お願いします。どうも隊長は騎神を倒すことに対し抵抗があるようなので・・・」
「私もそれは感じてました。KCS発足から隊長は一度も騎神を倒していません。いつも死神任せで任務の終わりに死神を取り押さえるだけ・・・今だって、恐らくこの先にある避難区域ギリギリの広場まで犯人を追い詰めてから死神を使う気に違いない。」
「ええ、市街地での死神の解放は極力避けたいですし、万が一犯人に逃げられでもしたら大変ですから・・・一条さん、お願いします。」「了解」朱音は再度騎神化しライフルを構え照準を合わせ引き金を引いた。
弾丸は螺旋を描きながら直進、すぐに剛を追い抜き犯人Cの背中を貫かんと接近する
次の瞬間、犯人Cと弾丸の間に高熱の刃が割って入り弾丸を受け止めた。
ーー5 招かれざる客 ーー
「大・炎・じょお?」朱音の放った弾丸が大剣に命中したことで軸が振れ、違和感の中放った大炎上は竜馬の情けない声と共に中途半端な爆発を起こし、いつもの気合い入れに失敗した竜馬は不服そうな顔で剛に向け構える。
剛も突然の竜馬の登場に驚き足を止める。
「勘弁してくれよ・・・あのさー、おじさんこう見えてお巡りさんなんだわ!悪いんだけど〜そこ通してくんない?」剛は警察手帳を竜馬に見せながら進もうとするが、竜馬は大剣を構えたまま道を譲ろうとしない。
「大丈夫です。犯人は闘気が倒すんで!」構える竜馬の背後の道を逃げる犯人Cの前に闘気が現れる。
「串刺し公」邂逅一番いきなり必殺技を放つ闘気、犯人Cは迫り来る黒い棘の群れに対し大斧を振り上げ巨大な刃を召喚、地面に力一杯叩きつけ地面のアスファルト諸共棘の群れを一掃した。その衝撃と犯人Cの巨体の勢いに驚く闘気は呆然と立ち尽くしてしまい、犯人Cは横道の路地に入り逃してしまう。
「ちょっ、闘気何やってんの!」竜馬の叱責で闘気は我に返る。
「悪い、ちょっとビビった・・・」謝りながら竜馬と合流し標的を剛に変え襲いかかる。
竜馬と闘気の攻撃を避けながら剛はインカムで状況確認をする。
「朱音ちゃん、犯人の動きは?」武器であるトンファーを巧みに操り死体袋を抱えながら二人の攻撃を受け流す剛
「位置は監視カメラとドローンで追えてはいますが狭い路地に入られては狙撃は不可能です。・・・申し訳ありません。」二人の攻撃を防御・回避しつつ犯人の入った横道に接近しながら剛は死体袋のロックを外す。
「気にすんな!そんな時の死体袋だろ!!」路地に到達したところで力任せに死体袋を投げ込み死神を解放
投げ込んだ先には犯人Cの後ろ姿、死神は真っ直ぐ犯人Cに襲いかかっていった。
それを見届けた剛は二人の剣を両手のトンファーで受け止め「ヨシッ!これで動き易くなった!!」と力任せに二人を押し飛ばし、距離をとって構える。
「悪いがガキども・・・時間が無い、とっとと終わらせるぞ!」さっきまでとはまるで違う剛の雰囲気に警戒する二人
剛は一度深い深呼吸で息を整え二人に向かって行く。
迫り来る剛に対し二人は炎弾と飛ぶ斬撃で応戦、剛はトンファーで全て薙ぎ払うがそれを目眩しに竜馬が接近、大剣を振りかぶり斬りかかるが、剛は冷静にトンファーのシャフトで受け流しつつ竜馬の背後に周ると、顔を片腕で包むように締め背後から迫る闘気に投げつけ闘気の攻撃を封じた。
竜馬を受け止め転倒した闘気が立ち上がると、剛はその場に立ち尽くし、まるで弟をからかって遊ぶ兄のような顔で二人を見ていた。
「チッナメやがって!立て竜馬!」剛の態度が癇に障ったのか二人は剣を突き合わせ力を込め出す。
剛も何か察したのか構え直し武器を持つ手に力が入る。
「「黒炎弾!」」迫り来る黒い炎の塊に剛は構えを変えトンファーごと拳を地面に叩きつけた。
大爆発と拡散する黒刃が周囲の建物を破壊、辺り一面が粉塵に覆われる中、その先にあったのは真っ黒に焦げ、ボロボロに切り刻まれた岩壁!一拍置いて崩れ落ち石塊となったその先には無傷の剛
「ふーっ、あんま周りの人に迷惑掛けんなよガキども・・・」周囲の有様に二人を叱責した剛は、足元の石塊を蹴飛ばす。
飛んできた石に驚き避ける二人に剛が接近、二人のみぞおちに両方の拳を抉り込みそのまま力任せに押し飛ばした。
二人は大きく吹っ飛ばされ、痛みと激しい吐き気に苦しみ地面を這いずり悶絶する。
戦闘不能に陥った二人を眺め剛は一言「今回は厳重注意に留めるけど、次やったら公務執行妨害で逮捕なっ!」そう言い残し走り去る剛の背中を最後に二人は気を失う。
そしてそこにジャージ姿の男が現れ二人を見てニヤリと笑い、剛目掛けて駆け出す。
ジャージ男の正体は明だった。
狭い路地を息を切らしながら走る剛の後ろから猛スピードで追いつく明
剛は背後からの攻撃を避けながら振り向き『また騎神か・・・』と構えるが、目の前に立つジャージ姿の若者に驚き構えを緩める。
「あんた、騎神なんちゃら班っていう警察の奴か?」息を整え質問に答える剛
「ああ、そうだよ。悪いけどお巡りさんは勤務中だ、先を急が・・・」剛が言い終わらぬ内に明が襲いかかる。
素手の明に対し剛も怪我をさせないように武器を腰に差し素手で応戦する。
明の猛攻に剛は冷静に対処、隙を見て袖を掴みそのまま一本背負いで投げ飛ばすが、明は受け身を取りすぐさま戦闘に復帰
明の素早く重い拳打の嵐に止む無く反撃の拳を突き出すが、防御にも優れる明は突き出された拳を受け流すと同時に勢いを利用し剛を投げ飛ばす。
剛は背中から地面に叩きつけられるが、そこにインカムから朱音の声
「隊長!犯人と死神が避難区域外へ迫っています!!急いでください!」朱音の警告に剛は正臣に指示を出す。
「室井ちゃん!バイク手配しといてくれる」「了解!」立ち上がった剛は背筋を伸ばしながら首や肩を回し、身体中の骨を鳴らすと大きく息を吐き真っ直ぐ明を見つめ「時間が無い、とっとと終わらせるぞ」その言葉に明の顔から自然と笑みが溢れ、二人は互いの拳をぶつけ合う。
明の体重とスピードを乗せた正拳突きが剛の大きく硬い強固な拳と衝突する。
互いの拳が押し合う中、剛の拳が明の拳を押し飛ばした。
明は勢いに押され体勢を崩すが、その瞬間明の表情は歓喜に満ちていた。自分を超える強者との出会いに喜び、興奮していたのだ。
剛はこれで終わると思っていたが、実際は真逆の結果を産む事となる。
次の瞬間明は騎神化、爛々とした表情で構える明に対し剛は「なんだやっぱ騎神かよ・・・じゃあ手加減はいらねぇな!」と腰に差していたトンファーを構える。
先に動いたのは明、稲妻を纏った拳を剛に繰り出すが剛は回避、空を切った拳から稲妻が飛び出しその先のアスファルトを破壊した。
その威力に驚いた剛はすぐさま距離を取り構えるが、その隙を明は逃さず追撃、四肢に稲妻を纏い襲いかかる。
拳打と脚技を駆使した明の連撃に対し回避で精一杯の剛、明の攻撃が空振りするたび周囲の物が破壊され地面に色々な破片が散乱する。
だが、剛もただ避けているだけでは無かった。繰り出される拳に対しトンファーのシャフトで払い、できた隙を逃さずみぞおち目掛けて反対の拳を突き出すが、明は素早く拳を手で受け止め防御する。
しかし剛は受け止められた拳をそのまま力任せに押し込み明ごと吹き飛ばした。
剛の馬鹿力で体勢を崩す明に対し、剛は容赦無く追撃のラリアット、剛の豪腕が明の体を薙ぎ払い地面に叩きつける。
咄嗟に受け身をとる明に剛の大きな拳が迫るが間一髪回避し起き上がる。
だが今度は下から強烈なアッパーが顎目掛けて迫り咄嗟に両手で受け止めるも、勢いに押され宙に浮き上がる身体を剛の回し蹴りが薙ぎ払う。
蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる明、すぐさま応戦しようと立ち上がるが、目の前には大きな岩壁が現れ視界を塞いでいた。
明は突然の出来事に驚き唖然としていると、突如岩壁を破壊しながら剛の飛び膝蹴りが明を襲う
その場に崩れ落ちる明に岩壁の破片が覆い被さる。
そこへ正臣の手配した白バイが届く。
「ご苦労さん!朱音ちゃん今どこ?」剛はすぐさま白バイに跨がり走り出す。
瓦礫の下敷きとなっていた明が這い出てきた時にはすでに剛はバイクで走り去った後だった。
この敗戦に明は空を見上げ雄叫びを上げた。
剛は朱音の指示通り白バイを走らせ銀行から約1km離れた空き地で犯人Cと死神を発見、すぐさま犯人逮捕に向かうが、死神の行動に違和感を感じた。
いつもなら理性の無い死神が解放されると、目についた人間を無差別に襲い惨殺する。
その際死神は大鎌を振り回しながら猪突猛進もしくは右へ左へ飛び回って撹乱しながら接近し切り刻んできた。
だが今の死神はただ犯人Cを見つめ立ち尽くしている。大鎌を振りかぶることも不気味に笑う事もなく、ただただ犯人Cを見つめジッとしていた。
一方対峙する犯人Cは怯えた様子で構え死神の出方を伺っている様子、剛は事件解決のため単身犯人Cへ戦いを挑む。
しかし、剛を迎え撃ったのは犯人Cではなく、死神だった。
驚く剛に死神は言い放つ。
「あの子は・・・殺らせない・・・・・絶対に・・・・・・」
死神の口から発せられた言葉に驚愕する剛




