その男、凶暴につき2
「カカカカカカッ〜」と不気味な笑い声と共に人の腕が血飛沫を上げながら宙を舞う。
腕を切り落とされた騎神は叫びをあげるより早く首を落とされオーブに変化し死神に吸収されていった。
その容姿は白い長髪に骨と皮だけの体、手足に骨を包帯で巻き付け、胴体部は肋骨のような骨で覆われ、手には身の丈以上の大鎌を引き摺っている。その姿はまさしく死神そのものだった。
ーー3 血砂の死神 ーー
死神は初めて騎神のオーブを吸収したことで自分の中の能力の増幅を感じ、口が裂けんばかりに笑う。
その笑い声に周りで戦う騎神達が反応すると、死神は無数のかまいたちを発生させる。
騎神達が迫るかまいたちを薙ぎ払う中、一瞬で数名の騎神の背後に周り大鎌で斬りつけた。
傷は浅く騎神達は反撃しようとするが、その中の一人に狙いを絞った死神は、反撃のため武器を構えた右手を切り落とし、驚く隙に両脚、左腕と順番に切り落とした。
その間、周りに居た騎神達は何も出来なかった。しなかったのではなく、できなかった・・・何故なら死神はずっと笑っていたのだ。
背後に周った瞬間「カカッ」
騎神の右手を切り落とす時も「カカカッ」
脚を切り落とす時も「カカカカッ」
左腕に大鎌を振り下ろす瞬間も「カカカカカッ」
そして今、両手両足を失った騎神に大鎌を振り乱しながら「カカカカカカカカカカカカカカカカッ」と大笑いしながら騎神を切り刻んだ。
その笑い声は騎神達を恐怖させるには十分だった。
騎神達は一瞬の放心の後、無惨に切り刻まれた騎神の肉片がオーブに変わるのを見て我にかえるが、それに気付くと同時に大量の鮮血を噴き出しながらオーブに変わった。
その後も笑いながら次々と騎神達を切り刻んでいく死神
その様子を別室で見る正臣と幹部達
騎神達の上を飛び上がる切断された体の一部から次々と飛び散る血飛沫でモニター画面のほとんどが真っ赤に染まり、その光景にその場で嘔吐する幹部も居た。
予期せぬ大広間の状況に狼狽する幹部連中
「まさかこんな事になるなんて・・・あ、あなたですよ!騎神を一ヶ所に集めれば乱闘が起こるから、そこに紛れ込ませれば自然な形で始末できると提案したのは!」
「だったら中東でやったように神経ガスを使って動けなくすればいい!その隙に室井警視正に止めを・・・」
「あなたはそれでもこの国の治安を護る警察ですか!?神経ガスなどこの国にあるわけないでしょ!!」幹部連中の醜い言い争いに嫌気がさした正臣は無言で出て行こうとする。
「待ちなさい!どこへ行く気だ?」警視総監の言葉に正臣は立ち止まり敬礼もせずに言い放つ。
「あなた方にはほとほと愛想が尽きました。このお粗末な作戦を考えた幹部も、こうなる可能性も予測できない幹部も、他人に責任を擦り付けるだけの幹部も!そして、こんな連中ばかりがのさばる組織にも・・・」真顔で言い放ち部屋から出ようとする正臣に対し、総監は立ち上がり怒鳴りつける。
「どこへ行くかを聞いている!」この怒鳴り声に怒り心頭の正臣は騎神化し、ゆっくり振り向き怒りの形相で言い放つ。
「お前らの尻拭いに行くんだよ・・・」その姿は黒い軍服にブーツ、手には装飾の付いた白い手袋、手に握る武器は漆黒のシャフトに光る石でできた先端の付いた短鞭
その場に居た者全てが正臣の気迫に圧され何も言えなかった。
ーー4 ルーズな男 ーー
大広間に向かう廊下を進む正臣、頭の中で死神との戦闘をシュミレーションするが勝算が無い・・・己の不甲斐なさを呪う正臣だったが、そこへ一人の男性が息を切らしながら走って来る。
見たところ交番勤務の警官だが、着替えながら来たのかYシャツのボタンは掛け違い、襟はよれ、ベルトも絞めずベルトの金具がブラブラ腰で揺れていた。口の周りに無精髭を生やし、寝起きなのか目は半開き、寝癖だらけの頭を帽子で押さえながら扉へ向かう。
正臣は止めようとするが焦る警官は聞く耳持たずそのまま扉を開けてしまう。
「すっすんませっん!寝坊しました!」と謝りながら中に入った警官は眼下に広がる地獄絵図に息を呑む。
そしてまた一人、騎神のはらわたを切り裂き高笑いする死神
警官に気付いた瞬間、死神は真っ直ぐ警官に襲いかかる。警官を守るため正臣も応戦しようとするが、血まみれの会場に一瞬怯んでしまい初動が遅れる。
「間に合わない・・・・・」
しかし、結果は予想だにしないものとなった。
襲いかかる死神を警官が一本背負い!そのまま床に叩きつけ、すぐさま武器の大鎌を蹴り飛ばし死神を取り押さえ「確保ーーーーーー!!」と大声を上げた。
一瞬の出来事に正臣が呆然と立ち尽くしていると、死神を取り押さえている警官が怒鳴りつける。
「おい!あんたなにボーと見てんだ!手錠だよ!手錠!!」抵抗する死神を必死で押さえる警官の怒号に我にかえった正臣は騎神化を解き手錠を取り出し死神の両手に掛ける。それでも暴れる死神に「あんたも警察なら大人しくしろよな!あーーーめんどくせぇ!!」警官は取り押さえながら拳を振り上げ死神を殴りつけ気絶させた。
気を失っているのを確認すると警官は寝技を解き、立ち上がって額の汗を拭う。
「ふー助かったよ、でももうちょい素早く手錠掛けられないかね〜?見たところまだ若いとはいえ刑事でしょ?しっかりしてもらわないとっ!」少し説教混じりの小言を呟きながら死神を連行しようとする警官
そこに様子をモニターで見ていた幹部連中が現れ命令する。
「今すぐその男を殺せ!」ぞろぞろと現れた幹部連中に警官は困惑、格好から上の人間であることは一目でわかったのでとりあえず敬礼した。だが隣に立つ正臣は敬礼せず幹部達を睨みつけているのを見てさらに困惑する。
「君、よくやってくれた。総監命令だ今すぐこの男を殺しなさい。」息を切らしながらとんでもない命令をする幹部達に、警官はさらに困惑する
「いや、あのすんません。遅刻してきちまったもんで、状況が掴めないんすけど?」
「いいか!この広間を見ろ、この死神は今日の招集を利用してここに集まった騎神を皆殺しにしたんだ!
つまり、この国を護る国家公務員達を惨殺した張本人、言わば国家転覆を目論むテロリストだ!そんな人間を生かしておくわけにはいかんだろ!!殺せ!!!」ものすごい勢いで捲し立ててくる幹部に若干たじろぐ警官、上司の命令だからと渋々『はい』と答えそうになるが、そこに正臣が割って入る。
「待ってください・・・この大惨事の原因を作ったのは全て、こんな場所に騎神を集めたあなた方の責任では無いのですか!?」何も知らない警官の前であえて幹部達を批判する正臣
「!?、きっ貴様!何を!!」正臣は幹部に詰め寄り耳打ちする。
『この事を隠蔽しようとするのはかまわない
だが、全ての罪を死神に被せて自分達だけのうのうと今まで通りというわけにはいかない・・・あなた方は、忘れる事だけは超一流ですからね・・・』この耳打ちに小刻みに震える幹部
「騎神犯罪特別対策班には一人でも多くの人員が不可欠です。
こんなことになった以上、人手不足を補うためこの死神も遣うしかないでしょう。もちろん、工藤剛(30)巡査の監視下の元での勤務ですが・・・」そう言って死神を取り押さえた警官を見る正臣
「なんで俺の名前知ってんすか!?」純粋に驚いた剛は呆気に取られる。
「申し遅れました。私は室井正臣警視正、この度騎神犯罪特別対策班所属騎神部隊隊長に就任しました。
あなたのことは事前に今日の参加者名簿と資料を確認していたので・・・」剛は正臣の恐るべき記憶力に感銘し無言で敬礼した。
正臣は死神が再度暴れ出さないよう、死神に凶悪犯用の拘束具を取り付けるよう指示を出す。
そこに大広間の方から物音、剛と正臣はすぐに物音のした方に視線を向けた。




